ラザフォード散乱

面倒そうな衝突の計算も最先端の理論で重要な意味を持つのだ。

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断面積の基本の確認

 粒子の衝突を考える上で断面積という考え方が重要になる。断面積というのはほとんど文字通りの意味であって、粒子を別の粒子などにぶつける時の標的のシルエットの面積のことである。標的付近を狙ってランダムに銃弾を撃ちこむとき、断面積が大きい標的ほど当たりやすくなるだろう。それで、これは粒子どうしが衝突する確率とほぼ同じ意味で使われるのである。

 形のはっきりした粒子どうしがニュートン力学に従って衝突する場合を考えると、当たり前のことを難しく表現しているだけのような気がしてあまり面白くもないのだが、基本の確認は大事かも知れない。じれったいが、そこから始めた方が良さそうだ。

 半径\( a \)の球体 A と半径\( b \)の球体 B の衝突を考えよう。球体 B を標的として空中に固定して置いておき、球体 A でそれを狙う。z 軸に沿ってまっすぐに速度を与えてぶつけることにしよう。この時、球体の中心を正確に狙えたらいいのだが、それほどの正確さはなかったとする。ただし、撃ち出す方向や速度についてはかなり正確に調整することができるとしよう。これらの仮定は現実的なものである。なぜなら、しばらく後で多数の粒子から成るある程度の太さを持つビームを撃ちこむ話に応用したいからである。しかし今は一つの球を一つの球で狙う話に集中しよう。

 さて、このとき、ど真ん中を狙えなくてもいいから、ただ、かすりさえすればいいと考えるなら、中心からどれくらいずれることが許されるだろうか?答えは\( a + b \)である。なぜそうなるのかは難しくないので考えてみてほしい。つまり半径\( a+b \)の円内に狙いを定めることが出来れば目的は果たせるわけで、この衝突の断面積は\( S = \pi (a+b)^2 \)だということになる。

 もしこの射出された球体 A が標的 B に比べてとても小さくて、点状粒子だとみなせるならば衝突の断面積は\( S = \pi b^2 \)となり、球体 B のシルエットの面積とほぼ同じである。

 考えを楽にするために、球体 A を点状粒子だとみなして話を進めよう。この点状粒子 A の進入コースを半径 1 mm の細い円筒領域内に収めることに成功したとしよう。この領域内のどこにあるかまでは制御できなかった。そして球体 B はもっとずっと小さくて、そのコースの内側に確実に収まっているとする。このセッティングで、球体 B に当てることの出来る確率は、断面積で比較してやればいい。つまり標的 B の断面積\( \pi b^2 \)\( \pi [\rm{mm}^2] \)で割ってやればいいわけだ。

 では標的粒子 B の数を増やしてやったらどうなるだろうか。全ての標的粒子が一定の範囲内に収まっており、しかも狙う側から見た時に互いに重なっていなければ、当たる確率は標的の数に比例して増えることだろう。重ならないように配置するという部分はかなり重要であるが、標的の一個一個の断面積が十分に小さくてランダムに配置していれば防げることである。原子が規則正しくならんでいる結晶に向かって結晶の向きに沿って粒子を撃ち込むとこの条件が満たせなくなる。ラザフォードは金箔に向かってα線粒子を撃ちこむ実験を監督したときにこの条件を配慮した。金は延性が高くて、向こうが透けて見えるほど薄く伸ばすことができる。こうして標的の原子が重なることをできるだけ避けたのである。

 弾丸粒子と標的粒子が一対一だと確率の話にしかならないが、どちらも多数ある場合にはもっと具体的な話になってくる。個数密度\( \rho_a \)の弾丸粒子の群れがあるとしよう。つまり体積\( V_a \)中に\( N_a \)個の粒子があって\( \rho_a = N_a/V_a \)という状況である。このような密度の、まるで雲か霧のようなものを速度\( v \)にまで加速して、断面積\( S \)の細いビームを作ることに成功したとする。ひとまず、これだけから何が分かるだろう?

 このビーム内の粒子は 1 秒間に一斉に\( v \)だけ進む。断面積が\( S \)だから、体積\( v S \)内にあった粒子が一定面を通過することになる。つまり、ビームの進路上にスクリーンでも置いておけば 1 秒間に\( \rho_a v S \)個の粒子が衝突することになる。

 ではこのまま話を進めよう。標的粒子の方も雲か霧のように多数存在していて密度\( \rho_b \)でばらばらに分布していたとしよう。つまり体積\( V_b \)中に\( N_b \)個あって\( \rho_b = N_b/V_b \)が成り立つような状態である。粒子は多数存在しているが位置はバラバラであり、弾丸粒子の方から見てほとんど重なりがないほど希薄であるとする。標的粒子一個あたりの断面積は\( s_b \)で、どの粒子も静止しているとする。

 この標的粒子群に先ほどの弾丸粒子群を浴びせることにする。標的粒子群の厚みが弾丸粒子の方から見て\( d \)だったとすると、ビーム上に存在する標的粒子の数は\( n_b = S \, d \times \rho_b \)個である。ほとんど重なりが無く存在しているのだから、標的粒子はこの断面積\( S \)のビームの進路上に合計面積\( s = s_b \, n_b \ =\ s_b \, S \, d \, \rho_b \)のシルエットを作っていることになる。つまり、衝突する確率は\( s/S \)で表せるので\( s_b \, d \, \rho_b \)である。

 ここに 1 秒あたり\( \rho_a v S \)個の粒子が満遍なく飛び込んでくるので、毎秒\( s_b \, \rho_a \rho_b \, v S\,d \)個の粒子が衝突を起こすことになる。

 このように、断面積の概念を使って具体的に起きる現象を表すことができるのである。粒子加速器による衝突実験も、相対論的な補正などが入ったりするが似たような考えが使われている。


電気力で反発されるときの軌道を求める

 ここまでははっきりとした形を持つ粒子どうしの衝突の話であり、当たったか当たらなかったかだけが問題だった。次は電荷を持つ粒子どうしの衝突の話をしてみよう。電荷を持つ粒子どうしは電気力で跳ね飛ばし合うのであり、直接にぶつかったりはしないのだが、このような現象もまた衝突と呼ぶ。多数の粒子を目標にぶつけた場合などには散り散りに跳ね飛ばされるので、「散乱」と呼ぶこともある。ここでも断面積の考え方が応用される。つまり、どの範囲の断面積の内側に入っていった粒子がどの角度の範囲で飛ばされるかという関係を論じることになる。これが今回のメインテーマである「ラザフォード散乱」だ。

 標的粒子が電荷を持っていて、空間に固定されていると仮定する。そこに同符号の電荷を持つ質量\( m \)の粒子を速度\( v \)でぶつけることを考える。このとき、真正面からぶつけることができれば互いの電荷の電気力に跳ね返されて元の位置へと戻ってくるのだが、狙いが中心から外れていれば両脇へ弾かれるような軌道を描いて進むことになる。

 弾かれた後で標的粒子から十分に離れれば、弾丸粒子は再びほぼ直進コースで飛び去ることになるわけで、最終的にどれだけ進行方向の角度が曲げられたかというのを知りたい。上の図ではそれを\( \phi \)と表してある。狙いが中心からどれだけ外れているかを「衝突係数」と呼び、上の図では\( b \)と表してある。\( b \)\( \phi \)の関係を求めるのが最初の目標である。

 これは全くニュートン力学の話であるからコツコツと計算してやればいい。電気力は重力と同じ逆2乗則なのだから、天体力学の軌道計算に慣れていれば公式の使い回しで何とかなるだろう。しかしここでは一から計算してみることにする。電気力は球対称の力なので極座標を使った方が楽であろう。

 極座標で表したニュートンの運動方程式は次のような形である。
\[ \begin{align*} m(\ddot{r}-r \dot{\theta}^2 ) \ =\ F(r) \tag{1} \end{align*} \]
 この式は解析力学のページで説明されている。二つあるうちの一方を持ってきた。この式の右辺の\( F(r) \)というのは動径方向に働く力であり、次のように表される。
\[ \begin{align*} F(r) \ =\ \frac{1}{4\pi\varepsilon\sub{0}} \frac{e\,e'}{r^2} \end{align*} \]
 \( e \)\( e' \)はそれぞれの粒子が持つ電荷である。

 しかしながらこの (1) 式をいきなり解くのは難しい。未知関数として\( r \)\( \theta \)の二つが含まれているからである。何とか簡単にならないだろうかということで、角運動量保存則を援用してみる。極座標では角運動量は\( m r^2 \dot{\theta} \)と表される。(回転方向への速度成分が\( r\dot{\theta} \)であり、それに\( m \)\( r \)を掛けたのである。)そして、原点から\( b \)だけずれたところを目がけて飛んでくる粒子の「原点から見た」角運動量は\( bmv \)である。(なぜそう言えるかは少し考える必要があるかもしれないが難しくはない。)よって、次の関係が常に成り立っていることになる。
\[ \begin{align*} m r^2 \dot{\theta} \ &=\ bmv \\ \therefore\ r^2 \dot{\theta} \ &=\ bv \tag{2} \end{align*} \]
 これを使って何とか変数を減らそうとするも式は複雑になるばかりで、何とか\( r \)だけの式にすることに成功しても非線形微分方程式になってしまって歯が立たない。そこで、天体力学の計算ではよく知られているテクニックに頼ることにする。次のような関係にある関数を新たに導入して置き換えをするのである。
\[ \begin{align*} r = \frac{1}{u} \end{align*} \]
 この置き換えによって角運動量保存の式 (2) も次のようになる。
\[ \begin{align*} \dot{\theta} \ =\ bv \, u^2 \tag{3} \end{align*} \]
 この (3) 式を途中で使うことで次のように変形できる。
\[ \begin{align*} \dot{r} \ &=\ \dif{}{t} \frac{1}{u} \ =\ - \frac{1}{u^2} \dif{u}{t} \ =\ - \frac{1}{u^2} \dif{u}{\theta} \dif{\theta}{t} \ =\ - \frac{1}{u^2} \dif{u}{\theta} \dot{\theta} \\ &=\ - bv \dif{u}{\theta} \end{align*} \]
 \( r \)は時間の関数であったが、\( u \)が角度\( \theta \)の関数\( u(\theta) \)として表されるように書き換えようとしている。この結果をさらに微分して 2 階微分を計算しよう。
\[ \begin{align*} \ddot{r} \ &=\ \dif{}{t} \dot{r} \ =\ -bv \dif{}{t}\left( \dif{u}{\theta} \right) \ =\ -bv \ddif{u}{\theta} \dot{\theta} \\ &=\ -(bv)^2 u^2 \ddif{u}{\theta} \end{align*} \]
 これと (3) 式とを (1) 式に代入する。
\[ \begin{align*} -(bv)^2 u^2 \ddif{u}{\theta} \ -\ \frac{1}{u} \, ( bv \, u^2 )^2 \ =\ F/m \\ \therefore\ -(bv)^2 u^2 \ddif{u}{\theta} \ -\ (bv)^2 u^3 \ =\ \frac{e\,e'}{4\pi\varepsilon\sub{0} m} u^2 \\ \therefore\ \ddif{u}{\theta} \ +\ u \ =\ -\frac{1}{(bv)^2} \, \frac{e\,e'}{4\pi\varepsilon\sub{0} m} \end{align*} \]
 この右辺はごちゃごちゃしているが中身を見るとどれも定数なので、\( A \)とでも置いておけば、とても簡単な微分方程式になる。
\[ \begin{align*} \ddif{u}{\theta} \ +\ u \ =\ A \end{align*} \]
 この解は次のようになる。
\[ \begin{align*} u \ =\ A + C_1 \sin \theta + C_2 \cos \theta \end{align*} \]
 二つの任意定数を定めなければならない。一つは簡単に定まる。\( \theta = 0 \)というのは弾丸粒子が入射してくる方向であって、粒子は理論上は無限遠にあったわけだから、\( u = 1/\infty = 0 \)である。それで、
\[ \begin{align*} 0 \ =\ A + C_2 \\ \therefore\ C_2 \ =\ -A \end{align*} \]
となる。

 もう一方の定数を決めるためには\( \theta = 0 \)のときに\( \dot{r} = -v \)であったことを利用する。最初は\( r \)が短くなる方へ移動しているのだから\( v \)ではなく\( -v \)なのである。\( \dot{r} \)を計算してみよう。まず、\( r \)は今や次のように表されるようになっている。
\[ \begin{align*} r \ =\ \frac{1}{u} \ =\ \frac{1}{a + C_1 \sin \theta + C_2 \cos \theta} \end{align*} \]
 これを時間で微分してやれば、次のようになる。
\[ \begin{align*} \dot{r} \ &=\ \frac{-C_1 \cos \theta + C_2 \sin \theta}{(a + C_1 \sin \theta + C_2 \cos \theta)^2} \, \dot{\theta} \\[3pt] &=\ \frac{-C_1 \cos \theta + C_2 \sin \theta}{u^2} \, \dot{\theta} \\[3pt] &=\ bv \, ( -C_1 \cos \theta + C_2 \sin \theta ) \end{align*} \]
 これが\( \theta = 0 \)のときに\( -v \)になるのだから、
\[ \begin{align*} -v \ =\ bv (-C_1) \\ \therefore\ C_1 \ =\ \frac{1}{b} \end{align*} \]
となる。こうして定められた任意定数を代入することで結局は次のようになる。
\[ \begin{align*} u \ =\ A + \frac{1}{b} \sin \theta - A \cos \theta \end{align*} \]
 さて、知りたいのは、弾丸粒子が再び無限遠へと飛び去る時にどの方向へ向かうかであるので、\( u = 0 \)の時の\( \theta \)が分かればいいのである。つまり、次の条件を満たすような\( \theta \)を求めたい。
\[ \begin{align*} 0 \ =\ A + \frac{1}{b} \sin \theta - A \cos \theta \end{align*} \]
 この式を何とかしてシンプルにまとめよう。
\[ \begin{align*} &-\frac{1}{b} \sin \theta \ =\ A(1 - \cos \theta) \\ \therefore\ &-\frac{1}{b} \sin \theta \ =\ -\frac{1}{(bv)^2} \, \frac{e\,e'}{4\pi\varepsilon\sub{0} m}(1 - \cos \theta) \\ \therefore\ &b \ =\ \frac{1}{mv^2} \, \frac{e\,e'}{4\pi\varepsilon\sub{0}} \, \frac{1 - \cos \theta}{\sin \theta} \end{align*} \]
 この三角関数の部分はもう少し頑張って半角の公式などを使って変形すれば次のようにまとまる。
\[ \begin{align*} \frac{1 - \cos \theta}{\sin \theta} \ &=\ \frac{2\sin^2 \frac{\theta}{2}}{2 \sin \frac{\theta}{2} \, \cos \frac{\theta}{2}} \\ &=\ \frac{\sin \frac{\theta}{2}}{\cos \frac{\theta}{2}} \ =\ \tan \frac{\theta}{2} \end{align*} \]
 この\( \theta \)は粒子が最終的にどの方向へ飛んでいったかを表しているが、本当に知りたいのは元のコースからどれだけの角度だけ逸れたかである。それを\( \phi \)で表すとすると、\( \phi = \pi - \theta \)である。
\[ \begin{align*} \tan \frac{\theta}{2} \ =\ \tan \frac{\pi-\phi}{2} \ =\ \frac{1}{\tan \frac{\phi}{2}} \end{align*} \]
 最終的に\( b \)\( \phi \)の関係は次のように表されることになる。
\[ \begin{align*} b \ =\ \frac{\alpha}{mv^2} \, \frac{1}{\tan \frac{\phi}{2}} \tag{4} \end{align*} \]
 ただし、電磁気力に関する部分が煩雑なので次のようにひとまとめにしておいた。
\[ \begin{align*} \alpha \ =\ \frac{e\,e'}{4\pi\varepsilon\sub{0}} \end{align*} \]
 要するに、衝突係数\( b \)だけ外れたところに突入した弾丸粒子のコースは角度\( \phi \)だけずれるという式であり、\( \phi(b) \)という形で表しておいた方が\( b \)から\( \phi \)が求まるという感じでいいのかも知れないが、とりあえずこの (4) 式の形のままで置いておこう。


断面積を考える

 とりあえずこれで第 1 段階は終了で、ここから断面積の話に持っていきたい。以上の話は軸対称なので、長さ\( 2\pi b \)の円周の付近に飛び込んだ粒子はそれぞれ軸対称に同じ角度だけ曲げられるだろう。微小な幅\( \diff b \)を考えると、微小面積\( \diff \sigma = 2\pi b \diff b \)内に飛び込んだ粒子に同じ運命が待っているとも言える。しかし無限小の幅を考えるとは言っても幅は幅だ。飛び去る角度についても微小なズレ幅\( \diff \phi \)が出てくるはずだ。

 \( \diff b \)\( \diff \phi \)の関係を知るために (4) 式を\( \phi \)で微分してみよう。
\[ \begin{align*} \dif{b}{\phi} \ &=\ \frac{\alpha}{mv^2} \, \left(\frac{1}{\tan \frac{\phi}{2}}\right)' \\ &=\ \frac{\alpha}{mv^2} \, \frac{-\left(\tan \frac{\phi}{2}\right)'}{\tan^2 \frac{\phi}{2}} \\ &=\ -\frac{\alpha}{mv^2} \, \frac{1}{2\cos^2 \frac{\phi}{2}}\frac{1}{\tan^2 \frac{\phi}{2}} \\ &=\ -\frac{\alpha}{2mv^2} \, \frac{1}{\sin^2 \frac{\phi}{2}} \end{align*} \]
 マイナスが出てくるのは、\( b \)が増加するほど進路の逸れ方が小さくなることを反映しているだけである。幅の比較としては、次の関係があることが分かる。
\[ \begin{align*} |\mathrm{d} b| \ =\ \frac{\alpha}{2mv^2} \, \frac{1}{\sin^2 \frac{\phi}{2}} \, |\mathrm{d} \phi| \end{align*} \]
 これも\( |\mathrm{d} \phi| = \cdots \)という形に書いた方が意味が伝わりやすいのだろうが、この後の使い方の都合によりこのままにしておく。

 さて、どんなことが起こるかについての説明は終わったのだが、実際にどう使うのが便利なのかが今ひとつ分からないままである。今からその話をしよう。

 物理では空間的な広がりの角度を表すために「立体角」という概念を使うことがある。例えば、原点からある一部の方向へと放射された光がどれくらいの角度的な広がりを持って出ていくかという度合いを数値で表すのである。そのために、半径 1 m の球の表面積が\( 4\pi \)であることを利用する。立体角が\( 4\pi \)なら空間の全方向、全周囲に向けて放射されたことを意味する。要するに、半径 1 m の球殻状のスクリーンを想定して、中心から放射される何物かがそのスクリーンに跡を残す範囲の面積によって、放射の広がり具合を表すのである。その跡が少々いびつな形をしていても使えるので便利である。

 簡単な例を出してみよう。粒子の衝突実験で飛び散ってくる粒子を捉える検出器の開口部の面積が仮に\( 1 \text{cm}^2 \)だったとしよう。開口部は丸くなくてもいい。これが衝突の中心から 1 m のところに据え付けてあれば、この検出器の立体角は
\[ \begin{align*} (0.01)^2 \ \kinji\ 1 \times 10^{-4} \text{[sr]} \end{align*} \]
である。立体角の単位は「sr(ステラジアン)」で、無次元量である。概念としては面積っぽいのだが、割合を表す量だから無次元として扱うのである。

 もし同じ検出器が中心から 2 m のところに据え付けてあれば、2 m の球の表面積は 4 倍になるので、この検出器が占める立体角は相対的に狭くなって、1/4 になるという具合である。立体角は中心からの距離の 2 乗に反比例する形で小さくなる。

 このような具合に、粒子の衝突実験では、ある方向に据え付けられた検出器の一つがカバーする微小範囲をステラジアンで表すのが便利である。

 さて、先ほど、\( \diff \sigma = 2\pi b \diff b \)の範囲内に飛び込んだ粒子は\( \phi \)だけ逸れた、幅\( \diff \phi \)の円環領域へと跳ね飛ばされると説明したが、これは立体角で表すとどれくらいになるのだろうか?落ち着いて考えれば実に簡単であり、半径が\( \sin \phi \)であるような円周を考えて、それに微小幅\( \diff \phi \)を掛ければいいだけである。
\[ \begin{align*} \diff \Omega \ =\ 2\pi \sin \phi \diff \phi \end{align*} \]
 微小断面積\(\diff \sigma \)すなわち\( 2\pi b \diff b \)を狙うと立体角\( \diff \Omega \)の範囲に広がると分かった。では立体角が\( \Delta \Omega \)であるような検出器の窓に入るためにはどれほど狭い範囲を狙わないといけないのだろうか。\( \Delta \Omega \)というのは\( \diff \Omega \)のような円環領域ではなく、さらに限定的な範囲なのである。そこに入れるために狙う微小面積を\( \Delta X \)と表そう。
\[ \begin{align*} \diff \sigma &\longrightarrow \diff \Omega \\[5pt] \Delta X &\longrightarrow \Delta \Omega \end{align*} \]
 これは比率の計算であるから次のように表せる。
\[ \begin{align*} &\diff \sigma : \diff \Omega \ =\ \Delta X : \Delta \Omega \\[5pt] \therefore\ &\frac{\diff \sigma}{\diff \Omega} \ =\ \frac{\Delta X}{\Delta \Omega} \end{align*} \]
 結局、次のように計算すれば、立体角\( \Delta \Omega \)の検出器の窓に粒子を飛び込ませるための難度がどれくらいの断面積の物体を狙って当てるのと同じくらいなのかという度合いが算出できる。
\[ \begin{align*} \Delta X \ =\ \frac{\diff \sigma}{\diff \Omega}\Delta \Omega \end{align*} \]
 この\( \frac{\diff \sigma}{\diff \Omega} \)の部分のことを「微分断面積」と呼ぶ。ではそれを計算してみよう。
\[ \begin{align*} \frac{\diff \sigma}{\diff \Omega} \ &=\ \frac{2\pi b \, \diff b}{2\pi \sin \phi \, \diff \phi} \\[5pt] &=\ \frac{b \, \diff b}{\sin \phi \, \diff \phi} \\[5pt] &=\ \left( \frac{\alpha}{mv^2} \, \frac{1}{\tan \frac{\phi}{2}} \right)\left( \frac{\alpha}{2mv^2} \, \frac{1}{\sin^2 \frac{\phi}{2}} \diff \phi \right) \frac{1}{2 \sin\frac{\phi}{2} \cos\frac{\phi}{2} \, \diff \phi} \\[5pt] &=\ \left( \frac{\alpha}{2mv^2} \right)^{\!\!2} \, \frac{1}{\sin^4 \frac{\phi}{2}} \end{align*} \]
 \( \diff \Omega \)は立体角で無次元量であるため、微分断面積の次元は面積である。無次元量から面積へと換算するための係数のようなものである。

 ラザフォードはアルファ線を金箔に当てる実験で得た実験結果を説明するためにこのような理論を必要としたのである。


剛体球の衝突の場合

 ところで、しっかりとした輪郭のある球どうしの衝突についても同じ考え方で微分断面積を求めてみたらどうなるだろうか?計算を簡単にするために標的粒子の方がずっと重くて原点から動かないとする。この仮定は先ほども使っていた。次の図のように、弾丸粒子の大きさがほぼ点状であっても、有限な大きさがあっても、同じ結果になるようだ。

 ここでは標的となる球の半径を\( a \)として、弾丸の方は大きさのない点だと考えて計算しよう。弾丸球に大きさがある場合はその半径を\( a \)に足してやればいいだけである。

 次の図を見れば\( b \)\( \phi \)の関係はほぼ明らかである。

\[ \begin{align*} b \ =\ a\,\sin \theta \ =\ a\,\sin \frac{\pi-\phi}{2} \ =\ a\,\cos \frac{\phi}{2} \end{align*} \]
 \( b \)を微分してやって\( \diff b \)\( \diff \phi \)の比率を割り出す。
\[ \begin{align*} \dif{b}{\phi} \ =\ -\frac{1}{2} a \sin \frac{\phi}{2} \end{align*} \]
 あとの手続きは先ほどと同じである。
\[ \begin{align*} \dif{\sigma}{\Omega} \ &=\ \frac{2\pi b \diff b}{2\pi \sin \phi \diff \phi} \ =\ \frac{b \diff b}{\sin \phi \diff \phi} \\[5pt] &=\ \frac{\left(a \cos \frac{\phi}{2} \right) \left( \frac{1}{2} a \sin \frac{\phi}{2} \diff \phi \right)}{2 \sin \frac{\phi}{2} \cos \frac{\phi}{2} \diff \phi} \\ &=\ \frac{a^2}{4} \end{align*} \]
 どの方向に検出器を置いても弾かれてくる粒子を受ける確率が変わらないとは!このように、電気力による反発とはまったく違う特性であることが分かるだろう。


反応断面積

 ラザフォードのこの微分断面積の考え方は現代の素粒子実験においても使われ続けることになる重要なものであった。

 素粒子はニュートン力学で出てくる剛体球のようなはっきりした輪郭は持たないし、はっきりした断面積と呼べるものがあるわけでもないが、ある方向へ弾き飛ばされる確率を断面積にたとえて表現することができる。

 それだけではない。素粒子反応で別種の粒子に変わった上である方向へ飛び出してくる確率というものも断面積にたとえて数値化できるのである。これを「反応断面積」と呼ぶ。立体角の全方向について積分してやれば、粒子をあるエネルギーで突入させた場合に特定の反応が起こる全確率を計算することができる。

 素粒子論ではこのような断面積を理論的に導くことが重要になってくる。それを粒子加速器による衝突実験の結果と比較することで理論の検証が可能になるからである。


断面積の単位

 断面積の単位として barn (バーン)というものが良く使われる。記号は\( \mathrm{b} \)である。
\[ \begin{align*} 1 \, [\mathrm{b}] \ =\ 10^{-28} \, [\mathrm{m}^2] \end{align*} \]
 これは一辺が 10 fm の正方形の面積と同じで、ウランの原子核の実際の幾何学的な断面積に近い。第二次世界大戦中の核兵器の開発者たちの機密を守る雰囲気の中で隠語的に使われ始めた単位であり、ちょうどウランあたりのサイズが当時の実験の標準的な標的だったことが分かる。

 barn というのは納屋のことである。アメリカの英語表現で「They couldn't hit the broad side of a barn.」のようなものがある。直訳すれば「納屋の広い方の面にも当てられなかった」というもので、要するに「下手くそ」という意味である。「ウラン原子核なんて納屋と同じくらいでっかいんだから外すんじゃないぞ、下手くそめ」という皮肉めいたニュアンスだろう。

 さらに時代が進むと、はるかに確率の低い現象を調べるようになってきているので、\( \mathrm{mb} \)(ミリバーン)や\( \mathrm{\mu b} \)(マイクロバーン)や\( \mathrm{nb} \)(ナノバーン)や\( \mathrm{pb} \)(ピコバーン)や\( \mathrm{fb} \)(フェムトバーン)なども使われるようになってきている。それらと比べれば確かにウラン原子核などは今や納屋のようにでっかい標的であるとも言えるだろう。