3 次元の波動

説明は冗長くらいがちょうどいい、と私は考える。

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理論の 3 次元化

 ここまではひもの上にできる 1 次元の波を解析力学で扱う方法を見てきた。このやり方を「膜の上にできる 2 次元の波」や「固体内を伝わる 3 次元の波」などにも適用できるように拡張してみたい。2 次元の場合をすっ飛ばして、いきなり 3 次元について考えても大丈夫だろう。2 次元の場合についてはその結果から容易に想像できるはずだ。
 実はこの先には、空間を伝わる電磁波をもこのやり方で扱ってみようという企みがある。  だから目標は最初から 3 次元なのである。
 基本的には、結晶格子のように整然と並んだ質点をバネでつないだような状態をイメージすればいいはずだ。教科書では「ここまでのやり方をたどれば明らかに」などと書いてあって説明が略されていることが多いのだが、本当に明らかな事なのかどうかさえよく分からないので、ここでじっくり考えてみよう。

 3 次元の波動というからには、3 次元の位置の各点での振幅の大きさを\( \psi(x,y,z,t) \)のように表すことになる。ここまでの話ではひもの各点の振幅を\( y(x,t) \)という形で表わしてきていたが、今後は\( y \)という記号が、振幅ではなく位置を表すために使われることになるので注意が必要だ。

 ここまでの記事の y を全て ψ にして書き直しておいた方が統一感があって良いだろうかと悩んだが、 慣れてない人にとっては、ここまでのような簡単な話の中にいきなり ψ なんて記号を使うのは大げさなんだよなぁ。  今のままで良しとするか。


縦波とか横波とかあまり気にしないでいい

 さて、本題に入る前に、波についての基本を確認しておきたい。これから話すことについては、私もしっかりと把握するのに時間がかかったし、今でも時々、うっかり忘れてしまって間違った考え方をしてしまうことがある。

 いや、それは実はとても簡単なことなのだ。しかしそれ故に、はっきり丁寧に説明してくれる人がいなかったし、そもそも問題意識さえ持たなかったので、無意識に間違いを引き起こしていたのだった。

 1 次元の波の例として「ひも」を考えたわけだが、一旦それを表す数学ができてしまえば「ひも」に限らず適用できる。どういうことかというと、今回の場合には、x 軸上に沿って延びているひもに対して、y 軸方向に振動する様子をイメージしたのだった。x 軸方向に走る波に対して、媒質の各点が y 軸方向に振動する場合を「横波」、x 軸方向に振動する場合を「縦波」と呼んで区別するのであった。どちらも数学的には同じ扱いである。要するに「ひも」以外のことを考える場合には、振動方向などは別にどちらであっても大丈夫なのである。

 ここで大事なことがあるのだが、実のところ、波というのは「縦波」か「横波」かだけではない。そういう話を聞くと、高校で「表面波」というものを習ったことを思い出す人もいるだろう。水の表面にできる波にピンポン玉を浮かべて観察すると、上下にも振動するし、同時に波の進行方向にも振動している。縦の断面で見ると、その場で繰り返し円を描くような感じになっているわけで、縦波と横波のどちらともつかない。

 しかしそんなものだけではない。現実の空間内で振動するわけではない波も存在する。例えば量子力学にでてくるような「物質の存在確率の波」なんてものはどうか?これはどの方向に揺れているとか言えるものではないだろう。他にも、あまりいい例は思い付かないが、温度変化が伝わるような波はどうか?果たして温度の数値には方向はあるだろうか?まぁ、温度波は今の話の例としては相応しくないかも知れない。なぜなら、熱源が温度変化を繰り返し続けない限りは、各点が勝手にその場で温度の振動を続けたりはしないので、同じ数学で表せる性質のものではないからだ。ここでは、必ずしも方向を持った変化だけが波を作るわけではないというイメージを伝えたかった。

 では、電磁波についてはどうだろう。電場\( E_x ,\ E_y ,\ E_z \)は実際のところ何が変化しているのかよく分からないが、それぞれ空間の各方向を向いた成分である。電磁波が\( z \)方向へ進むとき、伝わる電場の変化は\( E_x \)\( E_y \)の分だけに限られる。磁場についても同じである。それで電磁波は横波だと呼ばれるのだった。

 しかし電磁場は電磁ポテンシャル\( ( \phi, A_x, A_y, A_z ) \)という形で表すことも出来るのだった。それぞれの成分が波動方程式を満たし、波として伝わる。\( A_x \)などはともかく、\( \phi \)というのは、どちらを向いた成分だとか言えるだろうか。

 とにかく、ここで言いたかったのは、これから 3 次元の波を考えると言っても、必ずしも 3 つの方向成分のそれぞれを向いた振幅を考えてやる必要はないということだ。それは考える物理現象によって色々である。3 つの成分の振幅を考えることがあるかも知れないし、ただの 1 つかもしれないし、4 つとかそれ以上あるかも知れないということだ。媒質の各点が 3 つの方向成分に揺れることを考える場合には\( \psi_x(x,y,z,t),\ \psi_y(x,y,z,t),\ \psi_z(x,y,z,t) \)のようにそれぞれを区別する必要が出てくるだろう。しかし以下ではまず基本となる数学を考えるだけなので、成分は 1 つだけにしておいて\( \psi(x,y,z,t) \)だけ考えておけばいい。どっち方向に揺れているとかいうのは、個々の物理現象の問題なのである。


ラグランジュ形式の 3 次元化

 さあ、どこから始めたらいいだろうか。初めて「ラグランジアン密度」が出てきたあたりに戻って、その論理をたどってみることにしよう。この記事がそれだ。

 その中ではラグランジアンが\( L = T - V \)で表せることから、バネで一列につないだ全ての質点の運動エネルギー\( T \)と位置エネルギー\( V \)を具体的に書くところから始めていたのだった。3 次元の場合にはそれは具体的にどう表せるかというと、まぁ、説明するのは面倒くさいしそういうところには取り敢えず興味がない。ただ、「単位体積あたりに含まれる質点」の「運動エネルギーと位置エネルギーの差」をラグランジアン密度\( \mathcal{L} \)とした場合に、

\[ \begin{align*} L \ =\ \tint \mathcal{L} \diff x \diff y \diff z \end{align*} \]
と書けるはずだ。

 ではこれを使ってどんな方程式を作ったらいいだろうか。ここで以前の記事を詳しく読んでみると、「ラグランジュ方程式はそれぞれの質点について成り立つ式だ」ということが書いてある。このことは 3 次元に沢山の質点を配置した状況を考えた場合だって同じだろう。そして一部の質点の振幅を少しだけ増減しても、それがどの部分にある質点であろうと、ラグランジュ方程式は成り立っているはずだという話に続く。ここもそのまま当てはまる。そして、それは各点の振幅を連続的に繋いで行って、その様子を関数として表したときには、関数の形を部分的に少しだけ変えたときに生じる変化のことを言っているわけだから、それは汎関数微分と同じ思想であり、そのまま置き換えられるという結論になっている。

 前は\( y(x,t) \)という関数による汎関数微分を考えたが、今回の場合、\( \psi(x,y,z,t) \)という関数で汎関数微分をしてやるということであって、つまりは次のような式が成り立っているということか!

\[ \begin{align*} \pdif{}{t} \vardif{L}{ \big( \pdif{\psi}{t} \big) } - \vardif{L}{\psi} = 0 \end{align*} \]
 形式的にはこれまでの 1 次元の場合と全く変わらないわけだが、具体的にどう計算したらいいだろう。その点についてはこちらの記事が参考になるだろう。結果だけ書けば次のようになる。
\[ \begin{align*} \pdif{}{t} \pdif{\mathcal{L}}{(\pdif{\psi}{t})} + \pdif{}{x} \pdif{\mathcal{L}}{ \big(\pdif{\psi}{x} \big) } + \pdif{}{y} \pdif{\mathcal{L}}{ \big(\pdif{\psi}{y} \big) } + \pdif{}{z} \pdif{\mathcal{L}}{ \big(\pdif{\psi}{z} \big) } - \pdif{\mathcal{L}}{\psi} \ =\ 0 \end{align*} \]
 これを\( \nabla \)を使ってかっこ良く表せば、
\[ \begin{align*} \pdif{}{t} \pdif{\mathcal{L}}{(\pdif{\psi}{t})} + \nabla \cdot \left( \pdif{\mathcal{L}}{ (\nabla \psi) } \right) - \pdif{\mathcal{L}}{\psi} \ =\ 0 \end{align*} \]
となるわけだが、ちょっとクセのある表現方法なので、どういう解釈でこう書けるかというのはしばらく考えてもらわなくてはならないかも知れない。専門書ではいきなりこの形で書かれたものが出てきたりして、経験の浅い読者の自信をぐらつかせるのである。

 ここまで来たら、もう、形式的に以前と全く変わらないということが受け入れられるだろう。「運動量密度\( \pi \)」「力密度\( \eta \)」の定義も以前と同じである。

\[ \begin{align*} \pi( x,y,z,t ) \ &=\ \vardif{L}{(\pdif{\psi}{t})} \\ \eta( x,y,z,t ) \ &=\ \vardif{L}{\psi} \end{align*} \]
 しかし念のため、これらの意味をもう一度考えておこう。これらが物理的な意味での運動量や力に関係した量だとは言い切れないという点を強調したいのだ。それは以前の場合にも言えることではあるが。

 例えば、質点が金属結晶のように整然と並んでいて、それぞれがバネで繋がれて振動する動きを考える場合、その振動には\( x, y, z \)の 3 つの成分がある。それぞれの動きが波のように伝わるのだから、それを表すためには\( \psi_x, \psi_y, \psi_z \)の 3 つを使うことになるだろう。上の運動量密度\( \pi \)の定義の中の\( \psi \)の部分に、例えばこの内の一つである\( \psi_x \)を当てはめてみる。その場合、それを\( \pi_x \)とでも表すことになるだろうか。それは「ある微小な部分に含まれる質点の、運動量の合計の\( x \)成分を、その微小部分の体積で割った値」が出てくる事になるだろう。このように、形式上は運動量の密度が表されることもあるから運動量密度と呼ばれているだけである。その時々の状況では何を表しているのか、ちゃんと意味があるのかどうか、というのを考えないといけない。もし先ほど話したように、振幅が具体的な方向を持たない場合はどうだろう。それは必ずしも運動量密度を表すのではないかも知れない。


ハミルトン形式の 3 次元化

 次なる目標はハミルトン形式だ。しかし簡単である。ルジャンドル変換は、考えている範囲の全ての質点についての和を取って計算するのだったから、その部分を連続的に拡張するには、3 次元の積分に置き換えればいい。
\[ \begin{align*} H \ =\ \tint_{V} \pi \, \pdif{\psi}{t} \diff x \diff y \diff z \ -\ L \tag{1} \end{align*} \]
 この辺りの話は「1 次元のひも」について考えた時と全く同じ要領で、ハミルトン密度\( \mathcal{H} \)も次のようにまとめられる。
\[ \begin{align*} H \ &=\ \tint_{V} \pi \, \pdif{\psi}{t} \diff x \diff y \diff z \ -\ \tint_{V} \mathcal{L} \diff x \diff y \diff z \\ &=\ \tint_{V} \left( \pi \, \pdif{\psi}{t} \ -\ \mathcal{L} \right) \diff x \diff y \diff z \\ &=\ \tint_{V} \mathcal{H} \diff x \diff y \diff z \end{align*} \]
 故に、同じ形式の定義ができる。
\[ \begin{align*} \mathcal{H} \ \equiv\ \pi \, \pdif{\psi}{t} \ -\ \mathcal{L} \tag{2} \end{align*} \]
 正準方程式の導出も、計算過程の積分が 3 次元に変わるだけであって、特に新しい要素は出てこない。結果だけ書いておこう。
\[ \begin{align*} \begin{array}{l} \displaystyle \dot{\psi}(x,y,z,t) \ =\ \vardif{H}{\pi} \\[8pt] \displaystyle \dot{\pi}(x,y,z,t) \ =\ -\vardif{H}{\psi} \end{array} \tag{3} \end{align*} \]
 ちゃんと計算過程をチェックし直した人は気付いたかも知れないが、多変数の関数の汎関数の定義は、多重積分によって表されるわけだ。これまでは、例えば関数\( f(x) \)を少しだけ変化させた\( f(x) + \delta f(x) \)を考えていたわけだが、3 次元になると関数\( f(x,y,z) \)を少しだけ変化させた\( f(x,y,z) + \delta f(x,y,z) \)を考えて、その影響を一定範囲の体積について考えないといけないというわけだ。


ポアッソン括弧式

 次なるターゲットはポアッソン括弧式であるが、汎関数微分の定義が体積分に変わること以外には大した違いはないので、何の説明も要らないだろう。ただ同様のことを繰り返すだけでいい。つまり、ポアッソン括弧式の定義を次のようにすればいいだけだ。
\[ \begin{align*} \{ A, B \} \ \equiv \ \tint_V \left( \vardif{A}{y} \vardif{B}{\pi} \ -\ \vardif{A}{\pi} \vardif{B}{y} \right) \diff x \end{align*} \]
 この\( A, B \)の部分に入る汎関数として\( \pi(x,y,z) \)\( \psi(x,y,z) \)を代入すると、次のような関係になっている。
\[ \begin{align*} \{ \psi(a_x, a_y, a_z ,t), \psi(b_x, b_y, b_z ,t) \} \ &=\ 0 \\ \{ \pi(a_x, a_y, a_z ,t), \pi(b_x, b_y, b_z ,t) \} \ &=\ 0 \\ \{ \psi(a_x, a_y, a_z ,t), \pi(b_x, b_y, b_z ,t) \} \ &=\ \delta( a_x - b_x ) \, \delta( a_y - b_y ) \, \delta( a_z - b_z ) \end{align*} \]
 こんな書き方ではややこしく感じるので、全く同じ意味のことをベクトル記号を使って次のように簡略表記することがよくある。
\[ \begin{align*} \{ \psi(\Vec{a},t), \psi( \Vec{b},t) \} \ &=\ 0 \\ \{ \pi(\Vec{a},t), \pi( \Vec{b},t) \} \ &=\ 0 \tag{4} \\ \{ \psi(\Vec{a},t), \pi(\Vec{b},t) \} \ &=\ \delta( \Vec{a} - \Vec{b} ) \end{align*} \]
 位置と運動量の組み合わせについて計算した場合に、同じ位置について計算したときだけ 0 でない結果が出るという、以前と全く変わらないイメージである。


複数の振幅成分がある場合

 以上の話は振幅の成分が一つきりの場合であった。とりあえずは基本となる数学を考えようというので、話が簡単になるようにそうしたのだった。

 振幅に複数の成分がある場合には、少しばかり修正が必要だ。例えば (1) 式は、全ての振動成分をも全て足し合わせることになるわけだから次のように計算されるべきだろう。

\[ \begin{align*} H \ =\ \sum_{i=x,y,z} \left( \tint_{V} \pi_i \, \pdif{\psi_i}{t} \diff x \diff y \diff z \right) \ -\ L \end{align*} \]
 その後の計算は同じようなものだから省略するが、(2) 式も次のようになる。
\[ \begin{align*} \mathcal{H} \ \equiv\ \sum_{i=x,y,z} \left( \pi_i \, \pdif{\psi_i}{t} \right) \ -\ \mathcal{L} \end{align*} \]
 正準方程式は次のような感じだろう。こちらはあまり見た目の変化はない。
\[ \begin{align*} \dot{\psi}_i(x,y,z,t) \ &=\ \vardif{H}{\pi_i} \\ \dot{\pi}_i(x,y,z,t) \ &=\ -\vardif{H}{\psi_i} \end{align*} \]
 括弧式は次のように表現しておけば問題なさそうだ。
\[ \begin{align*} \{ \psi_i(\Vec{a},t), \psi_j( \Vec{b},t) \} \ &=\ 0 \\ \{ \pi_i(\Vec{a},t), \pi_j( \Vec{b},t) \} \ &=\ 0 \\ \{ \psi_i(\Vec{a},t), \pi_j(\Vec{b},t) \} \ &=\ \delta_{ij}\ \delta( \Vec{a} - \Vec{b} ) \end{align*} \]