理論は後回し
関数のテイラー展開についてはすでに説明したが,多変数関数についても似たような定理が成り立っている.いきなり一般的に成り立つ複雑な式を見せられても嫌になるかもしれないので,とりあえず 2 変数関数の場合にどんな関係が言えるかを見てもらおう. これではどんな規則性があるのか分かりにくい.しかし具体的な形を見ておくことも内容を把握するために大事だと思ったのだ.次のように書けば楽になる. と偏微分の記号などが分けられており,括弧の中には偏微分の記号だけが入れられている.この括弧を展開してしまってから,それらの項をすべてに作用させるという規則を採用しているのである.これによって一定のパターンにまとめることに成功している.この書き方に慣れていない人は,ここで何をしているのか,最初の式と見比べてよく考えてみてほしい.
次のように書いてしまえばもっと短くなって美しさを感じる人もいるだろうし,覚えやすいかもしれない. この式ではわざとまでの項で止めているからイコールではなく近似の記号を使った.このような式を「次までのテイラー展開」という.最初の二つの式では項が無限に続くような表現にしてあるが,本当に等号が成り立つかどうかは場合による.
変数が 3 つの場合も同じようなパターンの関係が成り立っており,次のように書ける.
1変数のテイラー展開の復習
このような式を見ていると,これは本当にテイラー展開と言えるのだろうかという気がしてくる.前に学んだ 1 変数のテイラー展開との共通点が分かりにくいのだ.ここで 1 変数のテイラー展開を復習してみよう.ちゃんと上で説明したのと同じパターンで表現できているのである. これはまさしく 1 変数のテイラー展開である.少し前に説明したときとは違う記号を使っているし,これとは少し違う形を使って説明したので分かりにくいかもしれない.ついでだからその辺りも説明しておこう.以前の説明では次のような式を使ったのだった. 最後の項が剰余項と呼ばれており,そこで使われているはとの間のどこかにあるというのが「テイラーの定理」であった.
この式でと置くと, という式に書き換えられる.今回はこちらの形式で説明していることになる.
ところでというのはとの間のどこかの値だということだが,この変数変換後の式にはが使われていないので,別の表現に変えておいたほうが気持ちいい.言い換えればはとの間のどこかにある数値だということなので,ということにして,ということにしておけばいいだろう.
一般的なテイラーの定理
そろそろ慣れてきたので一般的なテイラーの定理を見ても平気だろう. 1 行目の右辺は次までで止めてあり,2 行目が剰余項である.この時,が成り立つというのがこの定理である.
ちゃんと 1 変数の場合のテイラーの定理をそっくり含む形になっている.
における関数の値やその偏微分の値が全て具体的に分かっているときに,そこからほんの少しずれた場所での値を近似するのに使える式である.1 変数のテイラー展開と同じ考え方の式だと言えるだろう.
なぜ成り立つのか
ここを読みに来る人の中に厳密な証明に興味のある人の割合はそれほど多くないだろうから,なぜこんな形の式が成り立っているのかというおおよそのイメージだけ伝わるようにしておこう.
少し前の記事の中で,テイラー展開がなぜ成り立っているのかという説明をしたが,あれとほとんど同じ考え方をする.両辺を偏微分してやればいいのである.
例えば,一番最初に書いた式の右辺にが出て来るが,そのような項は一つだけである.このを消すには両辺をで 3 回偏微分してやればいい.その後で,を代入すれば,ほとんど全ての項は消え失せ,右辺にはその項しか残らない.係数などもうまく働いて結局のところ右辺にはだけが残る.
一方,左辺もで偏微分したにもかかわらず,と同じものが残る.なぜそうなるかについて説明があった方がいいだろうか?をで偏微分するにはをで偏微分して,をで微分することになる.をで微分しても 1 だから後者は計算に影響しない.何度偏微分してもというかたまりでとが残っており,最終的にを代入したときにはだけが残って,あたかもで偏微分してきたのと同じ結果を残すわけだ.
同じように,例えばという項を残したければで 2 回偏微分してで 1 回偏微分すればいい.このようにしても両辺には結局同じものが残る.偏微分に対して両辺はいつも一致している形になっているのである.
確かに成り立っている気がしてきた.しかし剰余項の辺りが気になる人の疑問には答えられていないので,しっかりした数学の本で確かめてみてほしい.
1 変数のテイラー展開が
美しく拡張される。