核反応いろいろ

てきとーにやっちゃうよー。

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理科の復習

 中性子が存在することが発見されたお陰で、原子についてはすっきりと理解できるようになった。

 要するに原子番号は原子核の中にある陽子の数であり、これが元素の種類を決めている。原子核の持つプラスの電荷に引き寄せられて、陽子と同じ数の電子が周囲に従うことになるので、その電子の振る舞いによって化学的性質のほとんどが決まるわけだ。

 そして同じ元素であっても、原子核に含まれる中性子の数は色々とあり得る。原子核の中に含まれる陽子と中性子の数の合計を「質量数」と呼ぶ。同じ元素であっても質量数の違う原子核というものが幾つもあるわけで、兄弟分みたいなものである。それらを「同位体(アイソトープ)」と呼ぶ。

 アイソというのは「同一の」「類似の」「等しい」などの意味を持つ英語の接頭辞である。  じゃあ、トープは何かって?  ギリシャ語の topos、場所という意味である。  周期律表の上で「同じ場所」にありますよ、という意味らしい。
 例えば、炭素の原子番号は 6 で、原子核には 6 個の陽子が含まれるが、中性子も 6 個含むようなものは質量数が 12 である。これを\( ^{12}C \)という記号で表し、「C 12」とか「炭素 12」とかの読み方をする。こんな風に質量数は元素記号の左上に小さく書く決まりである。ちなみに、元素記号の左下には、原子番号を書くことがある。これは元素記号を見ても原子番号がすぐに思い出せない人への親切なサービスである。

 \( ^{12}C \)の他に\( ^{11}C \)\( ^{13}C \)\( ^{14}C \)というものもある。これらは皆、炭素の同位体である。

 ところで、中性子の数は幾つでも入っていていいというわけではない。多くても少なくても原子核は不安定になり、別の元素へと変化してしまうことになる。あまりに不安定なものは一瞬で変化するし、何億年もかかって少しずつ変化するものもある。一方、安定なものはいつまで経っても変化しない。安定に存在していられるためには、陽子の数と中性子の数の組み合わせに何らかの条件があるようだ。それは厳密に一通りの組み合わせに限られるというわけではない。

 例えば、\( ^{12}C \)\( ^{13}C \)は安定な同位体であるが、その他は不安定な同位体である。テクネチウムのように、安定な同位体が一つも存在しない元素もあれば、10 種類以上もの安定な同位体が存在する元素もある。天然においては、これらの安定な同位体、あるいは不安定であっても長寿命な同位体が、色んな割合で混じって存在しているわけだ。

 では、陽子と中性子の数がどんな条件を満たすと核は安定になるのだろうか。それは一言で言えるほど簡単ではないのである。原子番号の小さいものについては陽子と中性子が同数あるのがいいのだが、原子番号が大きい方を見ていくとだんだんと中性子が多い方が安定してくるという傾向がある。しかしその漠然としたルールから大きく外れるケースもある。それらを説明する理論は色々とあり、原子核物理という分野での主要なテーマの一つである。多分、こういうことについて話し始めると簡単には済まないので今は手を出すのをやめておこう。(魔法核とか魔法数とかいう興味をそそる用語が出てきてなかなか面白いのであるが。)

 とにかく陽子の数と中性子の数の組み合わせによって、安定なものも、そうでないものも、色んな種類の原子核がある。これらについて議論するときには「核種」という用語を使うのが便利である。「原子核の種類」という意味であり、「安定な核種」とか「この核種は安定である」とかいう具合に使う。「安定な同位体」などと表現するのと似た意味で使われているが、同位体というのは一つの元素内に限られてしまう用語なので都合が悪いことが時々あるのである。


原子核の崩壊

 安定な核種もあれば、不安定な核種もあるということである。不安定な核種はアルファ線、あるいはベータ線のどちらかを出して別の核種へと変化する。アルファ線を出して変化することを「アルファ崩壊」と呼び、ベータ線を出して変化することを「ベータ崩壊」と呼ぶ。崩壊という言葉は少し大げさで、実際のところは別の核種に変化するだけである。昔は元素が変化するというのはそれほどまでに信じ難く、衝撃的な発見だったわけだ。それで最近では「崩壊」という言葉の代わりに「壊変」という訳し方をすることもある。変化した結果、以前より安定な核種に変わるとは限らない。

 アルファ崩壊が起こる仕組みと、ベータ崩壊が起こる仕組みはそれぞれ全く違う。仕組みは違っていても、どちらも確率的に起きる現象だという点では同じなので、どちらにも半減期という概念が適用できるし、同じような扱いで計算ができる。アルファ崩壊だけを起こす核種もあれば、ベータ崩壊だけを起こす核種もあり、どちらの崩壊も起こし得る核種もある。これらの仕組みの説明は次回以降のどこかで行うことにしよう。

 ところでアルファ線やベータ線の他にガンマ線というのもあるのだった。実は私もすっかり忘れていたのだったが、説明しておかないといけないだろう。これはアルファ崩壊やベータ崩壊が起こった直後に、ついでのようにして出てくる事が多い。それはなぜか。アルファ崩壊やベータ崩壊の直後には原子核の内部はすっかり状況が変わってしまってごたごたしている。それでエネルギーが有り余っている状態になっている事があり、それを電磁波の形で放出することで内部のごたごたを解消するのである。これを「ガンマ崩壊」と呼ぶが、核種の変化が起こるわけではない。


核分裂と核融合

 ついでだから、これ以外にも原子核の変化は色々な形で起こるということを書いておこう。質量数の大きな原子核の中に中性子などを飛び込ませると、それがきっかけとなって二つの部分に分かれてしまうということも起こる。これは「核分裂」と呼ばれる現象だ。実は巨大な原子核というのは、ぶよぶよと揺れる水滴のような状態になっていて、一方の端から他の端への引力も届きにくくて弱くなっている。それよりは小さな集団で固まっていた方がしっかりとまとまることができる。余ったエネルギーを外に放出するチャンスがあるなら、何かをきっかけとしてそういうことが起こるのが自然というものだ。分かれて存在している方が全体のエネルギーが低くなるときにはそういうことが起こる。そういう目で見ると、アルファ崩壊というのも核分裂の一種だと言えるだろう。

 核分裂が出たから「核融合」にも軽く触れておこう。陽子や中性子の間には強い引力が働いているから、軽い原子核どうしを近づければ、当然引き合うだろう。しかしそのまま引っ付いた状態のままで落ち着くためにはエネルギーが邪魔になる。もしエネルギーを放出することができれば、つながったままでいられるわけだ。地球に隕石が衝突するときのことを思い浮かべると理解の助けになるかも知れない。落下によって隕石が加速して、エネルギーが熱や光や衝撃として外部に放出されるのと似たようなものだ。もし隕石が少しもエネルギーを失わなければ再び地球から元と変わらぬ速度で離れて行くことだろう。エネルギーを放出して失うからこそ、一つになれるのだ。

 核融合と言っても、必ずしも一つに固まる結果で終わるわけではない。原子核に向かって色々とぶつける実験をしてみると、中性子が単独で飛び出してくることもあれば、陽子が飛び出してくることもある。たまに、「核融合は水素と水素を合わせてヘリウムにする反応だから、核分裂のような危険な放射能が出なくて安全だ」などというデタラメな記事を目にすることがある。実際には核融合でどんな放射線や放射性物質が発生することになるのか、主要な反応式を見せて説明してやりたいくらいだ。そうだな、それも面白そうだから、また別の機会にやることにしよう。

 このように、原子核に関しても色々な現象が起こるのである。たまたま自然界ではアルファ崩壊やベータ崩壊が目立っていて、それらが原子核の研究のきっかけになったというだけのことに過ぎない。