夫婦げんか深夜に妻と大ゲンカした。 妻がこっそり高価な波動グッズを購入したことが発覚したためだ。 私は困惑して、憤りをぶつけずにはいられなかった。 インチキ商売を嫌悪し、撲滅してやろうと戦っているつもりだったのに、 またもや足元を崩され、やつらの活動に加担し、 よりによって我が家にあの忌々しい商品の侵入を許すなんて・・・。 週末ごとに通っている歯医者の待合室で、テレビの通販番組が良く流れている。 それを観ていた時の思いが、何度も何度も頭の中に蘇ってくる。 「ああ、何たる馬鹿な商品、あんなのに騙される主婦たちとは、何と無教養なのだろう。」 私は憤りながらも、内心嘲っていた。 ぷぷっ。 だって、ゲルマニウムを身に付けるだけで健康になれるんだってよ? それがすでに疑いの無い常識であるかのように、出演者たちが揃って感心し、話が進んで行く。 しかも驚いた事に、最後はそれを別の材料ですっぽり覆っちゃうんだぜ。 この人たちは、何という魔術を信じているんだろう。 深夜に独り。 自分は一体何をしているのだ、何のためにこんな苦しい思いをして働いているのだ、 という情けない気持ちで一杯だった。 近所迷惑も顧みず、怒鳴り散らし、喚き散らした。 そうしながら、自分は何てバカなんだろうと思った。 人の健康と平和と幸せを願って笑顔で売る純情無垢な人々と、同じ思いで買う人々がいる。 私はそれを否定し、血圧を上げ、夜中に人を起こし、悪しき波動を撒き散らす。 たった2万円のことで。 一体どちらが、一体どちらが・・・悪か、正義か?! えぇ!? 誰か言ってみろ! 馬鹿な買い物だ。 そのお金で他にどれだけ有益な事が出来るだろう。 だが、夫婦の仲を2万円ごときで破壊しようとしている馬鹿は、本当は自分の方ではないのか。 説明しても納得させることの出来ない深過ぎる溝があるのを感じた。 これはもう真偽の話ではなく、信仰や価値観の問題なのだ。 きちんと論文として研究発表し、厳しい批判を乗り越えたものこそが正しく、 それ以外のものを認めたくないという、最近になって特に重視するようになってきた私の価値観。 それは正しく賢明かも知れないが、正しさを振りかざしても人に勝てるわけではない。 私のその価値観だって、最近になってニセ科学に反対する読み物を多く目にするようになったせいで 徐々に影響を受けて出来上がってきたようなものだ。 それが洗脳じゃないと、どうして言い切れる。 家庭の中に二つの価値観が存在する。 それがもたらす不幸。 私はそれを自分の思い通りに制御して、 考えに合わぬものを排除したいと思っているわけだ。 これは何という悪だろう。 落ち着いた後で、自分がどんな思いでいるかを全部伝えた。 半導体というのはどんな形にカットしようとも、 人間が微細加工して理論を尽くして回路を組まない限り、 そこら辺のただの石と変わらないのだと一応伝えた。 ああ、そうだよ、そこら辺の石に低級霊が宿る事があるよ。 だから自分はそういうものには近寄らないようにしている。 昔はよく挑んだものだが。 俺だっておかしいよ。 ゼロ点波動エネルギーなんて出てないし、自分はそんなものは信じないと一応伝えた。 科学者は未定義の存在について「無い」と言い切れないのがつらいところだ。 一生懸命になって健康を願い求めて行動している妻の気持ちは素晴らしいと思ってると伝えた。 そして明かされた真実。 妻は私の誕生日プレゼントにするためにこっそりそれを買ったのだと。 あぁ!! あぁー? これは何という・・・「賢者の贈り物」? ええ? そんな良いものか? 何なんだよ、この結末は!! 再び困惑だ。 (そう言えば結婚前にも何だか似たような事があって、その時は返品させたことがあったな。) 理論や理屈なんかでは相手を心から納得させることなど出来ないし、 無理やりやめさせれば、ひどいわだかまりが残りそうだ。 これを購入する事は我が家の安全を脅かすほどの事柄ではないので、 この件を日記のネタにすることを引き換え条件に、私は被験者になることに同意した。 ああ、眠い。 原稿書く為に起き出したのに・・・。 烈火の如く怒りを吐き出したせいで、くらくらしてるわ。 |