言葉は量子力学のように

心理学者はこの現象を知っているのか?
それとも精神がおかしいと思われるのを恐れて言わないでいるのか。


 この感覚を理解してもらうことが出来るだろうか?  自分以外の人はこのような体験をしないのだろうか?

 ぼーっと起きていて、考え事をするでもなく眠れないでいるときに、 ふと気が付くと、頭の中に言葉が流れていることがある。

 それはテレビのニュースを聞いているような感覚であり、 あるときは誰かの演説を聞いているかのようであり、 あるときは小さな女の子が作文を読むのを聞いているようである。

 自分で考えているわけでもないのに、言葉が自然に次から次へと 頭の中を駆け抜けてゆく。

 これは誰かの思考なのか?  自分では使うことのない表現が含まれていたりする・・・。  そんな気がしてるだけじゃないのか? 気のせいじゃないのか?

 いいや、違う! 何度も試した。  頼まれればいつでも、その中の言葉の一節をつかまえて実際に口に出すことが出来る。  自分でも何度もやってみた。

 しかし、大きな問題がある。  その言葉の列は非常にゆらぎがあるのだ。  心を静かにして波立てないようにしたときにだけ受け止めることが出来る。  その言葉の渦の中で拾い上げた言葉を口に出した途端、  その言葉しか思い出せなくなるのだ。  その前後の言葉は揺らいでしまって、つながりを見出すことが出来ない。  何の話の一部分だったのか、自分でも分からなくなるのだ。  言いたくても言えない言葉。  今、聞こえているのに、同時通訳のように話せるほど明瞭に聞こえているのに 口にした途端にかき消されてしまうのだ!

 一体、そこでは何が語られているのであろうか?  首尾一貫した話なのだろうか?  興味を持ってその話に集中しようとしたことはある。  しかし、そのためには自分自身が思考しなくてはならない。  これは脳の中の言語野を働かせるということだ。  するとその自分自身の思考にかき消されてその声は聞き取れなくなってしまうのだ。  しかし、それについて聞き流すようにすると再び聞こえてくる。  いつでも反復できる。 それは確かに聞こえているのだ。

 まるで量子力学のようだ。  測定しようとするとその行為そのものによって系が撹乱されて 一点しか確定した答えを見出せない。  しかし、そこから意味を取り出そうとしなければ「ある」ことだけは確かに分かる。

 我々は、かつて哲学者が集合意識と呼んだそんな思考の中にどっぷりと浸かっているのかもしれない。  あるいはこれは全宇宙に常に共通して流れている思考のチャンネルなのかも知れないと 思ったりする。


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