電磁誘導

電気で磁場が作れるのなら磁場で電気が起こせるはずだ

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レンツの法則

 ファラデーは、電流で磁気が発生するならばその逆もあるはずだと考えて実験を始めたと聞く。小さな頃この話を聞いて、どうしてそういう発想ができたのだろうと、とても感心したものだ。しかしファラデーの実験結果を要約したのはレンツであって、レンツの法則と呼ばれている。

 レンツの法則
コイルに発生する起電力はコイルを貫く磁力線の変化に比例する。
その起電力によって発生する電流の向きは、磁力線の変化を妨げるような向きである。

 コイルというのは導線を輪にしたものだ。その輪の中をくぐる磁力線の本数の変化によって起電力が生じるのだと言う。さらにこれを数式で表現したのはノイマン(Franz Ernst Neumann, 1798-1895)なのだそうだ。(あの有名なフォン・ノイマンのことではないので注意。)

\[ \begin{align*} \phi = -k\ \dif{\Phi}{t} \end{align*} \]
 \( \phi \)は起電力を表しており、\( \Phi \)は磁力線束、つまり磁束を表している。もっと分かりやすく言えば、コイルの輪の中を通る磁力線の本数のことだ。比例定数\( k \)は後に 1 になることが分かるのだが、それがはっきりするまではこのまま残しておくことにする。

 細かいことにこだわらなければこれを変形して場の形式で表現するのは簡単である。起電力\( \phi \)はコイルの道筋に沿って電場を線積分することによって

\[ \begin{align*} \phi = \int \Vec{E} \cdot \diff \Vec{s} \end{align*} \]
と書ける。また、コイルの内側を通る磁束は、コイルの道筋を縁とする面について積分することで、
\[ \begin{align*} \Phi = \int \Vec{B} \cdot \Vec{n} \diff S \end{align*} \]
と表せる。磁場については\( \mathrm{div} \Vec{B} = 0 \)というガウスの法則が成り立っていることがすでに示されているので、磁力線は途中で勝手に途切れたりしない。つまり縁さえ決めてやれば、どんな形の面を考えて面積分しても結果は同じ値であることが保証されている。

 これらの表現を使えばノイマンが作った式は

\[ \begin{align*} \int \Vec{E} \cdot \diff \Vec{s} = -k \ \dif{}{t} \left( \int \Vec{B} \cdot \Vec{n} \diff S \right) \end{align*} \]
と書くこともできるだろう。この左辺にストークスの定理を適用して\( \mathrm{rot} \)を使った面積分に変換すれば、
\[ \begin{align*} \int \mathrm{rot} \Vec{E} \cdot \Vec{n} \diff S = -k \int \pdif{\Vec{B}}{t} \cdot \Vec{n} \diff S \end{align*} \]
となり、両辺とも面積分で表す事ができる。これにより、
\[ \begin{align*} \int \left( \mathrm{rot} \Vec{E} + k \pdif{\Vec{B}}{t} \right)\cdot \Vec{n} \diff S = 0 \end{align*} \]
とまとめた形で書くことができるのである。さて、ここまではコイルの存在を頭において考えてきた。しかしファラデーの思想は、そこにたまたまコイルが置いてあるから起電力が観測されるのであって、何もない場合にも電場はそこにもとから存在するのだというものである。つまり、コイルの存在に関わらず、任意の空間で上の式が成り立つということだ。よって、
\[ \begin{align*} \mathrm{rot} \Vec{E} + k\ \pdif{\Vec{B}}{t} = 0 \end{align*} \]
が成り立っていると考えられる。後は\( k = 1 \)であることさえ言えれば、
\[ \begin{align*} \mathrm{rot} \Vec{E} + \pdif{\Vec{B}}{t} = 0 \end{align*} \]
であり、これがマクスウェルの方程式の内の一つ、「ファラデーの誘導法則」と呼ばれる式である。


定数 k はなぜ 1 なのか

 これから定数\( k \)が 1 になる理由を説明しよう。しかしそれは先ほど求めた結果から説明するのではなく、もう一度レンツの法則に戻って別解釈でもう一つの式を作ることで行う。

 先ほどは「起電力はコイルを貫く磁力線の変化に比例する」という表現から出発して、なんとなく止まっているコイルを考えて、磁場の方が変化したのだろうと想像して計算を行った。しかしレンツの法則は逆のことも意味しているのである。つまり磁場が変化しない状況でコイルが移動した結果、コイル内を貫く磁力線束の大きさが変化したような場合にも成り立つのである。

 その状況を描いたのが次の図である。

 2 つの輪になった導線が描いてあるが、これらがコイルである。緑色が移動前のコイルの位置、青色が移動後のコイルの位置を表している。

 このコイル上のある微小部分の長さと方向を\( \diff \Vec{s} \)で表しておこう。この部分が微少時間\( \diff t \)の間に速度\( \Vec{v} \)で移動することを考える。微少時間ならその間の速度はほぼ一定だと見なせるからこういう考え方をするのである。移動距離は\( \Vec{v} \diff t \)と表せるだろう。

 この移動によって微小部分\( \diff \Vec{s} \)が描いた軌跡は面になる。\( \Vec{v} \diff t \)\( \diff \Vec{s} \)も微小なので、この面は平らな平行四辺形だと見なせるだろう。理由は後で話すが、今の内にその面積を知っておきたい。こういう時、外積はとても便利であって、\( \Vec{v} \diff t \times \diff \Vec{s} \)という計算をしてやれば、一つのベクトルが求まる。そのベクトルの長さがちょうど今知りたかった面積を表しているのである。(そのことは外積の説明記事で話した。)そしてそのベクトルの向きはその面の法線方向を向いている。

 これで計算の準備が整った。今本当に知りたいのは、コイルの移動の前後で、コイルを貫く磁力線がどれだけ変化したか、ということである。それはこう考えれば分かる。まず、上の図の2つの円をつないだ円筒っぽい空間領域を想像する。この領域内に入った磁力線は必ずどこかから抜けていくわけだ。つまり、下の面から入った磁力線と上の面を抜けて行く磁力線の数に差があるとすれば、それは円筒領域の側面から出入りする磁力線の数に等しいと言えるではないか!

 先ほど求めた微小面積というのは、この側面積の一部である。しかも\( \Vec{v} \diff t \times \diff \Vec{s} \)というのは面の法線ベクトルでもあったので、これと磁束密度\( \Vec{B} \)との内積を取れば、この面を垂直に貫く磁力線の数が計算できるのである。

 側面全体での磁束の合計を知りたければ、コイル一周について\( \diff \Vec{s} \)で積分すればよい。その結果は、微小時間\( \diff t \)の間に変化した磁束の量\( \diff \Phi \)を表すことになる。符号は図の意味を考えて正しく付けてもらいたい。

\[ \begin{align*} \diff \Phi &= \int \left( \Vec{v} \diff t \times \diff \Vec{s} \right) \cdot \Vec{B} \\ &= \diff t \int \left( \Vec{v} \times \diff \Vec{s} \right) \cdot \Vec{B} \\ &= \diff t \int \left( \Vec{B} \times \Vec{v} \right) \cdot \diff \Vec{s} \\ &= - \diff t \int \left( \Vec{v} \times \Vec{B} \right) \cdot \diff \Vec{s} \end{align*} \]
 2 行目から 3 行目への変形ではよくある公式を使った。さらに少し変形すれば、
\[ \begin{align*} \dif{\Phi}{t} = - \int (\Vec{v} \times \Vec{B}) \cdot \diff \Vec{s} \end{align*} \]
である。これをレンツの法則に代入してやる。
\[ \begin{align*} \phi &= -k \dif{\Phi}{t} \\ &= k \int (\Vec{v} \times \Vec{B}) \cdot \diff \Vec{s} \end{align*} \]
 この左辺の\( \phi \)はコイルに生じる起電力である。起電力はコイルに沿って電場を線積分することで次のように表せるのだった。
\[ \begin{align*} \phi = \int \Vec{E} \cdot \diff \Vec{s} \end{align*} \]
 この二つの式を見比べると、
\[ \begin{align*} \Vec{E} = k \Vec{v} \times \Vec{B} \end{align*} \]
という関係が成り立っていると言えるに違いない。ここまでの話はコイルの輪の形がどうであっても成り立つからである。この電場\( \Vec{E} \)の中に電荷\( q \)を置くと力\( \Vec{F} \)を受ける。つまりこの式の両辺に\( q \)を掛けてやれば、
\[ \begin{align*} \Vec{F} = k q \Vec{v} \times \Vec{B} \end{align*} \]
が言える。これは定数\( k \)が余計に入っているだけで、前に求めた「ローレンツ力」と同じ形ではないか!今求めた結果はローレンツ力と同じ現象を表しているのである。同じ現象に結果が二通りあるなどということは不合理であるので、\( k \)は 1 でなければならないと結論できる。


相対性理論との関わり

 レンツの法則を二通りに解釈することで、一方は磁場の変化により電場が生じるという結果を導き、もう一方はすでに導かれているローレンツ力を再び導くことになった。全く性質の違う現象が一つの「レンツの法則」という形で言い表せることはある意味不思議であり、偶然にも思える。

 初めに我々は磁石がコイルに近づくことで電場が生じるような現象を考えたが、逆に磁石が作る磁場の中をコイルが近づくことで、コイルの中にある電子がローレンツ力を受けて移動することで同じ起電力を生じたと考えても同じ現象が説明できる。

 一体どちらの解釈が正しいのであろうか。この不思議さを解決したのが「相対性理論」なのであるがそれについての詳しい説明は相対性理論の解説の中で行うことにしよう。とりあえず、電磁気学の中にはそれ自体の中で解決できない問題があるということだけ注意しておこう。