力率

電子回路ではあまり要らない知識かも。 電力系の電気回路では必須。

[
前の記事へ]  [電子回路の目次へ]  [次の記事へ]


位相がずれたときの電力

 コイルやコンデンサの回路に一緒に抵抗を使うと、電圧と電流の位相が 1/4 周期(90 度)ずれるのではなくて、もっと中途半端なずれ方をするというのを学んだ。

 位相が 1/4 周期ずれた場合については、前に電力を計算してみた。コイルやコンデンサはエネルギーを「呼吸」はするが、電力は消費しない、という結論だった。しかし、中途半端に位相がずれているとき、一体、電力消費はどれくらいになるのだろうか。

 電流と電圧を少しずらして掛けてみれば電力が求まる。次のような意味の計算をしてやればいいのではなかろうか。

\[ \begin{align*} A\,\sin \theta \times B\,\sin \big(\theta + \delta \big) \ &=\ AB\, \sin \theta \times \big( \sin\theta \cos \delta \ +\ \cos\theta \sin \delta \big) \\ &=\ AB \, \sin \theta \sin\theta \cos \delta \ +\ AB \, \sin \theta \cos\theta \sin \delta \tag{1} \end{align*} \]
 この第 1 項には\( AB \sin \theta \sin\theta \)という部分があって、これは位相が揃った交流電流と交流電圧の積と同じである。交流回路に抵抗のみをつないだ場合はこうなるのであり、平均電力は\( AB/2 \)になるのだった。

 また、第 2 項には\( AB \, \sin \theta \cos\theta \)という部分があり、位相が 1/4 周期ずれた交流電流と交流電圧の積と同じ内容の計算である。これはコンデンサやコイルのみを使った場合の電力に相当して、平均すると 0 になるのだった。

 だから、位相が\( \delta \)だけずれているときの平均電力というのは、(1) 式の第 1 項だけが残り、\( A \)\( B \)を交流電流や交流電圧の最大値だとすると、

\[ \begin{align*} \bar{P} \ =\ \frac{AB}{2} \cos \delta \end{align*} \]
と表せる。電流や電圧の最大値を\( \sqrt{2} \)で割ったものを実効値と呼ぶのだったが、それを使って表すと
\[ \begin{align*} \bar{P} \ =\ VI \cos \delta \end{align*} \]
である。電流と電圧の位相が 90 度ずれていると、電流がどれだけ流れていても回路では電力消費はしないし、ずれがなければ実効値の積で表されるだけの電力を消費するし、その中間ならその間くらいの電力を消費する。その割合は\( \cos \delta \)で表されるというわけだ。

 この\( \cos \delta \)に 100 を掛けてパーセントで表したものを「力率」と呼ぶ。ちょっと違和感のある用語だが、電力係数という意味の Power factor を直訳したものだ。


力率の改善

 家庭や工場で使っている電気機器にはとにかくコイルが多い。モーターはコイルで磁場を作って動いている。扇風機、エアコン、洗濯機、冷蔵庫、みんなモーターを使っている。

 それで、電流の位相は遅れることになる。

 これで何か困ることがあるかというと、実際に消費するエネルギーに比べて回路が多くの電流を吸い込むのである。どうせ大量に流しても効率よく電力として消費されずに帰って行ってしまう電流なのだ。しかしこのことは消費者にとってはあまり問題ではない。電気料金は実際に消費した電力を元にして請求されているので不当な請求はされていない。

 困るのは電力会社だ。各家庭や工場が、実際に使うエネルギーに見合わないほどの電流を要求してくるのである。各地の変電所や変圧器を、その大電流に耐えられるように設計し設置しなくてはならない。それだけ設備費や維持費が多く掛かるのだ。

 そこで電力会社は、工場などの大口の消費者に力率を改善してもらえるようにお願いする。コイルを多用していることで電流が遅れているのだから、コンデンサーを取り付ければいいのである。こうすることで電流を必要以上に吸い込まなくなる。この目的で取り付けるコンデンサを「進相コンデンサ」と呼ぶ。工場では大電力を使っているので、これだけでもちょっとした物置小屋のような設備が必要であり、維持費がかかる。

 電力会社としては大助かりだ。その御礼として、力率の改善の度合いに応じて電気料金を割引してくれるのである。工場に限らず、大きめの電力の契約をするときにはこのような割引が適用される。


用語

 実効電圧と実効電流をただ掛け合わせただけで求めた電力のことを「皮相電力」と呼ぶ。名前からは深い意味がありそうな雰囲気が漂うが、英語の Apparent Power を訳しただけであり、「外見上の、ぱっと見で計算しただけの電力」という意味だ。本当の電力を表していない場合が多いので、単位は VA (ボルトアンペア)である。W(ワット)は使わない。
\[ \begin{align*} S \ =\ V\,I \end{align*} \]
 力率まで考慮に入れて、実効電圧と実効電流と力率を掛け合わせて求めた電力のことを「有効電力」と呼ぶ。実際に消費されている電力のことであり、単位は W(ワット)だ。
\[ \begin{align*} P \ =\ V\,I\, \cos \delta \end{align*} \]
 コイルやコンデンサの影響で実際には使われなかった電力を「無効電力」と呼ぶ。単位は Var(バール)だ。結局どこにも使われなかったものをどうやって計算するのか、と思うかも知れないが、これは (1) 式の第 2 項から得たイメージによって次のように定義される。
\[ \begin{align*} Q \ =\ V\,I\, \sin \delta \end{align*} \]
 回路に抵抗のみしか付いていなければ、皮相電力と有効電力は一致する。回路にコンデンサやコイルしかついていなければ、皮相電力と無効電力は一致する。そんな感じである。