子供心のファンタジー

小学4年生ごろまでのエピソードを思いつくまま書き並べてみました。


地震の正体を知ってしまった!

 真夜中に目が覚めた。
 父母は左右で寝ていた。
 突然、地震で家が揺れた。
 玄関のガラス越しに車のライトが光った。
 そこに人影がすっと横切った気がした。

 あの人が揺すって行ったのだ!


男女は同数

 おばあさんの妹の葬式のとき、いとこの姉さんが
「世界には男と女が同じだけいるから、今は世界に女が一人足りないんだよ」
と教えてくれた。

 それを聞いて考え込んでしまった。
 どういう仕組みでこの不均衡が解消されるのだ?
 それにはどのくらいの時間がかかるのだろう?


火星は下にある

 アニメに出てきた火星人が地球の下の方から来たと説明していた。
 火星は地球の下にあるらしい。
 下って、この地面の下?
 そうじゃないな・・・ひょっとして宇宙には上下があるのか!

 このアニメは何だったのだろう?  確かに火星から見れば地球は上に見えるだろうな。  火星人の視点を描いた良く出来たアニメだ。  しかし太陽を中心に考えれば火星の方が高い軌道にあるわけだが・・・。


 母が慌てて雨戸を閉めた。
 「雹が降ってきた」と教えてくれた。
 雹が激しく雨戸を叩き付けた。

 外には地を埋め尽くすほどの豹がいて次々と この家に飛び掛かっているに違いないと思った。


台風

 台風が来た。
 両親が家が吹き飛ばされないかと心配していた。

 次の朝、玄関の戸を開けるといつもと同じ場所だった。
 別の小学校に行くことを心配して、わくわくしていたのに。


静かな夜

 近所のおばさんが便所の洗剤を飲んで自殺した。
 その夜、家ではレコードを聞くのを禁止された。
 にぎやかで楽しそうな音が聞こえると、 まだそこらにいる霊が引き寄せられてきてしまうのだという。

 その夜は家全体がとても静かで厳かだった。


台風の目

 小学校の先生が、台風の目に入った時のことを話してくれた。

 風が収まって、町全体が静かになり、 夜空を見上げると3つの赤い光がゆっくりと静かにくるくると回っていたのだそうだ。

 それがやつの「目」なのか?
 それを見たくて、台風の目に入るのをいつも楽しみにしていた。

 今になって思うのだが、先生は何を見たんだろう?


水平の意味

 海の水はどこまでも平らだと聞いた。
 水平というくらいだし。

 「あんなに波があるのにどうやって それを確かめたらいいんだろう?」


潮干狩り、初めての海

 潮が満ちて来た。
 この大量の水はどこから来たんだ?
 きっとあの遠くに見えるでかい島に 跳ね返ってゆっくり往復しているのだろうな。


天の川

 7月7日だけは天の川が見えるのだと信じていた。
 年に一度の天体ショーが見たくて  晴れるのをいつも楽しみにしていた。

 「今年も見えなかったね。」

 初めて天の川を見たのは大学生のころ、富士登山に行った時だった。  初めは、やけに高いところを雲がたなびいているな、と 思っていたのだが、こんなに明るいものだったとは。  私の妻は天の川など空想の産物だと思っていたようだ。  きっと天の川の存在を信じてないやつ、結構いるんだろうな。


手のひら

 右手のひらには「て」と書いてあるから「手」なのだと思っていた。

 「人間の体ってうまく出来ているなぁ。」

 いや、この感心の仕方から察するに、
どうやら「手」だから「て」と書いてあると思っていたらしい。


白く輝く地球

 まつ毛に太陽の光があたって白い玉のようなものが見える。
 隣に住んでた小学生のやっくんは「それは地球だよ」と教えてくれた。

 地球にいながらにして地球が見えるなんて。
 しかもたくさん。
 この世にはまだまだ知らない不思議な現象で一杯だ。
 あの白い玉のどこかに僕がいるのが見えるのだろうか。


風よ、光よ

 「風よ吹けー!」と命じると本当に風が吹いた。
 いつだって本当に吹いた。
 だから、風には意思があるのだと信じていた。

 最近は話せなくなっちゃったなあ。


 歩いても歩いても月は付いて来る。
 「付いて来るなー!」と叫んでまた歩く。


血の呪い

 一緒に遊んでいた女の子が指に怪我をした。
 血が出た。

 その子は「人の血がつくと呪いがかかるんだよ」と言い出した。
 そんな馬鹿な、と相手にしなかった。

 ところがみんな逃げた。
 その子は正気を失ったように追いかけた。
 僕も必死で逃げた。

 信じても仕方ない状況だ。


黒豹伝説

 夜の高速道路。 父の運転。
 後ろの席から外を見ていると地平線近くを黒豹が平行して走ってくる。
 どこまで行ってもタッタカタッタカついて来る。
 比率からしてかなり巨大だ。
 隣にいる母に「あれは何?何かついて来る」と聞いた。
 母は「そうだね」と言った。
 母にも見えていると思って少し安心した。 ・・・この世にはそういうものもあるんだ・・・。

 未だにあれがなんだったのか分からない。
 母も知らないという。
 何度同じところを通ってもそれを見ることはなかった。


人工雷

 人工雷を作りたかった。
 家中の乾電池を集めてきた。
 すべて直列にした。
 図鑑の雷雲の発生のところで説明されていたように  プラス極を上にして地上側をマイナスにした。
 電極間は30センチ以上離してあった。

 すごい事が起こるのを期待して一日中待ったんだ。
 通りかかった近所のおばさんに、近寄ると危ないよ、と注意してあげた。


ダウジング

 ダウジングというものを知った。
 折り曲げた針金を軽く手に握って歩くと、 鉱脈の上で動くのだという。

 ハンガーの針金を開いて道具を作った。
 家の前に広がる畑に10円玉を埋めた。
 これは私には非常に貴重な財産だった。
 埋めたところで本当に開いた。
 何度でも再現するのを確認した上で 弟に埋めてもらった。

 無くなった。


ライダーキック

 工事中のポールに向かってライダーキックをした。
 両足でキックするやつだ。
 そのままの体勢で落ちるとは思いもしなかった。
 じゃり道で足じゅう擦りむいた。

 僕は少し大人になった。


あの遠くに見える山だろうか

 近くに住む一つ年上の女の子が
「この間、ひっさんまで行ったよ。 ひっさんって知ってる?」
と聞いてきた。

 「知らない」
 「後で教えてあげるね」

 どこの山のことだろう。

 「教えてほしい?」  「うん!」

 退屈な「筆算」の講義が始まってしまった。
 それは父が夜中にやってる計算じゃないか!


手品

 「鼻の穴と耳の穴が中でつながっているのは本当なのか」と父に聞いた。
 父は、床に転がっていた網戸を固定するゴムのワイヤーを拾うと、
それを鼻の穴に突っ込み、耳の穴からひっぱり出した。
 子供だましのトリックだ。

 ・・・子供だったから仕方ない。

 数年後に母もグルだったことを知った。


アジアって何?

 友達が学習机を買ってもらった。
 世界地図がついていた。
 日本の隣の国の名前が 「アジア」なのか「中国」なのかでもめた。


ドラキュラ

 小学校の裏は墓地だった。
 怪談が流行る。
 友人がそこでドラキュラを見たと言って、 詳しく話してくれた。

 ドラキュラが出たことは信じたが、
この世に嘘をつく奴がいることは信じていなかった。


特殊金属

 友達がお菓子についてきた景品を自慢した。
 そのメダルは日なたでは冷たく、 日陰に入ると温かくなるのだと言う。
 その不思議な金属が欲しくて仕方なかった。

 その日の午後、慌てて店に買いに行ったが売切れだった。
 (ただのメダルです)


神の怒り

 賽銭箱に棒を突っ込んで遊んでいたら、 棒が中に落ちてしまった。
 しばらく考えて、不安に堪えられず、突然泣きながら家に帰った。

 神を怒らせた僕はもうお終いだと思った。


お父さん

 同級生の女の子が交通事故で父を亡くした。
 数週間後、その子が給食の時間に
「昨日の夜、お父さんが会いに来てくれた。」
とうっとりして話してくれた。

 首だけだったという。
 聞いていた同じ班の全員が恐怖に包まれて悲鳴を上げた。

 家に帰って興奮して母に話すと「良かったねぇ」と予想外の反応。
 一緒に恐がってくれると思ったのに。
 僕はまだまだ子供なんだな、と感じた。


孤高

 僕はいつも学校帰りに広い芝生を斜めに横切って帰っていた。
 ある日、同じ町内の友人たちに見付かって
「ちゃんと通学路を通らないとダメじゃないか、言いつけるぞ」
と責められてしまった。

「何でわざわざ変な帰り方するんだよ?」
「だって、その方が近いもん。」
「そんなことないよ。 なぁ。」
「そうだ、縦に行って横に行くんだから同じだよ。」

 2対1で負けた。
 同じなんかじゃない、√2 なのに、√2になるのに。
 そんな事を言っても無駄だなんて。

 オーバーテクノロジーを手に入れてしまった小3の苦しみ。


孤高2

 小1の理科の授業。
 「では、ニワトリは何を食べますか?」

 「菜っ葉」
 「白菜!」

 それくらいしか知らないのか。
 ふふん。
 ではちょっと変わったことを言って目立ってやろう。

 「小石や貝殻を食べます」
 「えーっ、食べないよぉ!」

 クラス中からブーイングの嵐。
 先生も困った顔だ。

 「これは違いますね」

 ええええ、何だってーっ!
 屈辱の中で僕は自分の方が正しいことを知っていた。


多世界解釈

 電柱の右側を通った後で見る世界と、
左側を通ってから見る世界は果たして同一だろうか?
 それを確かめる方法はあるだろうか?
 右を選んだ後で左について知ることは出来るだろうか?

 ガードミラーのポールにしがみ付いて
くるくると右に左にと回って遊んでいる幼稚園児は
実はそんなことを考えていた。


分離する世界

 母さんと散歩。

 母さんが電柱の左側を通る時、
自分だけ右側を通って再び出会う母さんは本当に元の母さんだろうか?
 慌てて引き返して左側を通り直す。

 たまに冒険心を起こして母とは反対側を通る。
 「さよなら、左側へ行った僕の本当の母さん」


「今」の存在を疑う

 真夜中に目が覚める。  2段ベッドから見下ろす。
 父さんも母さんも寝ている。
 ひょっとして二人は僕を置いて、今頃は朝にいるのかも知れない。
 だって寝たらすぐ朝に行けるから。

 不安になって呼んでみる。
 「お母さん?」
 「ん?」
 「何でもない」
 少し安心した。

 それでも再び考え始める。
 僕は、過去から明日の朝に向かって、
母の体の中をすごい勢いで流れている過去の母さんのどれかを
そこで呼び止めてしまっただけかも知れない。

 僕の知ってる本当の母さんは 一足先に明日の朝に行っていて、
今ごろは僕じゃない僕と遊んでいるに違いない。


ファーストコンタクト

 神様はなぜ人を作ったんだろう?
 人は何をしたらいいんだろう?
 また今日も同じ事を考えていて眠れなくなってしまった。

 神様は宇宙にいて、人を作るどんな理由があったのかな?

 すると突然に考えが閃いた。

 神様は自分のことを知って欲しかったんだ!
 だから人間は神様のことを知るといいんだね。
 そうだね、神様!
 僕すごいこと知っちゃったよ。


永久機関

 エッシャーの騙し絵に惹かれていた。
 水が水路を一周していつまでも流れ続ける絵。

 三角の通路を作ってビー球を転がせば 同じ事が出来るかも知れない。
 夏休みに作れるかな?

 もちろんエッシャーの絵が現実には 作れないことくらいは知っている。
 転がるのに合わせて通路が傾いてくれさえすればいいんだ。

 いつまでも転がり続けるビー球が
小学校のガラスの展示ケースに飾られる光景を夢見た。
 カタン、カタン、カタン・・・


電子回路の万能

 ラジオ、テレビ、おもちゃ・・・。
 電子回路はどんなことでも実現してくれそうな気がした。

 うまく組み合わせればUFOも作れるかな?
 ある日、2時間目と3時間目の間の20分休みに 外へ駆け出したときに、突然ひらめいた。

 3つのトランジスタと3つのコンデンサを 3角形に繋げば空飛ぶ円盤が作れる!
 そんな構造の黄色い試作円盤がゆっくり回りながら 宙を漂う光景が心の中にはっきり見えた。
 小3のことだ。

 中学2年の冬、清家新一の本を書店で見つけたとき、
ああ、この感動が、この興奮が理解できるか!
 ずっと憧れ続けた私の頭の中だけの閃きが、理由の分からぬ同じ回路が、
その本にそのまま載っているのである。

 お年玉をはたいてその場で全巻買って行ったのは このことがあったからである。
 決して理由なく彼を信じたわけではない。(笑


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