ハミルトン・ヤコビの偏微分方程式2

ハミルトニアンが時間を含まない場合。

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時間を含まない方程式

 前回はハミルトン・ヤコビの偏微分方程式を紹介し、使い方を説明した。それは次のような式だった。
\[ \begin{align*} \pdif{W(q,t)}{t} + H\left( q, \pdif{W}{q}, t \right) = 0 \tag{1} \end{align*} \]
 ここでハミルトニアン\( H \)が時間\( t \)を含まないという制限を設けると、この方程式を解くのはかなり易しくなる。ずっと前に説明したように
\[ \begin{align*} \dif{H}{t} = \pdif{H}{t} \end{align*} \]
という関係があったので、(いや、ごめんなさい、ホントはまだ説明していません。後でこれについての記事を追加する予定です。)今、この式の右辺が 0 だということは、\( H \)の変数である\( p \)\( q \)は時間に依存して変化したとしても、\( H \)全体の値は変化しないで一定の値\( E \)になることを意味している。
\[ \begin{align*} H\left( q, \pdif{W}{q} \right) = E \tag{2} \end{align*} \]
 この時、(1) の方程式を満たす\( W \)は次のような形になる。
\[ \begin{align*} W( q, t )\ =\ - Et\ +\ S(q) \tag{3} \end{align*} \]
 後は\( S(q) \)をどうやって導くか、だ。(2) 式の\( H \)の変数として\( \pdif{W}{q} \)というものがあるが、そこに (3) 式を代入して計算すると\( \pdif{S}{q} \)となるから、
\[ \begin{align*} H\left( q, \pdif{S}{q} \right) = E \end{align*} \]
と書いても同じだろう。これは関数\( S(q) \)についての (1) 式よりも単純な偏微分方程式になっている。これを「時間を含まないハミルトン・ヤコビの方程式」と呼ぶ。単純とは言っても、現実の問題に当てはめようとするとややこしいかも知れない。ここでは\( q \)\( \pdif{S}{q} \)という記号で代表して書いているが、実際には\( q\sub{1}, q\sub{2}, \cdots, q\sub{f} \)や、\( \pdif{S}{q_1}, \pdif{S}{q_2}, \cdots, \pdif{S}{q_{f}} \)という多数の変数を略しているのである。

 これを解くことは数学の技巧上の問題なので、ここに具体的な説明を挟むのはやめておこう。いや、幾つか書いてはみたのだが、記事の大半を占める分量になってしまった。本題でないところで長々とさまようのは面白くない。まぁ、別の記事として後で発表するかもしれない。

 とにかく関数\( S \)は合計\( f \)個の任意定数を含む形で導かれる。求まった解に任意定数を加えたものも解であるので、定数はそれ以外にもう一つあるわけだが、そいつのことは無視している。それら\( f \)個の任意定数を\( a_i \)とでも表すことにしよう。つまり\( S \)\( S(q, a) \)という形の関数になる。それらの定数\( a_i \)は完全に自由に決められるわけではなく、\( E \)に縛られるので、自由度は\( f-1 \)である。逆に見れば、\( E \)\( a_i \)の関数になっているとも言える。要するに、

\[ \begin{align*} W\ =\ -E(a\sub{1}, a\sub{2}, \cdots)\ t\ +\ S(q\sub{1}, q\sub{2}, \cdots , a\sub{1}, a\sub{2}, \cdots) \tag{4} \end{align*} \]
となっており、母関数\( W \)\(( q, a, t ) \)という関数の形で求められたということだ。


あとは前回と同じ

 ここまで来たら後は前回と同じことを繰り返すだけなのだが、その途中で表れる式を使って議論を展開したいので、くどいかも知れないが全く同じ説明を最後までやっておこう。

 今は正準変換後の\( P_i \)\( Q_i \)が定数となるような変換を探しているのだから、ここに出てきている定数\( a_i \)こそが\( P_i \)のことなのだと解釈してやる。

 正準変換は、\( W(q, P, t) \)という形の母関数を使用したときには、

\[ \begin{align*} p_i &= \pdif{W}{q_i} \tag{5} \\ Q_i &= \pdif{W}{P_i} \tag{6} \end{align*} \]
という関係が使えるのだった。だから、この式に、ここでの結果、つまり (4) 式などを代入すれば、
\[ \begin{align*} p_i\ &=\ \pdif{S}{q_i} \tag{7} \\ Q_i\ &=\ \pdif{W}{a_i}\ =\ -\pdif{E}{a_i}t + \pdif{S}{a_i} \tag{8} \end{align*} \]
となる。ここで (8) 式の\( Q_i \)というのは定数であるべきはずなのに、右辺を見ると\( t \)が入っているのでおかしいじゃないかと思うかも知れないが、\( S( q, a ) \)は変数の各\( q_i \)を通して時間変化するのであり、それとうまく打ち消し合っているのであろう。\( Q_i \)が定数であることを強調するために、これを\( b_i \)で書き直そう。
\[ \begin{align*} b_i\ &=\ -\pdif{E}{a_i}t + \pdif{S(q, a)}{a_i} \tag{8'} \end{align*} \]
 この式から\( b_i \)は定数であるけれども\( ( q, a, t ) \)の関数として表せるということになる。この式を\( q_i \)について逆に解けば、各\( q_i \)\( ( a, b, t) \)の関数として表すことができる。\( a_i \)\( b_i \)は定数だから、これは\( t \)に依存する関数だということだ。この式が欲しくて計算していたのであり、目的は達せられたことになる。

 \( p_i \)については (7) 式を使えばいい。\( S \)の変数は\( (q, a) \)だから、\( p_i \)\( (q, a) \)の関数として求まるだろう。その\( q_i \)の部分に今求めた結果を代入すれば、こちらも\( ( a, b, t ) \)の関数として得られることになる。


関数 S の意味

 ここで出てきた関数\( S(q, a) \)には特別な利用価値がある。本来、ここまで来たら母関数\( W \)を使って正準変換すべきところだが、気が変わって、ここで求めた\( S(q, a) \)を母関数として変換したら、一体、どんな結果になるだろうかというのを考えてみよう。

 ハミルトニアンの変換には次の式を使うのだった。

\[ \begin{align*} K = H + \pdif{W}{t} \end{align*} \]
 ここで母関数\( W \)の代わりに\( S \)を使うのである。\( S(q, a) \)には\( t \)が含まれていないのだから、変換後のハミルトニアン\( K \)は量的には変換前と等しいということだ。ただし\( K \)は変換後の変数を使って表し直す必要がある。

 これ以外に (5)、(6) 式のような関係式がある。まずは (5) 式から見よう。この関係式に\( W \)の代わりに\( S \)を使うとどうなるかだが、先ほどやった計算を見ればこれはすぐに分かる。(5) 式に (4) 式を代入した結果が (7) 式になるのだった。つまり、\( W \)の代わりに\( S \)を使おうがこれは何ら変わりがないということだ。

 では (6) 式はどうなるかというと、これも先ほどの計算から見えてくる。(8') 式を移項してみよう。

\[ \begin{align*} b_i\ +\ \pdif{E}{a_i}\ t\ =\ \pdif{S}{a_i} \end{align*} \]
 少し分かりにくいかも知れない。どう説明したら分かってもらえるだろう。ここに出てくる\( a_i \)というのは、変換後の運動量\( P_i \)のことであり、それは時間変化しない定数であるから\( a_i \)と表しているのである。この式と (6) 式を見比べてやれば、右辺は\( W \)\( S \)に置き換えただけである。違いは左辺に現れる。左辺には変換後の座標変数\( Q_i \)が出るはずなのだが、母関数として\( S \)を使った場合には、それは\( b_i + \pdif{E}{a_i}t \)であり、もはや定数ではないのだ。

 要するに、母関数として\( S( q, a ) \)を使った変換は、新しい運動量\( P_i \)を定数\( a_i \)とし、新しい座標変数\( Q_i \)\( b_i + \omega_i t \)という形にする変換だということだ。この\( \omega_i \)というのは、\( \pdif{E}{a_i} \)のことだが、これは定数であるのでこのような記号\( \omega_i \)を当ててみたのである。

 こんなものがどうして重要なのかはまだ想像が付かないだろう。エネルギーが一定の場合に限定しての話なので応用範囲が広いとも思えない。今回はただ関数\( S \)の紹介をするのが目的であったのでこれくらいにしておこう。次回からこれを使った理論を展開して行くつもりである。