これは基本法則ではない

エネルギー保存則は「ニュートンの運動方程式」から導ける!

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まずは簡単な説明から

 高校で暗記させられる有名な公式がある。
\[ \begin{align*} v^2 - v\sub{0}^2 = 2 a x \end{align*} \]
 この式が何を意味するのか解釈を与えるのは難しいが、高校程度の単純な問題を解くには憶えているととても便利ではある。これを見ていて何か気付かないだろうか?・・・と言われても困るかも知れない。私も長い間この公式を使っていたが、この歳になるまで気付かないでいたのだから。考える必要がなかったのだから仕方がない。この式の両辺に\( \frac{1}{2} m \)をかけてみたらどうだろう?
\[ \begin{align*} \frac{1}{2}mv^2 - \frac{1}{2} m v\sub{0}^2 = m a x \end{align*} \]
 左辺は運動エネルギーの変化を表している。右辺はどうだろうか?見慣れた形にするためには\( a \)を重力加速度\( -g \)に直して、\( x \)を高さ\( h \)に直してみればいい。
\[ \begin{align*} \frac{1}{2} mv^2 - \frac{1}{2} m v\sub{0}^2 = - m g h \end{align*} \]
 これで分かっただろう。右辺は位置エネルギーになっている。これは運動エネルギーの変化が位置エネルギーの変化に等しいことを表している。\( v\sub{0} \)は初速度なので、言ってみれば定数である。そこで、
\[ \begin{align*} \frac{1}{2} mv^2 + m g h = \text{定数} \end{align*} \]
と表現することも出来る。これはあからさまに「力学的エネルギー保存則」ではないか。

 初めの公式からなぜそんなものが導かれてくるのだろう。エネルギーが保存する秘密がこの式の中に隠されていたというのか。そもそもこの公式はどうやって導かれるかというと、

\[ \begin{align*} v &= v\sub{0} + a t \\ x &= v\sub{0} t + \frac{1}{2} a t^2 \end{align*} \]
というこれまた有名な 2 つの公式から\( t \)を消去したものである。すると、この何でもない 2 つの式の中にエネルギー保存の秘密があるとでも言うのだろうか。1 つ目の式は、加速度が一定なら時間に比例して速度が増加します、という当たり前のことを言っているだけである。また 2 つ目の式は、加速しないなら移動距離は時間に比例して伸びて行くし、加速しているなら時間が経つほど距離の伸びが早くなります、いうこれまた割と常識的な内容である。

 これらはニュートンの運動方程式だけから導かれる結論でもある。わざわざ運動方程式を持ち出して導くほどの内容ではないとも思うが、両方とも運動方程式に含まれているのである。それを説明しよう。運動方程式を変形すると次のように書ける。

\[ \begin{align*} \ddif{x}{t}\ =\ F/m\ =\ a \end{align*} \]
 高校の範囲では右辺の\( F/m \)は一定値であるので、\( a \)と置いた。これを\( t \)で積分してやると
\[ \begin{align*} \dif{x}{t} = a t + C \end{align*} \]
となる。左辺は速度を表しており、右辺の積分定数\( C \)\( t = 0 \)の時の速度を表すことになるので\( v\sub{0} \)と表せばいい。こうして出来た次の式は 1 つ目の公式と同じものだ。
\[ \begin{align*} \dif{x}{t}\ =\ v\sub{0} + a t \end{align*} \]
 これをさらに\( t \)で積分してやると、
\[ \begin{align*} x = v\sub{0} t + \frac{1}{2} a t^2 + C' \end{align*} \]
となる。右辺の積分定数\( C' \)\( t = 0 \)の時の位置を表すので、そこを基準として距離を測ることを考えれば\( 0 \)とすればいいだろう。これで 2 つ目の公式も導かれる。

 運動方程式というのはこの程度の内容しか含んでいないのか、と侮ってはいけない。加速度を一定だと限定した運動方程式はただの比例式ではないか。多くを期待するわけにはいかないだろう。

 これくらいのことはちょっと専門的な教科書になら載っているのであるが、同じ内容のことがなにやら難しそうな言葉と式の羅列で書かれているのであまり気をつけて読んだことがなかった。これが意味するのは「エネルギー保存則がニュートンの運動方程式から導かれる法則である」ということである。中学や高校では実験をして「エネルギーが保存している」ことを確認するので、まさかエネルギー保存が運動方程式から論理的に導かれる事柄だとは気付かない人が多いのではないだろうか?

 さて、エネルギー保存の式をもっと一般的な形で導けないだろうか?力が一定だと限定しないような状況についても表してみたいところだ。次にそれを計算してみよう。


力学的エネルギー保存則・上級編

 次に行う計算は、高校で少々微積分が得意な人であっても初めは面食らうかも知れない。だからあまり気にしないで、こんなやり方もあるのだな、と軽く眺めてもらえればいいと思う。

 まず、ニュートンの運動方程式の両辺に\( \diff x \)をかける。

\[ \begin{align*} m \ddif{x}{t}\ \diff x\ =\ F\ \diff x \end{align*} \]
 この右辺は、微小距離\( \diff x \)だけ移動する間に行われる微小仕事を意味している。左辺については次のように少し細工してやる。
\[ \begin{align*} m \ddif{x}{t} \dif{x}{t} \diff t\ =\ F\ \diff x \end{align*} \]
 これはさらに次のように書き直せる。逆算してやれば変形の意味が分かるだろう。
\[ \begin{align*} \dif{}{t} \left\{ \frac{1}{2} m \left( \dif{x}{t} \right)^2 \right\} \diff t\ =\ F \ \diff x \end{align*} \]
 左辺の\( \dif{x}{t} \)\( v \)に書き直してやれば、この大カッコの中は実はよく見慣れた運動エネルギーだ。
\[ \begin{align*} \diff \left( \frac{1}{2} m v^2 \right)\ =\ F \diff x \end{align*} \]
 この式は、微小仕事の大きさは運動エネルギーの微小変化に等しいと言っているのである。これを積分してやれば、
\[ \begin{align*} \frac{1}{2} m v^2 - \frac{1}{2} m v\sub{0}^2\ =\ \int F\ \diff x + C \end{align*} \]
となり、先ほどと同じように、
\[ \begin{align*} \frac{1}{2} m v^2 - \int F\ \diff x = \text{constant} \end{align*} \]
が言える。

 左辺第 2 項の積分は微小仕事を連続的に足し合わせるという意味であるから、仕事量の合計を意味している。ここでの\( F \)というのは外から加えられた力であるが、マイナスが付いているので項全体では外へ与えたエネルギーを表す。第 2 項の値が大きいほど、その分だけ第 1 項の値が小さくなるわけだが、エネルギーを外に放り出しただけ、運動エネルギーが減るという意味になっている。

 第 2 項の符号がマイナスであることがイメージの妨げになるだろうか。それについてはポテンシャルエネルギー\( V \)というものが

\[ \begin{align*} V = - \int F\ \diff x \end{align*} \]
と表せるものなのだと考えてやれば、文字通り「運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの合計が一定」だと一目で言える形になる。しかし今度は\( V \)の定義がこれでいいのはなぜだろう、と思う人が出て来るだろう。この式の両辺を微分してやれば、
\[ \begin{align*} F = - \dif{V}{x} \end{align*} \]
が得られることになる。つまり場所を変えたときのポテンシャルエネルギーの変化が急であるほど、強い力が働くことを意味する。これは坂道にたとえると分かりやすい。坂道に置いた玉は勾配が急であるほど強い力で転がり落ちる。\( \dif{V}{x} \)の値は\( x \)が正の方向へ変化する時に\( V \)の値が高くなるほど大きな正の値を示す。しかしこういう坂道では\( x \)の正の方向ではなく、負の方向へ力を受けるものだ。だから式にマイナスが要る。ポテンシャルエネルギーはそっくりそのまま坂道の高さを表すようなイメージだと言えるわけだ。坂道を登る方が労力が要るという感覚である。

 ところで、元の位置に戻って来た時に\( V \)が違う値になっていると、エネルギーが保存していない事になってしまう。逆に\( V \)が位置のみの一価の関数として表せる場合、つまり、時間によって変化せず、位置が決まればエネルギーの値がただ一つに決まる場合、力学的エネルギーの保存は一般的に成り立つということが言えるわけである。

 ポテンシャルエネルギーがそのような条件を満たす時に物体が受ける力を「保存力」と呼ぶ。


これだけでは保存則の一般的な証明にはならない

 しかしここでの議論は他の物体との相互作用を外力\( F \)として取り入れる形でごまかしているのであって、他の物体と相互作用する時に他の物体も含めてエネルギー保存則が成り立っているかどうかまでは分からない。

 つまり、一つの物体がある力の影響下で運動する時には、エネルギー保存の法則を満たしているということは上の式で確かに言えるのだが、他の物体との衝突(運動量のやり取り)の前後で「全体として」エネルギー保存が成り立っているということの証明にはなっていないのである。

 ここで求めた式の意味は、見方を変えれば、「外力から受けた仕事の分だけ速度が変化します」というごく単純なものである。果たしてその物体にエネルギーを与えた別の物体が同じだけのエネルギーを失っているとまで言えるのだろうか。そのことについてこれから考えていくことにしよう。