SO(3)とSU(2)の関係

この辺りを語ってくれる人に出会えなくて長らくさまよい続けた。

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直観が頼りにならない

 SO(3)とSU(2)が出てきたので両者の関係について少し書いておこう。

 SO(3)は 3 次元での回転と同じ対称性を意味しており直観的に把握できた気分になる。対して SU(2) の方は 2 次元とは言ってもその成分が複素数であり全体像がイメージしにくい。

 ところがその構造を調べてやると意外にもSO(3)の方が複雑で、SU(2)の方があっさりしているのである。


SO(3)は構造が複雑

 3次元空間での回転と言っても、あらゆる方向を軸として色んな回転の仕方があるのである。

 ボールを手に持って回し、色んな方向を向ける様子を思い浮かべてみて欲しい。無意識に行っているかも知れないが、次々と色んな軸に沿った回転をさせている。

 球面上のある一点をどこか別の点へ移動させるのも回転の一つだが、それを実現したときの球面全体の姿勢というのは一通りではない。回転にバリエーションがありすぎて、3 次元の球の表面上をただの 1 点が移動するような単純さでは表しきれない。

 回転の結果としてどのような状況があり得て、それらの結果どうしはどのようにつながっているのかを明らかにしたい。そこで、「3 次元の任意の回転は 1 つの軸指定と回転角で表すことができる」という事実(オイラーの定理)を使おう。

 似た話にオイラー角というものがある。 これは「あらかじめ定められた 2 軸の周りに順次 3 回の回転を施すことであらゆる姿勢を実現する」方法である。 つまり、3 つの情報であらゆる回転姿勢を表現するわけだ。 一方、これから話そうとしているのは、軸の方向を定めるために例えば緯度経度のような 2 つの情報が必要で、 さらにその軸の周りの回転角が要るので、 やはり合計 3 つの情報であらゆる回転姿勢を表すことになる。
 この証明は後回しにしても良いだろう。とにかく任意の回転後の姿勢というのは、一つの軸の方向とその回転角で表される。そこで、原点を始点とするベクトルで軸の向きを表し、そのベクトルの長さで回転角を表してみたらどうか。ベクトルの長さの範囲は\( 0 \leqq \theta \leqq \pi \)とする。もし逆方向に回転させたものを表したければ軸の向きを正反対にして正方向に回転させれば実現できるから、これであらゆる回転が表現されていることになる。

 このようなベクトルの指す点が、どれも回転後の姿勢に 1 対 1 で対応している。つまり、半径\( \pi \)の球の内部と表面のあらゆる点が、回転後のあらゆる姿勢を表しており、ある姿勢から別の姿勢へ至る連続的な関係をもそのまま写し取っている。

 物体が回転するというイメージとはまるで異なったものになったが、全体の構造の視覚化に成功したわけだ。ところがこれは見た目ほど単純な構造をしていない。この球のどの表面も、ちょうど正反対の球面とつながっているのである。\( \pi \)だけ回転するというのは反対周りに\( \pi \)だけ回転するのと同一の状態だからである。

 この状態の中を連続的に移動することを考えると、球の表面からは正反対の表面へとワープする。こういうことの起こらないもっと単純な表現方法はないだろうかと考えてみてもあまりうまくいかない。半径を\( 0 \leqq \theta \leqq 2\pi \)にしてみて、その代わりに反対向きの軸を考えるのをやめてみる。すると今度は半球のみを考えることになるが、全ての球面上の点が原点と同一だということになるだけである。半球の底面の繋がりもややこしい。これは却下だ。


SU(2)の構造は単純

 同じ調子で SU(2) の構造の視覚化も考えてみよう。SU(2) というのは 2 行 2 列のユニタリ行列のうち、行列式が 1 のものなのだから、次のように表される。
\[ \begin{align*} \left( \begin{array}{cr} \alpha & -\beta^\ast \\ \beta & \alpha^\ast \end{array} \right) \tag{1} \end{align*} \]
 \( \alpha \)\( \beta \)はどちらも複素数であり、
\[ \begin{align*} |\alpha|^2 + |\beta|^2 = 1 \tag{2} \end{align*} \]
という関係が成り立っている。

 このように表されることを導くためにはほんの少しだが面倒な計算が必要である。(2) 式は行列式が 1 であるために追加された条件のように思えるが、そうではない。この条件がなければ (1) 式の行列はユニタリ行列ですらなくなってしまうだろう。最初からユニタリ行列であることの条件と行列式が 1 となる条件の両方を入れて考えないと (1) 式の形にはならない。

 さて、\( \alpha \)\( \beta \)がそれぞれ

\[ \begin{align*} \alpha \ &=\ a + b i \\ \beta \ &=\ c + d i \end{align*} \]
のように表されるとすると (2) 式の条件は
\[ \begin{align*} a^2 + b^2 + c^2 + d^2 = 1 \tag{3} \end{align*} \]
ということになり、\( a,b,c,d \)はこの条件の範囲内で自由に変化してもいい。そのどれもが行列式が 1 の 2 次元ユニタリ行列であるわけだ。これは 4 次元球の表面を自由に動く点の自由度と同じである。この全ての点に相当する行列があって、それぞれはこれと同じ形で連続的に繋がっている。

 このように非常に単純な構造をしている。


構造の比較

 SO(3) が複雑で SU(2) が単純だとは言っても、後者は 4 次元世界で表されていて、前者は 3 次元世界で表されている。SO(3) の方だって、もしも 4 次元世界へ持っていって表すことができれば、どこにもワープゾーンのようなものを考えなくても済む単純な表し方があるかも知れないではないか。そう思って一生懸命に探してみたが、どうにもやり方が分からなかった。

 しかし逆に SU(2) の方を 3 次元世界へ持ってきて表す方法はある。(3) 式を次のように変形するのだ。

\[ \begin{align*} a^2 + b^2 + c^2 = 1 - d^2 \end{align*} \]
 右辺は\( 0 \leqq 1 - d^2 \leqq 1 \)の範囲で変化しうる。だから、\( a,b,c,d \)の変化し得る範囲は、半径 1 の 3 次元球の内側と表面の全体だと考えてもいい。この範囲の全ての点が、\( a,b,c,d \)の変化し得る範囲を表している。球の中心が\( d = 1 \)に相当する。そして、どこにもワープゾーンらしきものはない。

 こうしてみると、SO(3) も SU(2) も 3 次元の広がりを持つが、構造が全く違うことがはっきりするだろう。

 SO(3) は球の中心が単位行列であり、SU(2) の場合は単位行列は球の表面に位置している。そういう違いもある。

 いやいや、待て待て!

 この SU(2) の表し方には欠陥がある!パラメータ\( a,b,c \)については -1 〜 1 の範囲で変化する様子がこの球で問題なく表されているが、パラメータ\( d \)については正負の違いがあっても同じ半径で表されてしまっており、違いが表現できていない。\( d \)が負になる場合にはどこへ行けばいいのだ?

 そうだ、ワープゾーンを作ればどうだろう!もう一つの別世界があって、原点を通って行き来できるようにする。一方の世界では\( d>0 \)であり、もう一方の世界では\( d\lt 0 \)であることを意味する。どちらの世界も球形である。

 これもまずい。原点は\( d=1 \)を意味するのだった。そこから急に\( d=-1 \)へと接続するべきではない。するとワープゾーンは球面上に設けるべきだろうか。球面の全体が、「\( d \)が負であることを意味するもう一つの球」の表面への入口となる。ここは想像力をたくましくしてもらって受け入れてもらうしかないが、球面を介して折り返された二つの世界が繋がっているようなイメージだ。現実の世界では表現できないファンタジー染みた設定ではある。

 さらに改良を思い付いた。ここまで\( a,b,c,d \)のうちの\( d \)を特別扱いしてきたのだが、\( a \)の方を特別扱いした方がいい理由がある。

\[ \begin{align*} b^2 + c^2 + d^2 = 1 - a^2 \end{align*} \]
 半径を\( a \)の値と関係づけることにして、中心が\( a = 1 \)である。\( a = 1 \)のとき、残りのパラメータ\( b,c,d \)はどれも 0 にならざるを得ず、これは行列でいえば、
\[ \begin{align*} \left( \begin{array}{cr} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array} \right) \end{align*} \]
に相当する。これは群で言えば単位元である。SO(3) のパラメータ空間でも球の中心に単位元がある状況になっていたのだった。こうすれば SO(3) と似た状況になって構造の比較がしやすい。


普遍被覆群

 SO(3) も SU(2) も生成子の交換関係、すなわちリー代数の形を見る限りは同じになるのだった。交換関係を定めただけでは群の構造は定まらないということだ。どうも気持ち悪いなと思っていたのだが、普通に起こり得ることのようだ。

 ただし、「単連結である」という条件を追加すれば、ある交換関係に対応する群の構造がただ一つに定まるという定理があるらしい。

 順を追って話さないと誤解を招く内容なので、ここではかなり大雑把な話として説明しておこう。先ほどから考えてきたようなパラメータ空間の中では、任意の 2 点を選んで連続的な曲線でつなぐことが出来る。これを群論の用語で「連結」と呼ぶ。どのような曲線で連結しても、その曲線を連続的に変化させることで、曲線どうしを重ね合わせることができるとき、これを「単連結である」と表現する。

 ロープをほどきながら好きなコースでパラメータ空間内を旅して元の地点に戻ってきた時に、そのロープを全て手繰り寄せることが出来るか、という話に置き換えることが出来るかもしれない。これが SU(2) の場合には可能で、SO(3) の場合には不可能なのである。

 SO(3) の場合にはワープゾーンを利用して球の反対側から出てくるようなコースを取ることが可能であり、ここを通ったロープはワープ地点をどんな風に連続的に変化させても、ロープを球面から離すことができなくなるのである。SO(3) は単連結ではない。

 単連結である群を「普遍被覆群」と呼ぶ。


二重被覆

 SU(2)とSO(3)をそれぞれ理解していれば、わざわざ両者を結びつける必要もないとは思うのだが、両者を結びつける数学の言葉があるので紹介しておこう。知っておいたほうが理解が深まることもあるかも知れない。
\[ \begin{align*} \text{SO(3)} \ =\ \text{SU(2)}/\text{C}\sub{2} \tag{4} \end{align*} \]
 C2 というのは 2 位の巡回群を意味している。それがどういうものであるかは群論の教科書の割と最初の方に出てくるようなものであるから詳しくは話さないが、2 つしか要素のない集合であり、群になっているものである。単純な具体例としては 1 と -1 のみを要素とする集合であり、この要素間に普通の掛算を考えると群になっている。次のような二つの行列を考えても同じ構造になっている。
\[ \begin{align*} \left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array} \right) \ \ \ \ \ \left( \begin{array}{cc} -1 & 0 \\ 0 & \!\!-1 \end{array} \right) \tag{5} \end{align*} \]
 これらの行列はどちらも SU(2) の要素でもあるから、C2 は SU(2) の部分群になっている。

 (4) 式の右辺は「商群」「剰余群」「因子群」などと呼ばれている概念である。これは少し変わった概念であり説明もややこしいのだが、群の公理から比較的簡単に導き出せる概念なので、どの教科書にも最初の方で出てくる話である。

 もったいぶってかなり後の方に書いている入門書も多いが、それほど難しくもない。 なかなか面白い概念なのでそこまでがんばってたどり着こう。 難しいと感じたら無茶しないで他の教科書を探すのもいい。

 じっくり話すと長くなるので、ここでは今回のケースにだけ当てはまるようないい加減な説明で済ませておこう。要するに、SU(2) の要素であるあらゆる行列に (5) 式のような行列を掛けることで互いに変換できるような行列どうしを同一の存在だと決めつけてやると、無数のペアが出来ることになる。その無数のペア自体がこれまた群になっている、というのである。

 それを実現するような (5) 式のような行列が SU(2) の中にあるかどうかを探す方法は簡単である。ある要素に、右から掛けても左から掛けても結果が同じになるような行列を探してやるのである。こんな単純な方法でこのようなものが見つかることは群の公理から導き出せてしまうのである。そして、SU(2) の中にはその条件を満たすものは (5) 式のようなものだけである。

 だから (4) 式が言っていることは実に単純なのである。SU(2) の要素の内で、マイナスを掛けた行列とマイナスを掛けなかった行列とを同一視するならば、SO(3) と同じ構造になりますよ、というのである。

 本当にそうなっているか考えてみよう。SU(2) のパラメータ空間はワープゾーンで結ばれる 2 つの球から出来ていた。一方の世界は\( a \)が負であるような世界であり、仮に裏の世界とでも呼んでおこうか。表の世界にある点に相当する行列にマイナスを掛けたものは、\( b, c , d \)の符号も反転するが、\( a \)も反転するので、裏の世界に属する行列とペアを作り、同一視される。だから表の世界と裏の世界は区別する必要がなく、どちらか一つを考えていればいい。

 SO(3) で特徴的なのは、どの球の表面も、ちょうど正反対の球の表面と同一視されていることだった。今、SU(2) では表世界の球の内側の点はどれも裏世界の球の内側の点とペアを作っている。では表面はどうなっているかというと、どの点も、ちょうど反転した位置の点とペアを作っており、同一視されているのだ。これはまさに SO(3) と同じ構造だと言えるだろう。

 このような状況について「SU(2) は SO(3)の 2 重被覆である」というような表現がされるのだが、これは数学の位相論あたりに関連する用語であり、正確にはどのように使ったらいいのか私もまだよく理解できていない。


スピン

 量子力学に出てくる粒子のスピンは SU(2) の対称性を持っている。そのため、1 回転させただけでは符号が反転するだけであり、2 回転させるとやっと元に戻るという不思議な性質が議論される。数学的にはそのようになっているが、物理的には位相が変わるだけであるから、現実の実験の測定では違いは分からない。

 この性質は SU(2) がその中に含まれる 2 つの要素を同一視することで通常の 3 次元での回転 SO(3) になるということから何となく受け入れられそうだ。

 SU(2) で回転して元の状態へと戻ってくる時、SO(3) のような 2 つの世界をまたいでくるのである。


オイラーの定理

 初めの方の話で使ったオイラーの定理を簡単に説明しておこう。「オイラーの定理」と呼ばれる定理は山ほどあるので別名を付けて欲しいくらいなのだが、他の呼び名が見付からなかった。

 回転行列\( R \)を何度でも使って色んな軸回りに回転変換を行っても、その結果は、ただひとつの軸の周りの回転で表せてしまうという定理である。\( R \)というのは行列式が 1 の直交行列のことである。(ただの直交行列だと行列式が -1 となる場合を含み、これは鏡像変換をした上での回転を意味するのだった。)\( R \)は直交行列だから\( ^t R R = 1 \)を満たしている。

 \( R \)は幾つ掛け合わせても直交行列の性質を失わない。複数の、回転軸の異なる回転を順次行うような行列を\( R = R\sub{1} R\sub{2} \)としてみると、

\[ \begin{align*} ^t R R \ &=\ ^t(R\sub{1} R\sub{2})(R\sub{1} R\sub{2}) \\ &=\ ^t R\sub{2} ^t R\sub{1} R\sub{1} R\sub{2} \\ &=\ ^t R\sub{2} R\sub{2} \\ &=\ 1 \end{align*} \]
となることが確かめられる。

 \( R-1 \)という行列を考える。ここでの 1 は単位行列を意味する。行列式を調べてみると

\[ \begin{align*} |R-1| \ &=\ |R-^t \!R R| \\ &=\ |(1-^t\!R)R| \\ &=\ |1-^t\!R|\,|R| \\ &=\ |1-^t\!R| \\ &=\ |^t(1-R)| \\ &=\ |1-R| \\ &=\ -|R-1| \end{align*} \]
となるので、\( R-1 \)の行列式は 0 である。これはつまり、
\[ \begin{align*} (R-1) \Vec{u} = 0 \end{align*} \]
を満たす、大きさが 0 でないベクトル\( \Vec{u} \)が常に存在するということである。この式を変形すると
\[ \begin{align*} R \Vec{u} \ =\ \Vec{u} \end{align*} \]
となるので、\( \Vec{u} \)というのは回転行列によって変化しないベクトル、すなわち回転軸のことである。

 このような軸が一つきりしかないというのを言わなければ確かな証明にはならないが、二つ以上の軸を動かさない回転などというのはありそうにもないので省略しよう。