訓練

こういうことは気楽な学生だから出来るんだよなぁ。
それでも真剣に生きていたつもりだが。


 しばらく続けていると本に載っているままの訓練メニューでは物足りなく感じ始めた。  何しろ肺活量がぐんぐん増してくるので、5秒程度では息が吐ききれなくなっていた。  これでは落ち着いて瞑想がしていられない。

   そこで、自分に合わせてレベルを上げることにした。

 15秒かけて息を吸い、15秒止め、15秒で吐き出し、15秒止める。  これによって私の呼吸は1分間に1回となった。

 「ジョジョの奇妙な冒険」に出てくる波紋法の呼吸に似ている。  この頃、まだジョジョは始まってなかったわけだが。

 超能力開発よりも、まずはこの呼吸法によって下地を作り上げるのだ。

 さらに効果を上げるために、寝ているとき以外は常にこの呼吸法を続けることにした。  寝ている間の呼吸までは責任が持てない。  寝てても意識していたら、寝てないのと同じだからな。 そこまで無理はしない。

 マラソンの授業の時も続けた。  みんなが、ゼッ、ゼッ、ハッ、ハッ、と息をはずませて走る中を、 私だけは、

「すーーーーーーーーーーーーーーーっ」 タッタッタッタッタッタ。

 無呼吸状態で タッタッタッタッタッタ。

「はーーーーーーーーーーーーーーーっ」 タッタッタッタッタッタ。

と極めて静かに走るのである。  私のフォームも変だったので、周りの者は気味悪く感じたことであろう。

 もちろん、呼吸はだんだんと乱れてきてしまうのだがまぁ仕方ない。  私はそれほど超人的ではないのだ。

 しかし、走り終えた後の回復力には自分でも驚いた。  呼吸を整えることで一気に平常に戻るのだ。

 これを見て体育の先生が怒るわけだ。  そんな元気があるのはまじめにやっていない証拠だ、とか言って。  でも走っている間は限界近い。

 私は走るときに腕を振るのはエネルギーの無駄遣いではないのか、と考えていたし、 頭部を上下に揺するのは脳に負担がかかるのではないかと考えていたので、 腰より下だけでほぼ水平に走る方法を編み出して使っていたが、 これがまた体育の先生には気に入らないらしい。 「ふざけるな! 腕を振れ!」とか言うわけだ。

 とても楽で疲れない走り方なのだが。  最近になって、古武術を取り入れた走り方だとか言って スポーツで注目されてきているようだが、なんでぇ! 今さらかよ、とか思う。

 私の家は学校から相当遠かったが、 なぜか電車通学や自転車通学の許可区域から外れていたので、 毎日、教科書を満載したかばんを肩にかけて通学したものだ。  お陰で荷物を持って走るのには自信があった。  しかし、マラソンなどは荷物を持って走らないので、 足への負担が軽すぎて全然加速が効かないのである。  空回りだ。  慣性力も働かないので走りも安定しない。  荷物を持っていれば、一度加速してしまえば楽なのになぁ。  そんな競技はないものか?とよく思ったものだ。

 足をぎゅっと踏み込んでぐぐぐぐっと加速する感じが好きなんだよなぁ。  上り坂でペースアップする俺をみんな馬鹿だと思ったに違いない。


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