代表的な二つの公式

「重力場の方程式」で空間の曲がりを計算してやれば、
あとは「測地線の方程式」で物体の軌道を知ることが出来る。

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大切な式はただ二つ

 一般相対論から導かれる基本公式は二つある。一つは「測地線の方程式」である。
\[ \begin{align*} \ddif{x^{\lambda}}{\tau} + \cris{\lambda}{\mu \nu} \dif{x^{\mu}}{\tau} \dif{x^{\nu}}{\tau} = 0 \end{align*} \]
 ここでは表面上の説明だけを軽くしておこう。この式の中に出てくる\( \cris{}{} \)記号は「クリストッフェル記号」と呼ばれており、まあ、略記号である。展開すると少々大変なことになるが、とりあえず、空間の歪みを表す「計量」という量の組み合わせで出来ている、ということだけ頭に入れておいてもらえればいい。

 もう一つの式は「重力場の方程式」あるいは別名「アインシュタイン方程式」である。

\[ \begin{align*} G^{\mu \nu} \ =\ \frac{8\pi G}{c^4} T^{\mu \nu} \end{align*} \]
 右辺に出てくる\( 8\pi G /c^4 \)は定数である。この\( G \)は古典論にも出てくる重力定数であり、\( c \)は光速度を表している。そう考えると非常に簡単な式に思えるが、実は複雑である。左辺の\( G^{\mu \nu} \)は「アインシュタイン・テンソル」と呼ばれており、その定義はあとで示すことにする。それを見たらきっと嫌になるだろう。右辺の\( T^{\mu \nu} \)は、特殊相対論で論じた「エネルギー・運動量テンソル」をそのまま使えばよい。

 念のために書いておくと、記号の肩に載っている\( \mu \)\( \nu \)は添え字であって、べき乗を表すのではない。\( 0 \sim 3 \)の数字が入る。例えば\( x\sup{0} \)は時間軸を表すし、\( x\sup{1} \sim x\sup{3} \)は空間の 3 つの次元を表している。それはリーマン幾何学を学べばすぐに分かる事であろう。


測地線の方程式について

 測地線の方程式は、光を含めたあらゆる物体が4次元空間の中でたどる道筋を表している。物体は光を含めすべて、曲がった4次元空間の中をまっすぐに進んでいるのである。測地線というのは「直線」のことである。
地球上で 2 点間の距離を測るときに引く線は「測地線」と呼ばれており、それと似た概念であるのでこう呼ばれているのである。例えば地球の表面に直線を引いたとすると、それは球面の上の直線なので、球面に沿って曲がっている。曲がってはいるが、線を引いた本人から見れば、それはやはり直線なのだ。
この例と相対論の違いは次元の数である。地球の表面は曲がった 2 次元であり、相対論では曲がっているのは 4 次元であると考えるのである。
直線と言っても、地球の上にいろんな向きに線が引けるように、4 次元の中にもいろんな線がひける。同じように、ある線は光の進路を表しているし、別の線はゆっくり動く物体の進む道筋を表している、というわけだ。
だから、「全ての物体は曲がった空間をまっすぐに進む」という説明を聞いても全ての物体が同じコースを通ると誤解してはいけない。

 例えば、2 次元のグラフを考えてみよう。このグラフの横軸を時間にして、縦軸を進んだ距離とする。このグラフの上に直線を引くことによって、いろんな速度の物体を表すことが出来る。直線の式は\( y = mx \)である。この直線の式が「測地線の方程式」に当たる。もし、横にまっすぐに線を引けば、これは時間によって位置が変わらないことを表すので静止した物体を意味するし、傾き\( m \)が大きい直線ほど速度の大きな物体の等速運動を表すことが出来る。

 ところが、このグラフ用紙の方眼の印刷がずれていたり、グニャリと曲がっていたらどうなるだろうか?普通は使い物にならないグラフ用紙を作ったメーカーを訴えるところだが、ここにバカ正直にグラフの方眼だけを信じる人がいた場合、ここに描いた直線は直線だと理解してもらえないだろう。まっすぐな線を引いたつもりでも、曲がっていると判断されるのである。グラフの上で曲がった線は何を表しているだろうか?これは速度が変化したことを表している。つまり、加速したことを意味する。

 これと同じなのである。世の中の全ての物体は、慣性の法則に従って、止まっているものはずーっと止まっているし、動いているものは同じ速度で動きつづける。これはグラフで言えば直線で表される。ところが物体は直線上を進んでいるつもりなのに、空間(グラフ)の方が曲がっているので、加速したように観察されるのだ。

 空間(グラフの方眼)は質量があると、曲がってしまう。私たちは星の重力で宇宙船の進路が曲げられると、星の重力に引かれて加速したように感じるのだが、実は曲がった時空間の中をまっすぐ等速直線運動をしているだけなのである。私たちはグラフの方眼だけを信じるバカ正直な人間なのだ。そして「測地線の方程式」はグラフが曲がっていても、ものともせずに直線を表すことの出来る万能方程式なのである。

 つまり、一般相対性理論というのは、まっすぐな時空間での点が、曲がった時空間ではどの位置に相当するかを表す「座標変換の理論」だと言えるのである。


重力場の方程式について

 さて、次に「重力場の方程式」の方を解説しよう。先ほど、空間は質量があると曲がってしまうと書いたが、どれくらい曲がるのかを表すのがこの方程式である。

 空間は質量(=エネルギー)だけでなく、運動量によっても曲がる。この式の右辺は、エネルギーや運動量の密度を表している。つまり、非常に高速で移動する物体や、巨大な質量が存在する時、その近くの空間が曲がるのである。

 その空間の曲がり具合を表す量を「計量」と呼んでいる。左辺の\( G^{\mu \nu} \)は実は計量が非常に複雑に組み合わさったものである。この式は簡単に見えるが、実はとんでもない簡略化の繰り返しをしている。あとで展開してみるが、その時にその凄まじさ、複雑さが分かるであろう。

 つまり、右辺で表される「エネルギー・運動量の密度分布」によって、左辺に含まれる空間の曲がり具合を表す量「計量」がどのように変化するかを求める方程式が、この「重力場の方程式」なのである。


二つの式の使い方

 この二つの方程式の使い方は大体次のようなものである。まず運動量やエネルギーの密度を「アインシュタイン方程式」に代入して解き、各点での「計量」を計算する。それが出来たら、その「計量」を「測地線の方程式」に当てはめて、物体がどのコースを進むのかを知ることが出来る、という具合である。

 しかし、この計算は恐ろしく複雑であることを忘れてはならない。単に式が複雑であるだけではない。例えば、私たちがエネルギーや運動量を測る時、自分はまっすぐな空間にいると考えている。ところが、そこにエネルギーが存在するだけで、すでにその周りの空間は曲がっているのである。そこでその空間の曲がり具合を考慮に入れてエネルギーや運動量を測らなくてはならない。この重力場の方程式は、空間の曲がりと、その曲がった空間の尺度で測られるエネルギーや運動量がうまく釣り合うような形で成り立っていなければならないのである。

 弱い重力場の場合は、空間の曲がりがエネルギーや運動量に与える影響は十分小さいと考えて計算することも出来るが、強い重力場を扱おうとすればそうはいかない。ただし、簡単な条件にだけ絞れば、何とか計算できる程度のものになる。有名なシュバルツシルト解やカー解などはその代表的なものである。しかし、もっと一般的な問題を解こうとする場合にはスーパーコンピュータによる計算が必要になってくる。

 例えば、巨大な天体や光速にきわめて近い物体が運動している状況を計算したいとする。するとその周りの物体の質量分布や運動、またその物体自身が作り出す時空の歪みを計算して、その歪みの中をどう運動するかという問題を計算することになるのであるが、大変なことに、その今求めた物体の運動そのものによって時空の歪みが再び変化を受けることになってしまう。それでまた時空の歪みを計算し直さなければならないのである。

 スターウォーズのエピソード W で、ハンソロがワープに入る前の軌道計算の重要性について怒鳴るシーンが出てくるが、これを考えると、その時のコンピュータの計算の内容の複雑さや、なぜあんなに計算に時間がかかったのかが理解できてますますあの物語の世界がカッコ良く見えてくることであろう。