回路設計の心得

昔の自分は、間違っちゃいけないという気持ちが強すぎた。

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設計は厳密ではない

 回路の設計には唯一の正しい答えがあるわけではないから安心して欲しい。必ず一長一短があり、許された範囲内で、自分が望む性能をできるだけ引き出すような調整をするのが設計の目的だ。

 性能を欲張ってギリギリの設計をすると今度は不安定になってしまい、いつも同じ性能が引き出せるとは限らなくなる。

 市販の電子部品に書かれている値と実際に測った値には違いがあって、バラつきがある。そういうバラつきを許容する設計も大事である。電子工作の雑誌などで紹介されている回路は、誰が作っても安定してそこそこの性能が出せるように調整されているものだ。

 これは製品に使われる回路の設計にも言える。量産品の性能が不安定では困る。

 また、定格電流を越えるようなことをすると部品の寿命を縮めたり、過剰に発熱して火災へと繋がる危険も出てくる。これはあってはならないことだが、どれくらいの安全度を見積もるかというのも決まっているわけではない。

 例えば、定格電流の 50 % 以下で使おうとする人もあれば、最大電流で使うことは滅多にないからギリギリ 80 % くらいまで大丈夫だろう、と考える人もある。その辺りも表にはあまり現れない選択肢の一つだ。

 安全度を心配しすぎるあまり、定格の大きな安心感のある部品を使うと値段が高くなってしまったり、サイズが大きくなってコンパクトに収まらなくなってしまったりもする。

 この他に、仕事として量産品の設計をするなら、部品の供給が安定しているかどうかも重要な要素だ。製造打ち切りなんてこともよくある話だ。

 その辺りも含めた色んな面でのバランス感覚が必要なのだが、趣味で設計する分には制約もかなりゆるいので気楽にやっていくことにしよう。とりあえずは「安全に動けばいい」くらいを目標にしよう。

 世の中には「それは賢い!」と感動するような回路が幾らでもあるのだが、理屈も分からないで猿真似をすると危ないことも良くあるので、とりあえずは基本的なものばかりを紹介していくとしよう。

 設計にはある程度の個性が許されている。設計者の考えが反映されるものである。大雑把な設計でも、割りとそこそこ動くものだ。


こんな話も役に立つのかな

 小学生の頃の自分は、電子部品というのは趣味のために売られているものだと思い込んでいた。そういうお客も多いのだろうが、それ以外の人がいることが想像できなかったのだ。仕事として、試作品を作るために部品を買いに来る人もいる。一番分からなかったのは、部品の規格表の存在だ。こんな大量の、性能の異なる部品を誰が何のために作り、売りに出しているのか。その種類をちゃんと把握している人がいるのか。

 新しい部品が開発されると、メーカーからその仕様書を手に入れる人がいる。そういうものは、一体、どういうツテで手に入れることができるのか。さっぱり不明だった。

 会社勤めをするようになって、ようやく分かった。部品を開発しているメーカーは、新しい性能の部品が出来上がると、量産機メーカーに売り込みに来るのだ。「今度の製品でこれを使ってみてくださいよ」「これを使って何か新しいものが作れませんかね?」などと言って、幾つかのサンプルと仕様書を置いていく。

 それを使って試作品を作ってみて、やっぱり使えねぇなぁ、とか、そこそこ使えそうなものだったとしても、この部品を今後幾つくらい作るつもりなのか、安定して供給してくれるのか、といった交渉をする必要がある。その部品は本当は他の量産機メーカーと相談した上で何かの製品のためにわざわざ作ったものだったが、生産計画の変更によって使い切れなくて、余ってしまった残りを売り込みに来ることもあるからだ。それを売り切れば、二度と作らないつもりだったりもする。それでは困るのだ。

 部品メーカーは、趣味の人のためにわざわざ部品を開発してくれているわけではなく、そういった企業間の駆け引きによって部品を作っている。パーツ屋に並ぶのは、そういったものの余りだったり、売れ残りだったり、人気が高くてずっと生産が続いていて、企業間で取引が続いている大量の部品のほんの一部だったりするわけだ。

 試作機を作るエンジニア同士のツテもあるから、あまり世に知られていない部品の珍しい仕様書の類が、特別なルートでたまたま流れてきたりもするのである。親がエンジニアだとそういう情報にも簡単にありつけて、羨ましかったりしたものである。当時の自分には全く謎だったが、そういうことだったらしい。

 よく流通している部品については、色んなメーカーの仕様書が一冊のハンドブックにまとめられて売っていたりする。そういうものを眺めると、生産中止になったパーツの数に驚いたりする。大抵はその部品の代わりに使える後継の部品がちゃんとあるのだが、まったく同じわけではないので、使えないこともある。