陵子さんの逆襲

別の意味でのサイコバトルだよな。


 放課後、俺たちはいつものように部室に行き、 陵子さんが来るのを待った。

 笹岡はそわそわしながら、俺は微かな期待をしながら。

 この日の午前中、笹岡が陵子さんの心に読心攻撃をかけて、 あっけなく防がれたのだった。

 笹岡は彼女からあの技の正体を聞き出すつもりだろう。
 俺は、目撃者になるつもりだ。
 何が起こるにせよ、面白いことになるに違いない。(無責任だよなぁ)


 「広江先輩、笹岡先輩、こんにちは!」

 とうとうその時が来た。  わざとらしく作ったような挨拶だ。  平静を装うふりをしながら、メッセージを送ってるぞ。  テレパシー能力がなくたって十分に受け止められる。  少し空気が違うのが分かる。

 サーナも一緒に入ってきた。  彼女らは普段どおり楽しげにクラスのイベントについて 話しているようだが、裏では戦いが起きているのが分かる。  こちらに対しては見えない壁を作っている。  サーナは気付いていないかも知れない。  いや、わざと関わらないふりをしているのかも。


 笹岡がこの状況に穴を開けるべく勇敢にも声をかける。

「今日のことだけど・・・」

 宮内さんは振り向いて、

「はい? 何でしょうか?」

と強気な知らん振りだ。  逆にこちらを問い詰めるような雰囲気だ。

 笹岡はそれに対して弱気な返事だ。

 「いや、絶対もう知ってるってー」

 「何の事ですか?!」

 「読んだでしょ? もう?」

 「知りません!」

 「そんなことない! 絶対読んだ!」

 え? ちょっと待て。 何について話してるんだ?  俺の方が分からなくなってきた。

 「広江先輩、今日、笹岡先輩が変です。 何とかして下さい。」

 「いや、そう思うけどね。」

 俺は彼女に声を掛けられるだけで何となく嬉しい。


 「だって心の中にあるのが一瞬見えたもん」

 「見たんですか?!」

 こりゃ、怒ってる。 というよりここまでしつこければ普通は怒る。

 「だって一瞬じゃん。知ってるくせに。」

 「何を言ってるのか分かりません。」

 こんな調子で笹岡は度々彼女に喰らいついた。  やがてクラスの用事があるとかで彼女らが出て行こうとするときにも、 笹岡はまだ諦めない。

 「それ嘘やってー、絶対俺の心の中読んだもん。」

 陵子さんのとどめの一撃!

 「そんなに読んで欲しいなら読んで差し上げましょうか?!」

 「いえ、いいです、ごめんなさい、読まないで下さい。 お願いします。」

 笹岡は部室を出て行こうとする陵子さんに慌てて哀願していた。  この情けなさは一体何だろう。  彼の普段の様子とのギャップに俺は吹き出しそうになった。  まあ、少々芝居くさいおどけた雰囲気も感じられるのだが。

 それを見て陵子さんは呆れたとばかりに
 「読みません! ・・・もぅ!」
と言って出て行った。

 (ザマミロ、笹岡!)
 いや、愉快愉快。 心を読まれる側の気持ちがやっと分かったか。

 しかし俺も笹岡の前ではあんな感じなんだなぁ。
 傍から見るとかなり恥ずかしい。


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