力学との接点

相対論や解析力学へ繋げるための準備

[前の記事へ]  [電磁気学の目次へ]  [次の記事へ]


復習

 そもそも電場\( \Vec{E} \)や磁場\( \Vec{B} \)は何だったのかということについて再確認しておこう。

 電場\( \Vec{E} \)はもともと、電荷\( q \)を空間に置いたときに、

\[ \begin{align*} \Vec{F} = q\ \Vec{E} \end{align*} \]
と表される力を受けるということによって定義されたものであった。これが力学と電磁気学の接点である。

 一方、磁場はどのように定義されたかと言えば、電場のように単純ではない。元はと言えば電流の周りで磁針が向きを変えることから、電流の周りには磁石に影響を与える場が存在するという考えが生まれたのであった。磁石と磁石の間に力が働くという事実だけでは磁石そのものに注目してしまい、わざわざ「場」の考えを受け入れるのは難しかったであろう。

 小さい頃に行った科学館で、磁界(工学分野では磁場のことを磁界と呼ぶ)の存在を視覚的に表すために巨大な磁石の周りに多数の小さな方位磁針を敷き詰めた展示物があったが、私は「磁石が磁石に引かれてそれぞれの位置である一定の向きを向いているのは当然じゃないか?わざわざそれを磁界と表現するのは変じゃないか」と思いながら見ていたものだ。

 しかし磁石というのは突き詰めていけば微小な分子電流によって作り出されているのであって、電流の周りで磁針が向きを変えるのは、電流によって作り出された磁場が分子電流に力を及ぼしているのだという考え方が出来る。実際、電流間には力が働くことが示されており、これは運動する電荷に働くローレンツ力として説明できる。

 つまり、磁場と力学との接点は

\[ \begin{align*} \Vec{F} = q\ \Vec{v} \times \Vec{B} \end{align*} \]
という式だけで表されるということだ。

 これらの式は一つにまとめられて、

\[ \begin{align*} \Vec{F} = q\ ( \Vec{E}+\Vec{v}\times\Vec{B} ) \end{align*} \]
と表される。

 マクスウェルの方程式は電磁場の性質を表したものであるが、そこには力学は入っていない。力学と電磁気学を関連付けるには、マクスウェルの方程式とは別にこの式が必要なのである。言い方を変えれば、マクスウェルの方程式の中で\( \Vec{E} \)やら\( \Vec{B} \)を使っている段階ですでにこの関係を前提としているわけだ。

 この辺りの関係は再確認しておかないと時々忘れてしまいそうになる。


電場と磁場は電磁場の一側面に過ぎない

 我々はこれまで静電気や磁石の存在を手がかりにして電磁気の性質を理解してきた。それで「電場は電気に関する場」「磁場は磁気に関する場」という明確に区別されたイメージを持ってしまっている。

 しかしこの式を見る限り、両方とも電荷に働く場として表されていることが分かる。電場とは運動状態に関わりなく電荷に働く力の場であり、運動している電荷に働く力の場が磁場である。

 電荷と電荷の相対速度が 0 であるときには電場のみが働くが、相対速度を持っている場合にはそれに加えて磁場による効果も働く。結局、電荷同士に働く力を便宜上、電場や磁場という言葉を使って表していたに過ぎなかったのか、と思えるかも知れないが、この考えはこれまでの議論で否定されている。「電気力学」は電場や磁場の存在を取っ払って電荷同士に働く力を理解できないかということを試みようとして失敗したのであった。電磁場はそれ自体が独立して存在し、それを考えなくては運動量の保存が成り立たないし、電磁波の存在も説明できないのであった。やはり電荷同士は、電磁場を通して力を及ぼし合っているのである。


電磁ポテンシャルと力の関係

 さて先ほどの力学と電磁気学を繋ぐ式は、ひょっとして電磁ポテンシャルを使って表してやれば、もっときれいな形式にまとめられて、我々に何かもっと深遠な知識を与えてくれるのではないだろうか、という期待がある。ちょっとやってみよう。そのためには
\[ \begin{align*} \Vec{E} &= - \nabla \phi - \pdif{\Vec{A}}{t} \\ \Vec{B} &= \Rot \Vec{A} \end{align*} \]
を代入してやればいい。さあ、どうだ?!
\[ \begin{align*} \Vec{F} = q\ \left(- \nabla\phi - \pdif{\Vec{A}}{t} + \Vec{v}\times(\nabla\times\Vec{A}) \right) \end{align*} \]
 (ここでは\( \Rot \Vec{A} \)の代わりに\( \nabla \times \Vec{A} \)の形式を使って代入したが同じことだ。)どうにも分からない。何とか簡単になるように努力してみよう。ここで第 3 項が面倒な形になっているので簡単になるように次の公式を使う。
\[ \begin{align*} \nabla( \Vec{v} \cdot \Vec{A} ) = ( \Vec{v} \cdot \nabla ) \Vec{A} + \Vec{v} \times (\nabla \times \Vec{A} ) \end{align*} \]
 この公式は証明自体はそんなに難しいものではないのだが、すぐに思いつくようなものではない。先人たちが努力して試行錯誤した結果だろうと思う。ありがたく使わせてもらおう。すると、
\[ \begin{align*} \Vec{F} = q\ \left(- \nabla\phi - \pdif{\Vec{A}}{t} - (\Vec{v}\cdot\nabla)\Vec{A} + \nabla(\Vec{v} \cdot \Vec{A})\ \right) \end{align*} \]
のようになる。ここでさらに次のような公式を使う。
\[ \begin{align*} \dif{\Vec{A}}{t} = \pdif{\Vec{A}}{t} + (\Vec{v} \cdot \nabla) \Vec{A} \end{align*} \]
 これは単にベクトルポテンシャル\( \Vec{A} \)\( ( x, y, z, t ) \)の関数であって、さらに変数である\( x, y, z \)\( t \)の関数になっていることから合成関数の微分法則を使っただけのものである。ただし、結果をナブラ記号やベクトル表現を使ってうまくまとめる辺りにパズル的なものを感じるわけだが。というわけでこの公式の中の括弧の存在はとても意味があるということを注意しておこう。とにかく、これで次のようになるだろう。
\[ \begin{align*} \Vec{F} = - q\ \left\{\ \nabla(\phi - \Vec{v}\cdot\Vec{A}) + \dif{\Vec{A}}{t}\ \right\} \end{align*} \]
 これで精一杯だ。あまり大した効果はなかったようだ。これでは\( \Vec{E} \)\( \Vec{B} \)で表しておいた方がよっぽど分かりやすい。

 しかしこの変形は決して無駄ではない。実はこの部分の説明は解析力学で行う議論の準備のために書いたのであり、今回の結果を解析力学に応用すれば非常に面白い議論が出来ることになる。そしてそれは量子電磁力学の基礎にもなるので頑張って解析力学も学んでおくといいだろう。