マクスウェル方程式の完成

長い旅だった。 しかし本当の議論はここからだ。

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矛盾点の解決

 これまでに導いてきた関係式を集めてみると、
\[ \begin{align*} \mathrm{rot} \Vec{E} + \pdif{\Vec{B}}{t} &= 0 \\ \mathrm{rot} \Vec{H} &= \Vec{i} \\ \mathrm{div} \Vec{D} &= \rho \\ \mathrm{div} \Vec{B} &= 0 \end{align*} \]
となり、初めに概観したマクスウェルの方程式まであと一歩であることが分かる。何が足りないかと言えば、2 番目の式の左辺第 2 項にあるべき、\( - \pdifline{\Vec{D}}{t} \)の部分だ。これがないとこの式は矛盾を抱えることになる。それは 2 番目の式の両辺について\( \mathrm{div} \)を計算すればすぐに分かる。この計算で左辺は\( \mathrm{div\ rot} \Vec{H} \)となり、この形を持つものはみんな 0 になるのであった。よって右辺だけが残り、
\[ \begin{align*} \mathrm{div}\ \Vec{i} = 0 \end{align*} \]
という結果が導き出せる。(この式は間違いなので気を付けよう。

 ところが、ここで「待てよ!」と思わなくてはいけない。この式は、電流の源は存在しないことを表しているが、そんな筈はない。もしそうなら全ての電流は増えもせず減りもせず、ぐるりと輪になっていなければならない。実際、身の回りの多くの電気回路は輪を作っているが、そうでないものもちゃんとある。コンデンサーやライデン瓶のような蓄電器に貯め込まれた電荷は電線で逃げ道を作ってやれば電位の低い方へ流れてゆくし、静電気や雷も同じである。

 電流は電荷が蓄積されているところを源として生じることが出来るではないか。その場合、電流が流れてゆくに従って蓄積されていた電荷は減少してゆく。電流は電荷の流れなので当然のことだ。この状況を式で表せば次のようになる。

\[ \begin{align*} \mathrm{div}\ \Vec{i} = - \pdif{\rho}{t} \end{align*} \]
 先ほどアンペールの法則の式の両辺について\( \mathrm{div} \)を計算したときにこの関係式が出てこなかったということは事実と矛盾しているのである。そこで、\( \mathrm{div} \Vec{D} = \rho \)であることをうまく使って、あらかじめもとの式に\( \Vec{D} \)を仕込んでおいてやれば、
\[ \begin{align*} \mathrm{rot} \Vec{H} - \pdif{\Vec{D}}{t} = \Vec{i} \end{align*} \]
という形になり矛盾は解消できることになるし、形式的にも美しい。この式を「アンペール・マクスウェルの法則」と呼ぶ。名前の由来は察しがつくだろう。アンペールの法則にマクスウェルがちょっと手を加えたからだ。これでマクスウェルの方程式と呼ばれる関係式が出揃ったことになる。


電束電流

 矛盾はとりあえず解決した。しかしこの式が本当に正しいものであるかどうかは実験によって確かめなければならない。それが科学的手法である。

 アンペールの法則に\( - \pdifline{\Vec{D}}{t} \)の項を加えた意味は大きい。これまで電流が磁場を作り出し、磁場の変化が電場を生み出すことを見てきたが、この項が入ることによって、電流がなくとも電場だけで磁場を発生させることが出来る可能性が示されたわけだ。この量\( \pdifline{\Vec{D}}{t} \)は電荷の流れではないが、電束密度が時間的変位をすることによって電流と同じ意味を持つことから「変位電流」または「電束電流」と呼ばれている。この量を使った応用の話も面白いのだが脇道にそれるので別の機会にしておこう。

 電場が磁場を作り、磁場が電場を作るということは、お互いがお互いを生み出しながら何もない空間を伝わってゆく現象、すなわち「電磁波」が観測できるはずである!しかし理論的準備は整ったものの、それが実証されるまでには 20 年以上の月日が必要だったようである。マクスウェル理論が広く知られるようになったのは電磁波の存在が実証されてからのことなので仕方がない。歴史はいつも知らないところで動くのだ。

 マクスウェル理論を検証する実験には懸賞までかけられていたそうである。今では誰でも知っていることだが、実際、電磁波はあったのだ。ヘルツの実験 (1888) やマルコーニによる無線電信の実験 (1896) が有名である。

 とにかく電磁波の存在が証明されたことによってマクスウェルの方程式が正しいことが分かった。変位電流の項がなければ電磁波は何もない空間を伝わりようがないのだから。


残った課題

 ようやくマクスウェルの方程式までたどり着き、電磁気学を制覇したような気分に浸っているかも知れない。しかしまだ形式的なことが分かっただけであり、本当に知りたいことには触れていないのである。議論はこれからなのだ。

 そこで、まだはっきりしない点や、これから考えてゆくべきことについてここでまとめておいて今後の指針を明確にしておくことにしよう。

 まず、電磁波の運動量についてはまだ何も語っていない。電磁気的な現象において運動量保存則が成り立っていることはどのように示されるのだろうか。また電荷を持つものが加速するときに電磁波を放射する現象があるが、これはどのように説明されるのだろうか。そして、そのとき放射される電磁波はどのような形を持っており、どのように飛び出してゆくのだろう。この辺りのイメージが描けなくてはマクスウェルの方程式を知っていても電磁気を知ったことにはならないのではないだろうか。

 また、この他に電場は実在か、磁場はどうなのかという議論もある。計算の便宜上導入しただけのはずのベクトル・ポテンシャルが最近の実験の結果により、実は実在するのではないかという話もある。これに関連してゲージ変換についても触れなければならない。とにかく以上のようなことを考えながら、量子電磁力学に突入するための準備を全て行うつもりでいる。

 先はまだ長い。しかしこれでとりあえず最初の目標には到達したわけだ。