黙示録

ヨハネの黙示録を、映像で、見た。


 1989年12月10日。

 安息日の夜。
 私は未来のことを知りたいと思いながら風呂に入っていた。
 一体この先、この国は、この地球はどうなってしまうのだろう。
 どんな事が待ち受けているのだろう。
 俺たちは何をしたらいいのだろう。
 俺たちの役割とは・・・ 何のために前世の記憶など思い出さねばならない?
 一体、何を求められているというのだ?

 私の周りで起きている出来事は、果たして神に認められるものなのだろうか?  それとも悪霊どもの惑わしなのだろうか。  いや、疑うこと自体がとんでもなく罰当たりなことなのかも知れない。  私は祈るような気持ちでこれらについて考えを巡らせていた。

 その時、頭の中に懐かしい光景が思い浮かんだ。  学校? そう、小学校に行かなくちゃ。  僕たちは仲間たちと一緒に霧の中を飛んでいた。  まだ朝早く、地面は一面の霧に覆われて何も見えなかった。

 そうだ。 懐かしいと思ったら、これは昔見た夢のワンシーンだ。

 霧が晴れかけると学校が見えてきた。  そこで勉強するのだ。 急がなきゃ。  憧れの女の子がそこにいた。 ずっと彼女のことを見ていた。  彼女は世の中とはうまくやっていけないタイプの子だった。

 ここでいきなりシーンが変わる。  以前に見た夢をそのまま、その順序で思い出している!  こんなことってあるのか?


世界に注目する霊たち

 僕はスタジアムの観客席のようなところに突っ立っていた。  周りは暗かった。 大勢の観客がこれから競技場で起こることを 静かに見守っていた。  競技場は一つの世界だった。 僕らはここから世界を見下ろしているのだ。  世界は、冷たく、暗かった。

 そこへ一人の背の高い男の人が現れ、一人の女性を導いてきた。  あの女の子だ!  彼は世界の真中まで歩いて行き、 そこに台を作ると、彼女を台の上に案内した。

 その女性は世界に向けて、全ての人にとって必要な重大な真理を発表し始めた。  彼女はこの上なく白い衣を身に付け、その話しぶりは堂々としたものである。

 観客席にいた人々の多くは立ち上がり、歓声を上げた。  世界がどよめいた。  僕も涙を止められなかった。  彼女の言葉が、またこのことが人々に告げられたことがあまりにも嬉しかったのだ。

 僕はいても立ってもいられなくなり、一階席へ駆け下りた。  彼女のところへ走って行こうとしたのだ。

 ところが競技場の入り口には白い衣を着た二人の人が立っており、 僕は出てゆくのを止められた。  「まだお前が出てゆくべき時は来ていない。」

 僕はずっと彼女の方を見ていた。 憧れの方、懐かしい方。  すると、驚いたことに、彼女は僕に気付いて小さく手を振ってくれたのだ。  ああ、なんという優しさ。 再び涙が止まらなかった。  あそこに行きたい!

 ここでまたシーンが切り替わる。

 あれから私は大人になっていた。  白い壁で囲まれたこじんまりとした部屋で、白い服を着た方から面接を受けていた。  そこで大切なことをいくらか聞かされた後、彼は言った。  「行け、そして彼女を守れ。」


女は迫害を逃れて・・・

 気が付くと私は地上にいた。  すぐ脇に彼女がいた。  彼女は静かに天を指差した。  「私の行くべきところはあそこです。」  見ると、青空に美しい月が輝いていた。

 彼女の他にもう一人の女の子もいた。  私はその子も守ろうとしていた。

 世界が騒がしくなり、あちこちから声が聞こえたので、私たちは逃げた。  途中で女の子の様子がおかしくなったので道の脇の小屋に運んだ。 「大丈夫か?」  もう助からない事が分かった。 背中に大きな毒針が刺さっていた。  私はそれを引き抜くと嘆きと苦しみに任せて大声で叫んだ。 「どうして黙っていたんだぁーっ!」

 私たちは町へ出た。  そこで象のような姿をした得体の知れないものに見つかってしまった。  追っ手が四方から迫ってくるのを感じた。  彼女は私に、後ろから支えるように指示した。  私は言われるままに彼女の両脇を抱えると、私たちの体は宙に浮いた。  そこで私は悟った。 「体を支えているのは私だが、飛んでいるのは彼女の力だ」と。

 やがて私たちは駅に降り立った。 そこは分岐駅だった。  そこには静けさがあった。

 彼女はどこからか箱を取り出すと、これまたどこから取り出したのか、 いくつもの水晶球を数えて箱に収め始めた。  箱には12個の窪みがあって、水晶球はそこにぴったりとはまるのだった。

 私は周りを警戒しながらその様子を見ていたが、突然、少し間を置いたところに マントで全身を覆った黒い魔術師が現れた。  奴だ。 これまで姿は見えなかったがずっと気配を感じていた。  私のそばにいた女の子の背中に毒針を打ち込んだのも奴の仕業だった。  奴は黒い大きな魔物を従えていた。

 その魔物には首がいくつもあり、細長い丈夫な針のような角が沢山ついていた。  そいつはその角を飛ばして攻撃してきた。  そして私が彼女を守ろうと彼女を脇へ突き飛ばしたショックで、 12個の水晶のうちの2個が彼女の手から転がり落ちて、線路に落ちてしまった。  私は慌てて飛び降りて、その水晶に手を伸ばしたが、一瞬早く伸びてきた魔術師の手に さらわれてしまった。

 奴は水晶を黒い大きな魔物に託すと、後を任せて姿を消してしまった。  魔物は得意げになり、その首の一つが私に向かって声を発した。  「私はいまや、話すことさえ出来るようになった」と。  だから何だというのだ?  奴が話せることにどれほどの意味があるのだろう?  おかしな台詞だ、と思ったが、 その一方でこれが危機的な状況であることを全身で感じていた。

 奴は空から溶岩のようなものを降らせる攻撃をして来た。  私は身軽に宙を舞い、その間を避けて奴に近付き、その胴体に飛び蹴りを食らわせたが、 まるで岩に向かって着地したような感覚で、何のダメージも与えていないようだった。  私は彼女を守りつつ、その首と角の攻撃をかわすしか手が無かった。

 やがて私はどこからか剣を手に入れていた。  なぜかいきなり手に持っており、タイミングを見計らって奴の首の一つに 飛び掛っているところだった。  その攻撃は見事に決まった。 奴の首の一つが地面に転がった。  その切り口は溶岩のように鮮やかな赤色をしていた。  私は、勝った、と思った。  しかしその切り口は見る見る間に元の黒い岩のように戻ってしまい、 何のダメージも受けていないかのように振舞った。  そんなばかな、と思った。  まさに絶望的だった。

 その後、どう戦ったのか覚えていない。  気が付くと私は2つの水晶を取り返し、彼女に返すところだった。

 彼女はその水晶を受け取ると、悲しげにうつむいて、 「こんなに小さくなってしまった」 とつぶやいた。  確かにそれは彼女の手を転がり落ちた時より、遥かに小さくなっていた。  しかし私は見た。  彼女がそれを箱に収める時、その大きさは他の10個の水晶と同じだったのだ。  私がそれに気付いて驚いて彼女を見ようとすると、 彼女はうつむいたまま答えた。

「知っていたことです。」


戦い果てて・・・

 私は彼女を護衛しつつ列車の入り口まで歩いて行った。  するとその列車には白い衣を来た屈強そうな二人の方が乗っており、 私たちを出迎えた。  そして彼女は列車に乗ると、振り向いて私に言った。 「あなたが行くべきところは私が向かうところとは反対方向に3つほど行ったところです。」  彼女は向かい側のホームを指差した。

 私はどこまでもついて行く覚悟だったので、突然の別れの通告に困惑したが、 その二人の天使を見るに、すでに私は必要ないことを理解した。

 反対のホームには列車が止まっており、 沢山の友達がすでに乗っていた。  私は誰かを探すように先頭車両の方へ列車の中を見ながらホームを歩いて行ったが、 やがて諦めて列車に乗り込むことにした。

 その時!

 私の首筋めがけて、毒針が勢いよく振り降ろされた。  私は一瞬の差でそれに気付き、その腕をつかんだが、 その腕は強く、毒針は徐々に私の首までの距離を縮めていった。  あの魔術師が生きていた。  私のすぐ後ろで、私を殺そうとしている。  だめだ。 もう限界だ。 奴に力でかなうはずは無い。  もう諦めてしまおうか・・・。

 そう思った瞬間、別の腕が魔術師の腕をがしっと掴み、 いとも簡単にねじ上げてしまった。  私は自分が開放されたことを知り、力が抜けるのを感じた。  そして、私を助けて下さった方の正体を確かめようとした。  足が見えた。 白い衣を着ておられる。  私は恐る恐る視線を上げていった。  なんと、それは、イエス様だった。

 優しい静かな笑顔で私を見つめ、そこに立っておられた。


 なんと、あの安息日の朝に見た夢は、この話だったのか。  そう、全て覚えている。  最初から最後まで、私はあの日、この夢を見た。

 風呂場でこれら全てを思い出してしまうと、 私はこれら全てを書き記さなければならないという強い促しを受けた。  そこで私は慌てて風呂を上がると、日記の数ページを費やして初めから 全てを書いて行くのだが、徐々に記憶が薄れるどころか、 書くほどに神経が研ぎ澄まされて、より詳細に至るまで思い出された。

 一体、何が起こっているのだ。  確かこの夢を見たことを日記に書いたはずだ。  いつだ?  慌てて日記を遡ってめくった。 なかなか見つからない。  こんなに前じゃなかったはずだが。  見逃しはないかと何度もページを行ったり来たりしながらようやく見つけた。  あった! なんと、こんなに昔だったのか。  ほら、やっぱり、錯覚なんかじゃない。  安息日の朝にこの夢を自慢したことが書いてある。
 !!・・・今日も安息日だ・・・?

 この話がヨハネの黙示録の内容と異様に一致する点が多いことに 気が付いて興奮して調べるのは、まだしばらく先のことである。


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