コリオリの力

座標変換によって生じる力。

[前の記事へ]  [解析力学の目次へ]  [次の記事へ]


お詫び

 ここでは、見かけの力の実例としてコリオリの力を説明する。コリオリの力というのは、大砲の弾のように高速で移動する物体に対して、その進路を曲げようとする力である。地球が自転している影響で、地球表面から物体を観測するとあたかもそのような力が働いているように見えるのである。

 このことを示したのがフランスの物理学者、コリオリ(Coriolis)である。彼の物理に対する貢献は大きく、それまで混乱して用いられていた物理用語を現在のように整備した人物としても有名である。

 具体的な計算に入る前に、お詫びしなくてはならないことがある。以前、この記事の冒頭で説明していた話はガセネタであった。

 どんな話かと言うと、戦艦の大砲はコリオリの力によって曲げられるのだが、緯度によってその力の大きさが違うので、違う海域で戦うと命中精度が落ちるというものだ。まだコリオリの力のことが知られていなかった大航海時代には、このことが謎であり、悩みの種だったという内容だった。

 19 世紀頃の大砲の精度を調べてみたが、どう計算してもコリオリの力が問題になるほど高くはないのである。ではこの話は 20 世紀なってアメリカが世界に軍隊を展開したときに直面した問題が誤解されて伝わったものだろうかと調べてみた。すると、違う戦闘地域において命中精度が狂ってしまう問題は確かにあったようだ。しかしそれはコリオリの力とは関係ないものだった。彼らはコリオリの力をとっくに計算に入れていただろう。その問題は、地形や岩盤の密度によって地域ごとに重力加速度が微妙に異なることや、地面のぬかるみ具合による反跳が計算に入っていなかったせいらしい。

 昔読んだ科学本にはこのようないい加減なガセネタがかなりあって、その内、特集記事でも書いてやろうかと思っている。

 ちなみに、洗面所の流しに貯めた水を流す時に出来る渦がコリオリの力の影響で北半球と南半球で反対向きになるなんていうのもガセネタの一つだから気をつけよう。かなり厳密に実験しなければそんな差は出ない。検索してみると、こんなことを信じてる人って結構いるものだなぁ。

 まぁ、計算してみれば全て分かることだ。


座標変換

 静止座標系を\( ( x, y, z ) \)で表すとしよう。ニュートンの運動方程式、
\[ \begin{align*} \Vec{F} = m \ddif{\Vec{x}}{t} \end{align*} \]
はこの静止座標系の上で成り立っている。成分に分けて書けば
\[ \begin{align*} F_x &= m \ddif{x}{t} \\ F_y &= m \ddif{y}{t} \\ F_z &= m \ddif{z}{t} \end{align*} \]
の 3 つの式が成り立っているということだ。この静止座標系に対して回転している別の座標系を考えて、これを\( ( x', y', z' ) \)で表すことにしよう。\( z \)軸の周りに角速度\( \omega \)で回転しているとすると、静止座標系との関係は次のように表せる。
\[ \begin{align*} x' &= x \cos\omega t + y \sin \omega t \\ y' &= - x \sin\omega t + y \cos \omega t \\ z' &= z \end{align*} \]
 これから行うのは回転している座標系で表したときに先ほどの運動方程式がどのように変形されるかという計算であって、そのためには逆変換を用意したほうが便利である。2 つの座標の違いは回転角だけなので\( \omega \)\( - \omega \)に直してやるだけで簡単に逆変換が求められる。
\[ \begin{align*} x &= x' \cos \omega t - y' \sin \omega t \\ y &= x' \sin \omega t + y' \cos \omega t \\ z &= z' \end{align*} \]
 ではこの式を先ほどのニュートンの運動方程式の 3 つの式の右辺にそれぞれ代入してやろう。まず、\( m \ddif{x}{t} \)から計算してみよう。面倒なので\( m \)を省いた部分だけを計算することにする。高校の微分の知識で十分出来る計算だ。式がややこしくなるので、変数の上に点(ドット)を書くことで時間微分を表現し、三角関数の中の\( \omega t \)も書くのを省略する。私が紙に計算するときに良く使う方法だ。私の友人などさらに\( \sin \)\( \cos \)を「∧」「∠」で表す速記的なテクニックを使っているが、とてもそこまではついて行けない。
\[ \begin{align*} \ddif{x}{t} \ &=\ (\dot{x'}\cos -x' \omega \sin - \dot{y'}\sin -y' \omega \cos )' \\ \ &=\ \ddot{x'}\cos - \dot{x'}\omega\sin -\dot{x'}\omega \sin -x' \omega^2 \cos \\ & \ \ \ \ - \ddot{y'}\sin - \dot{y'}\omega \cos -\dot{y'} \omega \cos + y' \omega^2 \sin \\ &=\ [\ddot{x'}\cos - \ddot{y'}\sin] \\ & \ \ \ \ - 2 \omega [\dot{x'}\sin + \dot{y'}\cos] \\ & \ \ \ \ \ \ - \omega^2 [x'\cos - y'\sin] \end{align*} \]
となる。この結果の括弧の中を見ると、ちょうど座標変換と同じ形式になっているというので次のように変形したくなる誘惑に駆られるが、この変形は計算間違いである。
\[ \begin{align*} = \ddot{x} - 2 \omega\dot{y} - \omega^2 x \end{align*} \]
 我々の目的は、式を回転座標系の変数\( ( x', y', z' ) \)で表すことなのであって、このような罠に引っかかってはならない。しかし、このような間違った変形をしても偶然にもこれから導く結果と同じ形になるので騙され易い。そこらの教科書には変形の過程が詳しく書かれていないものが多くてあからさまには分からないが、この点においてどうも疑わしい解説がたまに目に付く。

 ではどうすればよいかと言うと、とりあえず右辺はこれであきらめて、左辺の変形を行うのである。力の方向というのは座標を基準にして測る。つまり、静止系で測った力\( \Vec{F} \)は座標と同じ変形を受けて、

\[ \begin{align*} F_x = F'_x \cos \omega t - F'_y \sin \omega t \end{align*} \]
のように表せる。これらをまとめると、結局\( x \)成分の運動方程式は次のようになる。
\[ \begin{align*} F'_x \cos\omega t - F'_y \sin \omega t \ &=\ m [\ddot{x'}\cos - \ddot{y'}\sin] \\ & \ \ \ - 2m \omega [\dot{x'}\sin + \dot{y'}\cos] \tag{1} \\ & \ \ \ \ \ - m \omega^2 [x'\cos - y'\sin] \end{align*} \]
 さらに\( y \)成分についてもこれまでと同じ具合に変形してやって次のようになる。
\[ \begin{align*} F'_x \sin\omega t + F'_y \cos \omega t \ &=\ m[\ddot{x'}\sin + \ddot{y'}\cos ] \\ & \ \ \ + 2m \omega [ \dot{x'}\cos - \dot{y'}\sin ] \tag{2} \\ & \ \ \ \ \ - m \omega^2 [x'\sin + y'\cos] \end{align*} \]
 ここでこの結果を綺麗にするために、

(1) 式 ×\( \cos \omega t \)+(2) 式 ×\( \sin \omega t \)(これで左辺に\( F_x' \)だけが残る)
(1) 式 ×\( \sin \omega t \)-(2) 式 ×\( \cos \omega t \)(これで左辺に\( F_y' \)だけが残る)

の二通りを計算してやるのだ。すると不思議なくらいに綺麗に三角関数が消えてくれて次のような結果になる。

\[ \begin{align*} F'_x &= m \ddot{x'} - 2m \omega \dot{y'} - m \omega^2 x' \\ F'_y &= m \ddot{y'} + 2m \omega \dot{x'} - m \omega^2 y' \end{align*} \]
 \( z \)成分については計算するまでもないだろう。これが回転座標系で成り立つニュートンの運動方程式の姿だ。


もっと分かりやすくまとめよう

 私がここまでで言いたかったのは、「コリオリの力を求めるのに余計な解釈は要らず、ただただ機械的に運動方程式を座標変換して書き換えてやればいいだけだ」ということである。

 しかしこのままの形式では少し分かりにくい。我々は、加速度の原因は力であるという見方に慣れているので、加速度を含む右辺第 1 項を左辺に移行し、残りを右辺にまとめてやって、右辺全体を物体に働く力であると解釈してやるのがいいだろう。

\[ \begin{align*} m \ddot{x'} &= F'_x + 2 m \omega \dot{y'} + m \omega^2 x' \\ m \ddot{y'} &= F'_y - 2 m \omega \dot{x'} + m \omega^2 y' \\ m \ddot{z'} &= F'_z \end{align*} \]
 右辺の第 2 項と第 3 項が座標変換によって新しく付け加わった力だ。簡単な方から説明しよう。

 第 3 項は物体の座標が\( x' \)方向に行くほど\( x' \)方向に力を受け、\( y' \)方向へ行くほど\( y' \)方向へ力を受けることを表している。つまり、回転軸から離れるほど強く外側へ力を受けるのである。これは物体に働く「遠心力」である。遠心力も見かけの力だというわけだ。

 物体の位置を軸からの距離と方向のベクトル\( \Vec{r} \)で表せば、第 1 式と第 2 式の力をまとめて

\[ \begin{align*} +\ m\Vec{r}\omega^2 \end{align*} \]
と表せる。この遠心力の式は高校物理で習うだろう。

 次に第 2 項だが、これは物体が\( x' \)方向へ移動する速度が速いほど\( - y' \)方向へ力を受け、\( y' \)方向へ移動する速度が速いほど\( x' \)方向へ力を受けることを表している。つまり、回転軸に垂直な面内での速度に応じて、この面内での進行方向の右側へ力を受けるというわけだ。もちろん、この面を裏から見れば左へ曲がっているように見えるわけだが。これが「コリオリの力」と呼ばれるものである。この状況もベクトルの外積を使えば一つにまとめて表すことが出来る。回転軸の方向(右ネジが進む方向)を向いた長さ 1 のベクトルを\( \Vec{n} \)としてやれば、

\[ \begin{align*} - 2 m \omega \Vec{n} \times \Vec{v}' \end{align*} \]
と表せる。こうして 3 つの成分の式はベクトルを使って次のような一つの式で表せることになるわけだ。
\[ \begin{align*} m \ddif{\Vec{x}'}{t} = \Vec{F}' - 2m\omega\Vec{n}\times\Vec{v}' + m\Vec{r}\omega^2 \end{align*} \]
 この式が普通の教科書の表記よりすっきりしている理由は、ベクトル\( \Vec{r} \)を原点からの距離ではなくて軸からの距離にしてあるからであり、その点気を付けないといけない。この方が分かりやすかろ?


結局何が起こるのか

 コリオリの力が非常に弱いことはこの式を使って計算すれば分かるだろう。ざっと見積もっても、自転による遠心力と同じ程度の力を受けるためには秒速 100 m を越える速度が必要である。洗面所の流しを流れる水がどの程度の速度であるかを考えてみるといい。

 このような弱い力による影響を検出するためには長い時間が必要である。大砲の場合は数キロ離れた目標に命中させる必要があるので、それだけ長い間この力の影響を受けているわけだ。また、フーコーの振り子の実験は北極点でも 24 時間動かし続けないと一周しない。

 コリオリの力は自転軸に垂直な面内での運動に対して働く力である。そのような面というか、巨大な板状のものが目に見えるような光景を想像してみよう。緯度によってはその面が、地面から斜めに突き出していることになる。コリオリの力はその面内で起こる現象なのである。

 赤道直下ではその板が地面に垂直に天に向かって生えている。だから赤道直下で水平に移動してもこの力は働かない。しかし、垂直に投げ上げれば、物体が自転に取り残されるように軌道が曲がることだろう。なぜ自転に取り残されるのかって?慣性が働いているからそんなことは起こらないんじゃないかって?いやいや、地表で物体が持っている自転方向の速度成分は、上空へ行ったときに自転についていけるほど速くはない。地球から離れて回転半径が大きくなる分、もっと速い速度を持っていないと置いて行かれてしまうように見えるわけだ。実はこれがコリオリの力の本質なのである。

 逆も言える。北半球で真北を向いている人がいるとする。宇宙からの飛行物体がまっすぐ北極上空へ向かって飛んでゆく光景は彼にとってどう見えるだろうか?この物体は南方から現れる。しかし彼は地球と一緒に自転方向である右手の方へ移動しているので、物体は相対的に左へそれながら移動しているように見えるだろう。ここでコリオリの力と違うじゃないかと思ってはいけない。この物体はいずれ北極へ向かうのだ。進路が右にずれたとしか思えない。

 台風が渦を巻くのはコリオリの力だ。コリオリの力は弱いものだが、台風は規模が大きいので、目に見えるほどの現象になっている。学校では低気圧の回転を説明するのに、「北半球では進行方向の右向きに力が働く」と簡単に習うだろう。

 しかし今回の話を聞けば、単純に進行方向の右向きに働く力というものではなく、方角によっても力の働き方が違うことが分かるだろう。北半球で東に砲弾を撃てば、弾道は右上方へそれるが、西に撃てば右下方へそれることになる。先ほどの、地面から生えた板を想像して、地球規模で物を考えよう。