気と機の結合

俺は気のコントロールに成功したらしい。


 1989年12月8日。

 今朝は慌てた。  時間割をせずに寝てしまっていたし、髪の毛はボサボサだし、 何か夢を見たらしいが、思い出す時間もないし。  しかし電車の中で眠っていて、今朝の夢を思い出した。  また、別の夢も見た。

 まず、今朝の夢はこうだ。  私はあの6人と一緒にいる。  そこで何かあったのだ。  6人は苦境に立たされていた。  そこで私はフラスコのようなものを左手に高く掲げ、 「機械と気の結合!」  確かにそのようなことを言った。  そしてかなりの荒業をやったようだが、その後の記憶がない。

 俺はこの夢を、いや、記憶を取り戻したとき、自分の力にワクワクした。  俺はあのフラスコを応用して気のコントロールに成功したに違いない。  これを知ったら皆、驚くだろうな。



 しかし、考えるにつれて恐ろしくなってきた。  あの技は、多分、四方八方に影響があるはずだ。  皆、無事だっただろうか?  それに俺は、なんと恐ろしいものを作ってしまったのか。


 学校に着くと、もうすぐテスト開始だと言うのに夢の内容を書きとめる作業をした。  記憶の整理が付かないのだ。

 化学のテストは有機が簡単で誰にも解けそうなものだったが、あとはやられた。  英語、政治経済も似たような結果だ。

 テストが終わると部室へ行く。  今日は午前中で終わりだ。  とりあえず、皆の顔を見て安心したらそれで帰る。

 俺と明石さんが一緒に帰ろうとしたので、笹岡が 「また本屋で2時間いるつもりか」 とからかう。

「そんなにもいないよぉ。 一緒にどぉ?」

「いや、俺はやめとくよ」


 俺が記憶を取り戻し始めたのでサーナは上機嫌でいろいろ話してくる。

 エウリが俺にしてくれたことや、サーナが乗っていた子馬の「ツィキ」を どうやって捕まえて来たのか、とか。  この発音が難しい。 俺が「チキ」とか「ティキ」とか言うと、 「違う! 『ツィキ』なの!」 とすぐ叱られる。 うーん、日本語では書けないなぁ。  敢えて書けば ”Tziki” という感じだろうか。  お気に入りの忠実な馬だったらしい。

 本屋に着くと宗教書のコーナーへ行き、それぞれ色々調べ始める。  俺たちの前世について何か参考になりそうな話や情報はないだろうか。  梵語(サンスクリット)辞典や、ギルガメシュ叙事詩や、 マヤインカの伝承などなど、片っ端から調べて行き、気に入ったものがあると買うわけだ。
 当時は大川隆法なんかの本が流行り始めた頃で、 「この人、もともと**さんの弟子だよ。(もう忘れた。) ほら、この辺、引用してるし。  今回もまあ色々あちこちから調べてきたねぇ。」
「まだまだ甘いな。」
「あ、でもこの辺は結構行けてるよ。 どっから持ってきたんだろ。」
なんて偉そうな会話をしていた。

 気がつけば1時過ぎだ。 11時過ぎに学校を出てきたから 笹岡の言った通りになってしまった。


 駅が近付いてきた時、俺は恐る恐るあの話を聞いてみることにした。

「俺、ひょっとして・・・すごい荒業みせたことない・・・?」

 彼女はすぐにうなづいたが、立ち止まって黙ってしまった。  顔色が変わる。

 やべー。 やっぱり、これはやべー。

「あの後、いつも明るくてニコニコしてたキャル(キャルレム・セクナタンツ)が 妙に冷やかに・・・『あの力、スキーナの本来の力じゃない』って言ってたの思い出した。」

 げーっ、やっぱり知ってんのかよ、こいつ。

「で、でもさ、あの時、ピンチだったでしょ?」(言い訳)

「うん、・・・でもスキーナがやるべきじゃなかった。」(ごもっともです。)

 確かにそうなのだ。 何て事をしてしまったのか。  確かにピンチだったが、どうしようもなくはなかったのだ。  出すぎた真似をした。

「そのあと、シウノ(シウクーハノ・アウリオ(6人のリーダー))が言ってた。 『なんであんなのを見たんだ。 まだ見るべき段階じゃないのに』って。」

 げげ、すべてお見通しなのね。

 俺が恐れて言葉を失っていると、明石さんは

「まあ、一回きりだったし、いいんじゃない?」

と元の表情で笑って言ってくれた。

 いやー、ちょっと待て? あと2、3回やったような気がするんですけど・・・


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