プラズマは電磁波を反射する

上空にある電離層が電波を反射するのもこれ。

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プラズマとは何か

 固体を熱すると液体になり、液体を熱すると気体になる。気体をさらに熱すると、激しい熱運動の衝突の勢いで原子から電子が剥ぎ取られ、プラスの電荷を持ったイオンと負の電荷を持った電子とが混じった気体になる。この状態がプラズマである。
豆知識: プラズマという言葉は1928年にアーヴィング・ラングミュアによって名付けられたものである。  ギリシャ語で「成形されたもの」「鋳型」を意味する単語が語源になっている。  (プラスチックというのも可塑性と言う意味だがその元をたどれば同じ語源)  当時すでにこの単語には、正体の分からないドロドロした神秘的物質というニュアンスがあり、 生物学や医学においても原形質(プロトプラズマ)や血漿(ブラッドプラズマ)など、多くのものに使われている。  今となっては心霊やオカルト用語になっている「エクトプラズム」も元は医学・生物用語だった。  鋳型の中に流し込まれて何とか形を成すもの、といった感じだろう。
 固体、液体、気体は「物質の三態」と呼ばれているが、プラズマは物質の「第四の状態」と呼ばれることもある。とは言うものの、プラズマは他の三態に比べると質が違う気がする。固体、液体、気体という変化は、原子や分子はひとかたまりでそのまま変わらず、熱運動のエネルギーが高くなることによって分子間の束縛を次々に振り切っていく過程である。しかしプラズマに至っては分子どころか原子そのものがバラバラに分解してしまっているのである。

 プラズマにも色々あって、一部の原子の一部の電子が剥がれただけのものもあれば、あまりにエネルギーが激しくてすべての原子のすべての電子が剥がれてしまったような状態もある。また、密度も様々であるから、触ってみて熱いと感じるものばかりだとは限らない。高温のプラズマであっても、密度が低ければ触れた途端に冷えてしまったりする。

 宇宙空間は密度がかなり低いが一種のプラズマだし、点灯中の蛍光灯の中やロウソクの炎などは全ての原子から電子が剥がれるほどではないがこれも一種のプラズマだし、さらにオーロラや電離層もプラズマだし、冬場に体験する静電気の放電や、溶接工事に使う電気放電、落雷などもプラズマである。太陽もまたプラズマの塊である。実に、この宇宙の99%以上の場所がプラズマであって、地球のようなそうでない場所の方が珍しいくらいだ。

 プラズマは正の電荷と負の電荷が釣り合っていて、全体としては電気的に中性である。もし電気を帯びていれば他の電荷を引き寄せて中性になろうとするので、これ自体は当たり前ではある。プラスの電荷を持ったイオンと負の電荷を持った電子とで質量に大きな違いがあるというのもまた、プラズマの性質を面白くしている原因になっていたりする。

 では「プラズマの性質」とは何だろう。電離している原子の割合や、密度や、温度がさまざまに異なっていても同じ「プラズマ」という言葉でひとくくりに呼ばれているのは、何か共通した性質があるからに違いない。今回はその中の一つ、「プラズマは周波数の低い電磁波は通さない」という点についてだけ説明しよう。それがこの記事を書くことになった本来の目的だからである。

 この記事の本来の目的は実はもっと別のところにある。  もともとはガラスなどを通過する光の速度が遅くなる理由を説明する方法を考えていたのだが、 それは思っていたよりずっと複雑であって、プラズマの方がよっぽど簡単だし、 最初にプラズマについて知っていた方が理解の助けになるだろうと考えたのである。


電子の動きを考慮する

 電磁波がプラズマに向かって進み、そのまま侵入することを考える。プラズマ中の粒子は電磁波の電場成分に揺さぶられて動くが、陽イオンは重いのでほとんど動かず、電子のみが動くと考えることにする。電磁波の電場成分を次のように表すことにしよう。
\[ \begin{align*} \Vec{E} \ =\ \Vec{E}\sub{0} \, \cos \omega t \tag{1} \end{align*} \]
 これによって電子がどのように動くかというのは、運動方程式を作ってやれば分かる。
\[ \begin{align*} m \ddif{\Vec{x}}{t} \ =\ e \Vec{E} \ =\ e \, \Vec{E}\sub{0} \, \cos \omega t \end{align*} \]
 ここで、\( m \)というのは電子の質量、\( e \)は電子の電荷で、ここでは\( e\lt 0 \)としておく。これを解くのはかなり簡単だから説明なしに答えを書いてしまう。
\[ \begin{align*} \Vec{x} \ =\ - \frac{e}{m} \frac{1}{\omega^2} \ \Vec{E}\sub{0} \cos \omega t \tag{2} \end{align*} \]
 本当はこの解に\( C\sub{1} t + C\sub{2} \)という等速運動的に移動する成分が付け加わり、平行移動しつつ振動するというのが一般解ではある。しかしプラズマ中では電子とイオンの衝突もあるわけで、電子がイオンをすり抜けていつまでも自由に平行移動し続けるという動きは抑えられるだろう。そもそも電子とイオンの間には電気的な引力があるのだから、それぞれの集団が大きく分離してしまうことは起こらずほぼ一体として振る舞う。そして電場は電子にもイオンにも互いに逆向きの同じ大きさの力を与えるので全体として見れば合力は 0 である。それで、このような電子の振動的な動きだけが残ることになる。この状況での電子の速度は (2) 式を微分して計算できる。
\[ \begin{align*} \Vec{v} \ =\ \frac{e}{m} \frac{1}{\omega} \ \Vec{E}\sub{0} \sin \omega t \end{align*} \]
 電子の密度を\( n \)とすれば、電流密度は\( \Vec{i} = en\Vec{v} \)と表せるので、
\[ \begin{align*} \Vec{i} \ =\ \frac{e^2 n}{m \omega} \ \Vec{E}\sub{0} \sin \omega t \end{align*} \]
だということである。ここで、マクスウェル方程式の一つ、「アンペール・マクスウェルの法則」を持ち出す。
\[ \begin{align*} \Rot \Vec{H} \ -\ \pdif{\Vec{D}}{t} \ =\ \Vec{i} \end{align*} \]
 ここに電流密度\( \Vec{i} \)を代入してやる。また\( \Vec{B} = \mu\sub{0} \Vec{H} \)\( \Vec{D} = \varepsilon\sub{0} \Vec{E} \)という関係も使う。
\[ \begin{align*} \frac{1}{\mu\sub{0}} \Rot \Vec{B} \ =\ \varepsilon\sub{0} \pdif{\Vec{E}}{t} \ +\ \frac{e^2 n}{m \omega} \ \Vec{E}\sub{0} \sin \omega t \end{align*} \]
 今、電場は (1) 式で表していたのだから、これを代入してやる。
\[ \begin{align*} \frac{1}{\mu\sub{0}} \Rot \Vec{B} \ &=\ - \varepsilon\sub{0} \omega \, \Vec{E}\sub{0} \sin \omega t \ +\ \frac{e^2 n}{m \omega} \ \Vec{E}\sub{0} \sin \omega t \\ &=\ - \varepsilon\sub{0} \left( 1 \ -\ \frac{e^2 n}{\varepsilon\sub{0} m \omega^2} \right) \omega \ \Vec{E}\sub{0} \sin \omega t \end{align*} \]
 このわざとらしいカッコのくくり方に意味があって、もしプラズマの電子密度\( n \)が 0 だとしたらこのカッコの中は 1 であっただろう。真空中ではそうなる。しかしプラズマが存在することで、あたかも誘電率が\( \varepsilon\sub{0} \)から
\[ \begin{align*} \varepsilon \ =\ \varepsilon\sub{0} \left( 1 \ -\ \frac{e^2 n}{\varepsilon\sub{0} m \omega^2} \right) \tag{3} \end{align*} \]
へと変化したのだと解釈できるような状態になるわけだ。これはプラズマ内の電子が電場に合わせて同じように揺れることで、プラズマ内の電場を中和して弱めてしまっていることを意味している。静電場を掛けた時に誘電体の中で起きているのと似た現象である。

 ・・・っておい!誘電率の値が真空の誘電率より低くなってるのはどういうことだ!?これではプラズマ中の電場は弱まるどころか、逆に強められていることになるではないか。どうしてこうなった?と思って、さかのぼって原因を探してみると、何と、電子は電場に従って揺れているのではなく、真逆の動きをしているのである。(2) 式にマイナスが付いているのがそれだ。これが強制振動の力学の不思議なところで、物体は力を受けている方向とは逆方向へ動くようなタイミングで揺れるようになるのである。

 私の場合、電子がこのような動きをするという事実を理解するために色々と図を描いたりした上、 さらに心がそれを受け入れるのを待つために一晩寝る必要があった。  学生の時は力学的な振動などというものに興味はなく、数式だけ見て軽く受け流していたのだった。
 この振動の様子をイメージしようとして、 もともと静止していた物体が力を受けて動き始めるシーンから考え始めると、 この、外力とは反対向きに動くという事実はいかにも直観に反するように思えてしまう。  しかし最初に外力に加速されて動き始めた動きは、平行移動的に移動する成分として残るのである。  外力は振動的であり、やがて外力が反転することで物体に減速がかかることになるわけだが、 運動の勢いが残っているのでしばらくはそのまま進み続ける。  やっと逆戻りをし始めるのは変動する外力とは完全に逆のタイミングである。  しかし以上のイメージは自由な空間で起こる話であって、プラズマ中では平行移動的な動きは制限を受けて、 熱運動のエネルギーにまぎれて消えるだろう。
 やれやれ、なかなかうまく説明できたものだ。ところが、この説明は誤解を招く可能性がある。実は私自身が誤解してしまっており、後の方の説明を書く段階になって気付いた矛盾を解決するために数日を費やすことになってしまった。今回の話は、静電場の分極とは異なる点が多いのである。

 静電場の場合には、物質中に分極が起こることで外部から掛けられた電場を弱めるという現象が起こる。そして物質の誘電率の値は真空の誘電率の値より必ず大きくなる。誘電率が 2 倍なら、物質中の電場は 1/2 にまで抑えられるというような関係が成り立っていることが言える。

 だとすれば、今回のように誘電率が小さくなる場合にはどうなのだろう?例えば誘電率が真空中の値の 1/2 なら、内部の電場は 2 倍にまで増強されていると言えるのだろうか。1/10 なら、10 倍にもなっていたりするのだろうか。それくらいの値ならまだ信じられるが、今回の場合には、誘電率がほぼ 0 になることだって簡単に起こりそうだ。その場合にはプラズマ内部の電場は無限大に・・・?なるわけがない!

 電磁波の場合にはそのような関係は成り立っていない。確かに電子が移動することで分極に似た作用が起こることは起こる。しかし電子が元の位置から最も離れた位置にあって、分極の効果が一番大きいのではないかと思えるちょうどその時、電子の速度は 0 になっており、先ほど使った「アンペール・マクスウェルの法則」の電子密度の項には全く影響を与えていないではないか。また、静電場の場合には分極電荷は物質の両端に顔を出すことになり、そいつが作った電場が外部の電場を弱めるという解釈ができるわけだが、電磁波の場合には場所や時間によって電子の変位が異なるのだから、そのようなイメージも成り立っていない。このように、静電場の時とは状況や原理が全く異なっているのである。

 だから、電子の移動によって電場が強められているとか弱められているとかいう表現は適切ではないことになる。生じた電流密度が電場の変化の効果を補助しているかどうか、という見方をするべきだろう。その効果の結果を誘電率という量に押し込めて表しているのである。

 こうして言ってしまうと、先ほどの数式の通りのことをそのまま言っているに過ぎないと思えるわけだが、世の中には誤解を誘うような表現が意外と多く、私もそれに流されたのであった。後でもう一度この話に戻ることになる。

追記 この記事を仕上げた時点では私はまだ誤解をしている。  「誘電率が 1/2 倍になるならプラズマ内部の電磁波の電場の強さは 2 倍になる」という法則は、実は成り立っていることが示せるのである。  もし今回のような理想的な理論通りならば、電磁波の振動数がプラズマ振動数(後述)と一致した時点で内部の電場は無限大になるだろう。  しかし、現実の電子はそこまで大きな振幅に追随できないため、理論通りにはならない。  よって無限大の電場も実現しないし、誘電率が 0 になることもないのである。
 だから、プラズマ内部では電場が強められているという考え方をしても良いし、電流密度によって補助されると解釈してもどちらでも良い。  これについてはしばらく後の記事「物質中の光速」を書いている中で気付くことになった。  そこに至る考えは、そちらの記事を参考にしてもらいたい。  今回の計算内容を見ているだけではそこに気付きにくいのである。
 かくして、プラズマ中では電場成分の働きが電流密度によって補助され、磁場の変化の度合いもその影響を受け、プラズマ中での光速\( c' \)は真空中よりも速くなるわけだ。
\[ \begin{align*} \frac{c'}{c} \ =\ \frac{1/\sqrt{\varepsilon \, \mu}}{1/\sqrt{\varepsilon\sub{0} \, \mu\sub{0}}} \ =\ \sqrt{\varepsilon\sub{0}/\varepsilon} \ =\ \frac{1}{\sqrt{1 \ -\ \displaystyle \frac{e^2 n}{\varepsilon\sub{0} m \omega^2}}} \tag{4} \end{align*} \]
 真空中の光速よりも速く伝わる波が相対論に反するのではないかと思うかも知れないが、それは定常状態に達した時にそのように見えるだけであって、残念ながら意味のある信号はこの超光速を使っては伝えられない。プラズマに突入したばかりの電磁波の先端が光速を超えないことは計算ではっきり示すこともできるが、フーリエ解析や複素積分などを駆使する必要があるので、ここではやめておこう。
 どうしても知りたい人は例えば、砂川重信著『理論電磁気学』の第8章「電磁波」の 第3節「誘電体中の電磁波」の例題3「分散性物質内の電磁波の先端速度」で2ページ半くらいに渡る計算がある。  複素積分を理解していればそれほど難しいわけではない。
 もう少し単純な説明で良ければ、以前に私が書いた「群速度」についての記事が参考になるかも知れない。エネルギーや情報は群速度で伝わるので、群速度が光速を越えていなければ問題ない。念のため、今からそれを確かめておこう。


群速度は光速を越えていない

 先ほど求めたプラズマ中の電磁波の速度\( c\,' \)は振動数\( \omega \)によって異なる値を取る。(4) 式は少しややこしく見えるので、次のように書き直しておこう。
\[ \begin{align*} c\,' \ =\ \frac{c}{\sqrt{1 \ -\ \displaystyle \frac{{\omega_p}^2}{\omega^2}}} \tag{5} \end{align*} \]
 ここで使った\( \omega_p \)というのは「プラズマ振動数」と呼ばれており、次のようなものである。
\[ \begin{align*} \omega_p \ =\ \sqrt{\frac{e^2 n}{\varepsilon\sub{0} m}} \end{align*} \]
 ここでは「ややこしい定数をひとまとめにしたら振動数の次元の量が出来た」くらいの理解をしておいてもらえばいいだろう。この意味は別の記事で詳しく説明することにする。群速度を求めるために、プラズマ中での電磁波の波数と振動数の関係がどうなっているかを考える。そういうものを「分散関係」と呼ぶのだった。プラズマ中の波の速度は\( c' \)であり、波の速度というのは\( \omega/k \)で表されるので、(5) 式を使って、
\[ \begin{align*} \frac{\omega}{k} \ =\ \frac{c}{\sqrt{1 \ -\ \displaystyle \frac{{\omega_p}^2}{\omega^2}}} \tag{6} \end{align*} \]
と置く。後はこれを変形してやると、意外と簡単な形になるのが分かる。
\[ \begin{align*} &\frac{\omega^2}{k^2} \ =\ \frac{c^2}{1 \ -\ \displaystyle \frac{{\omega_p}^2}{\omega^2}} \\[3pt] \therefore\ &\frac{\omega^2}{k^2} \ -\ \frac{{\omega_p}^2}{k^2} \ =\ c^2 \\[3pt] \therefore\ &\omega^2 \ -\ {\omega_p}^2 \ =\ c^2 k^2 \\[3pt] \therefore\ &\omega^2 \ =\ {\omega_p}^2 \ +\ c^2 k^2 \end{align*} \]
 この最後の形がシンプルで綺麗なのだが、次の計算がやりやすいように左辺の 2 乗を外しておこう。
\[ \begin{align*} \omega \ =\ \sqrt{ {\omega_p}^2 \ +\ c^2 k^2 } \end{align*} \]
 群速度はこれを\( k \)で偏微分してやればいいのだった。
\[ \begin{align*} \pdif{\omega}{k} \ &=\ \frac{1}{2} \big({\omega_p}^2 \ +\ c^2 k^2 \big)^{-\frac{1}{2}} \ c^2 \cdot 2k \\[3pt] &=\ \frac{c^2 k}{\sqrt{{\omega_p}^2 \ +\ c^2 k^2}} \ =\ \frac{c^2 k}{\omega} \ =\ c^2 \frac{1}{\omega/k} \\[3pt] &=\ c^2 \frac{\sqrt{1 \ -\ \displaystyle \frac{{\omega_p}^2}{\omega^2}}}{c} \ =\ c \ \sqrt{1 \ -\ \displaystyle \frac{{\omega_p}^2}{\omega^2}} \end{align*} \]
 このように、必ず真空中の光速度\( c \)より小さくなることが分かる。


波長は伸びて虚数になる

 プラズマ中では電磁波の振動数\( \omega \)が大きくなればなるほど、位相速度も群速度も真空中の光速度\( c \)に近付くことが分かる。まるで真空中を進むかのように、プラズマの存在を気にしないで振る舞うようになるわけだ。

 しかしその反対に、振動数が小さくなり過ぎるとまずいことが起こるのが分かる。電磁波の振動数がプラズマ振動数\( \omega_p \)と同じになるとき、位相速度は無限大になり、群速度は 0 になるだろう。それ以下の振動数ではルートの中がマイナスになって、式が破綻する。(3) 式で言えば、誘電率が負になる状況である。

 プラズマ振動数\( \omega_p \)より低い振動数\( \omega \)の電磁波がプラズマに進入しようとする時、一体どんなことが起こるだろうか。結論から先に言えば、「電磁波はプラズマ中に進入することができず、全反射する」である。しかしなぜそんなことが起きるのだろう。

 世に出ている幾つかの解説では次のようなことが書かれているが、誤りである。「プラズマ振動数以下ではプラズマ中の電子が電磁場の動きに容易に追随するようになり、電場を打ち消すように動く。導体の内部では自由電子によって外部の電場が静電遮蔽され 0 になることが言えるが、ここで起きているのはあたかもそれと同じような状態である。かくして、電磁波はプラズマ内部には進入することが不可能になる」と。

 いや、これはおかしい!(2) 式を見る限り、電子は振動数の高い低いに関係なく電場に追随して動いているわけだし、プラズマ振動数を境にしていきなり振る舞いが変わる様子もない。むしろ、振動数が下がれば下がるほど、より強く電場を補助しようと振る舞っているようにさえ思える。

 先ほども話したように、あたかも静電遮蔽のような形で電子が電場を遮蔽するというイメージはあまり正しくはないようだ。

 だとしたら本当に起こっていることは何なのだろう。このプラズマ周波数を境にして一体何が変わるというのだろうか?ここを境にして電磁波が反射されるかどうかの運命がはっきりと分かれるというのはどうにも奇妙な話ではないか。

 振動数の違いによってプラズマ中の電磁波にどんな違いが出るのかに注目してみよう。振動数というのはプラズマに入る前後で変わったりしないものだが、速度に変化があるのだから波長は変わるだろう。どのように変わるかを見るために、(6) 式を変形してやる。

\[ \begin{align*} k \ &=\ \sqrt{1 \ -\ \displaystyle \frac{{\omega_p}^2}{\omega^2}} \ \frac{\omega}{c} \\[3pt] &=\ \sqrt{\omega^2 \ -\ {\omega_p}^2} \ \frac{1}{c} \end{align*} \]
 振動数\( \omega \)がプラズマ振動数\( \omega_p \)に近付くほど、波数\( k \)は 0 に近付く。つまり、波長は無限大に伸びてゆくことになる。そしてもし\( \omega \lt \omega_p \)ならば波数は虚数になってしまうわけだ。波数が虚数で表される波とはどんなものだろうか?\( A e^{i(kx-\omega t)} \)のような指数表示を採用してやればいい。\( k \)が実数のうちはこの実数部分は\( \cos \)関数で表せるので通常の波を表すのにも使える。そしてこの形式では\( k \)が虚数になっても使えるのである。
\[ \begin{align*} A e^{i(kx-\omega t)} \ &=\ A e^{ikx} e^{-i\omega t} \\ &=\ A \exp \left( -\sqrt{|\omega^2 \ -\ {\omega_p}^2|} \ \frac{x}{c} \right) e^{-i\omega t} \end{align*} \]
 要するに、プラズマ中を距離\( x \)だけ進めば進むほどに減衰する形の波である。その形のまま\( e^{-i\omega t} \)というタイミングで正負に揺れる。つまり、電磁波はプラズマ中に一切進入できないのではなく、ある距離までは減衰しながらも進入できるということだ。
 指数関数をこのようにして使うのは慣れない人にとっては数学上のトリックに思えるかも知れない。  しかし微分方程式で波の形を求める時には指数関数の解が出てくるし、 その一般解を組み合わせれば普通の三角関数を使った実数解の形に表し直すことも出来て、 実はどちらで表そうとも等価であることが分かる。  そしてそのような微分方程式からは減衰する波を表す解が導かれることもあり、 そういう場合には実際にそういう波だけが存在できることを意味していたりするのである。
 この式から読み取れることは、\( \omega \lt \omega_p \)の時には、距離
\[ \begin{align*} \delta \ =\ \frac{c}{\sqrt{|\omega^2 \ -\ {\omega_p}^2|}} \end{align*} \]
だけ進入するごとに、電場は\( 1/e \)に減衰するということである。ちょうど\( \omega_p \)の場合にはその距離\( \delta \)は無限大であり、まだ減衰する様子はない。波長が無限に長くなった波と同じようなものである。そこから振動数が小さくなるほど、急激に減衰する形になってゆく。

 電磁波が反射されるかどうかという視点で見るならばこれはプラズマ振動数を境にして全く違う結果になる現象なのだが、実は、波の形の変化で見れば滑らかに繋がっている現象であることが分かる。


で、どうして反射するの?

 こうして、プラズマ振動数以下の電磁波はプラズマ中を通過できないことを説明することができた。しかしこれだけでは「だから反射するのだ」とまでは堂々と言えないのが辛いところだ。

 今回は話を簡単にするために、電磁波が電子を揺らしてすでに定常状態になっているという仮定で計算を始めた。もしも初めて電磁波が突入してくる場面から始めて、そこから定常状態に達するまでの各所の電場の変化を計算しようとしたならば、それなりに面倒なことになるに違いない。

 エネルギー保存の観点から、入射波と反射波を考えてやって、それらを合わせた波がプラズマ中の減衰波の解と繋がるようにすれば、辻褄は合うだろう。しかしそんな取って付けたような説明で納得できるだろうか。

 「プラズマ中の電子が入射電磁波による強制振動を受けて電磁波を再放射する、それが反射波だ」という説明もできるが、それは今回も使っているマクスウェル方程式に含まれている内容である。今回の結果は定常状態に達した後の様子を表しているので、電子が揺れて電磁波が放射されたのか、電磁波を受けて電子が揺れているのかの区別はない。実際に起きているのはその両方だ。電子の動きと電磁場が協力して方程式の条件を満たしていればそれでいいのである。

 電磁波の反射については色々な観点から説明ができそうだ。高校物理に載っているような、多数の波源から生じて円状に広がる波の波面が揃うイメージを使うのも一つだろう。しかしより正確には、マクスウェル方程式を使って導いた方が良いかも知れない。それはプラズマでの反射に限らず成り立つ話なのだが、そう言えばまだそのような説明を書いたことがないのだった。今までそういう話にはあまり興味を持てないでいたのだが、いよいよ考える機会がやってきたようだ。