回路図の眺め方

複雑な回路も意外と簡単なのだ。

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大規模回路はモジュールの組み合わせ

 複雑で大規模な回路図を眺めていると、こんなものをどうやって設計したんだ、と思えるかも知れない。しかし、慣れてくると意外とその意味が読み解けたりするのである。

 電子回路は、ある程度まとまった少ない部品の組み合わせで一つの機能を実現している。大規模な回路であっても、そのような単純な機能を持つ独立したモジュールの組み合わせで作られているものだ。

 電源を必要とするモジュールもあれば、電源なしで機能するモジュールもある。電源を必要とするモジュールは、それぞれが共通の電源につながることになるので、それだけで回路の全体が有機的に繋がった複雑なものに見えたりするものだ。

 どこまでが一つの機能を持った集まりであるのかの判断は、経験を重ねるしかない。色んな回路を知っていればだいたい分かるようになる。

 大抵の電子回路は、入力信号を受け取って、それを加工して出力する形になっている。前段の回路から出てきた出力を、次段の入力につなぎ、さらにその出力を次段の入力に渡すという具合に、複数のモジュールを順に接続してゆき、最終的に目的の出力が得られるように工夫する。

 入力信号は一つだとは限らないし、出力信号も一つだとは限らない。しかし最も単純に、一つの入力信号を受け取って、一つの出力信号を出すようなモジュールを考えてみよう。まず、電源を確保するためにプラスとマイナスの二つの線があるはずだ。そして入力信号を受け取るために二本の線があり、出力するためにやはり二本の線が出ている。

 さて、電気信号を伝えるためには必ず二本の線が必要だと思っている人がいるかも知れない。回路というものは必ず一周していないと電気が流れないのだから、一本で何かを伝えるのは無理だと思えるわけだ。しかし必ずしもそうだとは限らない。電圧の高低を使って信号を伝えるとしたら、どこかを基準にして、そこからの電圧で信号を表現すればいい。そうすれば一本線でも信号を伝えることが出来るだろう。それは大抵の場合、電源のマイナス極が基準に選ばれる。つまり、入力の線の一方、出力の線の一方を省くことができるのだ。

 そのようなものがつながって全体が出来ていると考えればいい。複雑怪奇に見える接続の意味が読み解けるような気がするだろう。

 ところがだ。それぞれのモジュールが、互いに関係のないところに意図せぬ影響を与えてしまうということも時には起こり得る。例えば、ある一つのモジュールが電源から多くの電流を必要として、その変動が激しいために、全く関係ないモジュールに供給される電流までもが変動を受けて、動作に支障を来たすといったようなことである。そのような影響をシャットアウトするような工夫が追加されることもある。(具体的には大きめのコンデンサをつけて、臨時の予備電源として働くように使ったりするわけだ。)

 また、一つのモジュールの出力をそのまま次段の入力へとつないだのでは不都合が起こることも良くある。例えば入力側の抵抗が小さすぎると電流が流れすぎてしまい、その影響で電圧が落ちて波形が崩れたりするのである。あるいは逆に抵抗が大きすぎても、電流がほとんど次段へと流れず、信号が思ったように伝わらないということも起きる。

 それで出力側と入力側との相性を合わせておかなくてはならないのだが、これを「インピーダンス・マッチング」と呼ぶ。それは後で詳しく説明しよう。そのためにまた別のモジュールを間に挟んだりすることもある。

 このようにして回路はどんどん複雑になってゆく。しかし、ある程度の理屈が分かっていれば、それが何のために入っている部品なのかがおおよそ分かるのである。

 ある部品が何のために入っているのか分からないことも良くある。設計者の勘違いだったり、心配しすぎの予防措置だったり、試行錯誤の調整で入れた部分もあるからだ。

 大抵のモジュールは研究し尽くされており、新たに一から考え直すことはめったにない。過去の蓄積を参考にして、目的に応じて部品の定数を計算し、それらを組み合わせて調整を行えばいいのである。しかしそのバランスを取るのがなかなか難しいのだ。


電源の省略

 複雑な回路図では、わざわざ全ての線を電源につなぐと線の交差が増えて読みにくくなるので、省略してあったりする。次のような記号が使われることが多い。

 見かけたことがあるものを列挙しておいた。これらの記号は必ずしも対で使われるとは限らない。

 「マイナス極に繋ぐ記号」の代わりにアースの記号が使われることもよくある。

 アースとは Earth であり、地球のことだ。電線を大地に繋ぐことである。日本語では「接地」ともいう。英語では earth よりも ground と呼ぶことの方が多くあり、回路図の中では GND と略されて書かれたりする。

 アースといえば、本来は、太い金属の棒を地中深くに突き刺したものに電線を繋ぐことを意味するわけだが、小さな回路ではそこまでする必要はめったにない。小型の電子回路の場合、アースの記号は回路の中の電位の基準を意味しているだけであるのがほとんどだ。そこを共通の電位 0 として回路を考えるべしというわけだ。そういうわけで、アースの記号どうしは、ためらいなく、普通の導線で繋げてしまえばいい。

 ほとんどの場合、電源のマイナス極を電位の基準にするので、回路図中では電池のマイナス極も直接アースに繋げて書かれていることだろう。万が一つながっていなければ何か他の、ちょっと変わった意図があるに違いない。それを読み解くのもまた楽しい。電源そのものが図から省略されていれば、アースはマイナス極に繋ぐという意味に解釈していいだろう。

 アースの記号を使うのは古い真空管回路の伝統の名残りである。真空管回路を動作させるためには数百ボルトの電圧を必要としていた。それで、電源の電位の基準を地面と同じ電位に選んでいた関係で、安全のためにも、電気信号の安定のためにも、しっかりと接地する必要があったのである。

 大地に電線をしっかりと接地できない場合には回路全体を収めた金属ケースや、回路の金属製の土台(シャーシ)を電位の基準として使っており、それが今日のアース記号の由来である。

 アースの目的は次回に話そう。