俺は超能力者になりたかった。 危険を予知し、 正体を知られることなくテレパシーで人に警告を与え、事故を未然に防ぐ。 手を触れることなく離れた物を動かし、 力を悪用する敵と戦い、人々を助け、行き止まりの路地で忽然と姿を消す。 誰にも悟られずに仲間と連絡を取り合う。 見よ、この優越感! 人を助けるとか言ってはいるが、 今から思えば正しい動機ではない。 しかし当時の俺はそんなことには気が付いていない。 そんな力に心の底から憧れていたし、 力を正しいことに使うのはいいことだと信じていた。 俺は正義のヒーローになりたかったのだ。 中学生の俺は訓練を始めた。
超能力入門なんて本が沢山出ていて、 ESPカードなんていう付録が付いていたものだ。 透視能力訓練用にイメージしやすいマークがついた トランプのようなカードである。 これを使って神経衰弱のようなことをしたり、 額の辺りにあるらしい「第3の目」にイメージを描く 練習をするわけだ。 しかしこれはどうもうまく行かない。 たまに連続して当たることもあるが、 偶然以上の確率だとは思えなかった。 そんな不満を学校帰りに友人に話すと、 いい本があるから貸してやるという。 つのだじろう著「霊感・超能力トレーニング」という本だ。 この本は他とは違っていた。 まずは呼吸法の訓練から始めるのだが、 霊感が付いてくると、霊障などの危険があるので、 まずは腹筋運動などで肺活量を高め、 息を吸ったときと吐いたときの胸囲差が何センチ以上になるまでは 決してトレーニングを始めてはいけないという警告が 付いているのである。 本格的であった。 漠然と目標の見えないイメージ訓練より 遥かにやりがいがある。 数日の訓練によって肺活量の問題は割と簡単にクリアできた。 次は呼吸法だが、これはヨガのような柔軟運動と共に毎日行うものである。 お陰で体は見る見る柔らかくなっていった。 息を限界まで吸い込む。 肺いっぱいに空気を吸い込んだら、そのまま呼吸を止める。 お尻を引っ込めてチャクラを丹田に引き寄せ集中する。 そして息をゆっくりと吐き出す。 さらに、ここが一番苦しいところなのだが、 息をすべて吐き出したら、そこで再び呼吸を止める。 1日20分くらいのメニューなのだが、瞑想の有意義な時間である。 瞑想することが私の趣味になった。 小学校の時の合宿で座禅を学んでから瞑想が好きになり、 時々夜中遅くまでやっていたりしたものだ。 訓練するにつれて、短時間で深い瞑想状態に入ることが出来るように なってくる。 精神が研ぎ澄まされ、非常に落ち着いた状態になる。 短時間の眠りで体力を回復する技も身についてくる。 「幽遊白書」なんかでやってたよな。 もちろん、漫画の方が後だ。 とりあえずの目標は「超能力高校生」になることだ。 定義ははっきりしない。 とにかく高校生になる頃までには何かすごいことが出来るように なっているに違いない。 その後、それより強い「超能力大学生」になり、 「超能力社会人」となるつもりだ。 この辺りの目標はスプーン曲げで有名な超能力者、清田益章氏の受け売りだ。
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