電流と磁場の発生

電流によりどんな磁場が発生するかという話

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電流は電荷の流れ

 電流は電荷の流れである、ということは今では当たり前すぎる話である。ところがほんのひと昔前まではこれは常識ではなかった。当時の学者たちは電流が電荷の流れであろうことを予想はしていたものの、それが実験で確かに示されるまでは慎重に電流と電荷を別のものとして扱っていた。なんと尊敬すべき態度であろう。この姿勢が科学を信頼する価値のあるものにしてきたのである。

 電磁気学の法則の中には今でもその考え方が残っており、電流と電荷が別々の存在として扱われている。それは現象論を扱う時にはその方が応用しやすいという利点があるためでもある。

 電流が電荷の流れであることは、帯電した物体を運動させた時に電流と同じ効果があることを通して認められ始めたということである。ここではこれについて詳しく書くことはしないが、科学史を学ぶことは物理を理解する上でとても役に立つのでお勧めする。そういう私は学生時代には科学史をかなり軽視していたが、後に文明シミュレーションゲームを作るために猛烈に資料集めをしたのがきっかけで科学史が好きになった。意外な発見が必ずある。


ビオ・サバールの法則

 電流が磁気的性質を示すことは電線に電気を流した時に近くに置いてあった方位磁針が揺れることから偶然に発見された。このとき、磁石に働く力の大きさを測定することによって、直線電流の周囲には電流の進行方向に対して右回りの磁場が発生していると考えることが出来、その大きさは
\[ \begin{align*} |\Vec{B}| = \frac{\mu\sub{0}}{2\pi} \frac{I}{R} \end{align*} \]
と表すことが出来る。\( I \)が電流の強さを表しており、\( R \)が電線からの距離である。係数の中に\( \mu\sub{0} \)\( 2\pi \)が付いてきているのは電場の時と同じような事情であって、これからこの式を元に導かれることになる式が簡単な形になるような仕掛けになっている。ここでは電流や磁場の単位がどのように測られるのかについてはまだ考えないことにする。それについては後から上の式が成り立つようにうまい具合に定義するのでここでは形式だけに注目していてもらいたい。

 上の式の形は電荷が直線上に並んでいるときの電場の大きさを表す式と非常に似ている。そこで、上の式の形は電流の微小な部分が周囲に与える影響を足し合わせた結果であろうから、電流の微小部分が作り出す磁場も電荷が作り出す電場と同じ形式で表せるのではないかと考えられる。つまり、導線上の微小な長さ\( \diff s \)を流れる電流\( I \)が距離\( r \)だけ離れた点に作り出す微小な磁場\( \diff \Vec{B} \)の大きさは次の形に書けるという事だ。

\[ \begin{align*} |\diff \Vec{B}| = \frac{\mu\sub{0}}{4\pi} \frac{ I\ \sin \theta \ \diff s}{r^2} \end{align*} \]
 こういう事に気が付くためには応用計算の結果も知っておかなくてはならないということが分かる。「本質が分かればそれでいいんだ」なんて私と同じようなことを言って応用を軽視しているといざと言う時にこういう発見ができないことになる。

 直線上に並ぶ電荷が作る電場の計算と言ってもガウスの法則を使って簡単な方法で求めたのではこのような\( \sin \theta \)を含む形式が出てこない。基本に立ち返って地道に計算する方法を使うと途中で上の式に似た形式を使うことになる。直線上の電荷が作る電場の計算をやったことがない人のために別室での補習を用意してある。

 次に力の方向も考慮に入れてこの式をベクトル表現に直すことを考える。磁場の向きは電流の周りを右回りする方向なので、これは電流の方向に垂直であり、さらに電流の微小部分の位置から磁場を求めたい点まで引いたベクトルの方向にも垂直な方向である。このことは電流の方向ベクトル\( \diff \Vec{s} \)と微小電流からの位置ベクトル\( \Vec{r} \)の外積を使うことで表現できる。外積がどのようなものかについては別室の補習コーナーで説明することにしよう。こうすることで次のようなとてもきれいな形にまとまる。

\[ \begin{align*} \diff \Vec{B} = \frac{\mu\sub{0}}{4\pi} \frac{ I\ \diff \Vec{s} \times \Vec{r} }{r^3}\end{align*} \]
 この関係を「ビオ・サバールの法則」という。

 この形式で表現しておけば電流が曲がったコースを通っている場合にも積分して、つまり微小な磁場の影響を足し合わせることで合計の磁場を計算できるわけだ。実際には電流の一部分だけを取り出すことは出来ないので本当にこのような影響を与えているかを直接実験で確かめるわけにはいかないが、積分した結果は実際と合っているので間接的には確かめられている。

 この形式は導線の太さを無視できると考えてもよい場合には有効であるが、導線がある程度以上の太さを持つ場合には電流の位置に幅があるので、計算が現実と合わなくなってきてしまう。これでは精密さを重んじる現代科学では使い物にならない。そこで「電流密度」という量を持ち出して電流の空間分布まで考えた形式に書き換えることにする。

 変形は至って簡単である。電流密度というのはベクトル量であり、電流の単位面積あたりの通過量を表しているので、空間のある一点\( {\Vec{x}}' \)近くでの微小面積\( \diff S \)を通過する微小電流のベクトルは\( \Vec{i} ( \Vec{x} ) \diff S \)と表せる。ここでもし微小面積\( \diff S \)の代わりに微小体積\( \diff V \)をかけた場合には、「微小面積を通過する微小電流の微小長さ」を表すことになり、以前の式の\( I \diff \Vec{s} \)の部分に相当する量になる。ただ以前と違うのは、以前は電流は\( I \)だけで全てであったが、今回は電流は空間に分布しており電流の存在する全ての空間について積分してやらなければならないということだ。

 そこで計算の都合上、もう少し変形してやる必要がある。かつては電流の位置から測定点までの距離として単純に\( \Vec{r} \)と表していた部分をもっと正確に、測定点の位置を\( \Vec{x} \)、微小電流の位置を\( {\Vec{x}}' \)として\( \Vec{x} - {\Vec{x}}' \)と表すことにする。

 これで全体が積分に適した形式になり、空間に広く分布する電流がある一点\( \Vec{x} \)に作る磁場の大きさ\( \Vec{B}(\Vec{x}) \)が次のような式で表せるようになった。

\[ \begin{align*} \Vec{B}(\Vec{x}) = \frac{\mu\sub{0}}{4\pi} \int \frac{ \Vec{i}(\Vec{x}') \times (\Vec{x} - \Vec{x}')}{|\Vec{x} - \Vec{x}'|^3} \diff \Vec{x}' \end{align*} \]
 \( \diff {\Vec{x}}' \)と書いた部分はこれまで\( \diff V \)と書いてきたのと同じ意味なのだが、微小電流の位置を表す\( {\Vec{x}}' \)について積分することを明確にするため、仕方なくこのようにしてある。式は複雑だが考えは単純である。この形式で表しておくことで後から微分形式の法則を作るのにも役立つことになるのだ。


ベクトルポテンシャルの導入

 磁場を求めるためにビオ・サバールの法則を積分すればいいと簡単に書いたが、この計算を実際に行うことはそれほど簡単なことではない。もっと簡単に解く方法はないだろうか、ということで編み出された方法がベクトルポテンシャルを使う方法である。このベクトルポテンシャルというカッコいい名前は、これが静電ポテンシャルと同じような意味を持つことからそう呼ばれている。静電場が静電ポテンシャルを微分した形で求められるのと同じように、微分演算を行うことで磁場が求められるような量を考えるのである。具体的には次のように表せるものである。
\[ \begin{align*} \Vec{B} = \Rot \Vec{A} \end{align*} \]
 静電ポテンシャルが 1 成分しかないのと違ってベクトルポテンシャルには 3 つの成分があり、ベクトルとして表現される。それで「ベクトルポテンシャル」と呼ばれているわけだ。実はこれはとても深い概念なのであるが、それについては後から説明する。この時点では単なる計算テクニックだと理解してもらえればいいのだ。

 上のようにベクトルポテンシャル\( \Vec{A} \)を定義することによりビオ・サバールの法則は次のような簡単な形に変形することができる。

\[ \begin{align*} \Vec{A} = \frac{\mu\sub{0}}{4\pi} I \int \frac{\diff \Vec{s}}{|\Vec{r}|} \end{align*} \]
 電流密度で表した場合には、
\[ \begin{align*} \Vec{A} = \frac{\mu\sub{0}}{4\pi} \int \frac{ \Vec{i}}{|\Vec{r}|} \diff V \end{align*} \]
となる。これらの変形については計算だけの話なので他の教科書を参考にしてもらうことにしよう。このように非常にすっきりした形になるので計算が非常に楽になる。この式でベクトルポテンシャル\( \Vec{A} \)を計算した上でこれを磁場\( \Vec{B} \)に変換してやればビオ・サバールの法則は自動的に満たされているというわけだ。


磁場が満たす微分法則

 磁場はベクトルポテンシャルを使って\( \Vec{B} = \mathrm{rot} \Vec{A} \)という形で表すことができることが分かった。ここで\( \mathrm{div} \Vec{B} \)を計算してみよう。実はどんなベクトルに対しても\( \mathrm{div\ rot} \Vec{X} = 0 \)が成り立つというすぐに証明できる公式があり、これを使うことで計算するまでもなくこれが 0 になることが分かるのである。
\[ \begin{align*} \Div \Vec{B} = 0 \end{align*} \]
 この式は、磁場には場の源が存在しないことを意味している。つまり電場の源としては電荷のプラス、マイナスが存在するが、磁場に対しては磁石の N だけ S だけのような存在「磁気モノポール」は実在しないということだ。しかし、これは磁気モノポールが理論的に絶対存在しないことを証明したわけではなく、測定された範囲のことを説明するのに磁気モノポールの存在は必要ないというくらいのことを表しているに過ぎない。つまりこの程度の測定では磁気モノポールが存在する証拠は見当たらないというくらいの意味である。ひょっとしたらモノポールの N と S は狭い範囲で強く結び合っていて外に磁力が漏れていないだけなのかもしれない。そのような可能性を考えて磁力を精密に測定してわずかな磁力の漏れを検出しようという努力は今でも行われている。


もうひとつの微分法則

 次に\( \mathrm{rot} \Vec{B} \)がどうなるかについても計算してみよう。今度は公式を使って簡単に、というわけには行かない。しかし、
\[ \begin{align*} \Rot\ \Rot \Vec{X} = \Grad\ \Div \Vec{X} - \triangle \Vec{X} \end{align*} \]
という公式(\( \triangle \)はラプラシアン)があるので、これを使って
\[ \begin{align*} \mathrm{rot} \Vec{B} &= \mathrm{rot}\ \mathrm{rot}\ \Vec{A} \\ &= \Grad\ \Div \Vec{A} - \triangle \Vec{A} \end{align*} \]
を計算してやることになる。この計算は面倒なので一般の教科書に譲ることにして、結論だけを言えば結局第 2 項だけが残ることになり、
\[ \begin{align*} \mathrm{rot} \Vec{B} = \mu\sub{0} \Vec{i} \end{align*} \]
となる。これは電流密度が存在するところではその周りに微小な右回りの磁場の渦が生じているということを表している。これを「微分形のアンペールの法則」と呼ぶ。注意すべきことは今は右辺の電流密度が時間的に変動しない場合のみを考えているということである。

 予想外に分量が多くなりそうなのでここで一区切りつけることにしよう。結局、磁場の単位を決める話が出来なかったが次の話で決着をつけることにする。