波のエネルギー

確かに分かりにくい状況はあるんだ。 いや、本当は簡単だよ!

[
前の記事へ]  [力学の目次へ]  [次の記事へ]


わりと誤解が多いのである

 波のエネルギーについて、誤解している人が意外と多いように思う。「波のエネルギーは振幅の 2 乗に比例する」という表現をあちこちで良く見る。これ自体は間違ってはいないのだが、「だから波のエネルギーは振動数には関係ない」という間違ったニュアンスが感じ取れてしまうことがある。そして、時には、ふさわしくない場合においてもそのような主張をする人々がいる。

 これはいつも正しいわけではない。振動数が波のエネルギーに関係することもあれば、そうでないこともある。単純な力学的な波の場合には、振動数の 2 乗にも比例していることが多い。

 この辺の事情を確認しておくことにしよう。

 実際、「波」や「波動」や「エネルギー」という言葉やその組み合わせで検索してみても 科学的でないサイトばかりが引っ掛かるような状況なので、 この辺りに疑問を持ったとしても なかなか正しい情報に行き着けないという困った事態ではある。  この記事が、情報を求める人の目につくようになればいいのだが。


単振動のエネルギー

 波のエネルギーを考えるために、単振動のエネルギーの計算結果が引き合いに出されることがある。波の一部分だけに注目すると、それはバネにつながれた物体のような動きを繰り返しているからだ。

 単振動というのは「最も単純な振動」という意味であって、バネ定数\( k \)のバネにつながれた質量\( m \)の質点の運動がまさにそれである。とりあえず、そのようなモデルで考えてみよう。

 バネの力は\( F = -k x \)で表されるから、これを使って運動方程式を作ると

\[ \begin{align*} m \ddif{x}{t} \ =\ -kx \end{align*} \]
であり、これを解くと、
\[ \begin{align*} x \ =\ A \sin(\omega t + \theta) \ \ \ \ \ \ \ ただし \ \omega = \sqrt{\frac{k}{m}} \end{align*} \]
となる。これは質点の位置、つまり、振動の様子をそのまま表している。\( A \)が振幅であり、\( \omega \)というのは振動の勢い、速さを表している。正確には「角振動数」と呼ばれるものだ。振動数を\( \nu \)という記号で表すと、\( \omega = 2 \pi \nu \)という関係になっている。振動数\( \nu \)というのは、1 秒間で何回往復するか、ということだ。

 質点の速度を計算するにはこの\( x \)の式を時間で微分すればいい。

\[ \begin{align*} v \ =\ \dif{x}{t} \ =\ \omega A \cos(\omega t + \theta) \end{align*} \]
 この振動する質点の位置エネルギーは\( \frac{1}{2}kx^2 \)で計算できるし、運動エネルギーは\( \frac{1}{2} m v^2 \)で計算できるので、全エネルギー\( E \)は次のように表せる。
\[ \begin{align*} E \ =\ \frac{1}{2} k A^2 \sin^2(\omega t + \theta) \ +\ \frac{1}{2} m \omega^2 A^2 \cos^2(\omega t + \theta) \end{align*} \]
 位置エネルギーと運動エネルギーをたえず交換しながら運動を続けるのが分かるだろうか。両エネルギーの合計が常に一定であることは\( \omega^2 = k/m \)を代入すればすぐに確認できる。
\[ \begin{align*} E \ &=\ \frac{1}{2} k A^2 \sin^2(\omega t + \theta) \ +\ \frac{1}{2} k A^2 \cos^2(\omega t + \theta) \\ &=\ \frac{1}{2} k A^2 \big[ \sin^2(\omega t + \theta) \ +\ \cos^2(\omega t + \theta) \big] \\ &=\ \frac{1}{2} k A^2 \end{align*} \]
 ほうら!単振動のエネルギーは振幅\( A \)の 2 乗に比例している!どうやらこの式だけを見て誤解しちゃう人が多いんだな。しかし、\( k = m \omega^2 \)だから、この式は次のように表すこともできるはずだ。
\[ \begin{align*} E \ =\ \frac{1}{2} m \omega^2 A^2 \ =\ \frac{1}{2} m (2 \pi \nu) ^2 A^2 \ =\ 2 \pi^2 m \nu^2 A^2 \end{align*} \]
 だろ?単振動のエネルギーは振幅の 2 乗と振動数の 2 乗に比例しているというわけだ。

 しかし単振動の場合には\( k \)\( m \)が決まると振動数が固定されてしまうから、わざわざ「振動数の 2 乗に比例する」ことを強調する人も少ない。振幅の方は質点を指で小突いて幾らでも変えられるから、こっちばかりを強調したくなる。

 本題からちょっと逸れるけれど、\( E = \frac{1}{2}kA^2 \)ってことは、振幅さえ同じなら、質量\( m \)に関係なく同じエネルギーなんだ?重くても、軽くても!?そんなことあるのかな。これちょっと面白いな。

 いやいや、数式の見た目だけに騙されちゃいかんよ。質量が大きくなれば、それだけ振動数が下がるから、結局は同じエネルギーだってことなんだ。


波のエネルギー

 さて、波というのは、基本的には上の単振動に出てきたようなサインカーブであって、複雑な場合でもその組み合わせで表せるから、エネルギーについての考え方も似たようなものである。

 例えば、ひもの上を伝わる単純な波をイメージしよう。どの点も、タイミングが違うだけであって、単振動と同じ動きである。ひもを小さく分けて、その部分の微小質量を代入してエネルギーを求めて、ひも全体で合計すればひも全体の波のエネルギーが求まるわけだ。

 しかし密度を考えた方がかっこいいだろう。ひもの質量密度を\( \rho \)だとして、これを先ほどの式の\( m \)と入れ替えれば、波のエネルギーの密度が求まることになる。この密度を、ひも全体の長さと掛け合わせてやれば、それが波のエネルギーだというわけだ。ひもが長ければ長いほど、つまり波が存在している範囲が広いほど、エネルギーも大きいということになるわけだ。

 波というのはある速度で伝わっていくものだから、エネルギーもそれと同じ速度で伝わっていくことになる。エネルギーの密度と波の伝搬速度\( c \)とを掛けてやれば、1 秒間にどれだけのエネルギーが流れているかが計算できるだろう。

\[ \begin{align*} I \ =\ \frac{1}{2} \rho \, \omega^2 A^2 c \end{align*} \]
 これを「波の強さ」と呼ぶことにしよう。こうすれば「波が運ぶエネルギーの量」と「波が全体として持っているエネルギーの量」を異なる概念として明確に区別することができる。

 この二つの量の違いを意識せずにどちらも「波のエネルギー」と呼んでしまうことがあり、それが混乱を招いていたりすることもよくある。今後はどちらの意味で使われているかをよく考えることにしよう。


波と単振動の違い

 ところで、単振動の場合にはエネルギーを\( E = \frac{1}{2}kA^2 \)という形で表すこともできたわけだが、波に応用する場合にはこの式を使わないで、\( E \ =\ \frac{1}{2} m \omega^2 A^2 \)の形に表された式の方を使ったのだった。それはなぜだろうか。その方が都合が良かったから、と言えばそれっきりなのだが、この点をもう少し考えてみたい。なぜ一方の式だけが都合が良くて、一方が悪かったのか。

 答えは単純で、波を考えるときにはバネ定数\( k \)という概念はもはや役に立たないのである。たとえば、ひもの上を伝わる波の性質を決めているのは何だろうか。それはひもに掛かる張力と、ひも自体の質量密度である。張力が強ければ波は速く伝わるし、ひもの密度が大きければ波の伝搬速度は遅くなる。これらは単振動の場合の\( k \)\( m \)に似てはいるが、単振動の場合とは違って、\( \omega \)の値を決定することはないのである。張力や密度が決定するのは波の伝搬速度である。

 つまり、ひもの上にできる波の場合には\( \omega \)は一つきりではない。色んな振動数の波が同じひもの上に乗ることが許されているのである。

 \( \omega \)の異なる波を考えるごとに、バネ定数\( k \)の異なる単振動を想定しているようなものだ。ひもの上の波の場合には、定まった\( k \)の値など存在していないのである。

 素粒子を考えるときに使う「場の理論」では波を無数の調和振動子(単振動)に分解して考えることをする。  振動数の異なる無限の数の単振動を想定するわけだ。  そんな無限個のものを具体的に想像するのは難しいので非常識なモデルに思えたりするわけだが、 論理の上ではこうして単純な力学の問題にも同じような考えがすでに存在できるわけだ。  力学の場合にはこのような無数の存在をあまり真剣に考えなくてもいいのが救いである。


振動数に関係ない場合もある

 さて、ここまでの話によって、読者に「波のエネルギーは振幅の 2 乗と振動数の 2 乗の両方に比例する」と信じこませることに成功したのではないだろうか。確かに振幅が大きいほどエネルギーは大きい気はするし、振動数が大きいほど質点が激しく運動するわけだから、やはりエネルギーは大きいだろう。このイメージは間違っちゃいない。

 ところがこれはあくまでも、質点\( m \)についての力学的な振動についてだけ成り立つ話である。あるいは、ひもの上にできる単純な波についてだけの話である。では次に、成り立たない場合の話をしよう。

 例えば電磁波はどうか。振幅の 2 乗に比例するという点は正しい。しかし振動数(周波数)には無関係なのである。それはなぜかって?ほら、電磁波には質点の運動エネルギーなんてものはないではないか。そもそもが別の話なのである。だからそこは電磁気学によって別の論理で導かれるべき事柄だろう。

 しかし周波数(振動数)が高いほど電磁波のエネルギーが高いと聞いたことはあるだろう。確かに\( E = h \nu \)という関係があって、電磁波のエネルギーと振動数は比例関係にある。ただしこれは、エネルギーのやり取りがこの単位のエネルギーの粒として行われるという話であって、やはり全く別の話なのである。電磁波全体のエネルギーが振動数に比例しているという事実はない。これは電磁気学でもなく、量子力学の中でようやく議論されるような話題である。

 他にもエネルギーが振動数に無関係な波がある。水の上にできる波だ。この場合のエネルギーは振幅の 2 乗にのみ比例して決まることになる。これは力学的な現象なのに、なぜ上での議論と同じことが成り立っていないのであろうか。

 水の上にできる波は流体的な性質があるために、その振る舞いを計算するのはかなり複雑である。(「環境の大学」というサイトの海岸工学という一連の記事で詳しく説明してくれてある。)実は水の各部分に注目するとエネルギーは確かに振動数の 2 乗に比例しているのではあるが、振動数が低い場合には水の深い部分までが揺さぶられるのに対し、振動数が高くなるに従って表層部分のみが揺さぶられ、全体としては振動数に無関係になるという見事な結果が導かれるのである。

 さあ、これで波のエネルギーに関する混乱した状況がかなりすっきりしたのではないかと思う。この記事を公開することで、あちこちでの誤解したやり取りが減ってゆくのを見ることが出来れば嬉しいのだが・・・。