突入電流

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特殊な現象ではない

 電子機器の電源を入れた直後に、回路に思いもよらない大電流が流れることがある。これを「突入電流」と呼ぶ。思いもよらないとは言ったが、予測不可能な現象でもないし、制御してやることすらもできる。

 ただし、設計というのは目的やコストと相談して行うものなので、わざわざ対策しないこともある。定格を超える電流が流れることによって部品の故障が頻繁に起こるようであればもちろん対策するだろう。また、大電流で火花が飛んだり、電線を焼き切ってしまったりなどといった重大な危険があることが予想できれば、当然、対策しなければならない。

 突入電流というのはここまでに話した内容で大方の説明が付くものであって、何か特別な物理現象が起きているというわけでもない。人間の目には一瞬の出来事ではあるけれども、理論的に見てやれば、回路についての微分方程式に従って「ゆっくり確実に」起きる現象である。

 電流を水の流れにたとえてしまうと、回路を繋いだ瞬間に、何もない干上がった川に、水門から水がどっと流れこむイメージで考えてしまいそうになる。しかし実際は、電場の変化は回路中をほぼ光の速さで伝わり、瞬時に回路全体の電場の調整が行われ、電流はそれに従う形で、回路のあらゆる場所でほぼ同時に生じるのである。


コンデンサに流れこむ大電流

 突入電流が発生する要因で一番ありそうなのが巨大な静電容量を持つコンデンサーの存在だろう。これが電源近くに直結していると、充電が終わるまではまるでほとんど抵抗 0 の導線のように振る舞う。これではショートさせたのと変わらない。

 なぜそんな大電流の原因となるコンデンサをわざわざ付けるのか、と思うかも知れないが、これは電源の電圧の変動を安定化させるために良くやることなのである。急な電流の上昇で電源が息切れを起こして電圧が低下しないように、コンデンサを補助電源的に使って非常用の電荷を蓄えておくのである。あるいは、交流回路的な見方をすれば、別の見方もできる。この後の記事で話そうと思うが、これは電流の変動成分だけをコンデンサを通して逃がして、電圧を一定に保たせるという意味でもある。

 突入電流への対策としては、コンデンサに直列に抵抗を入れてやれば最初の大きな電流値を減らせるだろう。しかし時定数が大きくなるので、現象はゆっくり進むことになる。さっさと回路の電圧を安定させたいならこの抵抗はなるべく小さめにしておきたいところだ。しかしあまり小さくして電源の供給能力を越える電流を流したのでは電源に負担が掛かるし、そうなると素早く状況が安定するわけでもないので元も子もない。適度なバランスが必要だ。

 むしろ、今の話を逆手に取って対策することもできる。すぐに息切れを起こすような弱々しい電源をわざと使うことで、突入電流を小さく出来たりもする。電流が流れすぎると勝手に電源電圧が下がってくれるので、電流の量が自動的に緩和されるからだ。


自己インダクタンスによる昇圧

 突入電流を防ぐために、あるいはコイルを挟むのもいい。コイルは電流の急激な変化を妨げるので、突入電流に対するブレーキとして働く。電流が一定になってしまえばほとんど邪魔もしない。

 ただし、コイルは電源を切った瞬間に、電流を流し続けようとして大きな起電力を発生する性質がある。まるでコイルが一瞬の間、電源の代わりのようにして働くことになるわけだ。もし本物の電源ぬきで、コイルを含む回路ができていた場合、予想しなかった方向の電圧がかかって、他の部品を破壊する可能性もある。それで保護用の逆流防止ダイオードを入れたりもするわけだ。

 瞬時に電流が途切れた場合、理論上はコイルの両端に無限大の起電力が発生するのであるが、実際の多くの場面では瞬時に電流が 0 にはなることはないので、無限大にはならない。他の部品との間で電線がつながっているから、それらが蓄えている電流との兼ね合いで徐々に変化する。しかもそれはコイルに蓄えられた磁気的なエネルギーが解放されるほんの一瞬である。しかしほんの一瞬でも定格を超えると部品が壊れることはあるので、注意が必要だ。

 コイルのこの性質を利用して、わざと電流の ON、OFF を繰り返させる回路を構成して、電源よりも高い電圧を得る工夫をした回路もある。このように、回路の組合わせ次第では電源よりも高い電圧が回路内に発生することもあるのだ。


モーターの始動電流

 回路の中でモーターを使っている時にも注意が必要だ。モーターに強い負荷が掛かっている時には、電流は多く流れ、多くの電力を消費するのである。安定した回転をし始めると電流はあまり流れない。

 模型用モーターの回転を手で無理やり止めたままにするとモーターが熱くなるのを経験的に知っている人もあるだろう。回転を始める瞬間にはモーターへの負担が大きく、電流が多く流れるのである。

 通常の回転中の電流や消費電力に注意することはもちろんだが、このような、回転開始時の現象をも見越した設計が必要になってくる。


最後にもう一言

 電源の ON、OFF 時にはあちこちの部品が設計範囲外の過酷な条件にさらされている可能性がある。十分な対策がなされていない安物の製品の回路では特にそうだ。不要な ON、OFF の繰り返しが電気製品の寿命を縮めているかもしれないというのを覚えておこう。

 こういうのは電気製品に限った話でもない。おおまかな話、機械などは定常的に動かし続けたほうが負担が少ないものである。