ダイオード

機能は単純だが、振る舞いは奥が深い。

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ダイオード

 ダイオードとは、電流を一方向にしか流さない部品である。回路図記号は次のようなもので、矢印の方向に電流を流し、反対方向の流れを阻止するというイメージがわかりやすく表現されている。

 ダイオード (diode) の語源はギリシャ語の「di-hodos」。つまり「二つの通り道」すなわち「二つの極」という意味である。一方の極をアノード (anode、陽極の意味)と呼び、他方をカソード(cathode、陰極の意味)と呼ぶ。アノードに電源のプラスを繋ぎ、カソードにマイナスを繋いだ時に電気が流れる。電気が流れる方向を「順方向」と呼び、流れない方向を「逆方向」と呼ぶ。

 アノードを A と書き、カソードを K と書くのはドイツ語経由の伝統なのだろう。
 お気楽に回路を作るには、順方向にはまるでただの導線のように電気を流し、逆方向にはまるで絶縁体のように電気を流さない、くらいに考えておいてもいいくらいである。しかし予想外のトラブルに対処できるように、厳密な振る舞いをもう少し知っておいた方がいい。


順方向電流の振る舞い

 順方向に電圧を少し掛けただけでは電流はあまり流れず、ある程度以上の電圧を加えたときに急に流れやすくなる。シリコンダイオードの場合、0.6 V を過ぎたあたりでそれが起こる。グラフにすれば次のような具合である。

 これでダイオードがオームの法則に従わない部品であることが分かるだろう。オームの法則の通りなら原点を通る右上がりの「直線」になるはずだからだ。それでも無理やりオームの法則で考えたいのなら、電圧を上げるほど徐々に抵抗がなくなっていく部品だと解釈することも出来る。

 理論的なことを言えば、電子のエネルギー分布の統計的な性質が指数関数で表される形になっているので、 電圧をかけたときに流れ始めることのできる電子の数が、指数関数的に増えるのである。
 しかしダイオードの端子部分には普通の抵抗を持つ導線が使われているし、内部の半導体自体も抵抗を持っているので、抵抗が完全に 0 になることはない。それでこのグラフは途中から指数関数的に増えるのをやめて、だんだんと「原点を通る急な直線」に近づくことになる。

 このグラフから何を理解しておくべきだろうか。0.6 V を超えたあたりからはほぼ抵抗 0 に近い導線のようにみなせること。つまり、ダイオードに直接に順方向に電源をつないだりしたら大電流が流れ、それはほとんどショートさせるようなものであること。ダイオードと直列に抵抗などを入れて電流を調整したとしても、少なくとも 0.6 V くらいの電圧はダイオードの両端に掛かっており、それは電流の量を多少変えたとしてもあまり変わらないこと。それくらいだ。

 要するに、両端に 0.6 V くらいの電位差があることを除けば、ほぼただの導線であると考えればいい。

 しかし規格表にある最大電流値を超えないように気を付けないといけない。発生する熱などにより、ダイオードが壊れてしまうからだ。

 ちなみにゲルマニウム・ダイオードの順方向電圧は 0.2 V くらいである。  シリコンダイオードよりずっと低いので、小さな電圧の信号にも使えるという利点はあるのだが、 弱点の方が多くて、近頃ではあまり使われなくなった。  原材料の値段が高いこと、熱に弱いことなどだ。


逆方向電流の振る舞い

 逆方向に電圧を掛けた場合には全く電流が流れないのではなく、ごくわずかに漏れるように流れる電流がある。普通に使う分には全く気にならないほどの電流である。極めて大きな抵抗として振る舞うのだと思えばいい。

 しかし逆方向の電圧にどこまでも耐えられるわけでもなく、限界がある。電圧を大きくしてゆくと、ある電圧で突然に大電流が流れてしまうのだ。これを「逆耐電圧」と呼ぶ。普通の小さなダイオードでは -30 V だったり、-50 V だったりするから、普通の電池で動くような工作をする分にはあまり心配は要らない。少し大きめのダイオードならもっとずっと高い電圧にまで耐えられるものもある。もし普通のダイオードでこの電圧を超えるようなことがあれば、そのときに流れるあまりの大電流のせいですぐに壊れてしまうだろう。

 この様子をグラフにすると次のようになっている。

 急に電流が流れ始める機構には複数ある。それらは「ツェナー現象」であったり、「電子雪崩(アバランシェ)現象」であったりして、状況によっては同時にも起こりうる。それで、先ほどは部品が壊れるギリギリの電圧という意味で「逆耐電圧」と呼んだのだが、学問的にはこの電圧のことを「ツェナー電圧」や「降伏電圧」などと呼んだりする。

 この性質を逆手に取ったダイオードも存在している。「ツェナー・ダイオード」や「アバランシェ・ダイオード」といったものだ。これらは常に降伏電圧を超えた状態で、逆方向に電流を流して使う。降伏電圧を越えても壊れないように丈夫に作ってあったり、そもそも壊れないくらいの低い電圧で簡単に降伏が起こるように作ってあったりするのだ。製造過程で比較的容易に降伏電圧を調整してやることが出来るので、低い電圧から高い電圧までさまざまなものが存在している。

 上のグラフで分かるように、降伏電圧を超えると、電流量が大きく変化してもダイオードの両端の電圧はほぼ一定である。それで、あたかも「電流の逃がし弁」のようにして使えば、このダイオードの両端から常に一定の電圧を得ることができるのである。

 こうすれば極めて正確で安定した一定の電圧が得られるので、デジタル回路に電力を供給するような定電圧電源を作るのに特に良く用いられる。

 抵抗 R はツェナーダイオードに電流が流れすぎて壊れないように入れてあるが、ツェナーダイオードには常にある程度以上の電流を流しておかないと電圧が一定に保てないので、大きすぎても小さすぎてもいけない。その辺りの設計のバランスが必要である。

 出力側に多くの電流が流れていくとツェナーダイオードに流れる電流が減ってしまい、電圧が不安定になる。最大でどれくらいまで電流を取り出して良いかというのも、設計段階で予想できるだろう。

 抵抗 R はツェナーダイオードに掛かる以外の余分な電圧を引き受けてもらうという役割もある。ある程度の無駄な電力がそこで消費されることになる。電圧を一定に保つために、そこに目をつぶる必要があるので、設計というやつは本当に目的に応じた駆け引きのようなものである。