NEETに期待する

 この文書は2005年春頃に書かれましたが、 当時の社会情勢ではまだ私の真意が伝わらない (つまり誰もが真剣すぎる当時の状況に対しては毒が強すぎる)だろうと判断して、 2007年春まで未発表でした。

 学校を卒業しても職に就かず、 職を探すわけでも職業訓練を受けるでもない人たちが増えている。  「フリーター」でもない。  彼らに「NEET」という呼び名を付けなければならないほど、 社会で無視できない存在になってきたということだ。
 彼らの主なスポンサーは両親だ。  親はいずれいなくなる。  その時彼らはどうするつもりなのか。  自立してやっていけるのか。  非常に心配だ。

 彼らを助けるためにはどうしたらいいか、という 話題があちこちで聞かれるようになった。  偉そうな話だ。  本当は彼らのことよりも自分の事が心配なのだ。  いずれ彼らの面倒を誰かが見なければならない。  社会全体がその重荷を背負わなければならない。  そんなのは御免なのだ。

 だから「助けたい」のではなくて、本音は「助けてくれ」なのだ。  「頼むから重荷にならないでくれ」  「面倒は見切れない」  これを優しく言えば「助けたい」となる。

 そんな綺麗事を言っていないで、そろそろ彼らに頭を下げて、 本気で助けてもらうことを考えてはどうだろうか。  とは言っても彼らを労働力としては使えない。  ボランティアとしても使えない。  彼らには働く動機がないし、金も魅力的ではない。  簡単には動かせない。
 そもそも社会が彼らに賃金を支払う余裕があるなら今の失業問題だってないだろうし、 将来、彼らの財源が尽きた時に無条件に雇ってやることができるなら そもそも問題にさえならない。

 こういう浅ましい人の使い方はやめよう。  別のアプローチが必要だ。

 彼らは現時点で社会の役に立っていないと見なされている。  いや「消費者」としてなら大変役立ってはいるようだが、生産的ではない。  だから、今さら素晴らしい効果は期待しなくてもいい。  少しでも何かを引き出せれば儲けもんだと考えることにする。  それであまり効率的ではないことを承知で提案するわけだが、 彼らに物理と数学に打ち込んでもらってはどうだろう。

 彼らの置かれた環境は私にとって非常にうらやましい話だ。  理論物理と数学なら元手は要らない。  食い繋げるだけのスポンサーさえいてくれればいい。  親御さんには申し訳ないが、 大変有益な活動のスポンサーということで協力してもらおう。

 ブラブラして何をしているか分からないよりは、 何かに打ち込んでいる姿を見る方がいいはずだ。  一日中コンピュータゲームをして 一方的にゲーム業界の食い物になるよりは遥かにいい。
 日本に優秀なゲーマーはそれほど数多く必要ないのだ。  レベルの高い戦士がオンライン RPG の中に何人いても誰も救えない。  キャラクターの「知恵」の数値が高くても、現実に賢いわけではない。  ゲームより、もう少し生産的なことをしてもらおう。

 日本の中にプロも真っ青になるような 物理と数学のオタク集団を作り上げて、 利用するでもなく置いておくだけでいい。  彼らほど、この務めに相応しい者はいない。
 彼らは論文を書く必要はない。  彼らは論文を発表する必要もない。
 ただ居てくれるだけで世界に貢献することになるだろう。  誰も彼らを邪魔扱いできない。  誰も彼らを馬鹿にできない。  彼らは財産になる。

 昔に実在したちょっと風変わりな科学者にちなんで、 「キャベンディッシュ・クラブ」とでも名付けようか。

 誰かがそのための準備をしなくてはならない。  最先端までの分かり易い道を示す文書をネット上に 用意しなくてはならない。

 申し訳ないが、私は彼らの将来など考えていない。  親身になって心配もしていないし思いやりによるのでもない。  ただ暇なら手伝って欲しいだけだ。

 高い知性を持ちつつ、あくせく働く馬鹿どものことを冷笑しながら、 日本の有事の時の秘密兵器として備えていて欲しい。


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