運動量保存の法則

作用・反作用の法則などなくとも、
運動量保存の法則は同じ事を言い表しているのだ。
ただし、つりあいの力学の分野では使いにくい。

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 運動量保存という有名な法則がある。これは簡単にいえば、物体の運動量の合計はずっと一定で決して変わらないということである。運動量が変わらないということは物体がひとりでに速度を変えたりしないということであって、慣性の法則に似ている。実は慣性の法則は運動量保存法則の一部なのである。

 運動量保存法則には慣性の法則以上の意味がある。2 つの物体が衝突する時、衝突前と衝突後の 2 つの物体の合計の運動量は同じだというのが運動量保存則の意味である。実に 2 つの物体の衝突に限らない。いくつの物体でもいい。いくつもの物体がめちゃくちゃにぶつかって複雑な運動をしたとしても、その全ての運動量を合計したものはいつでも同じ。未来永劫変わらないということである。

運動量保存の法則
どんなに複雑に運動しても合計の運動量は決して変わらない。

 運動量の合計と言っても、ただの足し算をしたのではだめだ。運動量には方向がある。速度に方向があるのと同じである。上向きの運動量と下向きの運動量が一緒になったとき、打ち消しあう。右向きの運動量と左向きの運動量が一緒になったとき、打ち消しあう。同じ大きさで反対向きなら合わせると 0 になる。この運動量の方向と大きさを長さの違う矢印で表すことにすれば図に書いて理解しやすいし、計算も直感的で計算しやすい。このような表現をベクトルという。ベクトルで足し算をしないとだめなのだ。この文章を読むような人ならベクトルがどのようなものか理解していると思うのでこれくらいの説明しかしない。分からない人もいるかも知れないが、そういう人は高校の数学の教科書を調べて欲しい。

 ところで物体がひとりでに動き始めることがあるだろうか?ひとりでに動き始めるというのは何の影響も受けないのに自分自身で動き始めるということだ。このようなことは探しても見当たらないのである。(もしいたずら好きな霊がやっているというのならそれは「ひとりでに」ではないと私は考える。)

 必ず、物体は他から運動量をもらわない限り運動を変化させることが出来ない。物が落ちる時、物は地球から重力という形で運動量をもらっており、その分、地球は同じように落下中の物体に近づく運動をしている。

 君が地球上でジャンプする時、地球も君に蹴飛ばされて下向きに移動している。君が壁を押して進む時、地球はその反動で回転を始めるし、君が走る時、蹴飛ばされた地面は君が走るのと反対方向に回転しているのだ。

 ごまかしでも言葉のトリックでもない。ただ、君が地球に与える程度の運動量では地球のような巨大な質量をごくゆっくりとしか動かせないだけなのである。確かに僅かずつだが地球は君の影響を受けて動いている。しかし、いつまでも君のせいで地球が回転し続けるわけではないことに注意しよう。君はすぐに走るのをやめるだろう。その時、君は再び地球を蹴って止まる事になるので君の影響で始まった地球の回転は止まる。

 運動量が一定であるために、いつもこのような反動が必要なのである。運動量保存則は作用・反作用の法則と同じ内容を含んでいる。反動というのは相手に運動量をあげた結果である。

 地球などという壮大な相手を選んだので困惑させてしまっただろうか?同じ事は水の上に浮いた丸太の上を歩く時にも体験できる。

 君が丸太の端から端まで動く間に丸太も反対向きに移動する。君が止まる時、丸太も止まる。君が元の位置に戻れば丸太も元の位置に戻る。走って行って、歩いて戻ってきても結果は同じである。

 運動量保存則から、重心の位置は決して変わらないという原則を導くことが出来る。他から運動量をもらわなければ、という条件付きだ。誰かの船が君の丸太にぶつかれば丸太と君の重心は、船からもらった運動量で移動を始めることだろう。そういう事がなければ、君が丸太の上でどのように動こうとも丸太と君の重心の位置はいつまでも動くことがない。


重心の運動

 試しに上で話した原則を導いてみようか。まず重心というのは 2 つの物体の質量を\( m\sub{a} \)\( m\sub{b} \)、位置を\( x\sub{a} \)\( x\sub{b} \)であるとしたときに、
\[ \begin{align*} X = \frac{m\sub{a} x\sub{a} + m\sub{b} x\sub{b}}{m\sub{a} + m\sub{b}} \end{align*} \]
と計算されるような位置のことである。この計算にどんな意味があるのかは、この重心位置を原点とするような座標で 2 つの物体の位置を表せば分かる。その座標は
\[ \begin{align*} x'\sub{a} &= x\sub{a} - X \\ x'\sub{b} &= x\sub{b} - X \end{align*} \]
のように書けるだろう。これを先ほどの式に代入すると、
\[ \begin{align*} &X = \frac{m\sub{a} (x'\sub{a} + X) + m\sub{b} (x'\sub{b} + X)}{m\sub{a} + m\sub{b}} \\ \therefore \ &0 = m\sub{a} x'\sub{a} + m\sub{b} x'\sub{b} \\ \therefore \ &m\sub{a} x'\sub{a}\ =\ - m\sub{b} x'\sub{b} \end{align*} \]
となる。これは原点の左右にあるそれぞれの物体の、原点からの距離と質量をかけた値が等しくなるという意味だ。つまりシーソーがちょうど釣り合う条件である。重心位置で支えれば両側の 2 つの質点はちょうど釣り合うのである。

 2 つの物体の合計の運動量は変化しない一定値\( c \)となる。

\[ \begin{align*} m\sub{a} v\sub{a} + m\sub{b} v\sub{b} = c \end{align*} \]
 これは、次のようにも書ける。
\[ \begin{align*} \dif{}{t} (m\sub{a} x\sub{a} + m\sub{b} x\sub{b}) = c \end{align*} \]
 この式のカッコの中は重心の式の分子と同じ形をしている。つまり、重心の式の分子の値の時間変化は一定であるということだ。重心の式の分母は定数なので、つまり重心位置は一定速度で移動するのだと言える。この速度が初めに 0 だったとしたら、その後もずっと 0 のままであり、移動しないということだ。式を変形するだけで色々と面白い事が分かるものである。


運動量保存は経験則

 今までの経験から言って、運動量は必ず保存すると言える。物理というのは自然から学ぶものなので、自然界を観察していてそれに反することが見つかればその法則は捨てなくてはならない。

 かつて原子核のベータ崩壊現象を観察していてこれは運動量が保存していないのではないか?という結果が出て大騒ぎになった歴史がある。良く調べた結果、ニュートリノというとても見つけにくい新発見の粒子があることが分かってきた。そいつが運動量を持って行ってしまっていたわけだ。結局、運動量は保存していたわけで一同はほっとした。

 このように、物理学で言うところの法則というのは、いろんな実験でいつも確かめる必要がある。物理学者はこれらの法則が「成り立つ」と固く信じているが、それに反する現象が起きた場合、良く確かめた上で変更をするだけの柔軟さも持っている。ある法則が破られるということは物理の体系が崩壊することを意味していなくて、物理の発展を意味している。それは新しい法則を自然から学ぶチャンスなのだ。

 物理学者は今まで知っていた法則が成り立たなくなるのを待ち望んでいるものなのである。しかしいい加減な情報に惑わされることは望んでいない。だから彼らはまず疑ってかかるわけだ。決して既存の法則に固執しているわけではない。

 運動量の保存法則は今まで決して破られていない。言い方を変えれば、運動量の保存法則に反する現象は、現時点では見つかったことがないのである。