この記事についてこれは物理に興味を持ち始めた一人の友人の為に、ある日、ふと書き送ったメールである。 書き始めたら、ついつい長くなってしまった。 後から間違いに気付いたので少し修正してあるし、表現を少し変えたりもした。宇宙の構造について、10の何乗とかいう具合に対数を使ってみたり、 それを図にして横並びにしてみたりするのを見かけるが、 一目で見られるが故に、「ふーん」で終わってしまうことが多いと思うのだ。 また最近は、マウス操作でミクロからマクロまで行き来できるサイトやソフトが出回っていて、 非常に便利で分かりやすいのだが、少し触っているとありがたみがなくなるというか、 手軽すぎて、感動が薄れるという感じもした。 絶望的な距離を感じ続けていて欲しいのだ。 その点、文章による表現にはまだ分があると思う。 読者のイマジネーションに敵うものはない。 文章でこれをサポートしてやればいいわけだ。 だから、数値は理科年表などに頼った正確なものにはしなかった。 この文を読まなくても、いつでも自分の頭の中で再構成できるようなやり方にした。 所々に、まるで見てきたかのような少々大袈裟な想像図なんかが入った方がいいかな、 とは思っているが、そういうのは雑誌ニュートン別冊などを探せばいいだろう。 では、宇宙の旅へ、どうぞ。
地球、月、太陽ちょっと聞いてー。 宇宙ってどれくらい広いか、長い間、考えないで来たんだ。地球が直径 1 cm の玉だとする。 そうすると地球の一周の長さは 3.14 cm だ。 光は 1 秒で地球を 7回り半 するってのは有名で、3.14 に 7.5を掛けて 23.5 cm だ。 光は 1 秒で 23.5 cm 進むって事だ。 月までは光でも 1.3 秒かかるのだから、30.6 cm だ。 月まで約 30 cm。 机の上に絵を書いてみると分かり易いと思う。 月の直径は地球の1/4くらい。 1 cm の地球の周りを 2.5 mm の月が、30 cm 離れて円を描いて回っている。 じゃあ、太陽はどんな大きさ? 太陽の大きさは、地球を 109 個並べたくらいなんだって。 今のスケールで言えば、太陽は 1.1 メートルくらいのガスで出来たボールってことだ。 それがどれくらい離れたところにあるんだろう。 太陽の大きさが、地球 100 個くらい並ぶ大きさだってことは、 代わりに月を並べたら、 月は地球の 4 分の 1 くらいの大きさなんだから、400 個くらい並べないといけない。 太陽は月の 400 倍も大きいってこと。 それが地球から見て、日食でちょうど重なるくらいの大きさに見えるってことは、 400倍離れてるってことなんだ。 400 * 30.6 cm = 12240 cm。 えーっと、それは 122メートル?! 遠いって事は分かるけど、もう実感できない。
地球軌道だから、机の上に描けるようにしよう。 今度は太陽を 1 cm の玉だとするんだ。 地球はその 100 分の 1 だから 1ミリのさらに 10 分の 1・・・ 0.1 ミリだ。 シャープペンの先で、そーっと「てんっ」って紙に触れればそれくらいのが書けるかな。距離は・・・約 1 メートルだった太陽を 1 cm にしたのだから、 120 メートルを 1/100 にした長さだ。 それは、1.2メートル!! うーん、机をはみ出しちゃった! 信じられるかな? 1 cm の熱い熱いガスの玉があって、そこから 1 メートルくらい離れたところを、 粉つぶみたいな大きさの地球が、きれいな円軌道でずっと何周も回り続けてきたんだ。 そんなに離れてても、ちゃんと引き合ってるんだ。 ふっと息を吹いたら、それだけでどこかへ飛んで行ってしまいそう。 こんな粉みたいな地球なのに、 太陽との間にはこれ以上に大きな粉は他に何も無いっていうんだ。 大きな物体としては水星と金星があるけど、こいつらだって地球よりは少し小さいくらい。 宇宙って、間にはなーんにもない! 図鑑に載ってるような、太陽系の惑星が勢揃いで並んでるイラストなんて嘘っぱちだってこと。
太陽系の惑星範囲を広げよう。 火星までどれくらいかって? 火星の軌道は 1.5 天文単位。 天文単位ってのは、地球と太陽の距離を1天文単位っていうんだ。 ってことは、火星は 1.8 メートルくらいのところを回ってる。 これくらいなら想像できる。木星は 5.2 天文単位。 地球の 10 倍くらいの大きさのガスの星。 今のスケールでは 1 ミリの粒。 中心から 6.2 メートルのところを回ってる。 壮大だなぁ。 土星は 9.5 天文単位。 天王星は 19 天文単位。 気付いたかなぁ? この辺りは倍々で遠くなるからイメージし易い。 海王星 30 天文単位。 冥王星 40 天文単位。 中心から 48 メートルも向こう。 だけどみんな 1 cm の太陽に引かれて回っている。 近くには影響を与えるものが他に何も無いから。
オールトの雲冥王星の外側には大きな星はあまり見付かってないけれど、 オールトの雲ってのが 1 万天文単位くらいにあるって説がある。 彗星はそこからやってくるんだって。 今のスケールでは 1 万メートル先だってことだよ。 1 万メートルって、10Km も先ってこと。そこから太陽に引かれて、彗星がやってくる。 たった 1 cm の玉を目指して。 オールトの雲ってのは、雲と言っても、ガスみたいなものじゃないかも知れない。 岩の欠片や氷の塊なんかが漂っているイメージだ。 太陽をすっぽり球状に覆っていて、十分離れたところから見れば、まるで雲みたいだろうってこと。 観測にかかったことはまだないから、そんなに濃いものではないと思う。 でも全部あわせれば、少なくとも木星以上の質量はあるのではないかと言われている。
1光年はどれくらい10 Km も離れてもまだ隣の星まで行けない? じゃあ、となりの星までどれくらいあるの?4.3 光年先に α ケンタウリって星がある。 それが太陽のお隣さんだ。 光年って言われてもイメージしにくいので、 また、机の上に描けるようにスケールを変えてみよう。 光は太陽まで何秒かかる? 月まで 1.3 秒で、その 400 倍だから、520秒。 約8分。 光は太陽まで 8 分ちょっとかかる。 冥王星が 40 天文単位だったから、20800秒。 つまり 5 時間半くらいかな。 これでも 1 年には程遠いね。 1 年は 365 * 24 = 8760 時間だから、冥王星までの 1500 倍くらい先へ行ったら 1 光年になる。
隣の星はどれほど遠い今度は冥王星までを 1 cm として描いてみよう。 直径 2 cm の丸を描いて、これが冥王星の軌道円。1500 センチが 1 光年に相当する。 つまり、15 メートルも先。 お隣さんの α ケンタウリは 4.3 光年だから、約 65 メートルも先。 ところでさっきのオールトの雲だけど、 これは 2.5 メートルくらいのところをたなびいている。 まぁ、その 10 倍くらい離れているという説もあるけど。 それでも 25 メートルか。 冥王星まで 1 cm。 お隣さんまで 65 メートル。 さっきの、太陽を 1 cm としたスケールのままの方が遠さを実感しやすかったかなぁ。 それだと隣の星まで、300 km くらいあるってことになる。 その間の 10 km 〜 100 km のところに雲があるらしいけど、 障害物と言えるほどのは本当になーんにもなし。 宇宙って、からっぽじゃん?
銀河系大体、恒星と恒星の間は同じくらい離れてる。 互いにそれくらいの距離をとってばらついている。 銀河の中心へ行けばもっと混雑しているのだけど、 この辺りは端っこに近いのでこんなもの。星ってのは宇宙の所々に静かに燃えてる、 松明の火みたいなもんだ。 で、そいつらが集まって、 銀河系という 10 万光年ほどの大きさの塊を作ってる。 星と星の間の距離の 1 万倍程度はあるってこと。 銀河系の中にどれだけ沢山の星が集まっているってことか、 見積もりできる?
となりの銀河系でね、隣の銀河系までどれくらいあるかってのも気になる。 隣の銀河系ってのは、 あの有名なアンドロメダ星雲なんだけど、 今ではアンドロメダ銀河って呼ばれている。星雲ってのは、恒星が爆発した残骸だったり、 そういう銀河系の中にあるチリやガスなんかを表す言葉なんだけど、 昔はアンドロメダ銀河もその一種だと思われていた。 でも違った。 銀河系の外だった。 で、そこまでの距離は 230 万光年。 意外と近いね。 銀河系が 1 cm だとしても 20 cm くらいしか離れてない。 感覚が麻痺しちゃってきてるかも。
銀河群、銀河団で、銀河は他にもいっぱいある。 1000 万光年くらいの範囲で他の 40 個くらいの銀河と一緒に集まってるんだって。 ってことは、結構密集してるってことだよね。大きい銀河も小さい銀河もあって、この中ではアンドロメダが一番大きいらしい。 この集まりを「局部銀河群」って呼ぶ。 なぜ「局部」って言うかと言うと、自分たちがいる銀河群は、 他の銀河群から少し離れた「片田舎」に集まっているから。 他の銀河群はここより広い範囲で固まっていて、「おとめ座銀河団」って呼ばれてる。 宝塚みたいな名前だね。 銀河系が 2000 個くらい集まっていると言うから、めちゃくちゃ大きな集団だ。 この集団が割と近くにある。 近くって言っても 5000 万光年くらい。 「局所銀河群」が 1000 万光年くらいの広がりだから、ほら、そんなに遠くないでしょう?
超銀河団この「おとめ座銀河団」ってのは、どうやら、 「超銀河団」っていうもっと大きな集団の中心的存在らしい。ああ、良かったー。 だって、おとめ座銀河団みたいな集まりが標準のサイズで、 こういうのが一杯集まって「超銀河団」になっているとしたら、 何となく自分たちの小さな集まりが無視されているみたい。 でも自分たちの銀河群は、超銀河団の中心から少し外れているってだけで、その一員ってわけ。 超銀河団は 1 億光年以上の広がりがあるって考えられている。 1 億って聞いて、途端に想像できなくなった? 銀河群の広がりが 1000 万光年程度だから、その 10 倍が 1 億光年。 突然ぶっ飛んだ話では無いでしょ? おとめ座銀河団と比べれば数倍のスケール。
宇宙の果て?さあ、1 億光年の大台に乗ったぞ。 この宇宙の見えている範囲が 130 億光年くらいだから、あとちょっとだ。見えている、っていうのは、望遠鏡の性能の話ではなくて、 宇宙の膨張とかが関係していて、それより先の光がまだ地球に届かないんだ。 宇宙はその先にも続いているかも知れないけれど、 光もまだ届かないってことは、 自分たちのいるこの宇宙とはもう影響を与え合うことのない 別の世界、別の宇宙みたいなものだ。 疎遠になった遠縁の親戚同士みたいなもんかね。 ちょっとさみしい。 その 130 億光年先の光は、今から 130 億年前に放たれた光だから、 その光を放った星は、今ではそれ以上遠くへ離れてしまっている。 400 億光年くらいにあるのかな。 数百億年待てば、今、宇宙の果てに見えている星が、それくらい離れた場所に見えるようになる。 幾ら待ってみても、それより先の星は見えないのかって? それは結構難しい話だ。 この先、宇宙の膨張の勢いが緩むのか、止まらないのか、逆に収縮に転じるのかに よって答えが違うのだと思う。 その先は無限に続いているかも知れないし、 地球が丸くて一周すると戻って来れるのと同じで、 真っ直ぐ行くとまたここへ戻ってくる形になっているかも知れない。 まだそこまで分かっていない。
泡状構造話が 1 億光年の範囲から脱線してしまった。 この、超銀河団がさらに沢山集まって、宇宙の中で泡状構造を作っているらしい。 石鹸を泡立てた時のような感じ。超銀河団が集まって壁のようになっている部分と、壁に囲まれた何も無い部分があるわけだ。 直径数億光年の泡が一杯。 壁の部分はグレートウォールと呼ばれていて、 何も無い部分はヴォイド(超空洞)と呼ばれている。 何億光年も続く虚無の世界。 そこには本当に何もないんだろうか? 宇宙が広がる時に、わずかな密度のゆらぎから、 こんな形になったのかなぁ、と言われている。 それについては今、研究中。
結びもう! 宇宙は広すぎ。 スカスカだけど、宇宙全体を満たしている。何これ? 何で自分たちはここにいるの? そもそも、ここってどこよ?
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