エネルギー運動量テンソルII

エネルギー密度と圧力は同じ次元!

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ことの次第

 ここでは「エネルギー運動量テンソル」の右下の 3 × 3 の行列部分が、連続体力学に出てくる応力テンソルと同じ意味になっていることを説明しようと思う。

 一つ前の記事ではその部分を説明せずに読者任せにしてごまかしている。必要ないと思っていたからだ。実際、長い間、その知識を使うことはなかった。

 しかしずっと後の方の記事「フリードマン方程式」を書いている途中でそのあたりを詳しく知っておくことが必要だと気付き始めた。その記事の中に簡単な説明を入れれば済むだろうと初めは思っていたのだが、書き上がってみると結構な分量になって本文を圧迫することになってしまった。それでその一部を分離してここに挿入することにしたというわけである。

 今この知識が必要なければ、ここは読み飛ばしても大丈夫だ。


ざっとおさらい

 まずは復習をしておこう。エネルギー運動量テンソル\( T^{\,ij} \)は次のように定義されるのだった。
\[ \begin{align*} T^{\,ij} \ =\ \rho\,c^2\ \left( \begin{array}{cccc} u\sup{0} u\sup{0} & u\sup{0} u\sup{1} & u\sup{0} u\sup{2} & u\sup{0} u\sup{3} \\[3pt] u\sup{1} u\sup{0} & u\sup{1} u\sup{1} & u\sup{1} u\sup{2} & u\sup{1} u\sup{3} \\[3pt] u\sup{2} u\sup{0} & u\sup{2} u\sup{1} & u\sup{2} u\sup{2} & u\sup{2} u\sup{3} \\[3pt] u\sup{3} u\sup{0} & u\sup{3} u\sup{1} & u\sup{3} u\sup{2} & u\sup{3} u\sup{3} \end{array} \right) \tag{1} \end{align*} \]
 ここで\( \rho \)は物質の密度である。また、\( u^i \)というのは物質の 4 元速度\( \Vec{u} \)の各成分を表しているのだった。
\[ \begin{align*} \Vec{u} \ =\ ( u\sup{0},\ u\sup{1},\ u\sup{2},\ u\sup{3} ) \end{align*} \]
 次元が合っていないのではないかと気にする人がいるかも知れないので注意しておくと、このサイトでは 4 元速度の定義のところで光速度\( c \)で割っているので\( u^i \)は無次元量である。光速を基準にした速度で表しているということだ。このように定義された\( T^{\,ij} \)の意味は次のようになると前にも説明した。
\[ \begin{align*} T^{\,ij} \ =\ \left( \begin{array}{cccc} \varepsilon & c\,\pi_x & c\,\pi_y & c\,\pi_z \\[3pt] c\,\pi_x & ? & ? & ? \\[3pt] c\,\pi_y & ? & ? & ? \\[3pt] c\,\pi_z & ? & ? & ? \end{array} \right) \end{align*} \]
 \( \varepsilon \)はエネルギー密度で、\( \pi_x \)\( \pi_y \)\( \pi_z \)は各方向の運動量密度である。そして「?」と書いた部分は連続体の応力テンソルと同じ意味になるのだと説明したのだった。連続体というのは固体や液体や気体のことで、沢山の粒子の集まりである。その内部で働く圧力や応力、液体の粘性などの影響が、この応力テンソルの部分に表されているというのだ。

 ところがここで疑問がわく。連続体は多数の粒子で構成されているので、その粒子の速度も様々であろう。ということは (1) 式のような「単純な 4 元速度の組み合わせ」としては表せないのではないだろうか。実はその通りであり、この部分には多数の粒子によって生み出される平均的な値としての圧力や応力が入るのである。

 なぜそんなことをしてもいいのだろう?(1) 式のように定義されたテンソルで、「?」の部分が応力テンソルだと言えるのはなぜだろうか。それをこれから説明しよう。

 その前に少し確認しておいた方が良いことがある。後で困惑しないためだ。もし多数の粒子が全く同一の速度を持って、互いに力を及ぼし合わないで運動していたとしたらどうだろうか。そのような状態の粒子群を「ダスト流体」と呼ぶ。ダスト流体は (1) 式のような形で問題なく表せることになるだろう。しかしその場合、たとえ「?」の部分に何らかの数値が入ることになったとしても応力テンソルとしての意味は持たない。ダスト流体の内部には応力が働くはずがないからだ。それでも「?」の部分に数値が入ることはある。これをどう考えるべきか?「?」の部分は必ずしも応力テンソルと同一のものだと解釈できるわけではないということになるだろうか。そこらへんにも意識しながら次の説明を読んでもらいたい。


圧力

 では本題に入ろう。多数の粒子が互いに力を及ぼし合って様々な速度を持つ場合には、\( T^{\,ij} \)はそれらの多数の粒子についての足し合わせになる。それがなぜ応力の意味を持つのかを考えてみよう。まずは\( T\sup{11} \)からだ。\( T\sup{11} \)は次のように変形できる。
\[ \begin{align*} T\sup{11} \ &=\ \rho\, c^2 u\sup{1}u\sup{1} \\ &=\ \rho\, c^2 \frac{\gamma v_x}{c} \, \frac{\gamma v_x}{c} \\ &=\ \gamma (\gamma \, \rho\, v_x) \, v_x \\ &=\ \gamma \, \pi_x \, v_x \end{align*} \]
 相対論での運動量の定義は\( mv \)ではなく\( \gamma mv \)であるから、運動量密度\( \pi_x \)\( \gamma \rho v_x \)だとして変形した。

 この\( \gamma \, \pi_x \, v_x \)をどのように解釈できるだろうか。運動量密度\( \pi_x \)を持った粒子群が速度\( v_x \)で移動する様子が思い浮かぶ。それはごく当たり前な光景だ。するとこの式は運動量の移動量を表しているのかも知れない。この線で解釈してみよう。

 体積が\( v_x \times 1 \times 1 \)であるような直方体を考える。この箱の中に入っている速度\( v_x \)の粒子群は 1 秒後には\( 1 \times 1 \)の面を通り抜けて出て行くことだろう。移動する物体はローレンツ収縮によって進行方向に縮んで見えるから、運動量密度も\( \gamma \)倍になっているように見える。運動量密度と体積を掛ければ運動量である。要するに\( T\sup{11} \)というのは単位時間に単位面積を通過する運動量を表していることになるわけだ。ここまでの解釈はダスト流体にも当てはまる。

 さて、運動量が移動するということは、その分だけ運動量が変化するということだ。物理では単位時間に変化する運動量のことを力と呼んでいるのだった。今は単位面積当たりの力であるから、\( x \)方向に働く圧力のことだと解釈できる。

 しかしこのような力が一方向だけに働いていると、物体はその力に押されて運動を始めてしまう。応力テンソルというのは、物体が見かけ上は静止しているような状況での内部の応力を表しているのだった。物体が静止しているならば内部では反対向きの同じ量の力も働いているはずだ。\( v_x \)がマイナスであるような粒子群も存在しているということである。その状況を考えてみると\( \pi_x \)もマイナスであろうから、\( T\sup{11} \)の値はやはりプラスになる。一般の\( T\sup{11} \)はそのような全ての粒子群についての合計の値である。

 要するに\( T\sup{11} \)というのは粒子群の内部で\( yz \)面を挟んで力がせめぎ合って、全体としては静止している時の\( x \)方向の圧力を表しているのである。これは応力テンソルそのものである。同様にして\( T\sup{22} \)\( T\sup{33} \)も、それぞれ\( y \)方向と\( z \)方向にかかっている応力を表している。

 ここまで、あたかも互いの間を自由に通り抜けることができるような流体のイメージで話をしているが、 それは状況を分かりやすくとらえるための工夫に過ぎない。実際には粒子どうしが絶え間なく激しくぶつかり合ってほとんどその場でウロウロしているだけだろう。ある面を通過する運動量というのも、その面の付近にある粒子が次々と速度を変えながら往復することによって実現されているのである。


ずれ応力

 これで一つ片付いた。次は\( T\sup{12} \)について考えてみよう。これは先ほどと同様にして\( \gamma \, \pi_x \, v_y \)あるいは\( \gamma \, \pi_y \, v_x \)と変形できる。どちらに解釈しても良いわけだが、応力テンソルの定義と合うように前者について考えてみよう。逆に\( T\sup{21} \)が後者を表していると考えれば良い。もし\( T\sup{12} \)\( T\sup{21} \)の値が異なることがあれば物体が全体として回転を始めてしまう。応力テンソルというのは全体としての回転が止まっている視点での量として扱われるのが普通だ。

 この\( \gamma \, \pi_x \, v_y \)はどのように解釈したら良いだろうか。運動量密度\( \gamma \, \pi_x \)を持った粒子群が\( y \)方向に移動する・・・。それはそんなに不思議な状況ではない。\( v_x \)で移動しながら\( v_y \)の方向にも、斜めに移動しているのだろう。これについても先ほどのような直方体を使ったイメージで考えれば良いだろう。正確に言えば斜め移動なので平行六面体の箱をイメージするべきであろうが、説明内容はほとんど変わらない。

 ところがその解釈には無理が生じる。\( y \)方向(つまり\( xz \)面)に向かって生じる\( x \)方向の力・・・?一度分かってしまった人ならこの表現を聞いてもそれほど間違ってないと思えるのかも知れないが、日本語的にはかなり無茶なことを言っている気がする。どう表現したら分かりやすいだろうか。

 それを考える前に、もう一つ気になることがある。\( T\sup{11} \)の場合にも考えたことだ。物体が全体としての動きを持たないのなら、同じ\( \pi_x \)を持ちながら\( -v_y \)の速度を持つ粒子群だって同程度の量だけ含まれているはずだ。その場合の\( T\sup{12} \)を計算してみるとマイナスとなり、\( \gamma \, \pi_x \, v_y \)ときれいに打ち消し合って 0 になってしまう。この他に\( -\pi_x \)\( v_y \)を持つ粒子群も同程度あるだろうが、これも\( -\pi_x \)\( -v_y \)を持つ粒子群についての計算と打ち消し合う。要するに、均等に乱雑な運動をしている粒子群を考えている限りは、\( T\sup{12} \)は 0 になるということだ。

 ダスト流体の場合にはここに 0 でない値が入ることは普通に起こり得る。しかし全体としての動きがあるので応力テンソルの意味にはなっていないわけだ。

 さて、\( T\sup{12} \)が 0 以外の値を持つ時には何かもっと特別なことが起きていると考えた方がいいだろう。\( \gamma \, \pi_x \, v_y \)であるような粒子群に対して\( \gamma \, (-\pi_x) \, (-v_y) \)であるような粒子群があれば、これは\( \pi_x \)\( y \)方向に運び出すことで生じた力に対抗して\( -\pi_x \)を移動させて反対向きの力を生じさせているので全体としては動き出さない。先ほど使った「箱の中の運動量が移動するイメージ」を強く持って考えていると回転を始めそうな気がするかもしれない。しかしこれは、ある面だけで働く力なのである。これら対抗する二つの力は全体としては釣り合っているが、どちらも物体を\( yz \)面で\( x \)方向に横ずれさせようとする力である。これらについて\( T\sup{12} \)を計算してやると値はどちらもプラスであって互いに打ち消し合わない。

 ペアはもうひとつある。\( \gamma \, \pi_x \, (-v_y) \)である粒子群に対して\( \gamma \, (-\pi_x) \, v_y \)である粒子群があれば、全体としては動き出さない。これらも物体を\( yz \)面で\( x \)方向に横ずれさせようとする力であって先ほどと同じであるが、ずらそうとする向きがさきほどとは逆である。どちらのペアが優勢かによって\( T\sup{12} \)が正か負かが決まるのである。

 なるほど、ある面に働く「ずれ応力」という点で応力テンソルと同じであると言えるわけだ。\( T\sup{23} \)\( T\sup{31} \)についても同じようなことが言える。

 これで全ての成分を無事に説明し終えたことになるだろう。


流体の粘性

 ずれ応力について、斜めに運動する粒子群のイメージで説明したわけだが、こちらも実際には境界面で激しくぶつかり合う粒子があるだけである。ほとんどの粒子はその場で往復するだけであろう。全体として見ても、分かるような移動はしない。その往復する粒子の平均的な振る舞いが、横ずれさせようとする力を生み出しているのである。

 さて、固体なら横ずれさせようとする力に対して形を崩さないままで耐えていられると思うのだが、流体の場合はどうだろうか。力が掛かれば容易に形を変えてしまう気がする。

 いやいや、容易に形が変われるなら、そもそも強い力など掛からないだろう。強い力が掛かる前に流れてしまえるからだ。逆に粘性が強ければ、力が強く働くようになるまで流れないままで耐えることになる。

 粘性とは、隣の流れと速度が異なるときに、隣を巻き添えにして相手にブレーキを掛けたり、隣を引っ張って行こうとするような性質である。例えば、\( x \)方向に流れてゆく時に、その隣、例えば\( y \)方向にずれたところに、速度の異なる別の流れがあったとしよう。この時、粘性があれば、隣の流れの速度を変化させようとするはずだ。自分が持っている\( x \)方向の運動量を\( y \)方向にある別の流れに手渡すと表現できるだろう。先ほど説明したずれ応力の説明と同じイメージである。

 もし粘性がなければ横ずれの応力は発生しないのである。


完全流体のテンソル

 ついでだから、もう少し先のことまでやっておこう。今回の話のまとめ代わりに具体例を考えてみる。実はこれがやりたいがために説明してきたのでもある。

 「完全流体」あるいは「理想流体」と呼ばれる理論上の流体を考える。完全流体は粘性を持たない。現実には完全流体といえば極低温の液体ヘリウムくらいしかないが、状況によっては粘性を無視して議論できる場合があるのでモデルとして良く使われる。

 この流体が流れていないように見える視点に立った場合、エネルギー運動量テンソルは次のように表せる。

\[ \begin{align*} T^{\,ij} \ =\ \left( \begin{array}{cccc} \varepsilon & 0 & 0 & 0 \\[3pt] 0 & p & 0 & 0 \\[3pt] 0 & 0 & p & 0 \\[3pt] 0 & 0 & 0 & p \end{array} \right) \tag{2} \end{align*} \]
 目に見えるような運動はしていないが、内部には分子運動のようなものが存在しており、どの方向にも均等な圧力\( p \)が掛かっているという状況である。圧力\( p \)とエネルギー密度\( \varepsilon \)が何の係数も無しに同じように並んでいるのを見て、物理的な次元はちゃんと合ってるのだろうかと心配になる。確かめてみるとどちらの次元も同じであり、[ (質量) (時間)-2 (長さ)-1 ] なのである。だからこれで問題ない。

 この流体を別の慣性系から見た場合にどう表せるかというのはローレンツ変換をしてやればいい。これはテンソル量なので、2 階の反変テンソルの変換則を当てはめれば、ちゃんと変換できる。ごちゃごちゃとした感じになるだけなのでここではやらない。

 それにしても、行列の形で表現されたものは何をするにもとにかく場所を食う。もしもシンプルな数式で表しておくことが出来れば便利だろう。この行列を数式で表現することができるだろうか?

 例えば次のようなものではどうだろう?

\[ \begin{align*} T^{\,ij} \ =\ \varepsilon \, u^i u^j \ +\ p \, \delta^i_{\ j} \ -\ p \, u^i u^j \end{align*} \]
 結論から言えば、間違っている。しかしこれのいいところは、エネルギー運動量テンソルの定義になるべく沿うように\( u^i u^j \)を使ったところだ。そして対角成分だけに\( p \)が入るようにクロネッカーのデルタ\( \delta^i_{\ j} \)を使ってみた。しかしそれでは (0,0) 成分の場所にも\( p \)が入ってしまうことになるから、つじつま合わせのために第 3 項を付け足したわけだ。流体が静止しているように見える立場で見れば流体の 4 元速度\( u^i \)\( (1,0,0,0) \)であるから、これを代入すれば確かに (2) 式の行列と同じ形が実現することになる。

 アイデアはいいのだが、問題点は\( \delta^i_{\ j} \)が 2 階の反変テンソルではないということだ。これを無理やり 2 階の反変テンソルとして変換しようとすると、式の形が変わってしまう。そこが問題なのだ。

 ちなみに、\( \delta^i_{\ j} \)は 2 階の混合テンソルとして振る舞う。だから相対論では添字をわざわざ上下に分けて付けているのである。

 ではどうすれば良いかというと、こんな方法がある。ミンコフスキー計量\( \eta^{ij} \)を使うのである。

\[ \begin{align*} \eta^{ij} \ =\ \left( \begin{array}{cccc} -1 & 0 & 0 & 0 \\[3pt] 0 & 1 & 0 & 0 \\[3pt] 0 & 0 & 1 & 0 \\[3pt] 0 & 0 & 0 & 1 \end{array} \right) \end{align*} \]
 ミンコフスキー計量\( \eta^{ij} \)\( \delta^i_{\ j} \)に似ているし、2 階の反変テンソルであるから問題ないだろう。(ミンコフスキー計量は\( \eta_{ij} \)と書く場合があるが、その場合には 2 階の共変テンソルである。\( \eta^{ij} \)\( \eta_{ij} \)の中身は全く同じ形をしているが、たまたまである。)これを使えば次のように表せるだろう。
\[ \begin{align*} T^{\,ij} \ =\ \varepsilon \, u^i u^j \ +\ p \, \eta^{ij} \ +\ p \, u^i u^j \end{align*} \]
 今回も、第 3 項でうまく調整している。これならちゃんと 2 階の反変テンソルとして変換するし、変換後の式の形式も変わらないで済む。そして\( \Vec{u} = (1,0,0,0) \)のときに (2) 式と同じ形がちゃんと実現するようになっている。次のように第 1 項と第 3 項をまとめて表現してもいい。
\[ \begin{align*} T^{\,ij} \ =\ (\varepsilon + p) \, u^i u^j \ +\ p \, \eta^{ij} \tag{3} \end{align*} \]
 どんな慣性系でもこの形で通用する。

 教科書にはいきなり何の説明もなくこの (3) 式が登場したりするが、以上のような思考手順を経て作られたものである。この式の中に現象的な意味が直接に表現されているわけではないのだ。なぜこの形になるのだろうと悩んでこの式を睨み続けてみても、なかなか納得できる答えにたどり着けるものではない。

 私は一週間近く睨み続けた。