EMAN白書2008

2008年が終わる前に、少しの記録。


 たまにはこうしてサイト管理人の考えを まとめて残しておくことも必要だろう。

 短い間に世の中が変わって行くのを感じる。  かつては共有できていたものが、理解されなくなって行く。  このサイトにも変化が必要かも知れない。  そうでなければ、時代遅れで取り残されるだけだろう。  でもどうやって?  いつも模索している。

 前にサイト運営について書いてから時間が経った。  その間に本も 2 冊書いた。  しかし私が何をしようとしているかについては まだ分からない人もいるだろう。  実は私もはっきり分かっているわけではない。

 分かりやすい受験参考書のような物理の本が 沢山出てくるだろうと思っていたが、 私が予想したほどは出ていないようだ。  しかし世間から「もう十分だ」と思われるくらいには すでに出ているような気もする。

 大学受験の科目に物理を選択する人の割合が、 かつての「地学」ほどまでに減少するとは思っても見なかった。  誰にとっても絶対に必要な科目だと思っていた。

 別に学生の理系離れを批判するつもりはない。  今の世の中を見れば、理系分野への進学を避けるのは当然であり、 理系への道を選んだ我々よりも賢い選択だと思える。  むしろ、理系を選ぶ若者に、「おい、ちゃんと考えたか?」と 心配で声を掛けたくなるほどだ。

 まぁ、物理学の価値が減ったとは思わないが、 需要は減少するであろうことは予測していた。  だからこそ、「趣味で物理学」なのだ。

 この本のタイトルには幾つかの意味がある。

 第一に、「物理学を趣味にして楽しみましょう」という誘い。  物理は楽しいものなので、それを伝えたいという気持ちがまず初めにある。  しかしひょっとしたらこれで社会を救えるかも、という下心も湧き出してくる。  この趣味が広まれば世間の理科離れを食い止めることができるのではないだろうか。  いや、テレビなんかで騒いでいるのは、 日本社会を支えるための「奴隷としての理系人」の人口が減る事の危機感であるが、 そんな私欲に満ちた意見は私にはどうでもいい。  しかし理性的な判断をバランス良く下せる人を増やすことは、 我が国の存亡にとって、とても重要であると思う。

 第二に、「趣味でできる程度の物理学」を勧めるのではなく、 「趣味で」あるにも関わらず、「本物の物理学」を目指そうという志向である。  元々は「趣味の園芸」なんかのパロディとして「趣味の物理学」というタイトルが 思い浮かんだのだが、敢えてそれを捨てて、 奇抜な、少し気味の悪いタイトルを選ぶことにしたのだった。  この一年のこの本の成果の一つは、このタイトルがそれほど奇妙なものだと 感じさせないものにできた事だろう。  ある人は「趣味のレベル」と呼んで趣味を馬鹿にするのだが、 私にとっての趣味は、好きであるが故にどこまでも上を目指す、 誰にも負けない可能性を秘めたものなのだ。

 第三に、「物理は生活を賭けるほどのものではなく、趣味に留めておけ」という警告だ。  よっぽどの才能がない限り、この分野で生き残ることは出来ない。  それより、苦労少なく収入を得られる他の道を探した方が良い。  おそらく、この後、日本は貧乏国になる。  生きていくのが難しくなるだろう。  金がなくてもできる趣味の提案でもある。  だから専門に進まずとも、趣味でもできるということを示そうとした。

 「趣味でも出来る」なんて主張すれば、 絶対に本職でやっている人たちからの反発を招くはずだ。  彼らは生活を賭けながら、血を流しながら、その道にいる。  「趣味なんかで出来るような甘いものではない」と怒るわけだ。  まぁ、私にとっての彼らは「趣味の世界の頂点」にいる人たちなのだが。  これが褒め言葉だと分からない人も多いようだ。

 プロ棋士が「趣味で将棋が出来るか! お前ら全員やめちまえ!」と言うようなものだ。  あるいは、プロ野球選手が草野球に怒鳴り込んで来るようなものだ。

 私の本は、「分かりやすい参考書」くらいにしか思われていないこともある。  それだから「この本には詳しい部分が書かれていない」と文句を付ける人もいる。  しかし的外れの批判だ。  基本的に「自分で学び始めることを勧める本」なのであるから、 思想のない参考書の類とはちょっと向きが違う。  それは本のあちこちに書いておいたはずだが、 知人から聞いた「3 % の人にしか伝わらない」という話は本当のようだ。  ごく初歩の部分についての、考え方、学び方の一例を紹介した本だと 思ってもらった方がいい。

 さて、もう少し長々と書くつもりでいたが、 数ヶ月放っておいたせいで、何を書くつもりであったか、忘れてしまった。  思い出したらまた書くつもりでいるが、 多分、時代遅れな事を書こうとしていたに違いない。

 なんというか、早い段階で自分が凡人だと認めないと生きづらい世の中になった。  何か新しいことを始めようとしても、 ちょっと検索すれば、 どこかの誰かが自分が考えてたよりも はるかな完成度ですでに実現してしまっている。  「ただそれが好きだから」という理由以外では続けられないな。


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