膨張する宇宙

フリードマン方程式を解いてみる。

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何を表す方程式か

 宇宙を満たす物質の密度と圧力を\( \varepsilon \)\( p \)だとすると、これらは次のような方程式を満たしているのだった。
\[ \begin{align*} &\frac{\dot{a}^2}{a^2} \ +\ \frac{K}{a^2} \ -\ \frac{\lambda}{3} \ =\ \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon \tag{1} \\[3pt] &\dot{\varepsilon} \ =\ -3 \frac{\dot{a}}{a}\,(\varepsilon \ +\ p) \tag{2} \end{align*} \]
 最初の式が「フリードマン方程式」で、二番目の式が一般相対論におけるエネルギー保存則である。\( \dot{a} \)\( \dot{\varepsilon} \)の上にあるドットは時間\( w \)による微分を意味しており、\( w = c\,t \)である。

 これらの式からどんなことが言えるのかを調べてみよう。

 沢山の記号が使われているが、ほとんどは定数である。\( \lambda \)は宇宙定数であり、それが現実の宇宙では何を意味するかは分からないが、理論的には定数であるとして導入したものだった。その働きは今回明らかにされるだろう。

 \( K \)は宇宙の曲率を表しており、宇宙の曲率は刻々と変化している可能性があるわけだが、ここでは定数だとしておく。なぜならこの\( K \)はスケール因子\( a(w) \)と関係し合っており、宇宙の曲率の変化による効果は\( a(w) \)の変化で代用して表せてしまうからである。

 この辺りのことはずっと前(3 つほど前の記事)に説明したことで、もう忘れているかも知れないから軽くおさらいしておこう。曲率\( K \)の定義は\( K = 1/R^2 \)であり、\( R \)は宇宙の半径を表している。\( a(w) \)が仮に\( b \)倍になったとすると、それは曲率\( K \)\( 1/b^2 \)倍になったのと同じ効果があるのだった。上に書かれた (1) 式でもそうなっているだろう。それはつまり、宇宙の半径が\( b \)倍に膨らんだということを意味することになる。

 例えば、現在の時刻を\( w\sub{0} \)として、\( a(w\sub{0}) = 1 \)としてやり、現在の宇宙の曲率を\( K \)だと設定しておけば、\( a(w) \)の変化が、現在の宇宙と比較した宇宙の半径の倍率の変化を表すことになる。

 しかしこのやり方は流儀の一つに過ぎなくて、本質ではない。\( a(w\sub{0}) = 1 \)としてやると書いたが、別に\( a(w\sub{0}) = 2 \)としてやっても構わないわけだ。実に、幾つにしてもいい。\( a(w) \)の値というのは人為的に自由にスケールを設定できるパラメータになっている。それだったら\( a(w\sub{0}) \)が現在の宇宙の半径を表すように設定しておいてやれば、\( a(w) \)はいつでも宇宙の半径そのものを表す変数だということにできて楽ではないか!

 \( a(w) \)のスケールの設定が自由ならば、それと同様の働きをしている\( K \)の値にしても自由に倍率を変えて良いことになる。\( K = 1/R^2 \)だという元々の定義にはもうこだわる必要がない。何か勝手に決めた定数にしておいても構わないのである。そうなると曲率\( K \)の本質はもはや、その値が正であるか負であるかそれとも 0 であるかということだけになってしまうわけだ。だとすれば、\( K = 1 \)あるいは\( K = -1 \)、あるいは\( K = 0 \)のいずれかに固定して設定しておけばいいことになる。

 かなり自由に飛躍した考え方に思えて抵抗があるのだが、問題はなさそうだ。

 こうして見ると、(1) 式、(2) 式の方程式に含まれる変数は\( \varepsilon \)\( p \)\( a \)の 3 つだけしかない。しかし、3 つの変数の振る舞いを決定するにしては式は 2 つきりしかないという、少し頼りない状況である。

 方程式を解いた結果として「真実は一つ!」とばかりに決まってしまうのも頼もしいのだが、もしその結論が現実の世界と合わなければ、ここまで長々と考えてきたことはまとめて捨ててしまうしかないだろう。しかし今回の二つきりしかない方程式はどうやら条件が緩そうである。このお陰で、われわれは幾つかの違った状況を仮定してこの方程式に当てはめてやり、そこから導かれる結果を現実の世界と比較して検証してやることができるわけだ。

 どのような仮定を置くのがもっともうまく現実を表せるのか。そういった推理も物理の醍醐味というやつである。

 仮定としては色々な状況が考えられるのだが、あまり複雑なことを考えると簡単には解けなくなってしまう。楽なものを幾つか試してみることにしよう。


物質優勢の宇宙

 もしも・・・、宇宙という容器の中に入っている主要な成分が光ではなく物質で、しかもその物質がほとんど動いてなかったとしたら・・・。

 まずはそういう仮定で計算してみよう。部分的には激しく運動するガスのような物質があったとしても構わない。宇宙全体の傾向として、運動量成分がほとんど無くて、物質が存在することによるエネルギー密度だけがあるという極端な状況を考えてみる。運動がなければ圧力は生じない。

 要するに (2) 式の右辺で\( p = 0 \)という状況である。\( p \)が厳密には 0 ではなかったとしても、\( \varepsilon \)に比べてほとんど無視できるという状況だ。これを「物質優勢の宇宙」と呼ぶ。この仮定を当てはめると (2) 式は次のようになる。

\[ \begin{align*} \frac{\dot{\varepsilon}}{\varepsilon} \ =\ -3 \frac{\dot{a}}{a} \end{align*} \]
 これを解くのは簡単である。慣れた人には見ただけで分かるのだが、ここは丁寧にやってみよう。これを書き直せば
\[ \begin{align*} \frac{1}{\varepsilon} \dif{\varepsilon}{w} \ =\ -3 \frac{1}{a} \dif{a}{w} \end{align*} \]
という意味であるから、両辺に\( \diff w \)を掛けてやれば単純であることが分かる。
\[ \begin{align*} \frac{1}{\varepsilon} \diff \varepsilon \ =\ -3 \frac{1}{a} \diff a \end{align*} \]
 これは変数分離形と呼ばれる典型的な形の微分方程式であり、両辺を積分してやることで解ける。
\[ \begin{align*} &\log_e |\varepsilon| \ =\ -3 \log_e |a| \ +\ C \\ \therefore \ &\log_e |\varepsilon| \ =\ \log_e |a|^{-3} \ +\ \log_e e^{C} \\ \therefore \ &\varepsilon \ =\ \pm e^{C} a^{-3} \\ \therefore \ &\varepsilon \ =\ A \, a^{-3} \\ \end{align*} \]
 \( A \)は任意の比例定数である。要するにエネルギー密度\( \varepsilon \)は宇宙が膨張すればするほど減少してゆくということであり、割りと自然な感じの結果であろう。逆に考えて、エネルギー密度の減少に応じて宇宙が膨張してゆくという見方も出来なくはない。エネルギー密度の変化が先か、膨張が先か、どちらが原因かはまだ言い切らない方が良いだろう。ここから分かるのはそういう関係になっているということだけである。\( A \)の値は何らかの条件か、測定による数値などを入れて決めてやる必要がありそうだ。

 宇宙が具体的にどのような膨張をするかというのはこの結果を (1) 式に代入して計算することになる。

\[ \begin{align*} \frac{\dot{a}^2}{a^2} \ +\ \frac{K}{a^2} \ -\ \frac{\lambda}{3} \ =\ \frac{8\pi G}{3\,c^4} A a^{-3} \end{align*} \]
 両辺に\( a^2 \)を掛ければもう少しすっきりするだろうか。
\[ \begin{align*} \dot{a}^2 \ +\ K \ -\ \frac{\lambda a^2}{3} \ =\ \frac{8\pi GA}{3\,c^4 \, a} \tag{3} \end{align*} \]
 これは非線形微分方程式になっていて、この形に合う公式もなさそうだし簡単には解けそうにもない。諦めてしまいたくなるのだが、もう少し頑張ってみよう。宇宙初期のまだ半径が非常に小さかった場合と、宇宙が十分に広がった場合を分けて考えれば何とかなりそうだ。

 まず、宇宙の初期には\( a \)がまだとても小さいだろう。だから (3) 式の右辺が極端に大きくなり、それに比べて他の項は無視できるくらいだと考える。解くべき方程式はこうだ。

\[ \begin{align*} \dot{a}^2 \ =\ \frac{8\pi GA}{3\,c^4 \, a} \tag{4} \end{align*} \]
 変数がややこしいので全てひとまとめにして次のように表そう。
\[ \begin{align*} \dot{a}^2 \ =\ \frac{B}{a} \end{align*} \]
 これは「ダランベールの微分方程式」の解法を利用して解くことが出来て、次のようになる。
\[ \begin{align*} a(w) \ =\ \left( \pm \frac{3}{2} Bw + C \right)^{2/3} \end{align*} \]
 宇宙が始まった瞬間というものがもしあるとしてその時刻を\( w = 0 \)としてみよう。宇宙の大きさが 0 から始まったのだとしたら、
\[ \begin{align*} a(w) \ =\ D \ w^{2/3} \tag{5} \end{align*} \]
のような「時間の 2/3 乗に比例した広がり方をしたのだと言えそうだ。係数\( D \)が幾つであるかは観測の結果と合うように決めてやるしかなくて、この結果からは何も言えそうにない。

 しかしこの結果は物理的にはあまり重要ではないのではなかろうか。なぜなら、宇宙が小さくてエネルギー密度が高い状況では、物質のエネルギーが低くてほとんど運動していないなどということはまず有り得ないように思えるからだ。仮定と両立していないのである。せっかく解いてみたのだけれど、これは却下しておいた方が良いだろう。

 では、宇宙が十分に広がった後の状況でなら、今の仮定は問題ないだろう。この場合、(3) 式の左辺の第 3 項だけが目立つようになるので、

\[ \begin{align*} \dot{a}^2 \ =\ \frac{\lambda a^2}{3} \end{align*} \]
という式を解くことになるのだろうか。いや・・・、これはちょっと気になるな・・・。この式は解こうと思えば簡単に解けるのだが、本当に意味のある式だろうか?宇宙定数\( \lambda \)は 0 だという説もある。その場合には別の項が効いてくるのではなかろうか。曲率\( K \)も現在の宇宙ではほとんど 0 であるという観測結果も出ているらしい。だとしたら解くべき式は宇宙初期でなくても (4) 式であって、先ほど却下した方が良いだろうと言った (5) 式の計算結果が意味を持ってくることになる。

 この辺りのことが観測的宇宙論とどのようにつながっているのかは後で考えることにしよう。


放射優勢の宇宙

 別の仮定も考えてみよう。宇宙を満たす主要な成分が光だったとしたら、エネルギー密度\( \varepsilon \)と光圧\( p \)の関係はどうなるだろうか?

 実は光に限った話ではない。宇宙を満たす粒子がたとえ質量を持っていたとしても、その質量エネルギー\( mc^2 \)に比べて全エネルギーの方がはるかに高ければ

\[ \begin{align*} E \ =\ &\sqrt{(Pc)^2 \ +\ (mc^2)^2} \\ &\kinji \ Pc \end{align*} \]
のように近似できて、粒子の運動量\( P \)と全エネルギー\( E \)の関係は光と変わらなくなる。物質粒子もまた、光の粒子と同様に振る舞うわけだ。
 ここで粒子の運動量の話が出て来たので、圧力と運動量密度の概念が頭の中でごっちゃになって 不安に思い始める人も出て来たかもしれない。  両者の関係について復習しておこう。  圧力の原因はもちろん運動量によるものだが、圧力と運動量密度は別物である。  すべての粒子が衝突せずに同一方向に進んでいる場合のように、 運動量密度が正の値を持っていても圧力が生じていない状況はありうる。  今回の話に出てくる p というのはとにかく全て圧力である。  エネルギー密度と圧力は同じ次元だが、運動量密度は光速度を掛けることでやっとエネルギーと同じ次元になるのだった。  この辺りの詳しい説明は「エネルギー運動量テンソルII」という記事で行っている。
 さて、光の圧力とエネルギー密度の関係は次のように表せるのだった。
\[ \begin{align*} p \ =\ \varepsilon / 3 \tag{6} \end{align*} \]
 なぜこうなるかについては統計力学のページの「ステファン・ボルツマンの法則」のところで説明してあるのでそちらを参考にして欲しい。

 とにかく宇宙初期の高エネルギーの状態では質量を持つ粒子も相対論的な運動をしており、光の放射と変わらない振る舞いを示すのである。このような仮定を「放射優勢の宇宙」と呼ぶ。この仮定の肝である (6) 式を (2) 式に代入すると

\[ \begin{align*} \frac{\dot{\varepsilon}}{\varepsilon} \ =\ -4 \frac{\dot{a}}{a} \end{align*} \]
となり、これを先ほどと同じように計算すれば、
\[ \begin{align*} \varepsilon \ =\ A \, a^{-4} \\ \end{align*} \]
という結果を得る。これを (1) 式に代入すると
\[ \begin{align*} \dot{a}^2 \ +\ K \ -\ \frac{\lambda a^2}{3} \ =\ \frac{8\pi GA}{3\,c^4 \, a^2} \end{align*} \]
となって、先ほどとあまり変わらない。宇宙の初期では右辺だけが主要になるのだと考えると、次のような形の微分方程式を解くことになるのだろうか。
\[ \begin{align*} \dot{a} \ =\ \pm \frac{B}{a} \end{align*} \]
 この解は
\[ \begin{align*} a(w) \ =\ \pm \sqrt{\pm 2Bw + C} \end{align*} \]
のような形になりそうだが、\( a(w) > 0 \)だとすれば正の解を取るべきなのだろう。こちらも宇宙が大きさ 0 から始まったと考えてやると、次のような、時間の 1/2 乗に比例した広がり方をしたのだと言えそうだ。
\[ \begin{align*} a(w) \ =\ D \ w^{1/2} \end{align*} \]
 まだ具体的な結論を引き出したくないのでとりあえずこれくらいにしておこう。


宇宙項優勢の宇宙

 他には何か、計算に都合の良い単純な仮定はないだろうか?もし\( \varepsilon + p = 0 \)なんてことがあれば楽だろうなぁ、と思う。何しろ、(2) 式は
\[ \begin{align*} \dot{\varepsilon} \ =\ 0 \end{align*} \]
となるわけだから、\( \varepsilon \)は常に一定値だ。それを (1) 式に代入した後の計算が簡単になるかどうかはすぐには分からないけれども。

 しかし\( \varepsilon + p = 0 \)になるなんてことはあるだろうか?これはエネルギー密度か圧力のどちらかはマイナスでないといけないということだ。「負のエネルギーに満ちた宇宙」というのは言うだけなら簡単でかっこいいのだが、今の場合にはその「負のエネルギー」というものが何を意味するのかの説明ができなくて現実的ではないだろう。かと言って「負の圧力」などと言い出すとさらに分からない。もしそういうものがあるとすれば、宇宙に満ちたガスによって周囲から押し潰されるわけではなくて、逆に広げさせられるようなイメージだ。ちょっとそういうことはありそうにない。

 ところが、宇宙定数\( \lambda \)が 0 でない値を持つことによる影響がどのように出てくるかを考察すると、この辺りの考え方が少し変わるのである。(1) 式に宇宙定数を含む項があるが、これを右辺に移動させてやって、エネルギー密度\( \varepsilon \)とひとまとまりの量だと考えてやることにする。

\[ \begin{align*} \frac{\dot{a}^2}{a^2} \ +\ \frac{K}{a^2} \ =\ \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon \ +\ \frac{\lambda}{3} \end{align*} \]
 どういう事かと言えば、この右辺を何もなかったかのように元の (1) 式の右辺と同じ形にまとめてしまいたいのである。その為には次のような式を考えればいい。
\[ \begin{align*} \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon' \ = \ \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon \ +\ \frac{\lambda}{3} \end{align*} \]
 これは次のように簡単に出来る。
\[ \begin{align*} \varepsilon' \ =\ \varepsilon \ +\ \frac{c^4}{8\pi G} \lambda \tag{7} \end{align*} \]
 これを代入すれば (1) 式から宇宙定数の項が消えてしまい、\( \varepsilon \)のところを\( \varepsilon' \)に置き換えただけの式が出来上がるというわけだ。

 (2) 式もこの新しい\( \varepsilon' \)を使って表そうと思ったら、圧力\( p \)の方にも次のような細工をしないといけない。

\[ \begin{align*} p' \ =\ p \ -\ \frac{c^4}{8\pi G} \lambda \tag{8} \end{align*} \]
 宇宙定数のもたらす効果を、あたかも物質の性質であるかのように取り込んだ場合、(1) 式と (2) 式は宇宙定数を含まない式として次のように書き表されることになるというわけだ。
\[ \begin{align*} &\frac{\dot{a}^2}{a^2} \ +\ \frac{K}{a^2} \ =\ \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon' \tag{9} \\[3pt] &\dot{\varepsilon}' \ =\ -3 \frac{\dot{a}}{a}\,(\varepsilon' \ +\ p') \tag{10} \end{align*} \]
 さて、このことから何が分かるだろう?宇宙定数が値を持つことによって起きるのと同等の効果は、エネルギー密度や圧力をいじることでも表現できてしまうということだ。つまり、宇宙定数が正の値を持つということは、あたかも負の圧力を持った物質が存在して宇宙に充満しているかのような効果をもたらしているということなのである。「宇宙定数は斥力的な効果を持つ」という説明があちこちで見られるが、それはこのような意味だったわけだ。

 そこで先ほどの\( \varepsilon + p = 0 \)という条件についてもう一度考えてみよう。負の圧力というのは奇妙だが、宇宙定数が正の値を持つ状態だと解釈することで許されることは分かった。ではこの条件は具体的にどんな状況を表していると言えるだろう?

 (9) 式や (10) 式を使って考えてみよう。この場合、\( \varepsilon' + p' = 0 \)という仮定を使えば計算が楽になる。それはつまり\( \varepsilon' = - p' \)と書いてもいいわけだが、これを満たすのは\( \varepsilon = 0 \)\( p = 0 \)を満たすときである。つまり通常の性質を持つ物質が宇宙の中にはほとんどないと考えられるほど、宇宙定数が大きな値を持つ宇宙を表していることになるだろう。この仮定を「宇宙項優勢の宇宙」と呼ぶ。

 かなり極端な仮定だとは思うが、何かの役に立つかも知れない。そういうことが現実的にあるかどうかは別として、これは計算がとても楽な例の一つである。

 (9) 式に当てはめて解いてみよう。もしも宇宙定数が大きければ、右辺にある\( \varepsilon' \)も大きいことが (7) 式から分かる。今の仮定では\( \varepsilon' \)

\[ \begin{align*} \varepsilon' \ =\ \frac{c^4}{8\pi G} \lambda \tag{11} \end{align*} \]
で一定だと考えているからである。(9) 式の右辺の方がずっと大きいために左辺の第 2 項が無視できる程度であったならば、(9) 式は次のように書けるだろう。
\[ \begin{align*} \frac{\dot{a}^2}{a^2} \ =\ \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon' \end{align*} \]
 両辺に\( a^2 \)を掛けて簡単にし、2 乗を外すと次のようになる。
\[ \begin{align*} \dot{a} \ =\ \pm \sqrt{ \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon'} \ a \end{align*} \]
 この右辺のルートの中は定数なので解くのは簡単だ。
\[ \begin{align*} a(w) \ =\ D \ \exp \left( \pm \sqrt{ \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon'} \ w \right) \tag{12} \end{align*} \]
 このように時間経過によって指数関数的に膨らんだり、あるいは縮んだりする解が得られる。この式に (11) 式を当てはめればずっと簡単に表現できそうなのだが、今はそれをやらないままにしておこう。それとは別の形で表したいのである。そのために次の話が必要になる。


ハッブル定数

 さて、フリードマン方程式は一つきりの答えを出すわけではないらしい。現実の観測と比較してみて、状況を絞りこまないといけないようだ。観測結果と比較しやすいように、フリードマン方程式の分析をしてみよう。

 例えば、(1) 式には\( (\dot{a}/a)^2 \)というものが出てくる。\( a(w) \)は宇宙の半径の変動を表す関数なのだった。先ほどから宇宙の半径と書いているが、それは 4 次元球の半径のイメージであり、その 4 次元球の表面である 3 次元が我々の 3 次元世界だと考えているのだった。だから実は\( a(w) \)というのは直接は測れない距離を意味しているのである。

 しかもそれは曲率が正の場合を想定したイメージに過ぎなくて、 曲率が負または 0 の場合はそれを拡張した解釈をした、無限の広がりを持つ宇宙になるのだった。  その辺りの話はすでにこの記事の前に色々と説明済みである。
 ところが我々の住む「曲がった」3 次元世界に沿って測る二点間の直線距離も、宇宙の半径\( a(w) \)の増大に比例して伸びる量である。我々にとっての現実の宇宙での二点間の観測距離を\( r(w) \)で表すと、比例定数\( k \)を使って、
\[ \begin{align*} a(w) \ =\ k\, r(w) \end{align*} \]
と表せる。宇宙の半径の変化の速度と\( r(w) \)の変化の速度の関係も、
\[ \begin{align*} \dot{a}(w) \ =\ k\, \dot{r}(w) \end{align*} \]
のように表せる。ということはこの両辺を\( a(w) \)で割ってやれば
\[ \begin{align*} \frac{\dot{a}(w)}{a(w)} \ =\ \frac{k\,\dot{r}(w)}{k\,r(w)} \ =\ \frac{\dot{r}(w)}{r(w)} \end{align*} \]
であり、比例定数\( k \)のことを忘れて\( \dot{a}(w)/a(w) \)\( \dot{r}(w)/r(w) \)を同一のものだと考えることができる。では\( \dot{r}(w)/r(w) \)はどんな意味に解釈できるだろうか。

 アメリカの天文学者ハッブルは 1929 年頃、地球から様々な距離にある遠方の銀河の観測をしていて、遠くにあるものほどその光に強い赤方偏移があるのを発見した。つまり、遠くにある天体は、より遠くにあるものほど、速い速度で我々から遠ざかっているようなのである。その移動速度と我々からの距離にはおおよその比例関係が成り立っているらしいということになり、その比例定数は「ハッブル定数」と呼ばれることになった。これは宇宙が膨張していると考えることで説明が付く。ハッブル定数を\( H \)としてこの関係を式で書くと次のようなことになるだろう。

\[ \begin{align*} \dot{r} \ =\ H \, r \end{align*} \]
 これはつまり、
\[ \begin{align*} H \ =\ \frac{\dot{r}}{r} \end{align*} \]
であり、先ほどから考えている\( \dot{r}(w)/r(w) \)\( \dot{a}(w)/a(w) \)というのは、まさにハッブル定数を意味しているのだということになる。
\[ \begin{align*} H \ =\ \frac{\dot{a}}{a} \end{align*} \]
 この記事でのハッブル定数は距離を\( w (= ct) \)で微分して距離で割ったものになっているが、良く目にするハッブル定数の値は「キロメートル毎秒で表された速度を、メガパーセクで表された距離で割った」ものが使われているので、数値を当てはめる際には換算が必要である。距離を全てメートル単位に統一して、さらに光速度で割ってやらないといけない。

 ハッブル定数は距離と移動速度の比例定数という意味では「定数」だが、長い宇宙の歴史から見れば値の変わる量だろうと考えられる。そういうわけで\( H(w) \)と書いても良いだろう。


宇宙項優勢の宇宙の結果を書き直す

 ハッブル定数の現在の測定値を\( H\sub{0} \)だとしてみよう。それを (9) 式に当てはめてみると次のように書けるだろう。
\[ \begin{align*} {H\sub{0}}^2 \ +\ \frac{K}{a^2} \ =\ \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon' \end{align*} \]
 先ほどやった「宇宙項優勢の宇宙」の計算では右辺の方がずっと大きくて左辺の第 2 項が無視できる程度であると考えたのだった。その場合には次のような関係が言えることになる。
\[ \begin{align*} {H\sub{0}}^2 \ =\ \frac{8\pi G}{3\,c^4} \varepsilon' \end{align*} \]
 これを (12) 式に当てはめれば
\[ \begin{align*} a(w) \ =\ D\ e^{\pm H\sub{0} \, w} \end{align*} \]
とシンプルに書き表すことができる。観測結果と直結した式になっており、宇宙定数などを表に出さなくて済むので扱いやすい形である。

 さて、そろそろ疲れてきた。この辺りで一区切りしても良いだろう。今回はフリードマン方程式を具体的に解いてみる簡単な実例を見たわけだが、各項の大きさの比較が妥当かどうかについてはあまり考えなかった。現実の数値を入れてみて、実際には宇宙のどの時期にどの式が使えるのかというのを考えて、ひと繋がりの宇宙のシナリオを推理してみたい。次回はそういうことにチャレンジしてみよう。