ネーターの定理

気になってはいたけど、まとめるのが面倒だったんだよなぁ。

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定理の概要

 物理的な対象に何らかの対称性が認められるとき、それに対応して何らかの保存量の存在が導かれる。これが有名な「ネーターの定理」の意味するところだ。

 例えば、有名な運動量保存則というものがある。この法則が、実は空間の並進対称性から導かれるものであることがネーターの定理によって分かる。並進対称性というのは、考えている対象を全て一斉に平行移動してみたところで物理法則は何も変わりません、というものである。我々の住む空間にそういう性質があるから、運動量保存則が成り立っているのだと言えるわけだ。

 他にもあって、角運動量保存則というのは空間の回転対称性に関連している法則だ。つまり、宇宙には特別な方向などはなくて、どの方向を向けても法則は変わりませんという性質が、この法則と結び付いていると言える。

 また、エネルギー保存則は、時間発展対称性に結び付いている。この対称性は、時間が経過しても今日も明日も明後日も法則は変わりませんというものだ。

 今回はこれらのことを説明してみよう。


この定理は重要だろうか

 ところで、運動量保存則と並進対称性とが関連していることについては、すでにネーターの定理を使わずに説明したことがある。ここよりずっと前、第 2 部の「ポアッソン括弧式」の一番最後のところだ。そこでは括弧式に頼って説明したのだが、いやいや、そんな道具を使わないでも、もっと簡単に説明することだって出来る。

 ラグランジアンの中に、ある座標変数\( q_i \)が含まれていなかったとしよう。このとき、この変数だけを\( q_i \)\( q'_i = q_i + \varepsilon \)という具合にわずかにずらす座標変換を考えると、当然のことながら、新しく作られたラグランジアンにも\( q'_i \)は含まれないし、それどころかラグランジアンは以前と全く同じ形をしたままである。これは\( q_i \)を並進させる変換に対して、ラグランジアンに対称性があると言えるだろう。さて、これをラグランジュ方程式に代入してみればいい。ラグランジュ方程式というのは次のようなものだった。

\[ \begin{align*} \dif{}{t} \left( \pdif{L}{\dot{q}_i} \right) - \pdif{L}{q_i} = 0 \end{align*} \]
 \( L \)\( q_i \)が含まれないというのだから、これの第 2 項は 0 だ。それで第 1 項だけが残ることになるが、第 1 項の括弧の中は一般化運動量\( p_i \)と呼ばれているのだった。それで、\( p_i \)は時間的に変化せず、一定だと言える。すなわちこれは運動量保存則に他ならない。

 こんな具合に説明できてしまうくらいの内容ならば、ネーターの定理なんて大層なものは要らないのではないだろうか?本題に入る前にもうしばらく、私の馬鹿な思考の彷徨いに付き合ってみて欲しい。

 ネーターの定理の意味することはわざわざ数学的に証明するまでもないことのように思える。対称性があるというのは、変換しても何も変わらないという意味なんだろう?変わらないのなら、その「変わらないもの」を代表する数値が当然どこかにあるはずだ。それだけの事ではないのか?

 いや、感覚的にはそうかも知れないが、そんなにも単純だろうか。何も変わらない時、変わらないものは一つだけではない。何もかもが変わらないのである。対称性に関連したある一つの変わらない変数が一体どれであるかを特定せよと言われても困ってしまう。並進変換でラグランジアンが変化しないとき、それが「運動量保存」に結び付いている効果だなんて、すぐに分かるものだろうか?エネルギーだって変化していないはずだ。なぜ並進変換の場合にはエネルギー保存は関係ないと言い切れるのだろう。

 そう言えば、そもそもラグランジアンが不変なのだから、「ラグランジアン保存則」なんてものだって在って良さそうだ・・・。(警告!エラー!エラー!思考暴走中!)ああ、そうか。ラグランジアンは関数だから、変換によって変わらないのは値ではなくて、関数の形なのか。値は場所によって変わってるから、保存則にはならないってことか。(警報は解除されました)

 とにかく対称性があればそこに必ず保存量が存在する、という考えは間違いのようだ。例えば、常に一定方向に同じ大きさの力が掛かって加速しているような質点の運動方程式は、平行移動してみたところで、形が全く変わらない。この運動方程式には並進対称性があると言えるだろう。しかしこの質点の運動量は保存などしないで変化し続けるのは明らかではないか。

 ネーターの定理というのは、もっと限定された内容を表しているに違いない。何だかネーターの定理が偉大なものに見えてきた。


ネーターの定理の導出

 ネーターの定理の説明の仕方は何通りかある。私の見た中で最も抽象度が低いだろうと思うやり方でやってみよう。これより楽な方法もあるにはあるが、その真意が理解しにくいので今は避けることにする。

 ラグランジアンというのは\( L( q_i, \dot{q}_i, t ) \)という形をしている。ここまでに出てきた範囲では、\( L \)というのは\( q_i \)\( \dot{q}_i \)のみの関数であり、\( t \)を直接は含んでいなかった。しかし\( t \)を含むような形のものも今後紹介する可能性もあるので、ここでは一応書いておくとしよう。3 次元中の\( N \)個の質点を考える場合、添字の\( i \)には\( 1 \sim 3N \)の数値が入ることになる。つまり、このラグランジアンは\( 3 N + 1 \)個の変数を持つ関数だということである。

 \( q_i \)\( \dot{q}_i \)はそれぞれ粒子の位置や速度を表しており、\( t \)の関数になっている。よって、\( L \)\( t \)を直接含まない場合であっても、\( L \)は間接的には\( t \)の関数になっていると言える。こんなことは定理の導出にはあまり関係ないことだが、話が進むにつれて混乱するかも知れないので、今の内にちょっと注意しておいた方が良かろうと思ったのである。

 では本題に入ろう。これから\( q_i \)\( q'_i \)という座標変換をすることを考える。それによって普通はラグランジアンの形は変わるものであるから、それを\( L \)とは違う記号を使って表し直す必要があるだろう。ここでは\( L' ( q'_i, \dot{q}'_i, t ) \)と書くことにしよう。同じものをただ座標変換しただけのことなので、

\[ \begin{align*} L ( q_i,\ \dot{q}_i,\ t ) \ =\ L' ( q'_i,\ \dot{q}'_i,\ t ) \end{align*} \]
という関係が成り立っている。ところで、もしこの右辺が、\( L'( q'_i, \dot{q}'_i, t ) \)ではなくて、\( L( q'_i, \dot{q}'_i, t ) \)となっていたとしたらどうだろうか。つまり座標変換によって、もしラグランジアンの形式が全く変化しなかったとしたら・・・と仮定するのである。こんな式が成り立つことになる。
\[ \begin{align*} L ( q_i,\ \dot{q}_i,\ t ) \ =\ L ( q'_i,\ \dot{q}'_i,\ t ) \end{align*} \]
 この仮定の意味するところは、使う座標が変わってはいるものの、全く同じ形式の法則に乗せて物理現象が記述できる、ということだ。こういう状況を指して、「座標変換に対してラグランジアンに対称性がある」と表現する。

 ところがここで仮定したようなことは普通の座標変換では滅多にあることではない。最もポピュラーなデカルト座標から極座標への変換でさえ、ラグランジアンの形を大きく変えてしまうではないか。そこで、今仮定した状況が容易に実現しそうな「無限小の座標変換」というものに限定して話を続けることにする。

\[ \begin{align*} q_i \ \rightarrow \ q'_i \ =\ q_i + \delta q_i \end{align*} \]
 この式に\( \delta \)記号を使っているのを見て、無意識に、変分原理と似たことをするのだなと勘違いしてしまうかも知れないので注意が必要だ。これは粒子の位置をわずかにずらした状態を考えようというのではない。粒子の位置を表す為の「座標の目盛り」の方をわずかに\( \delta q \)だけずらすことを考えるのである。全空間で一斉に同じだけずらすのではなく、場所によってずらし方が変わっていてもいいとする。ここで、\( \delta L \)として、
\[ \begin{align*} \delta L \ =\ L (q'_i,\ \dot{q}'_i,\ t ) - L ( q_i,\ \dot{q}_i,\ t ) \end{align*} \]
と定義したものを考えれば、先ほどの仮定より\( \delta L = 0 \)だと言える。この式に、今の無限小の座標変換を代入してやれば、
\[ \begin{align*} \delta L \ =\ L( q_i + \delta q_i,\ \dot{q}_i + \delta \dot{q}_i,\ t ) - L( q_i,\ \dot{q}_i,\ t ) \ =\ 0 \end{align*} \]
ということであり、この 1 次の変化のみを考えるならば
\[ \begin{align*} \sum_{i=1}^{3N} \left( \pdif{L}{q_i} \delta q_i + \pdif{L}{\dot{q}_i} \delta \dot{q}_i \right) = 0 \end{align*} \]
である。ここで第 1 項に対してラグランジュ方程式を使ってやると、
\[ \begin{align*} &\sum_{i=1}^{3N} \left[ \dif{}{t} \left( \pdif{L}{\dot{q_i}} \right) \delta q_i + \pdif{L}{\dot{q}_i} \delta \dot{q}_i \right] = 0 \\ \therefore \ &\sum_{i=1}^{3N} \dif{}{t} \left( \pdif{L}{\dot{q}_i} \delta q_i \right) = 0 \end{align*} \]
と変形できるだろう。大した事はやっていない。よく分からなければ、2 行目から 1 行目に向って逆算してみることだ。この結果として、次のことが言える。
\[ \begin{align*} \sum_{i=1}^{3N} \pdif{L}{\dot{q}_i} \delta q_i \ =\ \mathrm{const.} \end{align*} \]
 これで終わりだ。要するに、「\( q \rightarrow q + \delta q \)の無限小変換によってラグランジアンが形を変えなければこの式が成り立つ」というのが、ネーターの定理の内容である。

 もっと仰々しいものを想像していたかも知れないが、案外簡単な結論である。ただこれだけ見ていても面白さが良く分からないかも知れない。冒頭で説明したようなことを導くためには、これを個別の状況に当てはめてみる必要がある。


運動量保存

 上で導いたネーターの定理の式は、\( N \)個の質点の位置を表す座標の各成分について、別々のずらし方を適用することが出来るような形になっている。

 しかしこのままでは面倒なので、どの質点の位置も同じ座標を使って表現してやろうという、ごく自然な考えを取り入れることにしよう。そしてどの質点についても共通の無限小ベクトル\( \delta \Vec{q} \)だけ座標をずらしてやると考えるのである。そうすれば先ほどのネーターの定理の式は次のようにベクトルですっきりとまとめられる。

\[ \begin{align*} \sum_{j=1}^{N} \Vec{p}_j \Vec{\cdot} \delta \Vec{q} \ =\ \mathrm{const.} \end{align*} \]
 先ほどは無限小変換の\( \delta q \)が場所によって違いがあってもいいと説明したが、ここでは全空間で一斉に同じだけ微小にずらすことを考えてみよう。要するに座標の平行移動だ。このことは微小な定数\( \varepsilon \)と任意のベクトル\( \Vec{n} \)を使って、
\[ \begin{align*} \delta \Vec{q} \ =\ \varepsilon \Vec{n} \end{align*} \]
と表せるだろう。これを代入してやれば、
\[ \begin{align*} \sum_{j=1}^{N} \Vec{p}_j = \mathrm{const.} \end{align*} \]
が言える事になり、運動量保存則が導かれたことになる。

 ただしこのことが成り立つのは、今やった平行移動の無限小変換によってラグランジアンが変化しない場合に限るという条件があるのを忘れてはならない。例えば、ラグランジアンが

\[ \begin{align*} L( q_i,\ \dot{q}_i,\ t ) \ =\ \sum_{i} \frac{1}{2} m \dot{q}_i^2 \end{align*} \]
という形であったならば、\( q_i \)\( q'_i = q_i + \varepsilon \)という微小な平行移動の変換をしたとしても、時間の 1 階微分で微小定数\( \varepsilon \)は消えてしまって、元と変わらない形のままだろう。運動量保存はそういう場合にだけ成り立っているのである。

 ところで先ほど、ネーターの定理を導出する過程で、無限小変換は座標の方をずらすのであって、質点の位置をずらす意味ではないと説明した。しかし今やったのは要するに、考えている質点を全て一斉に平行移動したと考えても全く同じ状況である。だから「系を平行移動させても物理法則が変わらない」ことが運動量保存と関係していると説明されることが多いのである。


角運動量保存

 次に、座標を原点を中心にわずかに回転させてみよう。このとき、全空間の座標が一斉に同じだけずれるのではない。座標原点から遠く離れた所ほど大きくずれるし、場所によってずれる方向も違うだろう。そのずれ方は外積を使って次のように表される。
\[ \begin{align*} \delta \Vec{q}_j = \delta \Vec{\theta} \times \Vec{r}_j \end{align*} \]
 ここで\( \delta \Vec{\theta} \)は無限小回転の軸方向を表すベクトルであり、今はそれが微小な定ベクトルであることをはっきり示す為に\( \varepsilon \Vec{n} \)とでも書き直した方が良いかも知れない。後で式変形の途中で書き直すとしよう。また、\( \Vec{r} \)\( j \)番目の質点までの位置ベクトルである。今回は質点の位置によってずれ方が違うから、添え字\( j \)で区別してある。これをネーターの定理の式に代入してやろう。
\[ \begin{align*} & \sum_{j=1}^{N} \Vec{p}_j \Vec{\cdot} ( \delta \Vec{\theta} \times \Vec{r}_j ) \\ =\ & \sum_{j=1}^{N} \delta \Vec{\theta} \Vec{\cdot} ( \Vec{r}_j \times \Vec{p}_j ) \\ =\ & \varepsilon \Vec{n} \Vec{\cdot} \left( \sum_{j=1}^{N} \Vec{L}_j \right) \ =\ \mathrm{const.} \end{align*} \]
 つまり、\( \Vec{n} \)を回転軸とする無限小回転に対してラグランジアンに対称性がある場合には、全角運動量ベクトルの\( \Vec{n} \)方向成分が保存することが言えるという訳だ。


一般的なネーターの定理

 さて、残るは、時間発展対称性とエネルギー保存の関係だ。これも先の 2 つの保存則と同じようにさっさと導いて今回の話を終わりにしたいのだが、ここで困ったことがある。先ほど導いたネーターの定理では、座標の無限小変換だけを考えたのであって、時間の無限小変換については考慮していなかったのである。それで、時間を考慮したネーターの定理を導き直すことから始めないといけない。

 今度は無限小変換として、

\[ \begin{align*} q &\rightarrow q' \ =\ q + \delta q \\ t &\rightarrow t' \ =\ t + \delta t \end{align*} \]
というものを考える。いちいち添え字を付けていると見た目がややこしくなるので、1 次元の 1 粒子 の場合を考えて添え字を書かないことにした。時間の変換は一斉に同じだけずらすのではなく、座標変換と同じように、ずれ方が所々で変わってもいいとする。つまり、\( \delta t \)\( \delta t(t) \)という時間の関数になっていても良いというイメージだ。

 このまま前と同様な手続きをなぞることで変形を続けて行ければ楽なのだが、そう易々とは行かない事情がある。と言うのは、\( q \)というのが\( t \)の関数であるが故に、

\[ \begin{align*} q(t) \rightarrow q'( t' ) \end{align*} \]
という変換を考えなくてはならないのだ。変換の前後の比較をしようとしても、同じ時刻\( t \)で表された形に持って行ってやらないと、前と同じような偏微分の式に直すのが難しい。

 そこで、作用\( I \)の助けを借りるという回避策を用いることにしよう。作用\( I \)というのは次のように書けるのだった。

\[ \begin{align*} I = \int^{T_b}_{T_a} L( q(t),\ \dot{q}(t),\ t ) \diff t \end{align*} \]
 これを座標と時間の無限小変換をした後の変数を使って書き換えたとすると、
\[ \begin{align*} I' = \int^{T'_b}_{T'_a} L'( q'(t'),\ \dot{q}'(t'),\ t' ) \diff t' \end{align*} \]
と書けることになる。こう書くと積分範囲さえも別の座標で表されてしまっていて、何やら非常にややこしそうなことが起こったように見えることだろう。しかしこれは単に同じ状況を別変数で表すように式変形しただけのことであり、相変わらず\( I = I' \)であることは変わらない。この事実を忘れないようにしておこう。

 念のため繰り返すが、これは表し方が変わっただけであって、積分範囲も物理的内容もまるで変わってはいないのである。これは変分原理で考えたような、質点の物理的な「ずらし」を意味する操作ではない。\( q \)をそのまま\( q' = q + \delta q \)へと置き換えたのではなく、\( q' = q + \delta q \)などの式を使って座標変換しただけというイメージだ。

 よって、もし\( \delta I = I' - I \)というものを定義すれば、\( \delta I = 0 \)が成り立っているのはごくごく当たり前に言えることである。この\( \delta I \)という記号を見て、反射的に変分原理と同じ内容の話だと勘違いしてはいけない。ここでは記号をちょっと違う意味で使っている。

 さて、これから\( I' \)の方を少しずつ変形して行ってやろう。まずいきなりだが、重大な仮定を置くことにする。それは、以前と同じように、変換の前後でラグランジアン\( L \)の形が変化しないという仮定である。

\[ \begin{align*} = \int^{T'_b}_{T'_a} L( q'(t'),\ \dot{q}'(t'),\ t' ) \diff t' \end{align*} \]
 次に、積分範囲を定数\( T_a \)\( T_b \)を使って書き直してやろう。
\[ \begin{align*} = \int^{T_b + \delta t}_{T_a + \delta t} L( q'(t'),\ \dot{q}'(t'),\ t' ) \diff t' \end{align*} \]
 ところで、よく見ると、ここで積分変数として使われている\( t' \)というのは、別にどんな記号に置き換えて表そうとも計算結果は変わらないのではなかろうか。思い切って\( t \)に置き換えてやれば\( I \)\( I' \)との比較をするのに、心情的な抵抗感が非常に薄まることだろう。
\[ \begin{align*} = \int^{T_b + \delta t}_{T_a + \delta t} L( q'(t),\ \dot{q}'(t),\ t ) \diff t \end{align*} \]
 あと\( I \)\( I' \)とを比較する上で気になるのは、両者の積分範囲がわずかに異なっていることであるが、要するにこれは、\( T_b \)よりもごく僅か\( \delta t \)だけ多く積分していたり、\( T_a \)よりもごく僅か\( \delta t \)だけ少なめに積分しているということだ。1 次の近似をするならば、その僅かな積分区間の間、\( L \)の値は変化していないと見なせる。

 ここで\( \delta I = I' - I \)を 1 次のみ計算してやると、

\[ \begin{align*} & L \delta t \big|_{T_b} - L \delta t \big|_{T_a} + \int^{T_b}_{T_a} \delta L \diff t = 0 \\ \therefore \ &\int^{T_b}_{T_a} \dif{}{t} (L \delta t) \diff t + \int^{T_b}_{T_a} \delta L \diff t = 0 \\ \therefore \ &\int^{T_b}_{T_a} \left[ \dif{}{t} (L \delta t) + \delta L \right] \diff t = 0 \end{align*} \]
という関係が成り立っている。ただし、この式の中の\( \delta L \)というのは、
\[ \begin{align*} \delta L \ =\ L( q'(t),\ \dot{q}'(t),\ t ) - L(q(t),\ \dot{q}(t),\ t ) \end{align*} \]
を略して書いたものであって、こいつも 1 次近似してから代入してやらないといけない。どちらも\( t \)は同じであるから略してやることにするが、
\[ \begin{align*} =\ & L( q', \dot{q}', t ) - L( q, \dot{q}, t ) \\ =\ & L( q+\delta q, \dot{q}'+ \delta \dot{q}', t ) - L( q, \dot{q}, t ) \\ =\ & \dots \end{align*} \]
 このあとは、すでにやった、時間に依存しない形のネーターの式と全く同じ変形が続くのであり、途中を全部書く必要はないだろう。偏微分で表してから、ラグランジュ方程式を代入したりして、
\[ \begin{align*} = \dif{}{t} \left( \pdif{L}{\dot{q}} \delta q \right) \end{align*} \]
となるのである。今回は省略しているが、多粒子の場合にはこれに和の記号を付けてやればよい。

 この\( \delta L \)を先ほどの積分の中に代入してやれば、結局次の式が成り立っていることが分かる。

\[ \begin{align*} & \int^{T_b}_{T_a} \left[ \dif{}{t} (L \delta t) + \dif{}{t} \left( \pdif{L}{\dot{q}} \delta q \right) \right] \diff t = 0 \\ & \int^{T_b}_{T_a} \dif{}{t} \left( L \delta t + \pdif{L}{\dot{q}} \delta q \right) \diff t = 0 \end{align*} \]
 積分区間としてどんな値を選んでもこの式が成り立っているというのだから、積分の中身が 0 であるに違いない。
\[ \begin{align*} \dif{}{t} \left( L \delta t + \pdif{L}{\dot{q}} \delta q \right) = 0 \end{align*} \]
 こうして、次のことが導かれる。
\[ \begin{align*} \pdif{L}{\dot{q}} \delta q + L \delta t = \mathrm{const.} \end{align*} \]
 これが欲しかった式だ。途中で差し挟んだ重要な仮定のことも忘れてはいけない。この式は無限小変換によってラグランジアンの形が変化しないという条件で成り立っている。これがより一般的な、時間の変化をも考慮に入れたネーターの定理である。


エネルギー保存

 さあ、これだけ苦労したのだからすぐにでもエネルギー保存が導けると思うだろう。そう甘いものか。少し慎重にならなくてはならないのだ。

 導出過程では\( \delta t \)というのは\( t \)の関数になっていると書いたが、ここでは時間の目盛りを全時間に渡って同じだけずらすことに限定して考えよう。

\[ \begin{align*} t \rightarrow t' = t + \varepsilon \end{align*} \]
 そして今回は座標については何も変換しないことにする。
\[ \begin{align*} q \rightarrow q' = q \end{align*} \]
 うん、確かにそうだ。何だか楽に済みそうだ。しかしこの簡単に見える式は次のような意味であるべきなのだ。
\[ \begin{align*} q(t) \rightarrow q'(t') = q (t) \end{align*} \]
 時間を含めて変換したときに、新たな粒子の位置座標は前と同じ値で表されていなければならない、ということである。時間が経てば質点は移動してしまうから、その分だけ引き戻して変換してやらないと、時間だけをずらして変換したという意味にはならないわけだ。

 この変換の式を 1 次の近似で表してやろう。どうせネーターの定理には 1 次の無限小変位を代入するのだから、無限小が積となって現れるような厳密な計算をしたところで無駄になるだけだ。

\[ \begin{align*} &q'(t+\varepsilon) = q (t) \\ \therefore \ &q'(t) + \dot{q}'\varepsilon = q(t) \\ \therefore \ &q'(t) + \dot{q} \varepsilon = q(t) \end{align*} \]
 つまり、
\[ \begin{align*} \delta t\ &=\ t' - t \ =\ \varepsilon \\ \delta q\ &=\ q'(t) - q(t) \ =\ - \dot{q} \varepsilon \end{align*} \]
となる。これらをネーターの定理に代入してやれば、
\[ \begin{align*} & \pdif{L}{\dot{q}} (- \dot{q} \varepsilon) + L \varepsilon \\ =\ & -\varepsilon\ \left( \pdif{L}{\dot{q}} \dot{q} - L \right) \ =\ \mathrm{const.} \end{align*} \]
となるが、このカッコの中身はハミルトニアンの定義そのものになっている。ハミルトニアンというのはエネルギーを意味する量だってことは以前に説明したことがある。とにかくこうしてエネルギー保存も導けるわけだ。

 ネーターの定理っていうのは、手続きが面倒臭くて、期待したほどスマートではないね。


注意書き

 さあ、これで冒頭で話した目標はすべて果たしたのではあるが、今回やったことの意味をちゃんと説明しておかないといけないと思う。

 今回、時間的な変換を考慮しない場合と、考慮した場合の二通りについて、違ったやり方でネーターの定理を導出した。前者では作用\( I \)を持ち出さなかったのに、後者では作用\( I \)の助けが必要になったのはなぜだか、分かるだろうか。

 実は始めの導出でも、同じように作用\( I \)を使えば、両者の話の流れが全く同じになったのである。しかし前者の場合にはあまりに単純すぎて、わざわざ\( I \)を持ち出す意味が伝わらないだろうと思い、省略したに過ぎないわけだ。時間のずらしがない場合には、作用\( I \)の積分範囲に変わりが無いから、\( \delta I = 0 \)というのはすなわちそのまま\( \delta L = 0 \)を意味するのである。だからいきなり初めから\( \delta L = 0 \)を持ってきたというわけだ。

 導出過程に作用\( I \)が出てくることの意味は、気にしなければ何とも無いことだが、気になりだすと大変気になる。単なるテクニックだと思っていればいいだろうか。それとも何か、物理的に重要な意味を含んでいるのだろうか。この辺りの謎(?)は読者が考えるように残しておこう。

 他の教科書では、「作用\( I \)の対称性から保存則が導かれる」として、ネーターの定理を解説しているものが割と多く見られる。しかし、今回の説明では\( I \)の対称性なんてものはまるで考えなかった。さて、一体、作用\( I \)なのか、ラグランジアン\( L \)なのか、どちらの対称性がこの定理の本質だと言えるのだろうか。

 今回の説明ではその辺りが良く分かるように強調したつもりだが、ネーターの定理で最も重要なのは、変換によって「ラグランジアン」が形を変えないと仮定する部分である。さらに注目すべき点は、途中で作用\( I \)が議論に関係していたとしても、最終的には「ラグランジアンの対称性」だけで議論が片付くような形にまとめ上げられているということである。

 まぁ、作用というのはラグランジアンを積分したものであるから、ラグランジアンに対称性があれば作用にも対称性があると言えるだろう。だから作用\( I \)の対称性を強調するような説明が間違いを犯しているというわけでもなさそうだ。

 いや、さらに調べて行くと、事情はもう少しややこしいことになっているのである。実は、ネーターの定理には「変分原理」の考え方を使った別の導き方があるのだ。そのやり方では作用\( I \)の対称性が中心的な役割を果たすことになる。私は今回、そのような導出法を避けることにしたのだった。

 なぜ避けたのかと言えば、それが私にはひどく抽象的に思えたからである。例えば、「系に対称性がある」とは物理的には一体何を意味するのかを、どうやって説明したら分かり易いだろうか。

 良くある説明は次のようなものだ。「考えている系を丸ごと平行移動したり、時間をずらしたりしても、前と同じ法則が変わらず成り立っていること。」なるほど、これは分かり易い。

 しかし、「作用\( I \)が変化しないとは、すなわちこれ、物理法則が変化しないことである」とすぐに言い切れるだろうか?私には無理だ。想像できない。

 一方、ラグランジアンに対称性があるなら、それはそこから導かれてくる運動方程式が全く変化しないことを意味するので、なるほど、法則が変化しないという意味になるのだな、とすぐに理解が直結する。

 しかし毛嫌いしないで、いつか変分原理を使ったネーターの定理の導出も紹介しておいた方がいいのだろうな、とは思う。それはそれで、理論的に美しいものだ。


批判への弁明

 私は力学のページで、「運動量保存則は経験則である」との説明をした。ところがその部分に対して、これまでにかなりの数の批判を頂いている。その主張の多くは要するに、「運動量保存則というのは、空間の並進対称性から導かれるものであって、それは解析力学に出てくるネーターの定理から数学的に証明されていることであるから、運動量保存はもはや経験則などではない」という内容である。

 えーと・・・。ところで、ちょっと聞き返したいことがあるのだが、空間に並進対称性があることはいつ証明されたのであろうか?当たり前?いや、当たり前だろうか?これこそ、経験的にそうだろうと信じているもので、まさに経験則なのではないだろうか。

 空間に並進対称性があることをどうやって確認したらいいだろう。物体を投げてみて、それがもし何の原因も見当たらないのに突然勝手に速度を変える領域が見付かったとしたら、そこには並進対称性が無いことがはっきりと分かることだろう。しかし、今までの経験上、知っている限りの力の影響を取り除いて考えるならば、そんなことは全く起こらないでいるのである。

 もしそんなことがあったのならば、科学者たちはその力の原因を徹底的に突き止めて、安心を得るために努力を尽くすことだろう。そして、その新しい未知の力の原因を特定し、その理論化に成功した後で、「この新発見の力の原因となるものを取り除けば、やはり相変わらず並進対称性は成り立っていると言える」と宣言することになるであろう。もし全く理論化できないような力が存在したとしたら・・・それはそれで面白い!空間の並進対称性が破れていたことになるのだ。

 ネーターの定理は「理論の並進対称性」と運動量保存との間には密接な関係があるという、新しい知見を与えてくれたのであって、それはとても重要なことだ。しかしこの世界で運動量保存が成り立っていることの保証を与えてくれたわけではないのである。