熱力学の第 3 法則

物質を絶対零度にまで冷やす事は不可能である。

[
前の記事へ]  [熱力学の目次へ]  [次の記事へ]


ここにもエントロピー

 冷却技術が進歩して、物質を絶対零度近くまで冷やすことが出来るようになってくると、色々と不思議なことが実験で示されるようになってくる。

 有名な超伝導やらマイスナー効果やら超流動やら、そういう現象もとても不思議ではあるのだが、ここではあまり一般の人には関心のない「比熱」の変化に注目しよう。

 エントロピー\( S \)を温度\( T \)で微分すると

\[ \begin{align*} \pdif{S}{T} \ =\ \frac{C_p}{T} \end{align*} \]
となって、定圧比熱\( C_p \)が出てくる。これは実験で測定できる量である。よって、測定で得られた\( C_p/T \)という量を\( T \)で積分してやればエントロピー変化が実験的に求められるではないか。
\[ \begin{align*} \Delta S \ =\ \int \frac{C_p}{T} \diff T \end{align*} \]
 この式を使えば、色々な物質が絶対零度に近付くまでに、一体どれくらいのエントロピー変化があるものか調べてやる事が出来る。この実験結果はなかなか意外だった。

 ある物質に圧力をかけてエントロピーを低くした状態から冷却しても、膨張させてエントロピーを高くした状態から冷却しても、絶対零度に近付くにつれて、結局同じ値にたどり着くことが分かったのだ。それだけではない。安定な結晶構造というのは温度や圧力によって変わるものだが、結晶構造が変化してしまう前に無理やり冷やしてやる事は可能であろう。それで、色んな結晶構造について試してみたが、例え結晶構造が違っていたままでも、やはり、絶対零度まで行くとエントロピーの値は同じところにたどり着くのである。

 このような結果が生じる理由は統計力学と量子力学の発展によって理解できるようになってきたのだが、それは歴史的には後の話である。とにかくこういう結果があるので、絶対零度でのエントロピーを基準にしてやることができそうだ。そこで「絶対零度でのエントロピーを 0 ということに決めてはどうか」ということになった。これが「熱力学の第 3 法則」である。

 実際、統計力学によってエントロピーの正体が分かってくると、絶対零度でエントロピーが 0 になるという解釈はなかなかうまいものだと気付くことになるだろう。しかし読者は「絶対零度ではエントロピーは必ず 0 になる」などと鵜呑みにしてはいけない。(そういう人が実に多い。)これは飽くまでも「熱力学」の範囲での決め事に過ぎない。絶対零度でもエントロピーが 0 にならない事例は幾つかあり、そのことを理解していないと理論に矛盾があるのではないかと悩んだりすることになるのだ。これは少し後で話そう。


絶対零度に何がある?

 とにかく熱力学の第 3 法則を認めると、そこから幾つかの重要な結果が自動的に導かれる。

 1.絶対零度に近付くと比熱も 0 に近付く。
2.絶対零度に近付くと膨張率も 0 に近付く。
3.絶対零度に到達することは不可能である。


冷凍光線

 「絶対零度に近付くほど、それ以上の低温を実現するのは格段に難しくなる。」昔の科学読み物などではこのような表現が多かったように思う。最近そのようなことを書く本が減ったのは、1995 年になって「レーザー冷却」という新技術が現れて、一気に 0.0000001 K 程度まで冷却できるようになったためだろう。それ以前の技術では 0.01 K 程度のところでしのぎを削っていた。

 別に昔の記事が間違っていたわけではない。「格段に難しい事」を簡単に実現できるようになっただけのことだ。レーザー冷却だって開発の段階では不可能だと囁かれたものだ。私だって、「未来に期待する新技術は何ですか」という類の質問を受けた時には、「絶対にできるわけない」という皮肉を込めて、笑いながら「冷凍光線」と答えていたものだ。まさか実現しちゃうとはよ・・・。

注:冷凍光線というのは 30 年くらい前の特撮 SF などでよく登場した小道具で、宇宙人や怪人が口から吐き出す武器として使うことが多かった。映像的には「光線」というよりも「冷凍ガス」みたいなものだったが、劇中では必ず「冷凍光線」と呼ばれていた。

 これが実に素晴らしい技術だ。普通、物体に光を当てればエネルギーを与えることになるから、熱することはあっても冷やすことなど出来るはずがないと考える。一体、どうやっているのだろうか?ごく簡単に説明しておこう。


残留エントロピー