次にやるべきこと

ちょいと短い繋ぎの話なんですわ。

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ここまでで出来たこと

 我々は今や、主要な方程式を一つのラグランジアンにまとめることに成功した。例えば、
\[ \begin{align*} \mathcal{L} \ &=\ -\frac{1}{4} c^2 \varepsilon\sub{0} \ f^{\mu\nu} f_{\mu\nu} \\ &\ \ \ \ \ \ \ \ -\frac{1}{2} \partial^\mu \phi \, \partial_\mu \phi \ -\ \frac{m^2 c^2}{2 \hbar^2} \, \phi^2 \\ &\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ +\ \bar{\psi} ( i \hbar\, c\, \, \gamma^\mu \, \partial_\mu \ -\ m c^2) \psi \end{align*} \]
のように書けば、この式に含まれる独立な関数は\( A^{\mu} \)\( \phi \)\( \bar{\psi} \)\( \psi \)だと考えられるので、その一つ一つについてのラグランジュ方程式を用意してやることになり、それら全てにこのラグランジアン密度の式を代入してやれば、マクスウェル方程式もクラインゴルドン方程式もディラック方程式も、すべてが自動的に導かれるというわけだ。

 これは理論の統一に成功したということだろうか。ある意味では確かに素晴らしい成果だ。宇宙の構造を表すかも知れない全ての情報がひとつの関数\( \mathcal{L} \)の中に収まってしまったのだから。しかし、そこに含まれる\( \phi \)\( \psi \)などの関数がそれぞれに一種類の素粒子の挙動を表しているのだとしたら、これから新しい素粒子が見つかるたびに\( \mathcal{L} \)の項の数を増やして行くことになる。関数の種類をただただ追加して行くだけだとしたら芸がないというか、ちっとも統一された気がしない。

 素粒子の種類と同じだけの関数が、重なるようにして宇宙の全域に横たわっているということだろうか。湯川秀樹が中間子を導入して核力を説明したとき、パウリがまさにそのような意味の言葉で彼を冷たく批判したのだった。「君は、そんなに新しい粒子が好きなのか」と。

 しかし今は理論の美しさに対する好みを議論するよりも、とりあえず、この世界で起きていることを正確に表すことのできる理論を作ってみることの方が大切だ。

 もちろん、このままでは何の役にも立ちはしない。ここから導かれる複数の方程式は、どれも自由粒子のものである。それらの解の初期状態の波の形はかなり自由に選べて、初期状態さえ決まれば後はそれぞれの方程式に従って進んでゆくのみである。それぞれの関数には「お互いの関わり」というものが少しも含まれていない。

 ここまでの話のままでは、例えば、電磁場と電子とはまるで影響を与え合うことがないのだ。相互作用に関する記述がさっぱり抜けているのである。

 相互作用を表すために、\( \mathcal{L} \)にはさらに何らかの項の追加が必要になるだろう。しかもそれはローレンツ変換に対して不変な形になっていなくてはならない。まぁ、しかし、それよりも前に考えておいた方がいいことが他にある。


波を分解して考える

 ミクロの世界の構造が実際にどうなっているのかは想像が付かないが、これまでの実験結果の積み重ねからして、運動量やエネルギーは飛び飛びの値の一定量としてやりとりが行われているらしい。その一定量の粒のことを「量子」と呼んだわけだし、見方によっては、あたかもそういうひとかたまりのエネルギーや運動量を持つ粒子が存在しているかのようでもある。

 相互作用を記述するために、そのような量子的な振る舞いを理論の中に取り込んでおきたい。例えば電磁場の場合、エネルギー量子\( E \)と振動数\( \nu \)の間に\( E = h \nu \)という関係があったのだった。だから波を振動数ごとに分解して考えてやると扱いやすいだろう。あらゆる形の電磁波は、一定の振動数の基本波を多数重ね合わせることで表現することができるのだった。要するに「フーリエ分解」してやろうというわけだ。

 その前にもうちょっと考えよう。電磁波の場合にはエネルギーと運動量の間に\( E = p\,c \)の関係があるのだった。これを\( E = h \nu \)に当てはめてやると、

\[ \begin{align*} p\,c \ &=\ h \nu \\ \therefore\ p \ &=\ h \nu/c \ =\ h / \lambda \end{align*} \]
であり、\( E = h\nu \)\( p = h/\lambda \)には同等の意味があることになる。もう少し分かり易くするために、ここで「波数」というものを導入しよう。
\[ \begin{align*} k \ \equiv\ 2\pi/\lambda \end{align*} \]
 要するに、長さ\( 2\pi \)メートル中に、波が何波長入っているかを表しているものである。この波数\( k \)という概念は初めは取っ付きにくいかも知れないが、あまり深く考えずに波長の逆数のようなものというイメージで軽くとらえておけば良い。慣れれば便利なのだ。なぜなら、これを使えば、
\[ \begin{align*} p \ =\ \hbar k \tag{1} \end{align*} \]
と表せるのである。これは\( E = h \nu \)と似ているだろう。んー!?まだイマイチ似てないな。\( h \)\( \hbar \)の違いがある。波の振動数\( \nu \)の代わりに、角振動数\( \omega = 2\pi \nu \)を導入してやればどうか。\( E = h \nu \)は次のようになる。
\[ \begin{align*} E \ =\ \hbar \omega \tag{2} \end{align*} \]
 これでいい。(1) 式と (2) 式の形が一致した!角振動数\( \omega \)というのは、波の位相が 1 秒間にどれだけ進むかを表している。波の 1 周期で位相が\( 2 \pi \)進むのだから、それと振動数とを掛けたものが\( \omega \)である。

 \( \hbar = 1 \)となるような単位系を使えば、(1) 式と (2) 式とは、\( E = \omega \)\( p = k \)となって、波の角振動数\( \omega \)と波数\( k \)は、それぞれエネルギーと運動量と同等の意味を持つことになる。まぁ、わざわざそのような単位系を使わなくても同じことだ。エネルギー\( \omega \)と表現したり、運動量\( k \)と表現したりすることが今後は増えてくるだろう。

 こうして波の性質である\( \omega \)\( k \)が、エネルギーや運動量と直結することになった。

 ここで元の話題に戻ろう。先ほどは「振動数ごとに分解して考える」と言ったが、代わりに「角振動数ごとに分ける」ことにしても定数の違いだけの問題であるし、思い切って「波数ごとに分ける」ことにしても大差はないわけだ。ちなみに、確認しておくと、

\[ \begin{align*} c \ &=\ \nu \lambda \\ \therefore\ c \ &=\ (2\pi \nu )(\lambda/2\pi) \ =\ \omega / k \\ \therefore \omega \ &=\ ck \end{align*} \]
のような関係になっている。ほらね、定数の違いだけであって、大差はない。以上は電磁場について成り立つ関係であって、クライン・ゴルドン場やディラック場については少し違ったことになっているのだが、ここでもうはっきり方針を決めてしまうことにしよう。これから波動関数を「波数\( k \)ごとに分解してやることにする」と。

 実はそうした方がいい理由があるのだ。運動量は\( x \)\( y \)\( z \)の 3 成分あるので、議論の中心に運動量を持ってきた方が今後の議論をやりやすいのである。運動量の 3 つの成分が決まればエネルギーは計算できるけれども、エネルギーが決まったところで運動量の成分を 3 つとも決めることは出来ないだろう?そんな感じの事情だ。


今後の相談

 こんな話は一回きりで終わると思っていたのだが、意外にも簡単ではなさそうだ。話を分けることにしよう。

 まず、次回ではクライン・ゴルドン方程式の波動関数を波数ごとに分解してやることにする。成分が一つだけなので扱いが最も簡単だからだ。

 それが終われば、これから何の為に何がしたいのかという内容が今以上に分かって貰えているはずだから、同じ作業を電磁場に対して行うことにする。ただし、電磁場には電磁場特有の問題があって、単なる繰り返しの議論にはならないのである。

 そして最後にディラック場に対しても同じ作業を行う。これもまた、色々と問題が出てくるはずなので、全く同じ議論にはならないだろう。

 とりあえずそこまでを目標にしよう。思っていた通りにはなかなか進まないものである。