連続体の解析力学

ひもに解析力学が使えるか。

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前回と同じモデル

 前回はニュートンの運動方程式を使ってひもの運動を論じた。では、ラグランジアンを使った形式でひもの運動を論じる事が出来るか、というのが今回のテーマである。

 まずは前回と同様、ひもは質点の集まりだというモデルから始めよう。ラグランジアン\( L \)\( L = T - V \)で表せたのだから、

\[ \begin{align*} L \ =\ \sum_n \frac{1}{2} m \dot{y}_{n}^2 \ -\ \sum_n \frac{1}{2} k ( y_n - y_{n+1} )^2 \end{align*} \]
と置けば良さそうだ。第 1 項は「全質点の運動エネルギー」であり、そこから第 2 項の「全ての質点の間のポテンシャルエネルギー」が引いてある。一つのラグランジアンのみで複数の質点の運動を全て表し切れてしまうというのが、この理論形式の強みの一つであるのだろう。まぁ、問題の本質をすべてラグランジアンとして暗号化して押し込めてしまっただけだという見方もできなくもない。

 ところで、この\( L \)の第 2 項目は、なぜこのような形式で書き表すことが出来ているか分かるだろうか。あまり力学の計算に慣れていないと、こんなことでもつまづきそうだ。前回の議論では、隣どうしの質点の、それぞれの変位の差を\( Y \)としたとき、\( Y \)に比例した復元力\( -kY \)が働くことを確認した。念のため言っておくと、ここで書いた係数\( k \)の正体は\( T/a \)なのだった。\( T \)は張力で、\( a \)は質点間の距離である。この力\( -kY \)\( Y \)で積分したものはエネルギーを意味するが、そうやって今回の式の形を得ているのである。こまごまとした話を前回で済ませておいたお陰で、説明が楽に進んで助かる。

 この\( L \)を次のような\( N \)個のラグランジュ方程式に当てはめてやれば、\( N \)個の質点の運動方程式が得られてくるはずだ。

\[ \begin{align*} \dif{}{t} \pdif{L}{\dot{y}_i} - \pdif{L}{y_i} = 0 \ \ \ \ \ (i = 1 \sim N ) \tag{1} \end{align*} \]
 簡単な事なので念のため具体的に計算して確かめておこうか。いや本当の事を言うと、今から出す結果を今回の話の後の方で使いたいから今のうちにやっておくのである。まず、第 1 項の\( \dif{}{t} \)の後にある偏微分であるが、これは一般化運動量\( p_i \)と呼ばれている部分だった。この計算は簡単だ。
\[ \begin{align*} p_i\ &=\ \pdif{L}{\dot{y}_i} \\ &=\ m \dot{y}_i \tag{2} \end{align*} \]
 そして (1) 式の第 2 項にある偏微分は一般化力\( F_i \)と呼ばれているのだった。\( y_i \)で偏微分すればいいだけだが、\( L \)の中に和の記号があって\( y_n \)\( y_{n+1} \)があるので、\( n = i \)\( n = i - 1 \)の場合の 2 つの項が関係する事に気を付けないといけない。
\[ \begin{align*} F_i \ &=\ \pdif{L}{y_i} \\ &=\ k (y_i - y_{i+1} ) - k( y_{i-1} - y_i ) \tag{3} \end{align*} \]
 これらを組み合わせれば、前回作った運動方程式と同じものが出来上がる。

 しかしここまでの話はまだ何ら新しい領域には突入していないことに気を付けて欲しい。バネでつながれた質点の運動について論じているだけであり、ひもの運動ではない。


ラグランジアン密度

 今回興味があるのは、これをどう改良したら「ひも」の運動を表すような方程式が得られるかということだ。しかしいきなり魔法のような方法を期待してはいけない。ひとまず前回と同じことを試してみようではないか。

 つまり、\( l = na \)を保ったまま、\( n \rightarrow \infty \)に、\( a \rightarrow 0 \)に、そして、それだけでは質量が無限大になって困るので、一個の質点の質量を\( M/n \)と置いてやることにしよう。またここまでは、多数あるそれぞれの質点の上下の変位を\( y_i \)として表してきたが、これからは質点が密に繋がっていると考えるので、\( y( x, t ) \)という関数として扱うことになる。この考えで、先ほどの\( L \)を書き換えてやろう。

\[ \begin{align*} L \ =\ \sum \frac{1}{2} \frac{M}{n} \left( \pdif{y(x,t)}{t} \right)^2 \ -\ \sum \frac{1}{2} k \Big\{ y(x) - y(x+a) \Big\}^2 \end{align*} \]
 この式は試しに書き換えてみただけのものであり、まるで意味を成していない。考え方の過程を示したいと考えている。まだ和の記号\( \sum \)を使っていたりして、質点の一つ一つを数えながら足している考えが残っているのが見て取れるだろう。しかし今からは\( y( x, t ) \)は連続関数であると考えようとしているのであり、\( x \)軸に沿って連続的に和を取ってやらないといけない。つまり、積分記号に置き換えるべきなのである。

 ところで、ただ\( \sum \)\( \int \)に置き換えるだけでいいだろうか。積分には\( \diff x \)という記号が付き物であるはずだが、これは単なる飾りではなくて、勝手に付け加えれば良いというものではない。\( \diff x \)には「これから微小範囲\( \diff x \)ごとに分けて和を取ろうと思うのだけれど、その範囲\( \diff x \)はこれから無限に 0 に近付けるつもりです」という意味があるのだった。ああ、なーんだ!それはまるっきり\( a \)のことではないか。ということで、\( a \)\( \diff x \)と全く同じものだと見なす事で対応する。

\[ \begin{align*} L\ &=\ \int \frac{1}{2} \frac{M}{na} \left( \pdif{y(x,t)}{t} \right)^2 \diff x - \int \frac{1}{2} k a \left( \frac{ y(x,t) - y(x+dx, t) }{ \diff x } \right)^2 \diff x \\ &=\ \int \frac{1}{2} \sigma \left( \pdif{y}{t} \right)^2 \diff x - \int \frac{1}{2} T \left( - \pdif{y}{x} \right)^2 \diff x \\ &=\ \int \left\{ \frac{\sigma}{2} \left( \pdif{y}{t} \right)^2 - \frac{T}{2} \left( \pdif{y}{x} \right)^2 \right\} \diff x \end{align*} \]
 前回と同じく、\( \lim \)記号を付けないで変形するという無作法なことをしてしまったが、思考過程が良く分かる解説のためにそうしたのであり、そこに込められた精神だけを受け止めて欲しい。このようにして、ラグランジアンの意味を何も変えることなく、連続的な場合へと拡張してやることが出来た。

 ところで、この最後の式の積分の中身は「ラグランジアン密度」と呼ばれている。これは今後も使うつもりがあるので、次のような記号で表しておくことにしよう。

\[ \begin{align*} \mathcal{L} = \frac{\sigma}{2} \left( \pdif{y}{t} \right)^2 - \frac{T}{2} \left( \pdif{y}{x} \right)^2 \end{align*} \]
 ラグランジアン\( L \)の物理的意味がはっきりしないのだから、ラグランジアン密度についても、具体的な意味を考えて悩むだけ無駄というものである。まさに、単位長さ辺りのラグランジアンという意味で納得しておくしかない。


汎関数微分の紹介

 さて、ここからどうやったら、前回と同じ波動方程式を導いてやることができるだろうか。同じ結果が得られてこそ、安心できると言うものだ。

 まぁ、ラグランジュ方程式に代入すれば良い、と考えるのがお決まりのパターンであろう。しかし、何の変更も無しにすんなり行くのかというのが大変心配になるところだ。何しろ、ラグランジアン\( L \)は今や積分で表されているのである。もはや多数の\( y_i \)\( \dot{y}_i \)の関数ではなく、関数\( y( x , t ) \)の関数になっている。このように関数全体の形によって値が決まるような関数を「汎関数」と呼ぶ。

 一方、ラグランジュ方程式というのは、先ほども書いた (1) 式のことである。これは\( L \)\( y_i \)\( \dot{y}_i \)で偏微分している形式になっているが、これをただ\( y( x , t ) \)などで置き換えただけのものには方程式としての意味があるだろうか?\( L \)\( x \)で積分してある形なので\( x \)の関数ではないだろう。それを\( x \)\( t \)を含むような関数で偏微分するなんて、一体それはどう計算すればいいというのだろう!?

 実は、汎関数を関数で微分する方法が存在するのである。それは「汎関数微分」と呼ばれている。いや何のことは無い、それは第 3 部の「ベルヌーイの問題提起」のところで説明したのと全く同じ内容なのである。「変分法」という言葉が「汎関数微分」の別名として使われることは普通に良く見かけるのだが、それは論理的に全く同じだからだ。汎関数微分の詳しい説明は次回に予定している。

 とりあえずはラグランジュ方程式に話を戻して、その意味を再確認しておこうか。そしてその本質を壊さぬように、無限自由度の場合に拡張したものを作ってやればいいだろう。

 (1) 式をもう一度見てほしい。

\[ \begin{align*} \dif{}{t} \pdif{L}{\dot{y}_i} - \pdif{L}{y_i} = 0 \ \ \ \ \ (i = 1 \sim N ) \tag{1} \end{align*} \]
 この第 1 項では\( L \)\( \dot{y}_i \)で偏微分しているが、これは\( i \)番目の質点以外のことには目もくれないという意味が込められている。そしてその結果を時間微分したものは、第 2 項の「\( L \)\( y_i \)で偏微分したもの」に等しいというのである。ところで、\( y_i \)\( y_i + \diff y_i \)に微小変化させれば、同時に\( \dot{y}_i \)\( \dot{y}_i + \diff \dot{y}_i \)に微小変化する。ラグランジュ方程式というのは\( y_i \)\( \dot{y}_i \)の 2 つの偏微分が含まれていてややこしく見えるかも知れないが、\( y_i \)が微小変化すれば\( \dot{y}_i \)はその変化に合わせて付いて来るのであり、要するに\( y_i \)の微小変化さえ考えればいいのである。つまり、どの\( y_i \)を微小変化させても、この等式は成り立っているべきだという宣言になっているのだ。

 では\( y_i(t) \)\( x \)軸に沿った連続的なもの、すなわち\( y( x , t ) \)へと拡張してやったらどうなるだろうか。\( y( x , t ) \)のある一部が微小変化することが、ある質点の位置が微小変化することに対応している。その微小変化によってラグランジュ方程式の第 1 項と第 2 項で計算される量にはそれぞれ変化が生じるのだろうが、それらの変化量は互いに打ち消し合っていないといけない。そのことが、\( y( x , t ) \)のあらゆる地点をどんな微小変化させた場合においても成り立っていなければならないのである。

 最速降下線問題とちょっと似た話になってきただろう。つまり、関数\( y \)をわずかにずらして\( y + \delta y \)に変更した時、\( L \)にもわずかな変化\( \delta L \)が生じるだろうが、\( \delta y \)がどんな形になっていようとも、第 1 項と第 2 項で計算される変化量は打ち消し合っていなくてはならないのである。そのことを次のような式で表現することにする。

\[ \begin{align*} \pdif{}{t} \vardif{L}{ \big( \pdif{y}{t} \big) } - \vardif{L}{y} = 0 \tag{4} \end{align*} \]
 全くラグランジュ方程式と同じ形のままだ!第 1 項の時間微分が偏微分で表されていたり、ドットで表されていたものが偏微分になっていたりはするが、これは\( y \)が多変数関数になったからには従わなくてはならない表記法の理由であり、意味はあまり変わってはいない。その他は、\( \partial \)\( \delta \)に変わっただけの違いである。

 さあ、こうしてめでたく、ラグランジュ方程式に相当するものを式で表現する事だけは出来た。しかしこの式を使って具体的に計算しろと言われても、どう手を付けたらいいのか、困ってしまうことだろう。これを使って、本当に前回のような波動方程式にたどり着けるのだろうか。

 そのためにはもう少し技術的な解説があった方が良いので、次回は「汎関数微分」の計算法にだけ集中して記事を書くことにしよう。


運動量密度、力密度

 波動方程式にたどり着くのは一時おあずけとなってしまったが、その解決に取り掛かる前にもう少しだけ確認しておきたいことがある。自由度を無限大に拡張した場合に、一般化運動量や一般化力という概念はどうなってしまうのかという点だ。

 それを調べる為に、(2) 式について、やはり同じ処方で書き換えをしてやろう。

\[ \begin{align*} p_i\ &=\ m \dot{y}_i \\ & \rightarrow \ \frac{M}{n} \pdif{y}{t} \\ &=\ \frac{M}{na} \pdif{y}{t} \diff x \\ &=\ \sigma \pdif{y}{t} \diff x \end{align*} \]
 まぁ、要するに、微小範囲\( \diff x \)内には質量\( \sigma \diff x \)の物体があって、そいつの運動量を意味しているというわけだ。ただし範囲\( \diff x \)は無限小なので、その運動量も無限小である。これでは扱いにくいので、\( \diff x \)を外して、「運動量密度\( \pi( x, t ) \)という概念を新たに導入しようではないか。
\[ \begin{align*} \pi(x,t) \ =\ \sigma \pdif{y}{t} \tag{5} \end{align*} \]
 ではもう一つ、一般化力の方はどうなるかというと、(3) 式に同じ処方を適用して、
\[ \begin{align*} F_i\ &=\ k (y_i - y_{i+1} ) - k ( y_{i-1} - y_i ) \\ & \rightarrow \ k a \frac{1}{\diff x} \left( \frac{ y(x,t) - y(x+dx,t) }{\diff x} - \frac{ y(x-dx,t) - y(x,t) }{\diff x} \right) \diff x \\ &=\ k a \pddif{y}{x} \diff x \\ &=\ T \pddif{y}{x} \diff x \end{align*} \]
となる。こちらは式の形から類推して具体的意味に結び付けるのが難しいが、元の意味から考えれば、微小領域\( \diff x \)内の質点に働いている力だということだろう。そこで、やはり\( \diff x \)を省いたものを導入して「力密度\( \eta ( x, t ) \)と呼ぶことにしよう。
\[ \begin{align*} \eta(x,t) \ =\ T \pddif{y}{x} \tag{6} \end{align*} \]
 一般化運動量\( p_i \)と一般化力\( F_i \)の間には\( \dot{p}_i = F_i \)という関係があるのだった。まぁ、ラグランジュ方程式の一部を\( p_i \)だの\( F_i \)だのと置き換えてそれぞれに呼び名を付けただけに過ぎないので、この関係にそんなに深い意味があるわけではない。これらをそれぞれ\( \diff x \)で割っただけの意味である\( \pi(x,t) \)\( \eta(x,t) \)にも当然同じ関係が成り立っていると考えてよいだろう。
\[ \begin{align*} \pdif{}{t} \pi(x,t) \ =\ \eta(x,t) \end{align*} \]
 ここで左辺の\( \pi \)に対して、時間微分を表すドットを付けるのではなくてわざわざ偏微分を使って表しているのは、\( \pi \)がもはや\( p_i \)と違って多変数関数で表されることになったのでそうしたまでのことだ。他意はない。

 この式に (5) 式や (6) 式を代入してやると前回と同じ波動方程式が得られる事になるが、これは感動すべきところでも何でもないので勘違いしてはいけない。途中に運動量密度やら力密度やらといった新しい概念を挟んだせいでいかにも新しい事をしているかのように見えるかも知れないが、それは錯覚だ。議論の流れをよく確かめてみてもらいたい。

 こういうことだ。前回は質点の運動方程式から波動方程式を得たのだった。今回はラグランジュ方程式から前回と同じ質点の運動方程式を得たが、それ以降は同じ操作をしただけなのである。

 ここでは単に、運動量密度や力密度の紹介ついでに、前回の話との関連を少し確認しておきたかったに過ぎない。これら、運動量密度や力密度は神秘的な量では決して無い。

 さて・・・、ここまではいかにも泥臭い方法でやってきた。通常の力学から得られる結論から類推しただけの議論がほとんどであって、解析力学らしくなかった。もっとエレガントに、数学的手法で抽象的にまとめて行きたいものである。しかしそれをやると色んな量が神秘的な存在に見えてきてしまうようになるだろう。その時には一旦ここへ戻ってくる事にしようではないか。