電流の話

ややこしいことに、電子の流れとは逆。

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電流の向き

 まだ電気の正体が分からなかった数百年の昔、電池の片方の極をプラス、もう片方をマイナスだと決めた。そして両端を導線でつないだとき、プラス極の方からマイナス極の方へ何かがその線を伝って流れているのだろうと考えた。

 静電気などの研究から、電気にはプラスとマイナスの二つの性質のものがあることも分かっていた。すべてを矛盾のないように慎重に決めていたのだ。

 ところが、つい 100 年ちょっとくらい前になって「電子」というマイナスの電荷を持った粒が発見された。そして、金属中を流れる電流の正体は、この「電子」がマイナス極からプラス極へ向かって流れているのだということがはっきりした。

 この発見は少し遅すぎた。今さら電気のプラスとマイナスの定義を入れ替えるわけにも行かない。すでに色んな法則が電流の向きをプラスからマイナスだとする前提で作られ、広まっていた。世界中の文献、実験の分析結果、教科書、指導書、機械の取り扱い説明書もそうだ。それらを全て書き換えるなんて無理だ。中途半端な変更は社会に混乱を招くことになり、大変に危険だ。このような変更の影響の範囲を良く良く考えてみるといい。今さら定義をひっくりかえそうなどという勇気のある者はいるだろうか?

 ああ、しかし、時々世界をひっくり返したくなる!「電子」がプラスの電気を持っていて、電流の正体はプラス極からマイナス極へ向かって電子が流れている現象なのだと考えることができれば大変自然なことだっただろう。そうなると逆に原子核がマイナスの電気を持っていることになっていただろう。ああ、過去に戻って、電流の定義が決まる場面で未来人として一言助言が出来たなら!

 しかしこの点については心配しないで構わない。ちょっと気持ちが悪いことに我慢してもらいさえすれば、他に何の不都合もないのである。特に「電子回路」を考える上では、電流がどちらからどちらへ向かうと考えようとも現象に差が出る場面は滅多にない。トランジスタの動作原理を考えたりするときには正しい理解が必要だが、そのときだけはマイナス側からプラス側へと向かう電子の存在を強く意識すればいい。

 それで、電流はプラスからマイナスへと向かって流れているものだという、ごく当たり前に思えるイメージをこれからも使うことにする。


電子だけとは限らない

 電流の正体はいつも電子だとは限らない。

 電解質を溶かした溶液中を電気が流れることを中学校あたりで勉強しただろう。この溶液中の電流の正体は、プラスの電荷を持った陽イオンと、マイナスの電荷を持った陰イオンの両方の流れだ。それぞれが別の方向へ向かって流れる。そのどちらもが電流の正体だ。

 また、ずっと後の方でやるが、半導体の中では、電子の抜けた「穴」の移動が電流の原因になる場合がある。半導体に微量な物質を不純物として加えると、その物質の種類によって p 型半導体になったり n 型半導体になったりする。p と n というのは positive と negative の頭文字であって、要するにプラスかマイナスか、という意味だ。n 型半導体では、余分になった電子が原子核の束縛を離れて移動しやすくなり、電気を運ぶ。一方、p 型半導体の場合には、電子の抜けた穴が移動すると考えた方がイメージしやすいのだ。本当は空席を埋めるように電子が隣へ隣へと移動しているわけだが、まるで電子の抜けた空席が正電荷を持った粒のように振る舞うのである。これは大量の電子が一斉に移動するのではなく、あくまでも、空席を埋めるように電子が一つ一つ移動するのである。この辺りの電子は原子核の束縛を振りきってはおらず、大量に一斉に動けるほどの自由さを持たないのである。

 半導体についてはあとの記事でもっと詳しく話すつもりであるから、とりあえずこれくらいにしておこう。


電流の単位

 電流の量を表すのに「アンペア」という単位を使う。1 A と書いて 1 アンペアと読む。1 A というのは実は相当に強い電流である。100 V の電源で 100 W の消費電力があるとき、1 A の電流が流れている。100 W の電球は相当に明るいし、かなり熱い。

 電子工作で扱う電流はもっと少なくていい場合が多いので、1 A の 1/1000 の1 mA (1ミリアンペア)という単位をよく使う。さらに 1/1000 の 1 μA(1マイクロアンペア)という単位が使われることもある。

 そもそもなぜこのような大きな電流を 1 A として定義したのだろうか?いや、ひどく大きすぎる量だというわけでもなく、電灯やモーターを動かすには実用的な値である。この定義の背景には何か秘密が隠されていそうだ。

 実はこれは電圧の定義と関わっており、次回の電圧の話で説明した方がいいだろう。


電流の記号

 電流量を表す単位は A(アンペア)だが、それとは別に、電流を表す記号としては I や i がよく使われる。電流は英語で electric current であり、i を使う理由が見当たらない。

 実はこれは「電流の強さ」を意味する Current Intensity の Intensity の部分の頭文字が由来なのである。要するに「強さ」の頭文字の i である。いつの間にかそれが定着してしまったというわけだ。