時間に依存しない方程式

単にテクニックだと思って意味を考えないでいると誤解してしまう。

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変数分離

 ここではシュレーディンガー方程式を解きやすくするための「変数分離法」と呼ばれるテクニックを紹介する。計算テクニックではあるが、これを知らないことにはこの先話にならない。

 波動関数\( \psi(x,t) \)が座標\( x \)に依存する部分と時間\( t \)に依存する部分の積で表せるとする。

\[ \begin{align*} \psi ( x, t ) \ =\ f(x)\ g(t) \end{align*} \]
 うまい具合にこんな形になっていなかったらどうするんだと思うかもしれない。みんな初めはそんな心配をするものだ。もちろんこの形で表せない解もあるだろうが、そういう解はここでは見捨てることにする。微分方程式を解く時にはよくあることだ。

 その見捨てられた解の中に重要な意味を持つものが含まれていたらどうするのかって?なかなかしつこいな。そういうものがあればとにかく工夫して探すしかない。本当に必要なら誰かがもう見つけていることだろう。それがないと説明できないような現象が見付かっているならなおさらだ。

 ここではひとまず上のような形式の「変数分離解」を探すことに専念する。そのためにこれをシュレーディンガー方程式に代入してやる。

\[ \begin{align*} i\hbar \pdif{(fg)}{t} = -\frac{\hbar^2}{2m} \pddif{(fg)}{x} + V(x) fg \end{align*} \]
 \( t \)で偏微分するところでは\( f(x) \)はただの定数みたいなものだし、\( x \)で偏微分するところでは\( g(t) \)はただの定数みたいなものなので、
\[ \begin{align*} i\hbar f \pdif{g}{t} = -\frac{\hbar^2}{2m} g \pddif{f}{x} + V(x) fg \end{align*} \]
となる。この両辺を\( f(x) g(t) \)で割ってやれば、
\[ \begin{align*} i\hbar \frac{1}{g} \pdif{g}{t} = -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{1}{f} \pddif{f}{x} + V(x) \end{align*} \]
となり、面白いことに左辺は\( t \)のみに関する部分、右辺は\( x \)に関する部分のみとなる。

 それらが等号で結ばれているのだから、両辺とも\( x \)にも\( t \)にも依存しないある値に等しいに違いない。その定数を\( E \)と表すと、

\[ \begin{align*} i\hbar \frac{1}{g} \pdif{g}{t} = E \ \ \ , \ \ \ -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{1}{f} \pddif{f}{x} + V(x) = E \end{align*} \]
という二つの式に分離することが出来る。これらの式を整理してやると、
\[ \begin{align*} i\hbar \pdif{g}{t} &= E g \\ -\frac{\hbar^2}{2m} \pddif{f}{x} &= [ E - V(x) ]f \end{align*} \]
という、以前よりはるかに解きやすそうな形になっているだろう。これで変数分離は完了だ。


定数 E の意味

 ここで導入した定数\( E \)の意味は何だろうか。これがポテンシャルエネルギー\( V(x) \)と同じ次元の量であることは式を観察すればすぐに分かる。よって\( E \)は系のエネルギーを表すと考えておけばいいのではなかろうか。

 このことは第 1 の式

\[ \begin{align*} i\hbar \pdif{g}{t} = E g \end{align*} \]
を解いてみればもっとはっきりする。いかにも簡単そうな形であり、実際すぐ解ける。
\[ \begin{align*} g(t) = A e^{-i\frac{E}{\hbar}t} = A \left( \cos\frac{E}{\hbar}t - i\ \sin\frac{E}{\hbar}t \right) \end{align*} \]
 この解が振動解であることが初心者にもイメージしやすいように、わざわざオイラーの公式を使って三角関数にまで直してみた。ところで高校物理の波のところでやったと思うが、三角関数で波を表す時には\( E/\hbar \)の部分は角速度\( \omega \)の意味を持つ。すなわち、
\[ \begin{align*} E = \hbar \omega \end{align*} \]
だということだ。これを見覚えのある形に変形してやれば、
\[ \begin{align*} E = (h/2\pi)(2\pi\nu) = h\nu \end{align*} \]
である。前に出てきた粒子性と波動性を結ぶ式だ。ド・ブロイ波の振動数にプランク定数を掛けたものが、その粒子のエネルギーを表しているのだった。やはり、\( E \)を系のエネルギーと解釈するのは正しいようだ。振動解を上のような\( \hbar \)やら\( E \)やらを使った形式で表すとごちゃごちゃして見にくいので、
\[ \begin{align*} g(t) = A e^{-i\omega t} \end{align*} \]
と書き表すことが多い。エネルギーが高いほど、位相の変化が激しいことを表している。波の速度で言えば、速く移動するように見えるということだ。


エネルギー固有値

 次に 2 番目の式に目を移そう。
\[ \begin{align*} -\frac{\hbar^2}{2m} \pddif{f}{x} = [ E - V(x) ]f \end{align*} \]
 これは「時間に依存しないシュレーディンガー方程式」と呼ばれている。

 これをここで解くことはしない。\( V(x) \)を具体的に決めない限りは解けないからだ。具体的な例について解くことは次回からやるつもりなので、今回は一般論を軽く説明するだけにしておこう。

 微分方程式には面白い性質を持つものが多く、例えば、エネルギー\( E \)が飛び飛びのある値のときだけその値に応じた解\( f(x) \)を持つが、\( E \)がそれ以外の値の時には解を持たないというものがある。高校までで扱うような方程式とは一風変わった振る舞いである。

 このように解が存在することを許された特別なエネルギーの値\( E_n \)を「エネルギー固有値」と呼び、その時の解\( f_n \)をその固有値に属する「固有関数」と呼ぶ。エネルギー固有値は飛び飛びのこともあれば、連続のこともある。それはポテンシャル\( V(x) \)の形次第だ。

 さて、特別に許されたエネルギーが\( E\sub{1}, E\sub{2}, \cdots \)のように幾つかあったとして、それに属する解をそれぞれ\( f\sub{1}(x), f\sub{2}(x) , \cdots \)と表すとしよう。これらの線形和を取ったもの、つまり波の重ね合わせをしたものを作る。

\[ \begin{align*} \phi = \sum_n A_n f_n(x) \end{align*} \]
 さて、これはシュレーディンガー方程式の解になっているだろうか?なっているはずが無い。しかし「重ね合わせの原理」があるのだからこのことは言えるのではないか、と漠然と信じてしまっている学生が時々いる。小さな誤解が大きな誤解にならないように丁寧に説明しておこう。

 \( f_n(x) \)は「時間に依存しないシュレーディンガー方程式」の解であって、元の「時間を含む」方程式の解ではない。また、時間に依存しない方程式の方には固有値\( E \)が含まれており、その値が特別な値を取る時に、それに合った解だけが許されるのである。異なる\( E \)に属する関数を足し合わせたところで、解として認められるはずが無い。

 「時間を含む」方程式の解にするためには、\( f_n(x) \)に時間に依存する部分\( g(t) \)をつなげてやる必要がある。その時に、\( g(t) \)の方も、\( f_n(x) \)で許されたのと同じ\( E_n \)の値を使うわけだ。つまり、

\[ \begin{align*} \phi_n(x, t)\ =\ f_n(x)\ e^{-i \frac{E_n}{\hbar} t}\ =\ f_n(x)\ e^{-i \omega_n t} \end{align*} \]
が正式な解となる。このような解は複数、多ければ無限にでも求まるが、いずれも元の方程式の解である。時間に依存しない方程式と違って、どんなエネルギーの場合でも受け入れてくれる。シュレーディンガー方程式は線形演算子で出来ているので、
\[ \begin{align*} \Phi = \sum_n C_n \phi_n( x, t ) \end{align*} \]
のような新しい波動関数を作ってもやはり、解として認められる。これが本当の「重ね合わせの原理」である。形もエネルギーも異なる波が重なって存在していることになるが、つまり、これはエネルギー固有値を持たない状態であり、複数のエネルギーの値を同時に持っているという奇妙な状態でもある。私は前に、「波動関数を時間で微分して\( i\hbar \)を掛ければエネルギーの値が外に飛び出してくる」という説明をしたが、この重ね合わせの状態の関数を時間で微分すると波動関数の形自体が大きく変わってしまって、どの部分が飛び出してきたエネルギーの値に相当するのか、分からなくなるだろう。

 観測した時にどの状態が観測されるかは、係数\( C_n \)の絶対値の 2 乗で表される確率で決まる。もちろん、各\( \phi_n(x,t) \)が 1 に規格化されていて、\( \Phi \)全体も規格化されていて、

\[ \begin{align*} \sum_n |C_n|^2 = 1 \end{align*} \]
となっているという前提での話である。


変数分離法の限界

 初めに
\[ \begin{align*} \psi ( x, t ) \ =\ f(x)\ g(t) \end{align*} \]
と表せるような解以外は見捨てようと言ったが、上で作った\( \Phi \)はまさにこの形で表せなかった関数であって、見捨てられそうになっていた解である。こうして多数の解が救われたことになる。この状況を見て安心してもらえるだろうか。

 いや、これくらいで安心してしまうとしたら君は甘すぎるのだ。変数分離法ではポテンシャルの形が\( V(x) \)であることを前提にしていた。もしポテンシャルが時間にも依存する形\( V(x,t) \)になっていたらこの方法は使えないことになる。しかしそういう場合だって「非常に重要」なのだ。重要だが、厄介なので取り敢えず放っておく。

 変数分離法がその程度のものだということを知れば、今度こそ納得して安心してもらえるだろう。完全さを求めようとするから不安になるのだ。


変数分離法を使う理由

 このような「変数分離法」に頼らねばならないのは、そのままの形では解くのが困難であるという理由だけではない。もっと正当な理由があるのだが、多くの教科書でこのことがあまり熱心に語られていないのを心配する。

 我々が知りたいのは、どのようなエネルギー状態が存在を許されるかであって、今のところ、その重ね合わさった状態にはあまり興味がない。それで、エネルギー固有値\( E \)が確かに定まった状態を仮定することで各エネルギーについて独立した解を求めたのである。

 学校ではほとんど説明も無く、ただ形式的に変数分離法が説明されて、後はそれを解くことだけが求められる。そして、求まった波動関数の絶対値を 2 乗したものが「粒子がそこに存在する確率」だと教えられる。ここで誤解があると次のような疑問を持つことになる。「位置は確率的にしか決まらないのに、なぜエネルギーや運動量は飛び飛びの値として確定するのだろう?」

 このような疑問を持って追求を続けるなら、その学生はやがては本当のことを知って救われるだろう。しかし大半の学生は疑問さえ持たずに、問題集の解答と同じ結果になることだけを求めて計算を続ける。

 実際には求まった複数の解の内、どの状態をどんな組み合わせでどの程度含んでいるかについては全く確定したわけではないのだ。