1990年1月12日。 俺たち3年生は受験勉強の真っ只中だった。 そして、明日からセンター試験だというのに俺たちは 今日もこの部室に入り浸っている。 後輩たちは朝から「あと26時間後ですねー」なんて言って冷やかしてくる。 腹をくくっておとなしく家で勉強してればいいのに、 どんな問題が出るんだろう、などとくだらない心配を話し合っているうちに、 「そんなの簡単じゃない。 (能力を使って)読んじゃえばいいのよ。」 「そう言われてみればそうだなぁ。 もう試験問題はとっくに出来ているはずだ。」 なんていう会話が始まった。 初めは冗談かと思って微笑んで聞いていたのだが、 だんだん話が本気になってゆくのを感じて俺は反対した。 「こんなことのために(この能力を)使うべきじゃない。」 しかし、興味には勝てなかった。 私はセンター試験の内容にはこれっぽっちも関心はなかったが、 彼らが本当にこのような目的にも能力を使えるのかどうかを知りたかったのだ。 私の心の中はこのような曖昧なものであったが、俺が反対の立場を取って 批判するような目つきで彼らを睨みつけていたこともあって 笹岡は敢えて実行することをためらっていた。 しかし、いたずら好きなサーナがお構いなしに能力を使い始めた。 「私が読むなら関係ないでしょ。その内容を教えなきゃいいんだから。」 「それもそうだ。」 (おいおい。) 精神を集中する・・・。 「あ、・・見えた・・・。」 笹岡はすごく関心がありそうだ。 「国語は?」 「漢文は簡単そう。歌が見える。」 「なに!? 歌が出る! 古典に歌が出るのは伊勢物語に違いない!」
「そうなのか?」 「そうなんだよっ!」 「これはいい事を知った! 伊勢物語を勉強しよう。」 笹岡はすごく嬉しそうだ。 国語の試験はもう明後日なのに・・・。 私は今さら何もする気もない。 「あ、これは化学だ。 6角形のが見える!」 「亀の甲のことか?」と俺。 「えっ、それはベンゼン環だ! 有機化学か!?」 笹岡は大はしゃぎだ。 俺はどこかに厳重にしまってある問題用紙を見るのだと思っていた。 しかし、どうやらサーナは時を越えて読んでいたようなのだ。 「広江先輩がすごく悩んでるのが見えたよ。」 「うるさい。 もう読むな!」 信じようと信じまいとこれが俺たちがやった不正な行いの全てだ。
しかし、この結果がどうなったかは調べれば分かるだろう。 確かに漢文は見た目「簡単そう」だった。 古文は何と、不意をついたことに「日記文」であった。 そして、化学には確かにベンゼン環は出たが、有機化学の知識を問うものではなかった。
笹岡はたいそう悔しがっていた。 「なるほど、こういうことだったか!」 とまあ、こんな「オチ」付きなのだが・・・ さあ、俺たちを裁くが良い! おしゃべりなサーナがこのことの一部始終を楽しげにマリーに話すと、 彼女はあきれた顔を向けて「そう・・」とつぶやいた。
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