静電場

「場の理論」はここから始まる。

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電荷は電場から力を受ける

 前の章では電荷と電荷の間に力が働くという説明をした。しかし、遠く離れた物体とどうやって力を及ぼし合っているのであろうか?例えば前に出てきた式によれば、力は弱くなるものの、かなりの距離が離れていても互いの間に力が働いていることが分かる。しかし、電荷は他の電荷がそこに存在することを、さらには他の電荷までの距離をどうやって知るというのだろうか?お互いの間に特別な超光速の通信チャンネルがあって、申し合わせたように移動するというのならこのようなことも可能かも知れないが、その場合、全宇宙の全ての電荷との間に無限の通信チャンネルが必要である。電荷と電荷の間に直接力が働くと考えるのはどうも無理がある。それでも18世紀ごろの知識ある学者たちの多くは「直接働く力」の方を支持していたようである。おそらく数学的に表現できることだけで満足してしまっていたのではないだろうか。

 そこでファラデーは、電荷と電荷の間に力が働いているのではなく、電荷が周りの空間に影響を与え、その影響を受けた空間に別の電荷がやってくると電荷はその空間から力を受けるのだと考えた。

 この影響を受けた空間のことを「」と呼ぶ。「場」というのは英語で言えば「field」だ。直訳するとあまりかっこ良くないが、すなわち畑のことである。ファラデーは場のベクトルの向きが変化する様子を、畑の穂が風にたなびく風景と重ねたのであろう。これが「場の理論」の始まりである。

 「場」には電荷による場の他にも、磁力による場、さらに後年、この考えを重力に当てはめたりしているので、「電場」「磁場」「重力場」などと呼んで区別することにする。

 では、この考え方に合わせて電場を数学的に表現しよう。大した事はない。前に出てきた電荷と電荷の間に働く力の式を少し書き改めるだけある。つまり、ある電荷\( q\sub{1} \)が存在する時、この電荷は回りの空間に影響を与えて、

\[ \begin{align*} \Vec{E} = \frac{q\sub{1}}{4\pi \varepsilon\sub{0}} \frac{\Vec{r}}{|\Vec{r}|^3} \end{align*} \]
だけの電場を作っていると考えるのである。そして、その電場に入った電荷\( q\sub{2} \)は電場から
\[ \begin{align*} \Vec{F} = q\sub{2} \Vec{E} \end{align*} \]
という形で表せる力を受けるとする。電場はそれぞれの点で向きや大きさが違っており、ベクトルで表される量である。そしてその中に入った電荷はその電場のベクトルの向きに力を受ける。

 これは前に出てきた力についての式を二つの部分に分けただけであり、少し解釈を変えただけの話である。確かに19世紀ごろまでは単に解釈の問題であった。しかし、この「場」の考え方は、直接力が働くとした場合には思いもしないような結果を導いて後に勝利を収めるのである。


自己場

 前に力の重ねあわせが成り立つことを説明した。電場というのは力についての式を分けただけのものなので、当然電場の重ね合わせも同じように成り立っているはずだ。

 いろいろな位置に分布する電荷がそれぞれに場に与える影響をすべて重ね合わせてやれば合計の電場が計算できる。

 ある一つの電荷が、それ以外の多数の電荷から受ける力を計算したければ、あらかじめ多数の電荷が作る電場を合計しておいて、その電場からその一つの電荷が受ける力を計算してやればよい。

 さてこの時、その一つの電荷自身が周囲に作る電場への影響を計算に入れないでもいいのだろうか、と思うかもしれない。あるいは逆に、計算に入れてもいいのだろうかと思うかもしれない。電場というものが実在するのなら、当然自分自身も周囲に電場を作っているはずだ。ところがこれを考慮に入れようとするととんでもない問題にぶつかる。

 その電荷の存在する点、すなわち\( r = 0 \)の点では電場の大きさが無限大になり、電場のベクトルの方向が決められない「特異点」となってしまうのである。

 しかし、ここでは気楽にこう考えよう。別に自分自身が作り出す電場の影響を入れても入れなくてもどちらでもいいではないか。その電場はその電荷を中心にして周囲に球対称に影響を与えるだけであり、そのど真ん中に位置するこの電荷自身への力は釣り合っていて影響を与えないのだろう、と。

 こんな気楽には考えられないという人は次のように考えればいい。電荷が一点に集中しているような「点電荷」を考えると特異点の問題があるので、これを避けるために電荷が小さな領域にぼんやりと密度\( \rho \)で分布していて全体で電荷\( q \)になっていると考えてやる。こうすれば、この電荷は自分自身には力を及ぼさないという事をちゃんと示すことができる。小さな領域の一角にあるさらに微小な領域 A 内にある電荷が別の微小領域 B に力\( \Vec{F} \)を及ぼす時、逆に B 内の微小電荷は A 内の電荷に\( -\Vec{F} \)の力を及ぼすので、領域全体としては力が釣り合っているという論理だ。

 このような、自分自身が周囲に作り出す電場への影響は「自己場」と呼ばれており、実は考慮に入れないとエネルギー保存則に矛盾が出てくることが後で分かる。電荷が加速運動する時にそれをとどめようとする力「自己力」を説明するためにも必要なのである。しかし、今は静電場のみを考えているのであって、電荷が加速する場合のことはまだ範囲外である。だからこの段階では自己場の必要性が分からなくても構わない。