微分法則を使う理由

説明できなかった部分をここで補う。

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2つの式から電場の形が決められるか?

 前のページでは、静電場の満たす2つの重要な式
\[ \begin{align*} \mathrm{div} \Vec{E} &= \frac{\rho}{\varepsilon\sub{0} } \\ \mathrm{rot} \Vec{E} &= 0 \end{align*} \]
が求まった。既にマクスウェルの方程式の 4 つの式のうちの 2 つが出来上がろうとしていることにお気づきだろうか。まだ電束密度\( \Vec{D} \)についての解説をしていないが、\( \Vec{D} = \varepsilon\sub{0} \Vec{E} \)という関係があり、これを使うと初めの式は\( \mathrm{div} \Vec{D} = \rho \)という簡単な式になる。電束密度については後でまとめて説明するつもりだ。また、もう一つの式も電磁誘導の関係式を追加すればマクスウェルの方程式の一つになるところまで来ている。

 しかしその前に静電場についてもう少しはっきりさせておきたいことがある。それは、果たしてこの 2 つの式で十分かということだ。つまりここまでで求められた 2 つの式からちゃんと\( \Vec{E} = \frac{1}{4\pi\varepsilon\sub{0}} q\sub{1} \Vec{r}/|\Vec{r}|^3 \)という静電場についての式が復元できるのかということだ。もし復元できるのならば今後、\( \Vec{E} = \frac{1}{4\pi\varepsilon\sub{0}} q\sub{1} \Vec{r}/|\Vec{r}|^3 \)という表現を使うのをやめて、代わりにここで求めた 2 つの式を使うことにするのに何も問題はないわけだ。

 なぜ直感的に分かりやすい以前の表現を捨ててまで、微分を使った新しい方の表現を使いたがるのかと言えば、ただかっこいいからという理由以外にもちゃんとした理由がある。以前の式には、電場を求めようとする位置から電荷が存在する位置までの距離を表す r がそのままの形で含まれており、一応は「電場」による表現を使ってはいるけれども「遠距離間に直接働く力」というニュアンスが拭い切れていないのである。

 その点、新しい表現にはそういうものが含まれていない。求めたい電場は、そのすぐ傍の電場の大きさとその点に存在する電荷の密度のみで決まる。つまり、「その場」のみの性質で全てが決まるのである。日本語で「field」を「場」と訳したのはこのようなニュアンスがあったのだろう。

 これからは、電場の大きさは電荷からの距離に応じて決まるという表現ではなく、各点の「場」の性質の積み重ねで全体が決まっているのだと考えるようにしたいわけだ。果たしてここまでで求められた2つの表現にはその資格があるのだろうか?


静電ポテンシャル

 まず\( \mathrm{rot} \Vec{E} = 0 \)について考えよう。これはもともと電場の一周積分が 0 になるという条件から導かれたものであった。この状況は地面の高低差に例えることができる。どのように地面の上を旅しようとも元の場所に戻ってくれば必ず初めと同じ高さにたどり着く、という状況に似たところがある。

 電場をこのような例えを使って論じることが出来るように「静電ポテンシャル」というものを導入しよう。この例えの中では地面の高さに相当する概念である。電場はこの静電ポテンシャルの傾きに相当すると考える。地面の場合、傾きを積分すると高さになるからである。

 上空から見た位置座標\( x, y \)によって高さ\( h \)が決まる時、その高さの関数\( h ( x, y ) \)を微分して作ったベクトル\(( \pdif{h}{x},\ \pdif{h}{y} )\)は傾きの度合いと方向を表すが、これと同じ考えにより電場\( \Vec{E} \)

\[ \begin{align*} \Vec{E} = \left( -\pdif{\phi}{x},\ -\pdif{\phi}{y},\ -\pdif{\phi}{z} \right) \end{align*} \]
と表されると考えることにする。ここでマイナスがついている理由は電場の向きが電位の高い方から低い方へ向かっているというイメージで表したいからである。ただ微分しただけではベクトルは高い方を指してしまうことになるだろう。∇を使って表せばもっと簡単に
\[ \begin{align*} \Vec{E} = - \nabla \phi \end{align*} \]
と書ける。

 ここで電位という言葉を使ったが、静電ポテンシャルの「高さ」を電位という言葉で表現する。そしてその「標高差」に相当する概念を「電位差」と呼び、単位は「ボルト」で表す。普通に電圧とか起電力とか呼ばれているものの単位と同じである。これらの用語は場面によって区別する必要はあるのだが、細かいことを抜きにすれば本質はみんな同じなのである。

 この\( \phi \)が静電ポテンシャルと呼ばれる理由は、これに電荷の単位をかけるとエネルギーの次元になるからである。もともと今考えている\( \mathrm{rot} \Vec{E} = 0 \)という条件がエネルギー保存から出てきたことを思い出すといい。素粒子論では小さなエネルギーを表現するのに eV (エレクトロンボルト)という単位をよく使う。電子が 1V の電位差を駆け抜ける間に獲得するエネルギーに相当する。


直観的な説明

 静電ポテンシャルを定義できたので、ようやく電場を先ほどの地面の例えに重ねて議論できるようになった。ただし地表面の例えは2次元を考えているが、実際の電場は3次元内で定義されるものなのでこの点で両者が異なることに気を付けなくてはいけない。

 さきほど、どのように地面の上を旅しようとも元の場所に戻ってくれば必ず初めと同じ高さにたどり着く、と書いたが、このようなことが起こるためには地面の形について少々の制限が必要である。まず、螺旋階段のような地形はだめである。ぐるりと一周するとかつていた場所を見下ろすことになってしまうからである。またオーバーハングの地形、すなわち90度以上の傾斜も許されないことになる。トンネルもあってはいけない。イメージが湧きやすいように色々言ってはいるが、数学的に言えば結局この地面の高さは、座標によって一意に定まる関数で表されていなくてはいけないということだ。

 これと同じ条件が静電ポテンシャルにも求められる。\( \mathrm{rot} \Vec{E} = 0 \)という条件が意味するのはこのことなのである。さらに言えば、電場が定義できるためにいたるところで微分可能、すなわち地面に例えれば、とがった部分がまったくないということも必要である。

 しかし、これだけで電場の形が\( \Vec{E} = \frac{1}{4\pi\varepsilon\sub{0}} q\sub{1} \Vec{r}/|\Vec{r}|^3 \)に定まるだろうか?まだ程遠い気がする。もう一つの\( \mathrm{div} \Vec{E} = \rho/\varepsilon\sub{0} \)の条件の方が静電ポテンシャルの形を決定する上でより重要な制限をしているのではないだろうか。

 そこでなんとかもう一つの条件についての直観的イメージが描けないものかと考えてみたが、やはり地面の例えでは限界がある。

 例えばこの地面は正の電荷に近付くほど距離に反比例して高くなり、ついには正の電荷の存在する一点で無限大の高さに至るはずだ。これは塔のようにそびえ立っているように見えることだろう。また、負の電荷の存在するところでは無限に深い穴になっている。

 しかしこれは\( \Vec{E} = \frac{1}{4\pi\varepsilon\sub{0}} q\sub{1} \Vec{r}/|\Vec{r}|^3 \)を積分した結果から言えることであって、\( \mathrm{div} \Vec{E} = \rho/\varepsilon\sub{0} \)から直接イメージできるようなものではない。一体なぜ、この式からこのような塔の存在が言えるのかという部分がどうしても直接結びつかずにこじつけっぽくなってしまうのだ。

 直接イメージできないのは非常に悔しいことだが、こうなれば数学の力を借りるしかない。


数学的な説明

 \( \mathrm{div} \Vec{E} = \rho/\varepsilon\sub{0} \)\( \Vec{E} = - \nabla \phi \)を代入してやると
\[ \begin{align*} \pddif{\phi}{x} + \pddif{\phi}{y} + \pddif{\phi}{z} = - \frac{\rho}{\varepsilon\sub{0}} \end{align*} \]
という方程式が出来る。これを「ポアッソン方程式」と呼ぶ。これをラプラシアンを使って表現してやれば、
\[ \begin{align*} \triangle \phi = - \frac{\rho}{\varepsilon\sub{0}} \end{align*} \]
と簡単に書ける。

 この式を解く部分については本筋から離れるので他の教科書を当たってもらいたいのだが、結論だけを言えば確かに\( \Vec{E} = \frac{1}{4\pi\varepsilon\sub{0}} q\sub{1} \Vec{r}/|\Vec{r}|^3 \)はこの方程式の解になっている。しかしそのことだけで満足してはいけない。問題にしたいのは、これだけがこの方程式の解ではないということである。つまり、静電場についての二つの微分法則は電場を決定する上での必要条件ではあるが十分条件ではない。残念ながら二つの微分法則だけでは初めに考えていたようには電場の形を決定することは出来ないことになる。

 ポアッソン方程式から静電場の形を現実の形に特定するためには境界条件と呼ばれる条件がさらに必要であり、それを当てはめて解かなければならない。

 しかし考えてみれば当たり前だ。前に説明したように場の表現においては、ある点の性質はその点自身とその周辺の場の性質だけで決まるのであり、その積み重ねによって全体の性質が決まっているのであった。
つまり、ある点の場の性質が知りたければそのすぐ隣の場の性質を知らなければならず、そのすぐ隣はそのまた隣の性質から決まっており、さらにその隣は・・・・という具合になっており、ずーっとずーっと行った先ではどうなっているのかということを決めてやらないでは何も決まらないのである。境界条件はそれを決める為に必要なものなのだ。

 現実の問題を解く時には境界条件として、「金属表面では電位は等しい」とか「無限遠では電場は 0 に近付く」などといった条件を使うことでようやく正しい解を得ることが出来る。

 「マクスウェルの方程式」に電磁気学の全ての法則が集約されていることには間違いはないのだが、そこに電磁気学の全てが含まれているわけではないことに注意しなくてはならない。この議論の続きはマクスウェルの方程式が全て出揃った後で再びすることになるだろう。微分法則とはこのように決してそれだけで完全なものではないのだと知った上で付き合っていくべきものなのである。