一般相対論の意味

まずは基本事項の確認。

[
前の記事へ]  [相対性理論の目次へ]  [次の記事へ]


座標の取り方にこだわらない理論

 一般相対論の意味をちゃんと把握できているか、まだちょっと自信が持てないでいる。アインシュタイン方程式を導き出すことを第一の目標としてやってきたし、それが求まった後はそれが本当に現実にあてはまるかどうかの検討に集中してしまっていた。それでこの理論の意味をじっくり考えることをあまりしていないのだった。気になることはまだ色々とあるので、これから興味の趣くままに解決していこうと思う。

 まずは、とても誤解しやすい部分について説明し直しておかなくてはならないかと思う。多くの人にとってモヤモヤが取れない原因はここにある気がするからだ。今回は分かっている人にとっては当たり前のことを長々と説明するが、気長に読んでもらいたい。

 とりあえず、一般相対論の重要な点を一言で言ってしまえば、もうどんな座標を使っても大丈夫だということである。リーマン幾何学がサポートしてくれる。計算や議論に都合の良い座標系を持ってきて、好きに採用してやればいいのである。デカルト座標や極座標など、他にも色々とあるが、どれを使ってもいい。しかしこれがちょっと分かりにくいのだ。


特殊相対論に戻って再確認

 一旦、最も簡単な話に立ち戻ってみよう。例えば、特殊相対論ではローレンツ変換というものを使って、ある人の立場での座標から別の人の立場の座標へと乗り移ることを考えたのだった。ある人にとっての座標で\( ( t, x ) \)で起きた出来事が、別の人にとっては、いつ、どこで起きた事件だと考えられるのか、という意味の計算をしたわけだ。

 その様子を分かり易く示すために、時空図と呼ばれる平面を使う。まず A という人の立場で直交座標を用意して、別の B という人が使う座標との関連を考えて同じ平面上に描くことがよく行われる。すると、それは斜交座標で表されるのであった。しかし B にとってみれば自分の使う座標を直交座標にして世界を表す権利があるのであり、平面上に斜交座標で表されるべきは A の座標系の方なのではないのかと感じることだろう。

 このことから分かるように、今の話に出てきている時空図というのは A の立場で用意されたものであり、B の立場で描かれた平面とは全く別物であることになるだろう。宇宙で起きている全ての事象を同一の平面上に持ってきて共通の話をすることは出来るのだが、決して公平になっているわけではなく、とりあえず誰かの立場に合わせた舞台を用意したことになるわけだ。

 誤解を減らすため、同じことをもう一度、表現を少し変えて言い直そう。理論的にはどの人が使う座標系も対等ではある。しかし具体的なグラフをイメージして考えようとすると、誰かの視点に都合が良いように準備された図を使うことになるというわけだ。

 一般相対論でもこの点は同じであり、宇宙での物体の運動を表す曲線や時空の歪み具合を表すのに、唯一の表し方というものがあるわけではない。曲がった時空というものは、曲がった面上に描かれたグラフに喩えることが出来る。どんな座標を使っても良いと書いたが、これは誰から見ても同じ形、同じ曲がり方をした面の上に、色んな座標の取り方で座標軸の線を描くことだとは限らない。立場によっては思い描くグラフの面の形状さえも異なることがあるのである。

 例えばシュバルツシルト解は、星の質量が静止しているように見える立場での座標を考えて解いたわけだ。しかし別の立場から見ればこの星は運動しているようにも見えるだろう。その立場で時空の歪みを計算したっていいのだが、運動する質量が作る時空の歪みなんてのは複雑すぎて、よっぽどの事情がなければ取り組んでみようという気さえ起こらない。とにかく、時空のイメージは一通りではないことは頭においていてもらいたい。


座標変数に意味があるとは限らない

 では本題に戻ろう。特殊相対論では直交座標か斜交座標かくらいしか出てこないのが普通だった。しかし一般相対性理論ではあらゆる座標系が使われる。そのときに気を付けないといけないのは、それが一体、誰の視点に合わせて作られた座標系なのか、ということだ。それは一般相対論の論理からは出てこない。理論を使おうとする側が、自分の計算の都合に合わせて自由に決めていいのである。その後で理論をあてはめることになる。

 自由に決めていいとはどういうことだろうか。とんでもない座標だって勝手に作って採用できてしまう気がする。それでいいのだろうか。その通り。時間と空間で計 4 つの座標変数\( ( w, x, y, z ) \)があるわけだが、これらが滅茶苦茶に入り混じったような新しい 4 つの座標変数\( ( w', x', y', z' ) \)を定義してやってもいいのだ。それが計算に都合が良ければそうすることもあるだろう。そのときに、新しく定義された変数は物理的な意味を持たなくなるかもしれない。つまり、新しい変数\( w' \)は必ずしも誰かにとっての時間を意味する変数だとは限らないわけだ。それでもいいのである。ただし、新変数の解釈はその奇妙な座標系を採用した人間の側で、責任を持って行う必要がある。

 理論が示してくれるのは、そのような人為的な座標を採用した場合に、微小な 4 次元距離\( \diff s \)が各点でどのように表されるのかということである。それは計量\( g_{ij} \)によって表されることになるだろう。おかしな座標を採用したからといって、それだけで時空が歪んでいるとは言えない。時空が歪んでいるかどうかは、その計量を組み合わせて曲率を計算することで初めてはっきりするのである。ほら、平面の上で極座標を使った場合、確かに計量\( g_{ij} \)は各地点で異なる値を持つかも知れないが、それだけで時空が曲がっているとは言えないだろう。平面は平面であることに変わりはないではないか。

 ここにこうして書いてみると実に当たり前のことであって誤解しようが無いように思えるのだが、ちょっと実例に踏み込んで考えてみると、これを書いた本人ですらまた同じようなモヤモヤに包まれたりするのである。

 では次回は具体的にシュバルツシルト解を使って遊んでみよう。ここで書いたような話が役に立つ事例に出会うかも知れない。