とても怪しい話なので言わないで来たのだが、 他の皆にはあれが見えていないのだろうか? いや、私だって精神がおかしいと言われるのは嫌だし、 妙な病名をでっちあげられて、確かな証拠もなく分類されるのはまっぴらだ。 しかし、見えるものは仕方がない。 つまりだ。 私たちの身の回りに「完全流体」のようなものが漂っているのである。 ちょっと暗いところでよく見える。 床の隅あたりを見て、ちょっと手前の宙を見るようにする。 するとピントがずれるわけだが、だんだん何かが流れているのが見えてくるのである。 ちょっとコツがいるが口ではうまく説明できない。 こういうことはいくらでもあるだろう。 自転車に乗る方法をいくら口で説明してもあまり役には立たず、結局は練習するしかないとか。 この場合、意識をずらすと言ったらいいのだろうか。 そういうとますます怪しく聞こえるかもしれないが、 怪しい精神的操作ではなく、私にとっては当たり前の感覚なのだが、ああ、言葉がない。 しばらくぼーっと見ているのがいいかも知れない。 慣れるといつでも見える。 眼球の中に赤血球の死骸かなにかが連なって動いているような現象が あるのは知っている。 それはしょっちゅうだ。 そういうものとは全然違う。 かなりの勢いで風のように流れているのだ。 ひょっとして毛細血管の血流を見ているのだろうか? 誰か知っていたら教えて欲しい。 これ以上、馬鹿な思い込みやおかしな想像をしないで済むのでありがたい。 とりあえず、何とかそいつを描写してみよう。 とても微細な粒子で出来ているようである。 白い粉のような、それでいて「粉っぽくない」透明感あふれるようなものだ。 そうそう、霧のようなものだ。 数秒間は同じ方向へ全体的に流れている。 しかし、ある瞬間、さっと向きを変える。 一瞬、止まったようになることもあるが速度はあまり変わらないようである。 ひょっとして人間の脳が画像解析をする時に必然的に発生するプロトコルノイズかなぁ。 ほら、MPEGの動画処理のブロックノイズとかモスキートノイズとかあるじゃんねぇ。 目を強くこすった時に光が見えたりするけどあれかねぇ。 あまり続くようなら網膜はく離とかの危険もあるという話だけど。 あまり真剣にそれについて調べるとひょっとして何でもない答えだったりして 恥をかくかも知れないのでこれまで無視してきた。 「多分、毛細血管だよ」と考えることにしている。 人間ってそんなものさ。 風評を気にして、見えていても無視することは多いんだよ。 そんな「科学者らしくない」部分の俺を軽蔑するかい? それとも立派な「社会的判断」だと評価してくれるかい?
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