第1部の終わり

ぼんやりと終わらせたくなかったので、ちょっとまとめの挨拶を。

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勝利宣言

 前回までで大きな疑問は解決した。今回はそのことを宣言して第2部以降へ繋げるための話である。

 ここまで私は流体力学という学問の範囲がどのようなものであるかをはっきりさせようとしてきた。「流体力学というのは今後どんなに難しくなろうとも結局このような枠内での話をしているに過ぎない」という外枠の線を最初に引いてしまうことができれば安心感が生まれるだろうと考えたからである。
 どんどん難しくなる話がゴールも見えないまま次々と続けられると 無限の宇宙に放り出されて漂うような感じで私にはとてもつらいのである。
 そのために、流体力学の基礎方程式がどんな組み合わせで構成されていて、それぞれが本当に必要不可欠なものであるかどうかを念入りに調べてきた。最初は 4 回ほどの短い記事で終えられるだろうと見積もっていたのだが、途中で様々な寄り道をすることになり、結局 11 回の話が必要になってしまった。そしてついに、未知関数の数と方程式の数を一致させることに成功したのである。

 とは言っても全ては教科書の最初の方に書かれていることの焼き直しである。

 いや、教科書によってはここまでのことが全体にわたって小出しに書かれていたり、完成した形の方程式が天下り的に突如紹介されていたり、あるいは方程式が徐々にバージョンアップされていくような形で書かれていることも多い。それをいきなり一気にやってしまったのは少し珍しいと思うし、いい感じのまとめになっているのではないかとも思う。


敗北感もある

 流体力学の全体を小さな枠内に抑え込めると思っていたのだが、残念ながら色々なものがすり抜けて行ってしまった。次々と色んな仮定を導入して、簡単に扱える範囲のものだけを捕まえておくしかなかった。列挙しておこう。

  ・流体を構成する分子の平均自由行程のおよそ100倍以上のスケールでの現象しか扱えない
       → つまり十分な数の粒子がないといけない
       → あとは「希薄気体力学」にお任せ

  ・ニュートン流体(粘性力が速度勾配に比例する流体)に限る
       → あとはダイラタント流体やらの細分化された各分野にお任せ

  ・粘性率は定数だと仮定
       → 温度によって変化するのが普通だが入門書レベルでは定数とする

  ・第二粘性率を定める理論的根拠が未解決
       → 実用的にはそれほど大問題にもなっていない
       → 近年の技術的進歩でそろそろ解決しそうかも?

  ・バロトロピー流体(密度が圧力のみの関数)を仮定
       → 必ずしもこの仮定を使うわけではないが、多用される

  ・現実にはもっと複雑な条件があれこれ絡んでくる場合がある
       → 仕方ない。使えるところに使うしかない

 最後に挙げた項目は本当に仕方がない。流体力学の教科書は相当に分厚かったりするが、あの全てがかなり単純な状況に絞った場合の議論だと知ると軽い失望を感じたりする。とは言っても応用できる場面はかなり多いのでそれほど悲観する必要もないだろう。
 もっと複雑な場合というのは、例えば電磁流体力学だ。 電荷を持った流体が流れれば電流を生じ、電流の周りには磁場が生じる。 流体はそこからも力を受けるわけで、そのような力が応力テンソルに書き加えられることになる。 それはこれからやろうとしている単純な流体力学とはまるで違った感じになるであろう。

 気象シミュレーションもなかなか複雑である。 空気が含む水蒸気量や空気の中に含めなくなって出てくる水蒸気の量の保存則も含めて方程式を解かなくてはならない。 ただの流体力学はそういうところまではカバーしていない。

 そのような複雑な場合についても 基礎的な方程式を立てるところまではここまでの話と重なる部分が多いので、 かなり理解しやすくなっているはずだ。