3次元への拡張

ついでに偏微分の説明。

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3 つの運動方程式

 我々は空間が 3 次元であると認識しており、力にも 3 方向の成分があると考えている。そして不思議な事に、ニュートンの運動方程式は\( x \)\( y\)\( z \)の 3 方向についてそれぞれ独立して成り立っているのである。
\[ \begin{align*} F_x &= m \ddif{x}{t} \\ F_y &= m \ddif{y}{t} \\ F_z &= m \ddif{z}{t} \end{align*} \]
 これが不思議だと思える感覚が大切である。ある一方向に強い力が掛かって加速運動している物体に対して、横から別の力を加えてもあまり横方向には加速しないだとか、あるいは逆に少しの力で通常より勢い良く横向きに進路が逸れてしまうだとか、そういうことはなぜか起こらないというのである。このことは確かに我々の日常においては正しいわけだが、物体が光の速さに近くなってくると違ったことになることが分かっている。軽々しく「当たり前」で済まして良い内容ではないことに注意しよう。

 これら 3 つの式をひとまとめにして表したいときは、ベクトルを使って

\[ \begin{align*} \Vec{F} = m \ddif{\Vec{x}}{t} \end{align*} \]
と書く。一目で各成分についての 3 つの式に思いを馳せる事ができるし、教科書ではスペースを節約できるという利点がある。


ポテンシャルも 3 次元に

 物理の実践的問題に立ち向かうためにはポテンシャルエネルギーも 3 次元に拡張しておく必要があるだろう。少し前の説明ではポテンシャルエネルギー\( U \)は位置\( x \)のみの関数として出てきた。そしてエネルギー保存が成り立つ場合に働く力は
\[ \begin{align*} F = -\dif{U}{x} \end{align*} \]
と表せるという話をした。しかし現実にはポテンシャルエネルギーは空間のあらゆる地点で定義できるのであって、\( U \)\( x \)のみの関数ではなくて 3 変数の関数\( U ( x , y , z ) \)となるだろう。

 エネルギーの定義に戻って考え直そう。仕事というのは、加わった力と同じ方向に進んだ時の、力と移動距離の積であったから、微小な距離\( ( \diff x, \diff y, \diff z ) \)だけ移動する場合の微小な仕事\( \diff W \)は、

\[ \begin{align*} \diff W = F_x \diff x + F_y \diff y + F_z \diff z \end{align*} \]
と表すことができる。これは数学的には\( \Vec{F} \)\( \diff \Vec{x} \)の内積を計算したのと同じである。

 さて、仕事とエネルギーはほとんど同じ意味であるのだが、ポテンシャルエネルギーの山を登る時には逆方向に力が掛かるのだから、全体にマイナスを付けて、

\[ \begin{align*} \diff U = -( F_x \diff x + F_y \diff y + F_z \diff z ) \end{align*} \]
と表す必要がある。もしここで\( \diff y = 0 \)かつ\( \diff z = 0 \)であるような特別な状況を考えれば、1 成分の時と同じ関係がこの場合でも成り立っていると言えるだろう。しかし\( y \)\( z \)の方向には変化がないというかなり人為的な仮定を置いているので、前と同じように普通の微分の記号を使って表すことには少し抵抗がある。そこで次のような表現を使う。
\[ \begin{align*} F_x = -\pdif{U}{x} \end{align*} \]
 この右辺の記号は「偏微分」と呼ばれるもので、関数\( U \)に含まれる\( x \)以外の変数は全て変化しないと見なして\( x \)で微分するという意味である。実際に計算する時には変数\( y \)\( z \)はあたかも定数であると見なして普通に\( x \)だけで微分すればいいのである。何も難しいところはない。偏微分というのはたったこれだけの話である。

 さて、上の話は\( x \)成分以外にもそのまま当てはまるから、

\[ \begin{align*} F_y &= -\pdif{U}{y} \\ F_z &= -\pdif{U}{z} \end{align*} \]
という関係も同様に言える事になる。これらもベクトルを使うことで次のような一つの式にまとめて表すことができる。
\[ \begin{align*} \Vec{F} = -\pdif{U}{\Vec{x}} \end{align*} \]
 この式だけを何の前置きもなく見せられると、「ベクトルで微分するなんて、一体何をどう計算したら良いのだろう」と立ち往生してしまうことがあるが、実はこのように、3 通りの式を一つにまとめただけの単なる略記法なのである。

 以上のことが意味していることが分かるだろうか。物体はポテンシャルエネルギー\( U \)が定義できているような場所では、

\[ \begin{align*} \Vec{F} = \left( -\pdif{U}{x}, -\pdif{U}{y}, -\pdif{U}{z} \right) \end{align*} \]
という方向の力を受けるという事である。ここの説明は少々不親切であるとは思うが、なぜそう言えるのか、自分で山の斜面の傾きを思い浮かべながらじっくり考えてみてほしい。

 これで偏微分の意味も分かったし、教科書に出てくる難しそうな式に怯える必要もなくなっただろう。


電磁気学のために

 偏微分は電磁気学でも多用する。電場や磁場というのは場所に割り当てられた値であって、時間によっても値が変化するから\( \Vec{E}( x , y , z , t ) \)という形の関数で表される。ここで例えば電場の時間変化を求めたいとしよう。電場というのは粒子のように移動するものではないから、位置の時間変化などというものは気にする必要がない。よって他の変数は定数だと見なして\( t \)で微分するだけでいいのである。偏微分を使って書き表すのはそういう意味である。