つじつま合わせ

なぜ L = T - V なのか。

[
前の記事へ]  [解析力学の目次へ]  [次の記事へ]


質点を操るルール作り

 前回はラグランジアンがいかにも人為的な量だというところまで話した。では次に、ラグランジアンをどのように定めればニュートン力学に従う質点の運動と同じものを作り出すことが出来るのかを調べていこう。言うなれば、辻褄合わせのようなものだ。

 イメージしやすいように、ポイント制の耐久レースみたいなものを思い浮かべると良い。スタート地点とゴール地点は決まっている。そしてスタート時刻とゴール時刻も決まっている。レースの参加者はこの制限時間の間、好きなコースを自由に走ることが出来る。スタート前に助走することも許されている。しかし、その走り方によって時々刻々とペナルティが加算されるのだ。最終的にペナルティが一番少なかったチームが勝ちとなる。参加者はうまい戦略を考えなくてはならない。

 ここでレースの参加者というのは質点のことであり、ペナルティというのはラグランジアン\( L \)のことである。ペナルティの合計が作用\( I \)である。レースの主催者である我々はルールを操ることで参加者の走り方を好きなように誘導してやれるわけだ。


等速直線運動

 まずは簡単な等速直線運動から考えて行こう。もしスタートからゴールまで速度を変えることなくまっすぐ走らせたい場合には、どのようなルール設定をしたらよいだろう?

 速度に関連したルールを課してやる必要がある。スタートとゴールの位置と時間が決まっている以上、特に速度を出させる為のルールを課す必要はないだろう。ゴールへ向かうためにはとにかく動かないわけにはいかないのだから。

 逆に、速度の出し過ぎを牽制するようなルールが要りそうである。そこで速度が高いほど減点になるルールを課してやる。つまり、\( L = v \)としてやるのだ。これで無駄な走り方はするまい。

 しかしこれはうまくいかない。このルールでは誰がどのように走っても同点になってしまう。初めに思いっきりすっ飛ばしてゴール地点を飛び越えて行ってしまっても、戻ってくるときは速度がマイナスになるので、ペナルティが減算されてしまうことになる。コースを右や左にそれれば減点の対象になるが、元の直線コースに戻る過程で帳消しになってしまう。

 では速度の絶対値\( |v| \)にしてはどうか?こうすれば引き返したりする動きを制限できる。しかしスタート直後にゴール直前まで一気に加速して、残りの時間をゴール前でじっと待っていることも出来る。

 こういうことを防ぐ最も簡単な方法は、\( L = v^2 \)というルールを課すことだ。これは加速や減速をした分だけペナルティが増えることになる。みんな一定速度で走るつまらないレースが作れるのだ。なぜそうなるのか説明しよう。

 例えばレースの前半時間を\( v - a \)という速度で走ったとする。すると後半ではそれを補うために\( v + a \)で走らなければならなくなるが、前半でのペナルティは

\[ \begin{align*} ( v^2 + 2 a v + a^2 ) \times \frac{t}{2} \end{align*} \]
であり、後半でのペナルティは
\[ \begin{align*} ( v^2 - 2 a v + a^2 ) \times \frac{t}{2} \end{align*} \]
となるので、合計してやると\( a^2 \)の項だけは帳消しされずに、一定速度で走った時よりも\( a^2 \times t \)だけ余分に加算されてしまう。今は簡単に 2 分割で計算したが、厳密には
\[ \begin{align*} \delta I = \int a^2 \diff t \end{align*} \]
となることが計算できる。

 別に\( L = v^2 \)でなくとも\( v^3 \)とか\( v^4 \)とかにしても等速直線運動を作れそうなのだが、必要以上にややこしいことになるし、あまり利点もなさそうなのでここまでにしておこう。目的は果たせた。

 さて、このルールの性質上、ラグランジアン\( v^2 \)に定数を掛けてやっても本質は変わらない。そこでこれに\( m/2 \)を掛けてやれば、これは運動エネルギーになる。

 以上が、自由粒子のラグランジアンを運動エネルギー\( T \)で表してもよい理由である。しかし運動エネルギーで表さなければいけない必然性はないようだ。


ポテンシャルを考慮に入れる

 次にポテンシャルがある場合の運動を考えてみよう。

 質点は、ポテンシャルエネルギーの低い方へ動こうとする性質がある。これを実現するために、「ポテンシャルエネルギーの高い領域にいる時間が長いほどペナルティが大きい」というルールを課すのはどうだろうか?

 こうすれば質点は慌ててポテンシャルの高い領域を離れてポテンシャルの低い方へ移動することだろう。しかしこのやり方は間違っている。このルールの下では質点はなるべく早くポテンシャルの高いところを通り過ぎ、ポテンシャルの低いところでじっと留まっていた方が得になってしまうのである。現実の運動はそうではない。ポテンシャルの低いところでは質点は運動エネルギーを得て、高速で運動しているではないか。

 むしろ逆に、「ポテンシャルエネルギーの低い領域にいる時間が長いほどペナルティが大きい」というルールを課するべきなのである。いちばん簡単なのは\( L = T - V \)とすることだ。こうしておけば、質点はなるべくポテンシャルエネルギーの高いところに留まろうとして初めはゆっくりとしか動き出さないだろう。しかし先ほどの等速直線運動のルールがあるために、いつまでもじっとしているわけにもいかない。

 ゴール時間ギリギリになって急加速することは大幅なペナルティの対象になるのである。このペナルティは速度の 2 乗で効いてくるからバカには出来ない。残り時間が 2 秒の時に 100 km/s でダッシュをかけるのと、残り時間が 1 秒の時に 200 km/s でダッシュをかけるのとでは、ペナルティの対象となる時間は半分だが、倍率は4倍だ。長い時間を掛けて徐々に加速、減速をする方がペナルティが少なくて済む。それで仕方なくじわじわと動き始めるのだ。それでもポテンシャルの低いところは微妙に早く駆け抜けた方が得策だ。

 以上がラグランジアンが\( L = T - V \)で表されることの定性的な説明である。

 しかしそんなバカなことがあるだろうか?

 質点が、コースの全体を把握した上で戦略を練って運動しているなんて!


何が起こってるんだ

 私はまだ肝心な部分について説明していない。それはなぜラグランジアンが\( T - V \)などという綺麗な形で出てくるのかということである。なぜ\( v^2 + 1/V \)ではなくてこの形なのだろう?どうして\( v^2/m - \sqrt{V} \)ではいけないのだ?何か意味が見出せそうなのだが、よく分からないのだ。

 \( \delta \int L \diff t = 0 \)であることから、これを変形してやって、\( \delta \int T \diff t = \delta \int V \diff t \)であることが分かる。つまり現実の質点は、ほんの少しコースをずれたときに、運動エネルギーの変化とポテンシャルエネルギーの変化の度合いが等しくなるようなコースを選んでいるのである。

 これはエネルギー保存則を意味しているのだろうか?初めはそう思ったのだが、よく考えるとどうも違う。正しいコースを逸れたことで例えば運動エネルギーが増したとして、どうして後で速度を緩めなくてはならないことまで考慮して適切なポテンシャルの道を選ぶことが出来るだろうか?

 私には今のところ、オイラー・ラグランジュの方程式がニュートンの運動方程式と同じになるためにはこうならざるを得ないのだ、という貧弱な説明しか出来ない。やっぱり辻褄合わせに過ぎないのだろうか。辻褄合わせにしては悔しいほどシンプル過ぎるのだ。