トランジスタ

まずは簡単な紹介から。

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基本的な作用

 トランジスタは 3 つの端子を持った小さな部品である。扱う電力によって、豆粒のようなものから、大きな放熱板を持ったものまで色々とある。普通のトランジスタは、次のような図記号で表されるもので、電流を流す方向の違いによって npn 型と pnp 型の 2 種類がある。

 3 つの端子にはそれぞれ、エミッタ(E)、ベース(B)、コレクタ(C) という名前が付いている。

 繋ぎ方によって幾つかの使い方があるのだが、基本は次のようなものである。まず、エミッタ(E) とコレクタ(C) を使って、途中に電源も入れて、一つの回路を作る。分かりやすいように途中に豆電球でも挟んでおこう。

 これだけでは電流が流れないし、豆電球も点かない。水道の蛇口が閉められたような状態になっているのだ。電流が流れるようにするためにはベース(B) を使う。ベースからエミッタへと電流が流れるようにこちらにも回路を付けてやる。

 こうすると、エミッタとコレクタの間に難なく電流が流れるようになり、豆電球が点く。わざわざ抵抗 R を付けてあるのは、ベース(B) に流し込む電流はほんのちょっとでいいからだ。

 ベースに流す電流を少し変化させるだけで、エミッタとコレクタの間に流せる電流が大きく変化する。ベースに小さな信号電流を入れてやれば、右側の電源の助けを借りて、大きな電流の変化として信号を取り出せるのである。トランジスタのこのような働きを指して「増幅作用」と呼ぶ。

 増幅と聞いて、あたかもエネルギー保存に反しているかのような想像をする人がいるが、そうではない。これはダムと水門の関係に似ている。ダムにたまった水には大きな位置エネルギーが蓄えられており、管理室の操作盤を動かす小さな力で水門をコントロールすることで、ダムから放水される水量を大きく変化させることができる。これと同じイメージである。

 微弱なラジオの電波を受信して、最終的にスピーカーを鳴らすほどの電流の変化を作り出すのも、この増幅作用の応用である。

 トランジスタには「増幅作用」の他に「スイッチング作用」と「発振作用」があるともよく言われるのだが、今の基本的な使い方を応用しただけのことである。


スイッチング作用

 ベースに流す電流を微調整などしないで、どっと流すか、少しも流さないかの二通りに限定する使い方をすれば、コレクタ側には大電流が流れるか少しも流れないかの二通りしかないだろう。このように、まるでスイッチを ON、OFF しているかのような使い方もできるというわけだ。これが「スイッチング作用」である。

 小さな電流による指令で、大電流を必要とするモーターなどの ON、OFF を切り替えることができるのである。

 あるいは、これはコンピュータを作るのにも応用できる。二進数の考え方を応用して、トランジスタが ON 状態で電流が流れているのを 1、OFF 状態で電流が流れていない状態を 0 としてやれば、信号線の束を使って数値を表せるようになる。多数のトランジスタを組み合わせることで数値や情報を操作できるわけだ。

 コンピュータを作るのに必要な回路の知識もあとで説明していく予定である。


発振作用

 発振作用の説明はもう少し面倒だ。

 コレクタに出てきた信号(出力側)の一部をベース(入力側)に戻してやると面白いことが起きる。まず、ノイズのような何らかの微弱な振動電流がベースに入ると、その波形がコレクタに大きくなって出てくるだろう。それがほんの少し遅れて再びベースに入り、増幅され、同じ信号がどんどん大きくなり、やがてこれ以上は増幅できないというトランジスタの性能の限界が来る。

 この状態で安定すると、もう、入力信号がなくても、一定値で振動を続けるのである。これが「発振状態」であり、こうして人工的に交流を作り出すことができるわけだ。コンデンサを使って交流成分だけ取り出してやればいい。

 よく学校の朝礼でスピーカーがキーンという強烈な音を出し始めて生徒が耳を塞ぎ、校長先生が慌てる場面があるが、あれはスピーカーから出た音の一部がマイクに入って増幅され、その大きな音が再びマイクに拾われて、機械の限界が来るまで増幅が繰り返されることで起きるのである。

 スピーカーの音の一部がマイクに入って無限に増幅を繰り返すことが主原因であるから、一旦マイクのスイッチを切るか、マイクをスピーカーとは別の方向へ向ける(信号の帰還率を下げる)か、スピーカーの音量を下げる(増幅率を下げる)ことで止めることができる。

 回路の電源を入れた直後に素早く確実に発振を起こさせるのにも条件があってなかなか難しい。発振させたくないのに勝手に発振が起きたりしてしまうこともあるし、使っているうちに徐々に発振状態に移行してしまうこともある。発振させたいのになぜか全く発振してくれないということもある。

 いろいろな発振のさせ方があるので、これについてもいつか詳しく説明しよう。共振回路と組み合わせれば、望みの周波数で発振させることが出来る。コンデンサとコイルを組み合わせた共振回路の代わりに、コンデンサと抵抗を使う方法もあるし、水晶発振子という部品を使う方法もある。


2SC1815

 電子工作をやっていると「2SC1815」という型番のトランジスタばかりがよく使われているのに気づくと思う。定番中の定番というやつだ。

 データシートを見てみても、数ある他のトランジスタに比べて突出した性能があるわけでもない。しかし小さな電力の工作をするには十分な性能を持っている。このトランジスタは NPN型だが、回路の種類によっては同じ性能の PNP 型を対にして使うことがある。「2SA1015」という型番がちょうど同等の性能を持った部品で、そういうものが流通していることもありがたい。

 一番の特徴は、めちゃくちゃ安いということだ。これも、みんながこの型番を好んで使う理由の一つになっている。なぜ安いかと言えば、みんなが使うからである。沢山作られていて、沢山使われているから、信頼も確立している。

 しかし、この型番も製造中止が懸念されている。

 部品メーカーは電子工作の趣味のために部品を作ってくれているのではなく、家電製品の中に大量に使うための部品として供給しているのである。ところが、世の中の家電製品はどんどん小型化してきており、使用する部品数も減らそうとしているので、信頼のある小型の IC チップを使うようになっている。昔ながらの単独のトランジスタを少量生産していても儲からないのである。

 まだしばらくは流通が続いているようであるし、ほぼ同等の性能のコピー品も出回っているようなので、なんとかなるかも知れないが、今のうちに買い置きはしておいた方がいいかも知れない。1000 円で 100 個は買えるので安いものだ。

 このように部品の入手が難しくなってくるのを見ると、時代の変化を感じる。しかし自分用にその都度設計をするのなら、この型番を使うことにこだわらなくても、他のトランジスタでも構わないのである。

 この機種は、同じ型番であっても増幅率の違いによって、末尾に異なる記号が付くので注意が必要だ。「2SC1815-GR」や「2SC1815-Y」とかいった具合だ。O、Y、GR、BLという順に増幅率が高くなっており、それぞれオレンジ、イエロー、グリーン、ブルーという意味だ。色相環図の並びの通りである。

 「2SC1815L-Y」のように L が入ったものは「ローノイズ保証品」という意味で、高周波でのノイズが出にくいと言われている。しかし他社によるコピー品では L は「LEAD FREE」(鉛不使用)の意味であるとして販売をしており、紛らわしい。


型番について

 日本製のトランジスタの型番には、次のようなルールがあった。

 2SA〜PNP型高周波用
2SB〜PNP型低周波用
2SC〜NPN型高周波用
2SD〜NPN型低周波用

 最初の 2 というのは P 型半導体と N 型半導体との接合面が 2 つあるという意味であるらしい。なるほど、確かにダイオードの場合は接合面が 1 つだから 1 で始まるものが多い。サイリスタなどと呼ばれる複雑な構造の半導体部品は 3 で始まるものもある。しかし近頃はもっと色んな構造の半導体部品が出てきたこともあって、このルールも曖昧になってきている。

 分類記号に続く番号は、開発され登録された順序であり、数字が大きいほど新しい。すでに製造中止になったものも多い。

 低周波用と高周波用とがあるが、高周波に使えるならもちろん問題なく低周波にも使える。高周波では動作保証ができない機種を低周波用として売り出しているだけである。

 しかし製造技術が進歩して品質が向上し、高周波用と低周波用の区別もだんだんと曖昧になってきた。高周波用でさえ安く売られるようになったので、あまり気にしないで高周波用を使う。たとえ低周波用に分類されていても、昔の低周波用よりもずっと性能が良かったりもする。逆に、高周波用に分類されていても低周波での使用を薦められていたりするものがある。現在の高周波用には以前よりずっとレベルが高いものが求められているからだ。そういうわけで、実際の性能はデータシートを見て確かめるのが一番だ。

 この分類に従わない海外の部品が使われることも増えてきているし、トランジスタの構造にも色々なものが出てきて従来の分類に収まらなくなり、会社によって独自の型番を付けるところも増えてきた。

 というわけで、昔は必須の知識であったこの辺りの話も、今となってはちょっとした豆知識のようなものである。