測地線

意外と単純に導けるもんだな。

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平面人になりきる

 我々は面白い数学的道具を手に入れた。あるベクトルを微小な平行移動させたときに、移動した先でそのベクトルがどう表されるべきかが計算できるようになったのである。

 この道具を持って、いよいよ曲がった空間へ出かけよう。

 イメージするためには、3 次元の空間の中に存在する曲がった面を思い浮かべながらも、自分はその面上に住む2次元人であって、認識は 2 つの次元のみに限られていると思い込んでもらいたい。ああ、これは何という足枷だろう。今や自分にとってこの面だけが認識できる世界の全てなのだ。


曲面上での平行なベクトル

 この平面的な世界の中でもベクトルは定義できる。そしてそのベクトルを平行移動させてやることも出来る。

 曲面の上でベクトルの平行移動をしたら、曲面を飛び出した方向を向いてしまうことになるのではないか、と考える人はまだ 3 次元の思考を捨てきれていない。そもそも前回学んだ平行移動の意味は何だったかというと、ある点でのベクトルをその近くの点へそのまま移動して、その地点での基底ベクトルとの内積を取ったらどう表せるか、ということであった。つまり、話は 2 次元の中だけで完結しているのである。

 この平面世界の上に一つの曲線コースがあるのを想像してみよう。「曲線コース」というのは、この平面世界の住人にとっての曲線のことであって、曲がった面上の線だからそれは当然曲線になると言っているわけではない。

 さらにこの曲線上に目盛りを振って、それを\( \sigma \)で表そう。この目盛りは等間隔でなくても良くて、位置を表すパラメータの役割をしてくれれば十分である。\( \sigma \)が決まれば位置が決まるのである。

 さて、この曲面上には一面にベクトルが定義されており、場所によって色んな方向を向いていたり大きさも異なっていたりするわけだが、先ほど考えた線上に限ってはどの点にあるベクトルを見ても、たまたま全て平行で、かつ同じ長さになっていたとする。たまたまでは起こり得ないようなかなり特殊な状況ではあるが、そういうことがあったとしよう。

 つまり線上にある、一つのベクトルを平行移動したものが線上の全ての点にあるということだ。このような特別なベクトルが満たす方程式を立ててみたい。

 曲線上のある位置\( \sigma \)にある反変ベクトル\( A^i \)を曲線に沿って少し平行移動して\( \sigma + \diff \sigma \)にまで持ってきた時、それが\( \sigma + \diff \sigma \)地点に元からあるベクトルと等しいのであるから、

\[ \begin{align*} A^i(\sigma+d\sigma) \ =\ A^i(\sigma) - \cris{i}{jk} A^j(\sigma) \diff x^k \end{align*} \]
という関係が成り立っていることだろう。ただし\( \diff x^k \)というのは、\( \diff \sigma \)だけ移動した時の距離である。これを移項してやると
\[ \begin{align*} A^i(\sigma+d\sigma) - A^i(\sigma) + \cris{i}{jk} A^j(\sigma) \diff x^k = 0 \end{align*} \]
であり、両辺を\( \diff \sigma \)で割ってやると、
\[ \begin{align*} \frac{A^i(\sigma+d\sigma) - A^i(\sigma)}{d\sigma} + \cris{i}{jk} A^j(\sigma) \dif{x^k}{\sigma} = 0 \end{align*} \]
となる。\( \diff \sigma \)を無限小へ持って行けば次のようになる。
\[ \begin{align*} \dif{A^i(\sigma)}{\sigma} + \cris{i}{jk} A^j(\sigma) \dif{x^k}{\sigma} = 0 \end{align*} \]
 これがこの特殊な状況を実現しているベクトル\( \Vec{A}(\sigma) \)が満たす微分方程式である。この式は少し後で使う事になる。


測地線

 ここまで来れば残りの話は簡単だ。パラメータ\( \sigma \)の変化に従って、先ほど考えた適当な曲線上を我々自身が移動する状況をイメージしよう。今、我々が向かっている方向\( v^i \)を知りたければ、
\[ \begin{align*} v^i = \dif{x^i}{\sigma} \end{align*} \]
という計算をすればいい。もし\( \sigma \)として時間を使っていたならばこれは速度ベクトルを意味することになるのだろう。しかし\( \sigma \)は別に時間でなくてもいい。要するに\( v^i \)はどの方向へ向かっているかを表しているのであり、曲面上にいる人にとっての、曲線コースの接線ベクトルである。

 何度も言うようだが、この曲面上に住んでいる我々にとっては 2 つのパラメータこそが現在位置を表す全てであって、立体的な思考はしていない。自分たちが曲面上で「高さ」的な移動をしているなんて露とも思ってはいないのだ。先ほど「曲線コースの接線ベクトル」と言ったものは、曲面を外から見ている人が考えるような 3 次元的な接線のことではないので注意が必要だ。

 さて、我々が曲面上を真っ直ぐにドライブしたいと思ったら、どんなことに気を付ければいいだろう。\( v^i \) = 一定 となるように走って行けばいいだろうか。

 そんなものは当てにはならない。地面に描かれている座標軸は真っ直ぐとは限らないからだ。これは地面が曲がっていることとは直接は関係ない。例えば、公園の平らな地面の上に極座標が描かれている光景を想像してもらいたい。このとき\( r \)\( \theta \)の変化が常に一定となるような方向に進んで行ったら、我々は原点から離れながら原点の周りをぐるぐる回ることになってしまうだろう。座標値の変化に頼るのはまるであてにはならない。

 こういう時こそ平行移動の考えを使うのである。たとえ地面にどんな座標軸が描かれていようとも、たとえ我々が進んでいる方向を示している接線ベクトル\( v^i \)の値が目まぐるしく変化し続けようとも、その変化が座標の上を平行移動した事のみによる変化だということが保証されていればそれで真っ直ぐ進んだことになる。

 これを実現するために、先ほどの「あるコース上で平行移動する反変ベクトル\( A^i \)が満たす式」を使うのである。\( A^i \)の代わりに\( v^i \)を代入してやる。

\[ \begin{align*} \ddif{x^i(\sigma)}{\sigma} + \cris{i}{jk} \dif{x^j}{\sigma} \dif{x^k}{\sigma} = 0 \end{align*} \]
 こうすれば、「あるコースのどの地点の接線も全て平行であると言えるようなコース」が満たすべき微分方程式となる。言い換えれば「真っ直ぐなコース」の方程式であり、すなわちこれが「測地線の方程式」である。

 この式は見た目が少々複雑で一体どう扱ったらいいのか分からないという人もいることだろう。最も単純な場合を考えれば少しは参考になるのではないだろうか。もしこの面が一切曲がっていなくて直線座標で表されていたとしたら接続係数は常に 0 であり、上の方程式は

\[ \begin{align*} \ddif{x^i(\sigma)}{\sigma} = 0 \end{align*} \]
という単純な式になる。これは見た目は一つの式だが実は連立方程式であり、考えている曲面の次元の数だけこのような式が並ぶことになる。それでもこれを解くのは極めて簡単だろう。2 次元なら\( i = 1, 2 \)の二つであるから、分かり易いように\( x\sup{1} \)\( x\sup{2} \)をそれぞれ、\( X \)\( Y \)と表記してやれば、解は、
\[ \begin{align*} X\ &=\ a\ \sigma + b \\ Y\ &=\ c\ \sigma + d \end{align*} \]
となる。\( a \)\( b \)\( c \)\( d \)は任意の定数である。パラメータ\( \sigma \)が何なのかよく分からないことがイメージを邪魔するのならば、代わりに時間\( t \)とでも置いてイメージすればいい。まさに直線上を移動する様子を表す解だ。\( \sigma \)が邪魔なら消去して式を一つにまとめてやってもいい。
\[ \begin{align*} Y = AX+B \end{align*} \]
 ここで任意の定数が許されていることからも分かるように、解は一つではない。これだけで何か一つの測地線を決めてしまうような式ではないということだ。決めるためには他に何か条件を付ける必要がある。例えば、スタート地点とゴール地点を決めて、これらを結ぶ測地線はどれか、とかいう具合だ。

 これでこの方程式がどんなものか雰囲気を掴んでもらえただろうか。


変分原理を使う導き方

 ここまで、直観が通用するような方法で測地線の方程式を導いてきた。しかし別のやり方があることも知っていてもらいたい。「測地線とは曲面上の 2 点間を結ぶ最短距離である」ということを前提にして、変分原理を使ってこの方程式の形を定めてしまうという強力な手法がある。

 私は今のところそのやり方を説明するつもりがないので、余裕のある人は他の教科書を調べてみるといいだろう。少ない仮定を元に曖昧な議論をすること無しに一気に望むものが得られるので、こちらの方が好きだという人も多いだろう。興味深い方法ではある。


相対論への適用

 一般相対論に出てくる測地線の方程式は、上で求まった方程式のパラメータ\( \sigma \)として固有時\( \tau \)を使っただけのものである。固有時は座標変換によって変化しないし、質点にとっての時間の意味もあるし、それを使うのが一番便利だろう。

 相対論の重要な式の一つは、こんな単純な考えで導かれたものだったのだ。理解しやすい話だ。何かこれだけでは物理的考察が足りないような気がするかも知れない。しかし\( \sigma \)の代わりに何を使ったって本当はいいのだ。心配なら自分で気が済むまで考えてみることだ。

 これで目標の一つに到達したことになる。これからは重力場の方程式を目指して進もう。それは今までの話にさらに積み上げることになるので、ここまでのように簡単には行かないかも知れない。さらに学ぶ努力が求められる。